誰もが家族との時間を大切にできるよう考えたら、従業員満足を叶えるダイバーシティ経営に行き着いた【中村氏連載その6】

飲食開業手帳

売上げ伸ばさず「絞る」! 「100食限定ランチ×ホワイト労働」の繁盛店「佰食屋」に学ぶ、女性にこそ向いているコロナ時代の飲食経営のヒント

「ランチのみの国産牛ステーキ丼専門店」「どんなに売れても1日100食限定」「営業わずか3時間半」・・・。労働者不足や就業時間の長さ、シフト制による管理の難しさでますます経営が難しくなっている飲食業において、そのような独自の運営スタイルで、会社としての利益と社員の働きやすさを両立させた超ホワイト企業である「佰食屋」。2012年のオープン以来、順調に手堅い経営を続け、コロナ禍でも店舗をしぼりながら雇用を守ってきています。
そんな佰食屋の創業者/経営者である中村朱美氏に、飲食経営の極意を伺う全6回の本連載では、コロナ禍での生き残り策とその決断プロセス、創業時の独自ノウハウ、「1日100食」モデルのメリット、起業で重要な「営業力」「広報力」、そして中村流のブランディングや広報の考え方について伺ってきました。いよいよ最終回となる今回は「働き方」について、女性起業家ならではの視点を交えて、いかに現在の多様性ある職場環境を実現できたのかをお聞きします。最後に、新たなビジネスへのチャレンジについても触れていますので、起業を考えている方はぜひヒントにしてみてください。

中村朱美

中村朱美(なかむら あけみ)
株式会社minitts代表取締役
1984年生まれ、京都府出身。専門学校の職員として勤務後、2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。その後、「すき焼き」と「肉寿司」の専門店をオープン。連日行列のできる超人気店となったにもかかわらず「残業ゼロ」を実現した飲食店として注目を集める。また、シングルマザーや高齢者をはじめ多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され、2017年に「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出。2019年には日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞(最優秀賞)を受賞。同年、全国に「働き方のフランチャイズ」を広めるため、100食限定をさらに進化させた「佰食屋1/2」をオープン。従来の業績至上主義とは真逆のビジネスモデルを実現させた経営者として、最も注目される起業家の一人。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください。

この記事のシリーズ一覧

子育て、介護、心身の不調にかかわらず、多様性ある職場環境を実現

大久保:前回、ブランディングについて伺いましたが、佰食屋は「ダイバーシティ経営」という文脈で取材や講演依頼をされることも多いですよね。

中村:そうですね。経済産業省がグローバル時代の競争戦略としてダイバーシティ経営を推進すべきとして「新・ダイバーシティ経営企業100選」を毎年選定しているのですが、佰食屋を運営する株式会社minittsも2017年に選出していただきました。それで一気に注目されるようになったと思います。

大久保:ダイバーシティとは多様性のことですね。集団において年齢や性別、人種、宗教、趣味嗜好などさまざまな属性の人が集まった状態を指します。佰食屋ではどのような多様性があり、評価されたのですか。

中村:私たちの従業員には、68歳から採用された高齢者であったり、障がい者、介護中の方、妊娠中の方、シングルマザー、外国人留学生、35歳まで正社員で働いたことのなかった男性、学習障がいのある方、刑務所で服役を終えた方などがいます。

大久保:なるほど、本当に多様ですね。採用の基準はどのように考えているのですか。

中村:いいと思った人を採用していたら、たまたま今の状態になりました。もともと面接の際は、私が「この人と一緒に働きたいな」と思える人柄かどうかしか見ていなかったんです。シングルマザーの方も、面接でとても感じがよく、ぜひうちで働いてほしいなと思っていたところ、本人からひとりで子育てをしているという話があったのですが、「それが何か?」という感じでしたね(笑)。お子さんの発熱などで急に休まないといけなくなったら、私か夫が代わりにシフトに入れば大丈夫だろうと思ったのです。
そうやって佰食屋の職場環境ができてきましたので、「今いる従業員たちと合う人」という基準を大事にしていますね。

働き方をサポートして、強い心をもつ働き手に活躍の場を

大久保:たしかに人柄は大事ですね。職場の雰囲気に合う人というのは貴重です。それにしても、一般的には「肉」というと短絡的ではありますが、男性のイメージかなとも思います。スポーツ男子だったり、ベテランのおじさんが調理しているような・・・。その逆を行っているようにも見えますが、戦略的に女性の採用を考えていたのですか。

中村:いえいえ。創業当初はダイバーシティという言葉も知らなかったくらいで、全く意識していませんでした。いまは女性比率が高いですが、もともとは男性がたくさん勤務されていたこともあります。雇用主である私たちの気持ちがフラットだったというのが大きいのではないかなと思います。そもそも、この仕事は男性向きか女性向きかなどと考えたことが一度もないんです。

大久保:そうしたバイアスなしに人柄だけ見ていたら、多様だし、女性も多い職場になったということですね。

中村:ただ結果論ですが、いろいろな人を採用してきたなかで、女性のたくましさというのは改めて感じました。シングルマザーのように、自分が働かないと食べていけないといった環境に置かれているような方の心の強さこそ、佰食屋として求めたい強さなのだと、後から気づかされたのです。だからこそ、その心の強さを評価したくて、今後はそうしたシングルマザーや高齢女性の採用を強化したいと考えています。

大久保:実は創業手帳は今、男性より女性従業員のほうが多くなっています。フラットに能力を見ていたら、自然にそうなっていました。決して女性を優遇しようとは思っていないのですが。

中村:たしかに、私も女性の能力の高さは感じますね。それは一般に会社としても求めることでしょう。

大久保そうした能力の高さと、子育てや年齢、家庭の状況などによる、経営者から見たらリスクといえるものとの、どちらを優先するかということになるのでしょうか。すごく優秀な人が出産を機に退職するというのは、もったいないですよね。

中村:特にお子さんを育てておられる女性の方って、たとえば大企業では子どもが熱を出したからといって突然休んだりするのが困るとおっしゃるのですが、私からすると、子どもが熱出して休むくらいのことは全然平気で、むしろそれ以外の能力が高いのだったら、子どもが休むかもしれないデメリットをこちらがカバーするから来て欲しいと、逆に思うんです。だからこそ、そういう人を何かフィーチャーすることのできる組織を何か会社で作れたらいいなと思います。

明るい時間に帰れる安心感が、人生を穏やかにしてくれる

大久保:ご自身の働き方としては、いかがですか? 女性が起業する場合、自分である程度時間のコントロールができたりもするので、家族との時間をつくりやすいという声も、よく聞きます。

中村:たしかに、その部分は問題なくできていますね。たとえば今日のこの取材も始まる10分前に、子どもを幼稚園に送って帰ってきたところでした。夕方は5時半くらいに迎えに行って、それ以降はパソコンも見ないようにしているので、もうずっと家族との時間です。また日曜日は、私はお休みの日にさせてもらっていますので、日曜日も家族との時間にできています。ですから共働き夫婦でありながらも、すごくしっかり子どもとの時間が取れていると思います。

大久保:飲食業だと仕込みの準備から店じまい後の片付けなどがあって、一般には滅私奉公のようなイメージもありますが、そこはランチのみの100食に限定するモデルで、カバーができているのでしょうか。

中村:そうですね。いわゆる一般の、たとえば公務員の人たちよりも佰食屋は労働時間が短いと思うんです。みなさんは定時が9時から17時でもさらに残業もあるでしょうが、私たちは早くて9時出勤で、どんなに遅くても17時45分まで。それ以降には絶対ならないんです。8年間やってきてそれができているので、残業は絶対生じないと分かっていて、明るい時間に帰れる。全従業員がそのように働けるというのは、本当に穏やかに自分の人生を丁寧に生きていけるなと思います。
大久保:「早くて」「遅くて」というのは、シフトの問題ですか。

中村:正社員は勤務時間を、自分で決められるようにしています。出勤は9時か9時半、退勤は16時の時短勤務か、17時、17時半、17時45分のいずれかから選ぶ仕組みです。子育てや介護と仕事を両立したいときに、さまざまな状況に柔軟に対応できるようにと、勤務時間に最初からバリエーションを持たせているんです。もちろん、ライフスタイルの変化によって、後から変えることもできます。

大久保:そもそも定時が複数あるわけですね。それはいい仕組みです。定時が固定だと、それより少し早く退勤するのは、なかなか難しいことですよね。また、たとえばお子さんのお迎えの時間があるからと時短にしていても、固定の定時で働くマジョリティの人たちの目が気になるものです。各自の就業時間に沿って働けるのはストレスがなく、合理的ですね。

中村:アルバイトはさらに自由で、1日2時間だけ働く人もいれば、週2回だけシフトに入る人もいます。シフトも勤務時間もそれぞれ異なる組み合わせで、多様な働き方を可能にしています。

飲食業で誰もが悩む「シフト管理」も、余裕ある人員配置で解決

大久保:なるほど。働き方もダイバーシティを地で行っているわけですね。しかし、それだとシフトを組むのがひと苦労ではないですか。そもそも飲食業では、シフト管理は経営課題のひとつでしょう。

中村:そこも佰食屋では経営効率を求めすぎないことで解決しています。1店舗につき1日5人以上が出勤しますが、いざというときに安心して休めるよう、かなり余裕を持って従業員を採用しているのです。ひとりでもいなくなるとお店が回らないような運営をするのは、経営者の怠慢ではないかと感じますね。

大久保:有休についてはいかがですか。労働者の権利なのに変な言い方ですが、シフト制の職場では、他の従業員に不満を起こさせないように有休取得を推進するのは、とても難しいのではないでしょうか。

中村:もちろん、有休は全員ちゃんと消化しています。飲食店では通常難しいといわれる、長期休暇や土日祝の休みも希望どおりに取ってもらえていますね。

大久保:それは本当にすごいですね。学生時代に外食チェーン店の厨房のアルバイトをしましたが、バイトでも楽ではないし、正社員はかなり辛そうに見えました。

中村:残念ながら、飲食業界にはまだまだそういったお店が多いのかもしれません。転職してくる従業員の中には、前職では日の光を見たことがなかったという人もいました。集団給食の調理をしていたため、日の出前の朝4時から出勤して、帰宅すると夜8時という日々だったと聞きました。

大久保:そうした業界常識にとらわれず、誰もが個人の事情や家庭の状況に合わせて柔軟に働けるためのビジネスの土台が、ランチのみ100食限定モデルだったわけですね。

未経験の領域も恐れず、「パラレルアントレプレナー」としてさらに挑戦

大久保:最後に、今後のビジネスにおける展望や夢をお聞かせください。

中村:コロナ前に進めていた「働き方のフランチャイズ」の全国展開構想は、先の見えないコロナ禍においていったんストップさせています。1日100食よりさらに売り切りやすい「1日50食」の「佰食屋1/2」モデルを進めていましたが、諦めたわけではありません。ワンオペでも成り立つ「1日25食」モデルも含め、経営者として今後も検討を続けたいです。
さらに考えているのは、「パラレルアントレプレナーシップ」です。

大久保:昨今は副業が流行っていますが、起業も並行して複数事業を行うということですね。投資だけなら、エンジェル投資家のように個人でも複数のビジネスにベットすることがありますが、実際に新規の事業を並行して行うのは可能なのでしょうか。

中村実はそのために、すでに別の会社を設立してあります。私自身、飲食業も未経験で始めましたので、未知の事業への心理的ハードルはさほど高くありません。新会社では飲食でも不動産でもない事業を手がけています。自分のなかで、近年の自然災害やコロナ禍を通して、非常時にも子どもを守りたいという思いをさらに強くしました。そこで、人々の防災意識を上げられるような活動をしたいと思い、いろいろと準備中です。
また、デリバリーに挑戦してみたり、各地で働き方について講演会を行ったり、最近ではnoteなどで文章を書いたりと様々なことに挑戦しています。

大久保:素晴らしいですね! 新しいビジネスに関しても、またぜひ取材させてください。楽しみにしています。

この記事に関連するタグ
創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
創業時に役立つサービス特集
リアルタイムPVランキングトップ3
カテゴリーから記事を探す
マーケティング担当・広告代理店のご担当者様へ