「昼限定」の希少性、イベント性で勝負! オークションサイトなども活用した独自のノウハウとは?【中村氏連載その2】

飲食開業手帳
※このインタビュー内容は2020年11月に行われた取材時点のものです。

売上げ伸ばさず「絞る」! 「100食限定ランチ×ホワイト労働」の繁盛店「佰食屋」オーナー中村朱美氏に学ぶ、これからの時代の飲食店経営のヒント

ランチ営業のみ、100食が売れたら営業終了。こんなステーキ丼とハンバーグの超人気店が京都にあります。

オーナーは2019年に日経の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」の大賞に輝いた中村朱美氏。「佰食屋」の経営の秘密に迫る全6回連載の第2回では、盛況でもランチ営業のみにこだわる理由や開業時の苦労、それを乗り越えた工夫点などをうかがいます。

中村朱美

中村朱美(なかむら あけみ)
株式会社minitts代表取締役
1984年生まれ、京都府出身。専門学校の職員として勤務後、2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。その後、「すき焼き」と「肉寿司」の専門店をオープン。連日行列のできる超人気店となったにもかかわらず「残業ゼロ」を実現した飲食店として注目を集める。また、シングルマザーや高齢者をはじめ多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され、2017年に「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出。2019年には日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞(最優秀賞)を受賞。同年、全国に「働き方のフランチャイズ」を広めるため、100食限定をさらに進化させた「佰食屋1/2」をオープン。従来の業績至上主義とは真逆のビジネスモデルを実現させた経営者として、最も注目される起業家の一人。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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「売上げを減らそう」と考えたきっかけは、災害による観光へのダメージだった

大久保:前回は、コロナ禍への対策として「佰食屋」が、京都で4店舗展開するうちの2店舗を閉店された顛末を伺いました。ですが、そもそもコロナ禍以前から飲食業界は転換点にあったような気がしているんです。

それは、ファミレスのように豊富なメニュー構成で、どれも一定の美味しさで提供される大衆的なモデルから、価格帯によりますが専門店的に、より高品質なものが提供されるモデルへの成熟というイメージです。

中村:たしかにそうですね。私が、日本の外食産業が飽和状態だと感じたのが、2018年9月、台風21号が関西を直撃して関西国際空港にタンカーが乗り上げる事故があり、約1か月関空が使えなくなった時でした。

それ以前から6月の大阪府北部地震、7月の西日本豪雨のために関西圏の観光業が打撃を受けていましたが、いよいよ、綱渡りで経営しているような危うさが拭えなくなりました。それで、本当に「売上げを減らそう」と考えたんです。

大久保:そのフレーズは、2019年6月に出版された著書のタイトルにもなっていますね。その中で、その3ヵ月に渡る災害被害は決して偶然の出来事ではなく、毎年やってくると想定して経営しなければ、というようなことを言われています。

中村世の中全体が、このままずっと拡大傾向というわけにはいかないだろうと感じたんですね。災害時でも1日50食は売れていたことから、売上げをさらに減らして、そのラインから逆算して赤字の出ない運営体制をその時に考えました。それで「佰食屋1/2」という新しい店舗を作ったのですが、実は既存の従業員をそこに吸収して、雇用の維持も図っていました。

また、3店舗あった「佰食屋」でも、データ上お客様が少ないと予測される日には、目標を80食などと下げて運営をしていました。将来的には、この売上げ目標をもう少し減らすことも考えていた時に、コロナに突入したわけです。まさに飲食店が多く飽和状態の市場で、さらにお客様のπが減ってしまったので、生き残るために、自分たちでキャパシティを下げることを決断して、2店舗を閉鎖したということになります。

「昼も夜も営業すればいいのに」は間違い!?

大久保:さて、先日「佰食屋」に行かせていただきましたが、美味しかったです。あれが一号店ですね。11時くらいに行ったのに、14席が既に満席でした。営業時間も短くて、あれで100食を売り切っているというのには驚きました。

あのペースで出るのなら、もっと営業時間を延ばせば300食、500食も可能だろうと思ったのですが、中村さんはそんな誘惑にかられたことはないですか?

中村:昼だけでなく、夜も営業すればよいのにとは、よく言われます。昼に100食出るなら、夜も100食売れるだろうといわれるのですが、私はそうではないと思っています。お客様は、この場所でこの時間にしか食べられない希少性にモチベーションを感じられているのであって、夜でも食べられるとなれば、その希少性は薄れてしまいます。

もし夜も営業するとなると、もともとのお客様の人数が昼夜に分散されて、昼に70食、夜にせいぜい50食と、合わせて120食がいいところではないでしょうか。売上げが1.2倍にしかならないのに、経費が倍になって赤字になることが目に見えています。

大久保昼限定という、ある種のイベント性が求心力だということでしょうか。

中村:そうですね。ディズニーランドやユニバーサルスタジオジャパンのアトラクションに並ぶような気分で、佰食屋にもお越しいただけたらと思っています。食事だけではなく、待っている間のワクワク感や、整理券を獲得できたという高揚感も含めた、イベント感覚で来店していただくことを目指しているんですよ。

大久保:行列ができながらも、整理券を配るなど、並ばせっ放しにはしないような配慮を感じたのですが、それについてはどのように考えていますか?

中村:整理券を作るきっかけとなったのは、全国放送のテレビで紹介された翌日に、スタッフが出勤したタイミングで既に100人くらいのお客さんが並ばれていたことでした。道路を塞いでしまう状況で、近隣からのクレームもあり、その場で待たないで済むように整理券をお出しするようにしたのです。

それを今、そこまで並ぶわけでなくても続けているのは、お客様に時間を有効に使っていただきたいという思いからです。1時間並ぶ時間があれば、ちょっとしたお買い物や観光もできますよね。また、感染症対策としても密にならずに順番待ちができるので、整理券方式を続けています。

大久保:住宅街立地とはいえ、京都という観光地ですから、時間を有効に使っていだこうということですね。

中村:そうですね。そのために、お店に近隣の観光マップやバスの時刻表を置いていますし、「1時間あったらどこへ行けますか」といった質問にも、お勧めの観光地などを簡単にお答えできるようにしています。自分たちのお店だけ良ければいいわけではなく、地域と共存共栄していくためにも、それは大事にしていきたい部分ですね。

飲食未経験でもここまでできた! 手探りだった開業ストーリー

大久保:ここからは、そのように独自の経営、運営をされてきた中村さんに、開業にまつわるノウハウや工夫された点をうかがいます。まず、開業資金はどのようにされたのですか?

開業資金の800万円が、1ヵ月でほぼゼロに。ピンチを救ったのは、個人ブログだった

中村:開業に当たっては、夫婦の貯金500万円を丸ごと資本金に充てたのと、日本政策金融公庫と京都信用金庫から300万円の融資を受け、手元に800万円ある状態で始めました。思うようにお客さんが来ず、1か月で使い尽くして残高1,000円にまでなりましたね(笑)。500万円は店舗の改装費や開店準備でほぼ使い切り、メイン食材である肉についても、まだ信用がないので請求書払いにしてもらえず、毎回現金払いでした。当時は毎日通帳がゼロに近づいていく恐怖を感じていました。

大久保:開業時はやはり苦労されているんですね。お客さんが入り始めたのは、何がきっかけでしたか?

中村:開業してちょうど1か月になる頃に、お客様のどなたかが個人ブログで紹介してくれた記事の反響で来店客が増え、軌道に乗り始めたのです。とはいえ、初めて100食を売り切ったのは開店から3か月後でした。地元のテレビや情報誌の取材で、評判が広がっていってくれたようです。

弥生会計、クラウドワークス、オークションサイトなどを駆使

大久保:会計については、税理士に委託、または自分で会計ソフトを使って行うなどの選択肢がありますが、どうされましたか?

中村:税理士の先生の勧めで弥生会計を使っていますが、特にこだわりはありません。私は全く会計知識がないので、今も税理士の先生に言われたとおりにやっている状況です。

他に使ってよかったサービスは、クラウドワークスでしょうか。飲食店ではマストのメニュー撮影を、比較的低予算で依頼できました。写真のクオリティよりも品数を撮ることを重視する場合などには適しているように思います。

大久保:飲食店でいえば、厨房機器が開業期には大きな出費となりそうですが、これはどうされましたか?

中村全てオークションサイトで手に入れました。中古販売の店舗に見に行ったりもしましたが、ネットオークションのほうがより安価でしたね。今ならメルカリでしょうか。

大久保:日本の厨房機器は高品質でしょうから、中古で十分なのかもしれないですね。

中村:そう思います。業務用の厨房機器メーカーというのは、ホシザキやフクシマ(福島工業、2019年12月にフクシマガリレイに社名変更)など、何社かしかなく、中古で入手してもメーカーに直接メンテナンスを依頼できるんです。その費用を含めても、中古のほうがリーズナブルですね。中古だったので、冷蔵庫は約3万円、食洗機も10万円以内で入手でき、それがもう8年使えているのでラッキーでした。

大久保:飲食店が撤退、廃業すると、そうした厨房機器や什器などが出回るので、一定の中古市場があるのですね。今はコロナ禍のために、オープンができなかった店舗からの買取もあると聞きます。そうした新古品は狙い目でしょう。

夫の不動産業経験から、改装費を分離発注で50%カット

大久保:また、飲食店の開業では改装も大きな出費になります。これは何か工夫されましたか?

中村:実は、株式会社minittsには不動産事業部門があるんです。夫が前職で不動産営業に20年間携わっており、建築士2級の資格も有しているので、設計も可能です。ですので、全ての店舗で開業のための工事は、自社で行っています。工務店などを介さずに、自分たちが専門工事業者と直接契約する、分離発注ができるのも強みですね。マージンなしに純粋に工事費だけなので、およそ半額くらいで収まっていると思います。

大久保:1000万円かかる工事が500万円、というイメージ。それは有利ですね!

中村:実際、1号店は工事費が約100万円でできました。むろん、不動産事業部門は「佰食屋」の店舗だけではなく、他の仕事も手がけています。

大久保:直営でもフランチャイズでも、店舗展開をしていくビジネスモデルであれば、そうした不動産事業も自前で行うというのは、良いアイデアですね。また、1号店は立地も家賃の高い駅前の商業地ではなく、住宅地です。それも、開業費用を抑える工夫の一つですね。

中村:そのとおりです。商品力で惹き付けられる自信があったのもありますが、そもそも最初は夫婦2人で営むイメージでしたので、家賃が払える範囲で探しました。そうして見つけたのがあの場所で、店舗用テナントとしては破格の安さだったのです。また、夫の不動産業経験で土地の目利きもできますので、シミュレーションした結果、コストパフォーマンスのよい場所として決めました。

大久保:それは、どういう点を評価したのですか?

中村:大通りから1本中に入った抜け道沿いで、車はかなり通りますが、スピードは出せない道です。歩く方も多く、ショッピングモールが近隣にある立地なので、隠れ家すぎず、きちんと人目にもつく場所だと考えました。それと家賃との兼ね合いで、決めたのです。

大久保:なるほど。ご夫婦でのそれまでの経験が、開業にあたってだいぶ役立てられていますね。

中村:そうですね。あらかじめ想定していたわけではないですが、夫は不動産業、私のほうは広報として専門学校に勤めており、学生時代も含めて、飲食店に勤めた経験はほとんどありませんでした。フィールドは全く違うのですが、それが良かったと思っています。

大久保:そのあたりの、起業に必要なスキル・経験については次々回、第4回で詳しく伺いたいと思います。まず次回、第3回では「1日100食モデルのメリット」について、深堀りしていきます。引き続きよろしくお願いいたします。

(次回に続きます)

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(取材協力: 株式会社minitts代表取締役 中村朱美
(編集: 創業手帳編集部)



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