パンダビジョン 佐野 篤|中国のゲーム市場は既に世界最大規模

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年01月に行われた取材時点のものです。

日本の人気IP(知的財産)は海外に対する強い武器になる!

巨大な市場である中国では、最近エンタメ業界が盛り上がっています。AIの発展と共に、アニメ、コミック、ゲームの3本柱で人気IP(知的財産)をベースに多面展開されるケースが多いと言います。
今回は吉本興業を経て起業し、中国のエンタメ業界に詳しいパンダビジョン佐野さんに、中国のエンターテイメントについて、また日本と中国の違いについて、中国でビジネスをすることなどについてお話を聞きました。

佐野 篤(さの あつし)
株式会社パンダビジョン代表取締役
1977年8月11日、岡山県倉敷市出身。早稲田大学政治経済学部卒業。 新卒で出版社に入社し、漫画編集を経験。その後、医学誌やマネー誌の編集ライティングを経験後、2007年に吉本興業株式会社に中途入社。漫画雑誌編集部に配属の後、出版事業を4年、広報・PR部門を3年、テレビ番組のプロデューサー職を2年、デジタルコンテンツ部門のプロデューサー職を2年経験。2018年12月に同社を退職し、2019年に独立。趣味は座禅と読書。

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中国のエンタメに興味を持ったのはゲームがきっかけ

ー本日はよろしくお願いします。中国のエンタメの状況はどういう感じでしょうか?

佐野:2021年夏ごろよりJETROさんのコーディネートで、中国の展示会や中国人バイヤーとのオンライン商談会に参加させてもらっています。

中国のエンタメについては、日本で感じている以上に市場規模が大きく、また発展のスピードがすごいですね。

その鍵となるのは二つあり、AIなどテクノロジーの進化と、人気IP(知的財産)を利用したコンテンツの多面展開です。中国では「ACG」という3つのエンタメが人気IPを中心に企画制作され、ヒットコンテンツを次々と生み出しています。Aはアニメ、Cはコミック、Gはゲームです。

この中で一番市場として大きいのはゲームです。2020年はコロナ禍で自宅時間が増えた結果、4.4兆円まで伸びました。これはすでにアメリカを超えた世界最大規模です。中国は、政府の規制によりGoogleやAppleのネットワークは利用できません。そのため、WeChatなど独自のプラットフォーム上でアプリが利用されているため、他の地域と数値の計測方法が違う可能性はあります。とはいえ、14億人が生活し、9.3億人がスマートフォンなどの携帯端末を持っている中国の市場の爆発力は世界のエンタメ市場に大きな影響力を持っています。

この5年〜10年で、世界のゲームの覇者は日本の伝統的なゲーム会社から「テンセント」や「ネットイース」などの中国のゲーム会社に変わりました。僕が中国のエンタメに興味を持ったのもゲームがきっかけです。

「PUBG MOBILE」や「荒野行動」などのFPS(ファーストパーソンシューティングの略。主人公視点で進むガンシューティングゲームのこと)にハマりましたが、どちらも中国産。ゲームの質も高く、無料でこんなに楽しめるのかと驚きました。

ー日本のゲームかと思っていました。逆に、日本の作品が中国でゲームになっているような例もあるのでしょうか。

佐野漫画やアニメはIPの原作を育てる意味でも重要です。「ドラえもん」や「ワンピース」、「NARUTO」のような人気作品は中国での知名度も高く、中国でゲーム化されている作品も多いです。最近、「テンセント」とKADOKAWAの資本業務提携についてのニュースがありました。今後も日本のIPは中国での流通を増やしていくと思います。

弊社は中国上海の「CCG EXPO 2021」に参加しました。このイベントはゲームとアニメの祭典でコロナ禍ではありながら15.5万人が来場しました。わかりやすくいうと、東京ゲームショーとAnime Japanを足して割ったような展示会イベントです。

中国のコンテンツ会社やバイヤーとオンライン商談会を行いましたが、日本の新しいIPに強い関心があると口を揃えて言っていました。

日本ではまだまだ中国に対するアレルギーというか、中国進出に対するリスクについて考えすぎる人が多い気がします。オンライン上ではありますが、顔を合わせて話してみると、彼らの求めているものが明確で、ビジネスチャンスは大きいように思いました。

深センのアクセラレータープログラムに参加

ー中国のアクセラレータープログラムに参加しているとうかがいましたが、いかがですか?

佐野:当社は今、東京都が主催する海外進出を目指す企業のためのアクセラレータープログラム「X-HUB TOKYO」の深センコースに参加しています。深センコースは中国の精華大学と連携しており、精華大学のスタートアップ研究者のメンタリングを受けることができます。

精華大学はアジアでもトップレベルの研究機関であり、スタートアップ支援にかけては世界有数の大学です。「中国のMIT」とも呼ばれるほどです。

ー今までに類似したプログラムに参加したことはあったのでしょうか?

佐野:当社は、これまで日本のアクセラレータープログラムやオープンイノベーションプログラムには全く受かってきませんでした。しかし、面接官となった精華大学のメンターからは当社の経験や中国市場での計画性、やろうとしているエンタメ事業の中国市場での可能性について評価いただきました。

とても嬉しかったし、驚きました。

中国では、日本以上にエンタメビジネスへの注目度も高く、当社もチャンスがもらえています。当社のような小さなスタートアップに対しても、なぜもっとチャレンジしないのか? といったポジティブなアドバイスをいただくこともあり勇気づけられます。

多くのユニコーンを生み出した中国のスタートアップ支援機関のサポートを受けることができたのは、本当に幸運だと思っています。

精華大学のメンターからの紹介で、「TUSホールディングス」という、いわゆるユニコーン企業が主催する世界的なアクセラレータープログラム「Go China Entrepreneur’s Bootcamp」に参加させていただきました。このプログラムは、全て英語で行われています。僕は英語はあまり得意ではなく、スライドの内容や耳に入ってくる単語から何について話しているのか雰囲気だけでも掴もうと必死でした。

最終講義を前にして「TUSホールディングス」の担当の方からピッチに選ばれたと連絡が入り、本当に驚きました。イギリス、カナダ、香港など世界中のスタートアップの中からイベントに参加できる16社の一つに選ばれたのです。そして、英語でピッチをするということになり、焦りました(笑)。

英語の台本を作り、英語が得意な人にピッチの練習に付き合ってもらいました。

他の登壇した各国のスタートアップもとても緊張しながらピッチを行っていました。それを見ているだけで僕もえづくぐらい緊張してしまいました。

本番はあまりの緊張により早口になりすぎて、3分の持ち時間のところを2分ほどでピッチを終了。時間が余ったので最後に一言アピールしていいよと言われても、慌ててなにも英語が浮かびません。やっと言葉にできたのが、「I will study English & Chinese」でした。せっかくの大きなチャンスを無駄にしてしまったのではないかと思いました。

ふと、Zoomのチャット欄をみると、それまで鋭い質問をしていた審査員から「Good Job! SANO」といったメッセージがいくつも届いていました。そして、中国企業のパートナーを紹介するよという方まで現れたのです。

同席した英語が得意な当社のスタッフによると、拙い英語でも本当に一生懸命伝えようとしている姿が、とても強い印象を与えていたそうです。

熱量と強い想いは言語の壁や国境を越えて人に届くのだと思います。この経験は、とても感動しましたし、自信にもなりました。

ー苦手な英語でのプレゼンテーションに挑戦し、やり切った経験は素晴らしいですね!他に佐野さんが注目されている要素はありますか。

佐野中国のエンタメは政府の規制によってルールが変わりやすい環境にあります。これが日本のエンタメ企業が参入に慎重となる要因でもあります。

短期的には青少年へのゲームの規制によって、ゲームの売上が下がるなどのマイナスの影響もあると思いますが、5Gなどの通信環境やスマホの保有台数など日本よりはるかに先をいく中国では、エンタメ市場の成長は続くと僕は考えています。

「Bilibili Macro Link」というオンライン・オフラインのハイブリッドイベントがあるのですが、海外のアーティストやバーチャルタレントも多数出演し、年々人気を集めています。生配信の同時接続が最高で1960万人だったといわれ、日本の「ニコニコ超会議」をさらにスケールアップしたようなイベントです。今後も、オンラインとオフラインのハイブリッド型イベントは人気を集めると予想されるため、日本のVtuberのようなバーチャルタレントの中国でのニーズは続くと思います。

中国と日本のエンタメの違いとは

ー中国ではどういうコンテンツが好まれる傾向がありますか?

佐野:先日、中国から来た留学生三人とご飯に行き、日本と中国のエンタメについていろいろ聞いてみました。日本の作品が好きになって日本に旅行に来たり、日本に留学する人も少なからずいます。

留学生の一人が言っていたのは、藤子・F・不二雄先生の「ドラえもん」が中国でも愛され、著者のF先生が尊敬されているのは、歴史観や平和に対する思いが中国の人たちにも好意的に思われているからとのことでした。

作家の思想やバックグラウンドなど、中国で展開する際には気をつけておくべきことは予想外に多いです。

日中の人や情報の行き来は以前に比べて大幅に増え、エンタメの好みが近づいてきたり、日本の最新作品が中国でも楽しめるような環境もできてきました。それでも、過去の戦争に対する思いや領土問題などセンシティブな問題が残っています。ちょっとした表現によって、中国で炎上する事例も増えています。

ー日本のエンタメ業界にいて、そこからの起業ですが、日本のエンタメ業界の構造や課題は何でしょう?

佐野:前のインタビューでもお伝えしましたが、僕は新卒で入った出版社で手塚治虫先生を担当した編集長に漫画編集のイロハを学びました。「漫画の神様」と言われた手塚治虫先生にはじまり、日本には天才的な漫画家、アニメーターなど優れたクリエイターがたくさん存在します。漫画の原稿用紙やアニメの絵コンテと天才クリエイターが向き合い続けて、たくさんの名作漫画、名作アニメが生まれています。

こういった職人的かつ属人的なクリエイターの在り方というのは日本的なもので、中国ではもっと分業した形でコンテンツが生み出されています一人の天才に依存することなく、チームによって作品が作られているそうです。

どちらが良い悪いというのは簡単には言えません。しかし、職人的なクリエイターを育てる環境というのは、長時間労働や低賃金という「やりがい搾取」がつき物です。また一人前になるまで長い時間がかかることもあります。

「週刊少年ジャンプ」のような大手雑誌で連載することが人気と実力を兼ね備えた漫画家の証明とも言えます。つまり、大手マスコミから与えられる狭き門をいかにして通るかが肝だったりします。

一方で中国は紙の漫画雑誌ではなく、スマートフォンで楽しむWebコミックが圧倒的主流です。連載作品が限られる漫画雑誌と比べると門戸は断然広いと言えます。

「テンセント」は、漫画家やアニメータなど約500名のクリエイターを集めたイベント「脱貧致富(貧困を脱して財を成す)」を2017年に開催し、クリエイターが得るべき正当な報酬について、啓蒙に努めています。

ー日本と中国のエンタメ市場を比較するとどうでしょう?

佐野:ざっくり、日本の10倍以上の市場が中国にあると思ってよいと思います。「テンセント」や「ネットイース」、「bilibili」などの大手が右肩上がりの成長を続けてきました。チャイニーズドリームというか、数字だけ見るとやはり中国市場には可能性を感じています。

ちょっと前まで、中国のコンテンツは日本のキャラクターをパクったり、模倣品の宝庫のようなイメージだったかもしれませんが、今は法律で厳しく規制されていますし、ファンにとっても著作物の権利に対する意識はすごく改善されています

当社も中国の企業と契約を結んでいますが、日本のエンタメ業界よりビジネスライクというか、条項は細かく契約書のボリュームも多かったです。

ー起業家にとっては中国のエンタメ市場はどういう可能性がありますか?

佐野:リスクをどう考えるかだと思います。当社も「中国エンタメ事業はリスキーだ」とか「実現性が低い」とか、日本の投資家や先輩起業家に本当によく言われます。でも、一旦国境を越えて、心を開いて向き合うととても協力的だったり、応援してもらえる環境もあります。

一概には言えませんが、日本では大手メディアや大手代理店、大手プロダクションなどと連携しないと大きな仕事ができないような感覚があります。そして、その場合は下請けや、下請けの下請けといった立場を受け入れなければなりません。

僕は最初から、中国にターゲットを絞ったつもりはなかったのですが、中国のスタートアップ支援機関や中国向けの支援プログラムの方がフェアでスピード感があり、チャレンジングな環境を用意してくれると感じています。日本ではあり得ないような巨大企業と商談をする機会もありました。毎回、本当に驚いていますし、とても感謝しています。

僕は割とせっかちなので、日本のように意思決定に時間がかかったり、やんわりと間接的にお断りされたり、といったことがとても苦手です。ドライではあるけど、意思決定が早く、ストレートに意見してくれる中国の方が合っているとさえ感じます。

ーどういう事業を仕掛けていく感じでしょうか?

佐野:ゲームにしろ漫画やアニメにしろ、中国の方から聞くのは、昔は日本の作品が好きだけど、今は中国の作品を見る時間が増えたということです。

あるニュース記事で話題になりましたが、同じような仕事をしていても日本人のアニメーターの報酬は中国の1/3しかないといいます。これでは、中国に抜かれるのは当たり前です。

こういった環境を変えるためには、日本のクリエイターが職人的な「やりがい搾取」の現場や、安価に買い叩かれるクライアントの仕事だけやるのではなく、海外のプラットフォームでの発信やNFTへチャレンジしていくことが必要だと思っています。

しかし、いきなり海外にチャレンジするには言語や法律面などクリアする課題も多いです。また、どの市場を狙うのか、どう作品をPRしていくべきか、そういったクリエイターにとっての課題や負担を、弊社が解決していきたいと考えています。つまり、日本発のクリエイターユニット、クリエイターエコノミーです。

日本独自の可愛さや魅力の表現である「萌え」と、エモーショナルの「エモ」を掛け合わせた「MOEMO」というプロジェクトを今一生懸命進めています。イラストレーターも漫画家も動画クリエイターも秋葉原のメイドさんも参加できます。NFTも使ってクリエイターがしっかり夢を追える仕組みを作ります。しっかり報酬も払います。

近日中にリリースできるように日夜頑張っております。ご興味のあるクリエイターの方は、当社までご連絡ください。

そして、資金調達先も募集しています。夢について語りたいです。是非ご連絡ください。

ー本日はありがとうございました!

撮影:大槻志穂(佐野さんの写真)

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(取材協力: 株式会社パンダビジョン 佐野 篤
(編集: 創業手帳編集部)



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