マクアケ 中山 亮太郎│在庫を抱える前に商品やサービスを買ってもらう『応援購入』という新しい概念を創造
誰かがラベリングした市場は一旦無視するのが成功の秘訣
日本には優れたアイディアを形にする技術があり作る能力もあるのに、その優れたアイディアの多くがお蔵入りしているという現状があります。その現状を解決するためのサービスをクラウドファンディングの仕組みを利用してスタートさせたのが「Makuake」です。
サイバーエージェントの社内ベンチャーとしてスタートしたマクアケ(前・サイバーエージェント・クラウドファンディング)がどのように創業し、どのような想いを持って「アタラシイものや体験の応援購入体験」を提供していくサイト「Makuake」へとたどり着いたのか、創業手帳代表の大久保がマクアケの代表である中山氏に聞きました。
株式会社マクアケ 代表取締役社長
2006年に株式会社サイバーエージェントに入社後、社長運転手の傍ら新規のオンラインメディアを立ち上げ、その後ベトナムでのベンチャーキャピタル事業を担当。2013年に現在の株式会社マクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake(マクアケ)」をリリース。2019年12月には東証マザーズに株式を上場。大企業、中小企業、スタートアップ、個人チームなど、規模を問わず、それらが生み出すアタラシイものや体験を応援購入できる場としてサービスを拡大中。現在、一般社団法人ベンチャー型事業承継の理事としても、日本全国の“アトツギ”の背中を押す活動も推進している。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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この記事の目次
優れたアイディアがお蔵入りしない仕組みを作りたい
大久保:マクアケはもともと、サイバーエージェントの社内ベンチャーでしたよね。
中山:マクアケの前身であるサイバーエージェント・クラウドファンディングを登記したとき、私は既に31歳でした。
サイバーエージェントでは20代中盤で起業する人もいますから、それを考えると少し遅れてやってきた起業というような感じでしたね。2013年より前だと、社内ベンチャーとしての起業はインターネットネイティブなサービスがほとんどでしたので、おのずから創業年齢は20代が中心だったんじゃないかと思っています。
大久保:「Makuake」は海外で流行っていたクラウドファンディングの影響でスタートしたのですか。
中山:クラウドファンディングは基本的に資金調達を軸足に置いていますよね。その点「Makuake」では顧客獲得を軸足に置いていますので、クラウドファンディングというよりは、距離感としてはECの方が近いかなと思っています。
大久保:それでは「Makuake」が目指しているところを教えてもらえますか。
中山:日本には優れたアイディアを形にする技術があり作る能力もあるのに、その優れたアイディアの多くがお蔵入りしているという状態がありました。それが悔しくて仕方がなく、その状態を解決する仕組みを作りたかったっていうのがあったのです。
そこで、サイバーエージェントの社内ベンチャーとしてクラウドファンディングの子会社を立ち上げる際にチャレンジすることにしたのです。
しかし事業を運営していく中で、課題解決に対してクラウドファンディングという手段自体がずれていると感じるようになりました。そこで、誰もが持っている「購入する」という力が、実態のニーズに沿ったソリューションとして提供できるんじゃないかと考えるようになりました。今の「Makuake」は、現場や現実が教えてくれたニーズが実現してくれたと感じています。
大久保:「Makuake」はCMも打っていますよね。そこでは「応援購入」というワードを流行らせようとしていると感じています。
中山:「クラウドファンディング」という言葉は、困ったときの資金調達や、お金がない人や企業の資金調達というようなイメージが非常に強くあります。その一方で、金融リテラシーの高い人たちにとっては、金銭的リターンがある新しいオルタナティブ投資の1つだというような意味合いもあります。
それは、「Makuake」が提供しているサービスや実際に活用していただいている事業者や消費者の行為とかけ離れているという思いがありました。さまざまなメディアにも「新しい資金調達の形がMakuake」という形で取り上げていただいていましたが、それでは「Makuake」を使っていただいている人たちに対しても異なるメッセージを送ることになっていましたので、立ち位置が非常にストレスフルになっていったのです。
「クラウドファンディング」という言葉を盛り上げたのは僕らだし、立ち上げ時の社名にも入っていますので、「クラウドファンディング」という強烈なトレンドワードと距離を置いていくということは経営判断上かなり勇気がいりました。しかし、2019年11月の東京証券取引所マザーズ(現・グロース市場)への上場のタイミングで、「アタラシイものや体験の応援購入サービス」というワードへ完全にシフトすると意思決定をしたのです。「クラウドファンディング」から「応援購入」へとシフトしたことは功を奏しており、その後も弊社はさらなる成長を遂げています。
大久保:サービスの特性として、世の中の移り変わりのトレンドが見やすい立場にいますよね。
中山:そうですね。例えばコロナ禍になってからアウトドアグッズが一気に伸びました。コロナウイルスが感染拡大し始めたときは、世の中どうなっていくかわからない状態でしたが、しばらくして人々が密を避けながら安心して楽しめるレクリエーションとしてアウトドアが見直されるようになりました。
そこで一気にアウトドア人口が増えたと思うのですが、「Makuake」ではそのトレンドをいち早く捉えていたと感じています。アウトドアでも使えるキッチン用品も伸びていまして、一歩先の消費のトレンドを僕たちのサイトで見ることができるという面白さがあります。
「手に入れたい」「体験したい」を超えた意味がある「Makuake」の応援購入
大久保:「Makuake」は在庫を抱える前に商品やサービスを買ってもらうという新しい試みでもありますよね。
中山:新商品や新サービスの在庫を作る前に先行して販売し、購入を確約してもらった上で作れるっていうのは、リスクを下げていく壮大な実験でもあります。それだけではなく、事前にニーズがあるとわかっていればその後、一般販売に向けて大きなチャンスが広がりますよね。実験からブーストまでの一連を見届けられるのは、僕たちとしても非常に面白い場だと思っています。
これまで大量に作って売っていくためには、まず資金調達しておかなければいけませんでした。
しかし「Makuake」では先にニーズがあるかどうかわかりますので、先行販売的なことができるわけです。「Makuake」での先行販売モデルのメリットは「なぜこの商品(サービス)を購入したのか」をある程度把握できるコミュニケーションが各プロジェクトページ内でできるようになっているので、テストマーケティング的な意味合いで使っていただくことも可能です。
距離感としてはECの方が近いとお話ししましたが、「Makuake」はその商品やサービスの使用実績がないローンチ前商品(サービス)ですので、口コミというものが基本的には存在しません。
ECのトレンドをまるで無視したものですので、紹介ページで魅力や制作に至った背景、想いなどを伝えていく必要があります。
しかし、想いを伝えることが得意でない会社や、料理に常に向き合っていて伝え方のテクニックが十分でない飲食店などに対しては、「Makuake」のキュレーターが各事業者の課題に寄り添ったコーチングをしていきます。
日々訓練されているプロフェッショナル人材が寄り添いながらコーチングをしていくことで、コンバージョンレートの高いページ作りができるようになります。
また在庫を作る前に売っていくというサービスなので、プレゼンテーション通りの商品が製造可能なのか、法律的に問題がないかチェックや審査についても「Makuake」がサポートしています。
例えば電動モビリティの販売を考えている事業者に対しては、「こういったところについて気をつけてください」といった具体的なご案内をしています。場合によっては関係省庁や広告のルールメーカーをしている団体と密にコミュニケーションをとりながら、表現方法や景表法、薬機法などを踏まえたフィードバックをすることで、より生活者に安心して楽しんでもらえるような世界観を作るようにしています。
大久保:まさに「応援購入」にふさわしい事業展開をしていますね。
中山:流通前、ローンチ前の段階で購入するということは、ただ「手に入れたい」「体験したい」というところを超えた意味があると思っています。
ローンチ前に買うということは、その商品やサービスを必要としている人が世の中にいるという意味ですよね。既に流通しているものを一般的なECサイトで買うというのでは、それを必要としているというには少しパンチ力は弱くなります。
それだけでなく、ローンチ前に作っている人や事業者から直接購入すると「この商品が欲しいから頑張って」という気持ちが自然と沸いてくるんですよ。それが、一般的にすでに流通しているものを購入するのと、異なる部分だと思っています。「欲しいから頑張って」という想いは、なんとも言語化が難しい心の片隅に湧き上がる感情だと思っています。
それがあるからこそ、ただの購入ではない、応援の気持ちを伴った購入に非常に近いと思ったので、「応援購入」という言葉が僕たちの中からすっと湧き上がってきました。
ビジネスで羽ばたくためのブースト装置として使ってもらいたい
大久保:中山さん流の成功術はありますか。
中山:誰かがラベリングした市場や概念は一旦とっぱらって考えるのが成功の秘訣だと思っています。今は、しっかりと「三方良し」なニーズがある濃い部分と、拡張性がある切り口でニーズを広げていける可能性という部分の両方を見ていけます。現代はさまざまなビジネス環境が整っていますので、自分たちが切り取ったニーズに対しての市場の創出ができる時代です。
伸びている企業はそういうところが多いのではないでしょうか。これから先に向けた顧客ニーズをどれだけ掘っていけるかが大事であり、それを独自の切り口で市場を定義していくというのが、僕らが実現したことで一番良かったことだったと思っています。
大久保:マクアケは今後、どのような展開を考えていますか。
中山:「Makuake」はデビューにおけるブースト装置として使ってもらえればと考えていますので、ここで終わりというよりは、その後に「どれだけ羽ばたいていけるのか」を計るためのうまい仕組みとして使ってもらえればと思っています。
このような想いの延長線上として、今後、正式ローンチを準備しているものを言いますと、セレクトショップや百貨店などに従事するバイヤーの方をサポートするサービス「Makuake応援仕入れ」があります。
実は「Makuake」のアクセスデータを見てみると、流通業者からのアクセスがもの凄く多く、流通業者にとって仕入れのネタ帳のようになっていたという事実がありました。
そこで全国のセレクトショップを中心に「Makuake」の応援仕入れバイヤーとして会員登録をしていただき、その事業者が「Makuake」で自分のお店に合った商品を見つけやすくしたり、ロットで仕入れ値購入しオンラインでトランザクションできたりするような「Makuake応援仕入れ」を準備しているのです。
この仕組みが出来上がることで、作った商品(サービス)の顧客が見つかるだけでなく販路開拓にもなり、より羽ばたいていきやすい新たな商流を作ることができるのではないでしょうか。
大久保:最後に、起業家や起業志望の方に対してメッセージをお願いします。
中山:僕らも立ち上げから全て順風満帆ではなかったですし、そもそもコンセプト自体が創業期から変わってきています。
でも、そんなことはどこの企業にもあるだろうと思ってます。とにかく諦めずに、「現場で起きていることが何なのか」ということから目をそらさなければ必ず突破口はありますので、現場主義な企業経営をおすすめしています。
(取材協力:
株式会社マクアケ 代表取締役社長 中山 亮太郎)
(編集: 創業手帳編集部)