コロナでも負けない、安定経営の基盤はここにあり! 「1日100食モデルのメリット」とは?【中村氏連載その3】

飲食開業手帳

売上げ伸ばさず「絞る」! 「100食限定ランチ×ホワイト労働」の繁盛店「佰食屋」に学ぶ、女性にこそ向いているコロナ時代の飲食経営

「売上げというのはどんどん増やすべきもの」。今までのそんな常識に、真向から疑問をつきつけた女性経営者がいます。京都にある彼女のお店では、100食限定のランチに多くの人が列を作ります。

株式会社minittsによる「佰食屋」の経営の秘密に迫る、全6回連載。第3回である今回は、「佰食屋」という名称のもとにもなっている、同社オリジナルの「1日100食モデル」のメリットについて、うかがいます。

中村朱美

中村朱美(なかむら あけみ)
株式会社minitts代表取締役
1984年生まれ、京都府出身。専門学校の職員として勤務後、2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。その後、「すき焼き」と「肉寿司」の専門店をオープン。連日行列のできる超人気店となったにもかかわらず「残業ゼロ」を実現した飲食店として注目を集める。また、シングルマザーや高齢者をはじめ多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され、2017年に「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出。2019年には日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤ2019」大賞(最優秀賞)を受賞。同年、全国に「働き方のフランチャイズ」を広めるため、100食限定をさらに進化させた「佰食屋1/2」をオープン。従来の業績至上主義とは真逆のビジネスモデルを実現させた経営者として、最も注目される起業家の一人。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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厳選した3種類のメニューで、廃棄率低減とスムーズな運営を実現

大久保:今回は、コロナ禍でも飲食業として魅力となり続けている、また、「佰食屋」という名称にもなっている「1日100食モデル」について、そのメリットを考えていきたいと思います。まず、各店舗でそれぞれメニューは3種類に絞っているのですね。

中村:そうです。1号店では看板メニューの国産牛ステーキ丼と、それをアレンジした国産牛おろしポン酢ステーキ定食、国産牛100%ハンバーグ定食の3種類。そのほか、肉のダブル、トリプルやハンバーグ単品、ごはんの大盛りやおかわりなどはありますが、扱う食材を限定しているのが特徴です。

大久保:さらに1日100食と、提供する量も限定していますから、管理がしやすいといえそうです。

中村:それが狙いです。メニュー会議では、フードロスのことをまず念頭に入れます。塊で仕入れた肉を余すことなく使いきれるよう、使いやすい部位以外の、筋の集まっている部位などをうまく活用できるメニューを開発するわけですね。

たとえば、既に閉店しましたが、錦市場で営業していた「肉寿司専科」では、メインの握り寿司にはきれいな部位を使い、その部位をスライスする時に出てくる、どうしても一枚肉にできない細かな余り肉は巻き寿司の中に入れます。また、固い部位は3時間ほど煮込んで、そぼろ状にして軍艦巻きに乗せます。そのように、ロスが出ないような形でメニューを組み立てるのです。

これが最もうまくいっているのが1号店ですね。ステーキ丼にできない部位をハンバーグにしていますが、ハンバーグというのは人気メニューなので、必ず売り切れますから、全くと言ってよいほど廃棄食材が出ない店舗なのです。普通のお店であれば、かなり絞っても廃棄率はもっと高くなるでしょう。

大久保:フードロス削減というのは、SDGs的にもよい、エコなことですし、何より経営的に大きなアドバンテージになりますね。

中村:そうですね。また、それにより現場のオペレーションも容易で、楽なのです。その日の食材を使い切っていきますので、傷んでいないか、足りるかどうかの確認などの物理的な作業時間も必要ありません。気を使うべき変数が少ないので、従業員の負担も少なくて済むのです。

大久保:ファミレス業態のようなメニューの豊富さとは違った、専門店ならではのメリットですね。限定されたメニューの中で、完成度が高く、よりこだわって提供ができるといえるでしょう。

中村:メニューが少なければ少ないほどこだわれますし、仕込みの時間も圧倒的に多くとれます。メニューが多いほど、冷凍したものをレンジで温めたり、揚げて出すだけという工夫が必要になってきます。その意味では、メニューの少ない店のほうが、調理における手間暇といったクオリティが高いのではと思いますね。

大久保:まとめると、材料を使いきれるメニュー構成で、1日100食と限定することで、食材を無駄なく使い切れ、オペレーションもシンプルにできるため、従業員の負担も減らせるということですね。

右肩上がりの経営は、危機に弱い。それより安定路線で黒字の維持を

大久保:また、佰食屋では3種類のメニューとも約1,000円と、リーズナブルです。これを、経営的に売上げの向上を考えると、単価を上げられるプレミアムメニューを作ったりはしないのですか?

中村:そういったことは考えたことがありません。会社の売上げを上げたいという欲望が、私にはないんです。従業員のベースアップや昇給はしていかねばと思いますが、そのために価格を上げたり、上の価格帯のメニューをつくるという手段を採ることはせず、別の販路や新しい展開を図ることで賄っていこうと思っています。3種類のメニューを変えることは絶対にありません。

大久保:経済発展を続けてきた昭和的な価値観でいうと、売上げを上げることが善であり、生き残るための策であると考えられるのですが、今はもう、そうではなくなっているのでしょうか。

中村:そうですね。経営のために拡大路線を採ってきた飲食チェーンなどが、このコロナ禍において、100店舗閉鎖などを余儀なくされています。数店舗の当社とは比べ物にならないくらいダメージを受けられているわけです。従業員も絞らざるを得ず、リストラもあるでしょう。

長い目で見た時に、右肩上がりの経営が会社を永遠に発展させるという考え方には、私は懐疑的です。それよりも、10年20年と売上げは安定的で、同時に赤字にもならないというほうが強いと思うのです。売上げを急拡大させられたとしても、それが頭打ちになったときに大赤字を出して、差し引きゼロになるくらいなら、安定路線の方が勝ちだと思います。

大久保:なるほど。また、売上げに上限があるとはいえ、ワンコインのような激安価格を狙うのではなく、1,000円という価格帯で、ランチ営業だけで100食を売り切っているということ自体が大成功なわけですね。

中村:そう思っています。飲食業界では、お昼に100食分集客できるのはすごいと皆さんおっしゃいます。100食では少ないと言われるのは、経営コンサルタントや銀行の方なのです。実情を知らない方が数字上でもったいないと言われますが、現在はコロナの関係で席数を12席に抑えていますが、それでも100食売り切るには、11時から15時まで30分刻みで8回転させるのでは足りません。そこをできているのは、テイクアウトの力と、メニューを絞っているため、作るのも提供するのも習熟していてスピーディーだからなんですね。

大久保:たしかに、店舗で見ていて、提供がスムーズでした。どういうルールになっているのですか?

中村:オーダーから5分以内の提供をミッションとしています。ですから、お客様にお待ちいただいている時点でオーダーを聞いておき、その方を席にご案内する前にもう作り始めて、座ると同時に提供できるくらいのスピード感です。これは、3種類のメニューしかないからこそ、できることです。メニューが増えたり、日替わりだったりすれば間違いも起こりやすくなってしまうでしょう。

大久保:メニュー数が1/3であれば、売上げが同じだとすると、従業員の方はひとつのメニューに対して3倍の習熟度を積んでいかれるわけですね。

中村:そういうことです。肉の調理というのは、焼き加減や塩加減などの細かいことが大事なので、本来は習熟に時間がかかるものですが、当店では毎日それを100回行うので、あっという間に皆覚えられます。それもメニューを絞ることの大きなメリットですね。

扱う食材が最低限だと、設備もミニマムで済む

大久保:ほかにも、店舗でカウンター越しに厨房を見ていて、印象的だったのが、とてもすっきりしていることでした。設備的にも業務用の大型冷蔵庫などがなく、すっきり見えたのと、食材もあまり表に出ていなくて、整然としていたという印象です。それは、何か意識されているのでしょうか?

中村:これも1日100食のメリットですが、食材の必要量が明確なので、余計に出しておく必要がないですし、発注を多くする必要もないので、冷蔵庫のサイズは一般的な飲食店に比べて小さいもので間に合っていると思います。台下冷蔵庫という、いわゆる作業台の下が冷蔵庫になっているものと、肉専用の縦長冷蔵庫の、2台のみです。また、厨房用品もレードル(お玉)や鍋など、使わないものは一切置いておらず、鉄板と炊飯器くらいですね。ですから、すっきりして見えたのでしょう。

大久保:冷凍庫もないと聞きましたが、必要ないのですか?

中村:はい。何も冷凍する必要がありませんし、冷凍の食材も使いませんので、必要を感じませんでした。当初から冷蔵庫のみです。肉を冷やしておくのが主な用途ですね。

大久保:肉を解凍して使うこともないわけですね。それだと、味も良さそうです。

中村:そのとおりで、皆さんがスーパーでお肉を買われるよりも、鮮度が圧倒的に良いんです。精肉コーナーではスライスした肉が店頭に並びますが、当店では、そのスライスする前のブロック肉の状態で仕入れて、お客様に提供しています。ですから、一般の方がご自宅では食べられたことのないような鮮度で提供できているはずです。

大久保:肉もストックせずに、毎日仕入れられているのですね。

中村:はい。毎日カットしたものを、毎日使い切りますので、いったんちょっと置いておくための冷蔵庫があれば事足りるのです。

大久保:たしかに、レアでいただいて美味しかったです。鮮度の賜物ですね。なるほど、その日のうちに売り切ることで、厨房の設備投資も最低限でよく、また、提供する肉の鮮度が良いことで、料理としてのクオリティも担保されると、良いこと尽くめなのが分かりました。

中村:1日100食と決めることで、フードロス対策として廃棄率が低減でき、従業員の負担や作業時間を削減してスムーズなオペレーションが実現したこのモデルは、飲食店の運営モデルとしてこれ以上はないと、自負しています。

大久保:では次回は、そうしたモデルで起業されたときのご苦労や工夫点をうかがっていきます。これから起業を考える人のヒントになることが聞けそうで、とても期待しています。引き続きよろしくお願いいたします。

(次回に続きます)

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(取材協力: 株式会社minitts代表取締役 中村朱美
(編集: 創業手帳編集部)

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