医療法人宝歯会 梶原浩喜|歯科医師150名以上を抱える巨大グループを築いたマネジメント術

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年04月に行われた取材時点のものです。

失敗から学んだ、管理しないことで組織力を強めるマネジメント方法


現在、福岡県を中心に山口県、広島県、岡山県、兵庫県で21の歯科医院を運営する医療法人宝歯会グループ。

その代表を務める梶原さんは、開業16年目から分院展開を始め、500人以上のスタッフを抱える巨大歯科医療グループを一代で築き上げました。しかし「分院展開当初は失敗も多かった」と振り返ります。

今回は、組織を拡大していくために必要な「人財」を育てるマネジメント方法について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

梶原浩喜(かじわら ひろき)
医療法人宝歯会グループ 代表 歯学博士
近未来オステオインプラント学会専門医指導医・ICOI 口腔インプラント学会認定医
日本臨床歯周病学会認定医歯周インプラント認定医・日本顎咬合学会認定医
福岡県北九州市出身。国立鹿児島大学歯学部卒業後、30 歳で北九州市若松区に「かじわら歯科小児歯科医院」を開院。開業 16 年目から福岡県を中心に、山口県、広島県、岡山県、兵庫県で 21 の歯科医院を運営。
2021 年には研究者の支援のために「一般財団法人 梶原浩喜財団」を設立。同年に初の著書となる「大切な人を大切にする 大型歯科医療グループの管理しない運営」を出版。
現在は世界一の患者様数を目指し、経営から診療や若手の歯科医師の育成まで幅広く取り組んでいる。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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組織力を強めるには信じ切ることが大切


大久保:本日は、著書『大切な人を大切にする 大型歯科医療グループの管理しない運営』を基にお話を伺っていきたいと思います。現在、歯科医院21院という巨大歯科医療グループを運営されていくにあたり、最も大切にされていることは何でしょうか。

梶原:スタッフに永く勤めてもらうことです。我々は『患者様と永く、スタッフと永く、地域の皆様と深く永くお付き合いする』をミッションに掲げています。いつも同じスタッフがいることは患者様の安心に繋がると思いますし、新規の患者様に続々と来院していただけるわけではないので、スタッフとも患者様とも永くお付き合いすることを大切にしています。

大久保:現在は、ご自身のマネジメント術を見出し、組織運営に成功されている梶原さんですが、分院展開を始めた当初は信頼できる優秀な方を分院長に任命したにもかかわらず、運営について細かな指示を出して困惑させてしまうなど、マネジメントの難しさを痛感されたそうですね。

梶原:はい。当時の私は「信じて任せる」ということができませんでした。我々のような職人気質な職種の人間は、自分の見える範囲では任せることができたとしても、目の届かない範囲で任せることは難しいのです。私自身は信用していると思っていましたが、やはり「信じる」と「信じ切る」とでは違いがあり、「信じ切る」ことはできていませんでした。それは、私自身の人間力が問題だったと思います。だから、分院の状況が気になって、運営や業務についていろいろと細かいところまで指示を出していました。

そんなときに、『あたりまえのことをバカになってちゃんとやる』(小宮一慶著/サンマーク出版)を読み、業界に関することだけでなく、人間力を鍛え、世の中に関心を持ち、スタッフのことを大切にすることが大事だと気付きました。世の中で人間力ほど大事なものはないと思います。

大久保:一人の専門職としてではなく、経営者としての考えを持つことも組織運営には必要ですよね。

梶原:そうだと思います。小宮氏の著書を読んでからは、業界誌だけでなく、松下幸之助氏や稲盛和夫氏、ピーター・ドラッカー氏の著書など、経営に関する本を数多く読むようになりました。特に、ピーター・ドラッカー氏の著書は、今でも読むのが習慣になっていますね。

大久保:時代を超えて読まれている本なので、学べるポイントも多いですよね。

梶原:はい。元々本が好きなこともありますが、最近は月に最低でも10冊程度の本を読んでいます。日経新聞も毎日読んでいますし、講演にも行きます。業界のことだけではなく、広く世の中のことに関心を持つことが大切だと実感しています。

「もっといい治療をしたい」という思いが来院者数を増やす


大久保:開業は1992年、30歳のときだったそうですね。開業資金の融資を受けようと多数の銀行に行くも門前払いされたと書かれていますが。

梶原:はい。当時は、事業計画書を作成しないといけないことも、開業にどのくらい資金が必要かも把握していなかったこともあり、11の金融機関から断れられました。最終的には、先輩の歯科医師から紹介してもらった銀行の融資担当者を断られてもめげずに何度も訪ね続け、無事融資を受けることができました。その融資担当の方がいなかったら開業することはできていませんでした。その方とは、お亡くなりになるまでずっと付き合いがありました。

大久保:開業当初の集客には苦労をされたものの、ポスティングが功を奏したそうですね。

梶原:開業当初は友人や親戚が来て下さいましたが、その後は全くでした。開業から約1カ月後の6月4日は「虫歯の日」にもかかわらず、患者数がゼロだったことを今でも覚えています。そこで、数週間かけて5,000軒にポスティングを行ったところ、歯科検診で虫歯が見つかった小学生の患者様が増えていきました。また、開業当初は予約が少なかったこともあり、患者様の希望の時間に来院の予約を受け付けていました。本来の診療時間は9時から20時までですが、夜遅くや朝早い時間を希望される患者様にも対応していました。

大久保:どれくらいで経営が楽になりましたか?

梶原:1年ちょっとです。患者様の数が安定してくると、経営の心配をしなくていい分、「もっと治療のレベルを上げたい」と、歯科知識や技術の勉強に力を入れていくようになりました。そうすると、患者様から「ありがとう」と言って頂けることも増えてきました。お礼を言って頂けると、人間は「もっとお礼を言われたい」「もっといい治療をしたい」とさらに頑張りたくなります。勉強を頑張ることで、さらに患者様も増えていく。そういう意味では、研究会やセミナーなどに毎週通い、著名な先生方に教えを乞いながら歯科医師としてレベルを高めていったことは楽しかったですし、そういう方とお知り合いになれたのは運がよかったです。

「スタッフの大切な人」を大切にする


大久保:書籍の中で、マネジメントには「規律の中の自由」が重要であり、そのために院訓を唱和していると書かれています。

梶原:はい。昔は規則を作り、それを遵守してもらうことで組織を作れると思っていました。しかし、それでは患者様ではなく、私の目を気にして働くようになります。そこで、規則ではなく規律として3つの院訓を設定しました。「明るく元気で大きな声で挨拶します」「日本一きれいな病院を目指します」「治療は詳しい説明の後に行います」と朝昼夕にスタッフ全員に唱和してもらい、その院訓を守って頂ければ、あとはスタッフの意思で働けるようにしました。私がすべてを管理するのではなく、スタッフを信頼し業務を任せることで、スタッフは成長することができます。結果として院内の雰囲気も良くなり、業績も少しずつ向上していきました。

大久保:入社研修にも力を入れられているのですよね。

梶原:はい。院訓を徹底できるスタッフを育てるために入社研修はしっかり行っています。3日かけて我々が大事にしている考え方を研修することで、「同胞感」が強くなります。我々は「同胞感」をとても大事にしています。我々の考える「同胞感」とは、考え方や大切にしていることが同じだという意味です。具体的には、スタッフを大切にし、さらにスタッフの大切な人も大切にするようにしています。

例えば、院長室には500人以上にも及ぶ全スタッフの顔写真と名前、誕生日を貼っています。顔も名前も全員覚えていますし、毎日見返すことで働いてくれていることへの感謝の気持ちが湧いてきます。また、スタッフの大切な人である、スタッフの家族についても「結婚記念日おめでとうございます」「お父様の身体の具合はどうですか?」などと関心を示し、親切にすることが一番同胞感を強める方法だと思っています。私の仕事は、「あなたに関心がありますよ」と伝えることです。その同胞感があるからこそ、院訓が守られています。

同胞感を強める人をリーダーを指名する


大久保:書籍には、「人材をどのように評価するか」を明確化することがリーダーの育成に重要であり、人材を人財に育てるカギになると書かれていますね。

梶原:はい。人事というのは非常に重要で、人材の育成に力を入れられる人、つまり人材を人財に育てられる人を組織のトップに指名しないといけないと思っています。仮に私が、院訓は守らないけれど技術力が高く、多くの利益を生む人を分院長に指名したら、「ああ、やっぱり梶原先生は売り上げ重視なのか」とスタッフは思ってしまうでしょう。そのため、技術がある歯科医師や、たくさんの患者様を治療して利益を多く生む歯科医師は給料で評価をすればいいと思います。その代わり、利益を多く生むわけではないけれど、院訓をしっかり守り、後輩の育成に時間をかけ、ほかのスタッフからも慕われている人を分院長に指名することで「やはり我々が大事にしているのはこういうことなんだ」とスタッフに理解してもらえるのと考えています。同胞感を強めるためには、どういう人をリーダーとして評価しているかスタッフに明示することが大切なのです。

大久保:同じ志を持つ人を分院長など、組織のリーダーに指名していくということですね。

梶原:はい。そうすれば管理する必要がありません。正直で丁寧で真面目に働いている人を指名し、細かいことは任せれば、指名した分院長もまた成長してくれます。患者様も違えば、スタッフも分院長も違いますので、基本的なことが守られていれば、全部一緒にする必要はないと思っています。また、現分院長は全員10年以上働いてくれています。中には20年勤務している方もいます。頭が良くて、仕事ができる人がいるのは心強いですね。

大久保:歯科医師なので、もちろん歯科の技術は大事だけれど、組織のリーダーに据えるには、人を育てる力も必要になりますしね。

梶原:そうだと思います。患者様は、どんなに技術力が高くても人間として未熟な歯科医師のところには行かないと思います。まずは人間としてしっかりしていることが前提です。礼儀作法が身についていて、院訓に沿ってみんなと同じ考えで働けることが重要です。その上で専門家として継続学習をしていくことが一番大切だと思います。

判断に迷ったら、収益より患者様を優先に考える


大久保:起業したばかりの方に向けて、何かアドバイスをいただけますか?

梶原:初めは死ぬほど働いた方がいいと思います。時間に縛られず、とにかく働くことです。また、何か選択に迷ったときは、「どちらが患者様第一なのか」を考えて決定するといいと思います。判断基準を収益第一ではなく患者様第一にすることが大切です。また、できればご自身に守りたい大切な人がいるといいと思います。私は開業当時、本当に妻に支えられましたし、家に帰って妻や子どもの寝顔を見ると「頑張るぞ!」と思えました。一人だけでハードワークを続けることは難しいと思います。

大久保:梶原さんにとって、今後の目標は何ですか?

梶原:予防歯科が一般的になり、歯科医院が増えた今、歯科業界はますます競争が激しくなってきました。だからこそ、社会性の高い組織にしていくことが未来の歯科業界のためになると考えています。お金目的ではなく、患者様とスタッフと永いお付き合いができる組織でありたいと思っています。スタッフ全員が「宝歯会に勤めている」と言いたくなるような、誇りを持てる組織であることが大切だと思っています。また、我々のグループには、60歳以上のスタッフが30名ほどいるのですが、私もできるだけ永く働きたいと思っています。とにかく世の中に関わっていきたいですね。

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(編集:創業手帳編集部)

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(取材協力: 医療法人宝歯会グループ 代表 梶原浩喜
(編集: 創業手帳編集部)



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