Housmart 針山 昌幸|不動産売買を効率化する「PropoCloud」で住まいの概念をもっと自由に

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年08月に行われた取材時点のものです。

「不動産×テクノロジー」で仲介業者とエンドユーザーの両者に喜ばれる仕組みの構築に挑戦


多くの人にとって「家を買う」のは人生で一番高価な買い物ですので、仲介業者にとってもお客様にとってもより良い仕組みを作ることが求められています。そこで、この不動産売買をテクノロジーの力を使ってもっと自由にすることに挑戦しているのがHousmartの針山さんです。

「不動産×テクノロジー」の領域での起業や共同創業の良さや大変さについて創業手帳の大久保が聞きました。

針山 昌幸(はりやま まさゆき)
株式会社Housmart 代表取締役
一橋大学経済学部卒業後、大手不動産会社で不動産仲介、用地の仕入、住宅の企画など幅広く担当。その後、楽天株式会社を経て、2014年9月株式会社Housmartを設立。著書『中古マンション本当にかしこい買い方・選び方』がAmazonランキング・ベストセラー1位(マンションカテゴリー)を獲得する他、『現代ビジネス』(講談社)に寄稿を行なっている。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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楽天を経て「不動産×テクノロジー」の分野で起業

大久保:起業までの流れを教えてください。

針山:私は子どもの頃から「家」が好きだったんです。ずっとその思いがあったので、新卒で不動産業界に入りましたが、実際に不動産業界で働いてみると、アナログな作業がまだまだ多く、家を買う方にきちんと向き合えていないというジレンマを感じました。すると次第に、不動産業界が抱える課題をテクノロジーの力で解決できるのではないかと思うようになりました。

色々とアイディアを考えて調べてみても、私がイメージするようなサービスをやっている会社はなかったので、「不動産×テクノロジー」の分野で起業しようと決心しました。ですが、テクノロジー分野の経験がなかったので、まずはテクノロジー業界について勉強しようと思い、楽天に転職しました。楽天に3年半在籍し、システム開発やWebのことを学び、その後独立しました。

大久保:起業前はどんな気持ちでしたか?

針山:今考えると恐ろしいほど楽観的でした。起業当時は20代後半でしたが、自分は絶対に成功するという謎の自信がありました。

起業に向けて、共同創業者とサービスの展開や計画を練っていた半年は本当に楽しく、夢と希望に溢れた創業期でした。その後地獄を見たので、今思うと浮かれていたなと思います。

大久保:創業期に何を準備しておけばよかったと思いますか?

針山創業初期から利益を生むために、仕事のツテが必要だと思います。

私は楽天を退職した後に起業の準備を始めましたが、まだ収入がある内にマネタイズの仕組みを作ってから独立したほうが良いと思います。

楽天での経験を生かして社内オペレーションを構築

大久保:楽天は起業に向けての考え方などを学びやすい会社だったと思いますが、実際に起業してからのギャップなどはありましたか?

針山:サービスのオペレーションを整備するのに、楽天での経験がとても役に立ったと思います。ですが、危機感は楽天にいる時と全く違います。

特にキャッシュ面では苦労しました。起業前に最低限の貯金は準備して、さらに日本政策金融公庫から融資も受けました。コストは切り詰めていましたが、1年くらいほぼ収入がなかったので、残キャッシュが減っていく焦りがありました。

楽天の営業時代もノルマ達成の焦りはありました。ですが、創業当時は、銀口残高が減り続ける中でプロダクト開発を進める必要があり、比べ物にならないくらい精神的に追い込まれました。

あと数ヶ月で会社が立ち行かなくなるということを社員に相談することもできなかったので、危機感をチームで共有できない難しさも感じました。

営業をする際にも、楽天で営業をしている時には経験しなかったような冷たい断られ方をされることも多かったので、大企業のブランドの中で仕事をすることは恵まれていたんだと感じました。

大久保:起業する時に資金は必要ですか?

針山:ある程度資金に余裕を持つことと、初めから稼げる仕組み作りをしておくのが大事だと思います。

資金がないと、とりあえずの稼ぎが必要になり、事業の選択肢も狭まり、中長期的に大きく勝ちを狙えるビジネスに挑戦することができません。

大久保:税理士は初めからつけましたか?

針山:共同創業者が元々お世話になっていた税理士さんに初めからお世話になっていました。事業に集中できるので、信頼できる税理士に出会えたことは大きかったです。

仲間と一緒に事業を立ち上げる際に注意すべき「3つのこと」

大久保:起業後はオペレーション整備も大変だと思いますがいかがでしたか?

針山オペレーションは共同創業者を見つけられるかが重要だと思います。

私は幸い初めから共同創業者がいたので、私が営業、パートナーがオペレーションと役割分担をして立ち上がりはスムーズでした。

1人での独立は気軽かもしれませんが、営業とオペレーションのどちらにも時間を割かなくてはいけなくなるので、私は共同創業者がいて良かったです。

共同創業者兼プロダクト責任者の宮永は、楽天時代の同僚でした。良い人材と一緒にサービス展開したかったので、楽天にいる時から一緒に起業しないかと声をかけていました。

宮永は創業して1年後にHousmartに入ってくれたのですが、宮永がいなかったらHousmartは今のような事業展開にできていなかったと思います。創業する前から仲間作りをすることは大切ですね。

大久保:仲間と一緒に事業を立ち上げる大変さはありましたか?

針山:創業して3年後に宮永とは別の共同創業者が辞めてしまったのですが、その時は精神的にも実務的にも厳しかったですね。

「人間的に気が合う」「信用できる」「フルコミットする気合がある」の3つが揃えば、些細なことで喧嘩をしても一緒に乗り越えていけると思っています。一方で優秀な共同創業者でも、この3点が合わないとズレが生じて空中分解することもあるかもしれません。

ベンチャーがうまくいかない理由は資金が尽きるか、空中分解するかの2択だと思っています。創業期はどちらもありえますが、空中分解するのはもったいないので、共同創業者と喧嘩しても修復できるかが大事だと思います。

大久保:起業にはワクワクする時やどん底を見るときなど、波があると思いますが針山さんはいかがでしたか?

針山:起業して2〜3ヶ月くらいは、全てが初めてのことで銀行口座を作ったり、融資の申し込みをしたり、免許の申請をしたり、ロゴを作ったり、会社名を考えたりなど、とても楽しかったです。

ですが残キャッシュが減っていく中でサービスを立ち上げないといけない時や、思ったように売り上げが上がらない時には目の前が暗くなっていきました。あと2〜3ヶ月で会社が倒産するという地獄を味わいましたが、なんとか資金調達をすることができ、プロダクト開発に投資できるようになりました。

その時はこんなに辛いことはもうないだろうと思っていましたが、それ以降も毎年辛いことが起きました。起業は基本的に辛いことが99%で楽しいことが1%くらいなので、それでもやりたいと思えることがあるかどうかが大事だと思います。

起業で成果を出すには10年間は取り組み続ける覚悟が必要

大久保:資金調達について教えてください。

針山:1番最初のプロダクトを出したプレスリリースで、2つの企業から連絡があり、とんとん拍子で出資していただきありがたかったです。

この時出資していただいたBonds Investment Groupの野内敦さんになぜ出資していただいたのかお尋ねしたことがあります。野内さんは元々森ビル出身で、ご自身の不動産サービスを他社に売却した経験があり、不動産領域のあり方を変えたいという思いがあったそうです。

思いを共にする人に出会えると、長期的に応援していただけるのでありがたいです。

大久保:不動産業界は奥深い業界なので、特有の難しさがあると思います。

針山:おっしゃる通りです。そのビジネスに10年間挑戦し続ける覚悟があるかを問われるなと実感しています。Housmartは2014年に創業して8年目ですが、10年経ってようやく成功できるだろうなと思います。

起業前は会社設立から数年で上場するイメージを持っていましたが、今は10年くらいが一つの周期だと思います。一つの事業に10年は取り組む覚悟が必要です。

不動産領域は業界の慣習やルールが複雑だったり、ステークホルダーが多い側面があるので、じっくり取り組んでいく覚悟が必要です。

一方で、不動産売買は人生で1番高い買い物で市場規模も大きいので、業界が変わった時は世の中へのインパクトも大きいと思います。歴史も長く複雑な業界なので、それを解きほぐすには時間がかかります。

私も未だに不安になることもありますが、それでもこの領域を変えたい気持ちが強いので、長期で取り組む覚悟です。

お客様の意思決定が長期化している今の不動産売買に有効な「PropoCloud」

大久保:今扱っているサービスについて教えてください。

針山:Housmartは「不動産売買、居住用不動産の体験を変えること」を創業当初から変わらずに大事にしています。

Housmartの事業は「カウル」と「PropoCloud(プロポクラウド)」の2本柱ですが、この体制になるまでに6年くらいかかりました。

「カウル」は不動産売買の実務を行う事業です。不動産売買の実態把握もでき、Propo Cloudの開発資金も作ることができました。

そしてメイン事業の「PropoCloud」は、顧客管理・フォローに特化した不動産の営業支援のサービスです。

不動産業界は、契約するまでお金が入りません。そのため契約まで繋がりを持ち続ける必要があるのですが、近年はスマホなどで情報検索も簡単にできるようになり、家を買うまでの検討期間が長期化しています。

購入までに半年〜1年くらいかけるお客様が多いのですが、お客様の意思決定の期間が長くなると、営業期間も長くなります。

今まで個人用の不動産営業は「こんなおうちがありますよ」とコツコツ提案する、アナログな方法が主流でした。そのため、新しい物件の提案やフォローに手が回らなくなり顧客が離れるケースも多かったのです。

お客様と長期間繋がるためには、手間を減らしながら物件の情報提供と顧客フォローをする必要があります。「お客様と繋がり続けて最終的に契約に繋げる」というサービスを提供するために、7年かけて不動産のデータベースを地道に作りました。

大久保:PropoCloudのプロダクト開発はスムーズだったのでしょうか??

針山:開発まで紆余曲折がありました。

元々不動産売買はなんとなく怪しいイメージを持たれることが多いので、取引を自由にするために不動産版メルカリのようなマーケットプレイスを作ったり、購入者向けのアプリ開発をしたりしました。

最終的にこの2つの事業はうまく行きませんでしたが、この経験をPropoCloudに落とし込みました。

不動産を買う人は不動産エージェントに相談したいと思っていますが、単に情報提供するアプリは競合も多かったんです。不動産エージェントの生産性が上がらないと顧客満足度も上がらないと思い、不動産の営業支援をやることが、企業と購入者のどちらにもメリットがあるマッチングに繋がると思いました。

様々なサービス展開をして、求められるサービスに辿り着けたという流れですね。

不動産業界に特化した「Housmart」にしかできないサービス開発

大久保:多くの不動産会社に利用してもらうことが大事ですね。

針山不動産売買仲介のイメージはあまりよくないかもしれませんが、私自身は人生で1番高い買い物を支えるので、尊い仕事だと思っています。

その分仕事の負荷が高いので、システムができるところはシステムに任せて、接客や条件整理など、人間がやるべきところに時間をかけることで売上も上がりやすくなると思います。人件費を抑えながら、サービスを成長させてほしいです。

大久保:プロダクトを作るコツや方法があれば教えてください。

針山PropoCloudは業界に特化した最上級のクラウドにしました。競合がすごく多い領域でもあったので、どこでも作れるものではなく、Housmartの強みを生かして、独自の機能を1つずつ作り上げました。

大久保:起業したばかりの小規模な不動産会社は費用面の理由でサービスの導入に躊躇することはありませんか?

針山営業効率が上がるので、サービスの費用を回収するイメージを持っていただきたいです。まだ会社の規模が小さく社員が少ない企業だと、お手頃価格で利用していただけると思います。

スタッフを1人雇ったり、システム開発をすることを考えるとかなりお手頃で効率的になる料金体系です。

会社経営に最も必要なことは「諦めないでやり続けること」

大久保:起業家、経営者に必要な能力は何ですか?

針山1番必要なことは強いメンタルだと思います。

優秀な経営者であればあるほど大きな目標を目指すと思うので、どんどん辛いことも増えます。

その時に燃え尽きず、諦めないでやり続けることが大事です。

何事も楽観的に捉えることは大切ですが、時には悲観的にもならないと問題が見えない部分があるので、どちらの視点も持ちながら折れないメンタルが必要だと思います。

また、自分のやりたいことや達成したいミッションやビジョンを周りに伝えることも大切です。会社が大きくなるにつれて、社員数も多くなるので、自分のミッションやビジョンを伝える能力は欠かせません。

限られたリソースの中で、お客様の真の要望を見つけ出し、改善点を現場に落とし込み、さらにお客様の反応を見ることが大事です。現場を見る視点と、少し引いて見る視点とどちらも持ち合わせる必要があると思います。

大久保:今後の経営に対する思いを教えてください。

針山ベンチャーにとって大事なことは、やりたい事業を明確にし、何故自分たちがその事業をやるのかを追求することだと思います。

Housmartは不動産業界に向き合う覚悟を決めたメンバーが集まり、仕事内容や必要なデータを細かく確認し、それをプロダクトに反映させています。

Housmartのプロダクトで日本の不動産領域を変え、成長はじっくりですが、時間が経てば経つほど、強みが出て、他の誰にも負けないサービスになっていく自信があります。

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(取材協力: 株式会社Housmart 代表取締役 針山 昌幸
(編集: 創業手帳編集部)



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