M&A後の組織形成のやり方とは?よくある問題点と解決策

創業手帳

ポストM&Aの組織形成を成功させるには?起こりえるリスクを予測して対策を


M&Aを実施した場合、その後の組織形成に問題が起こることが多くなります。M&Aを実施する企業は組織形成まで見越して進めることが大切です。
M&Aが成立したとしても、その後の対応によって思ったような成果が得られないこともあります。

組織形成で実際に起こりやすいリスクとその具体的な対策を紹介します。必要なマネジメント方法を理解し、ポストM&Aの組織形成を成功させましょう。

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M&Aの成功には組織形成が重要


M&Aは合意までにも多くの時間や労力を必要とし、相手とのやり取りや契約・手続き関係に意識が行きがちですが、実はそこから先がより重要です。
M&Aが本当の意味で成功したというためには、組織形成の成功が欠かせません。

M&Aでは、新組織発足の初日に様々な問題が生じてしまい、新会社・新組織として期待する成果が得られないこともあります。
M&A後の新しい組織が発足し、その新組織、新会社がスムーズに動き出すまで、M&Aの成否は問えません。

ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)に注目

M&Aの契約後、いわゆる「ポストM&A」の成功は、統合プロセスにかかっています。
ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)は、M&A後の統合効果を最大化するプロセスを指す言葉です。

PMIは経営統合・業務統合・意識統合の3つの段階に分かれ、統合に関わるすべてのプロセスを指します。
統合後の混乱しがちな社内において、全体との整合性を取り、それぞれの統合を進めることが必要です。
統合を進めるために、どこから着手し、いつまでに統合するかを決めて取り組んでいきます。

M&A後の組織再編の手法


M&Aには様々な組織再編の手法があります。M&Aの実施後には、それぞれが選択した方法で会社組織を編成し直し、新しくスタートを切ります。

組織再編のやり方は双方の企業にも、ブランドイメージや従業員にも大きな影響を与えるため、ベストな方法を探っていかなければなりません。
具体的にはどのような手法があるか、主な組織再編の手法を理解しておきましょう。

合併

合併は、複数の会社が合体してひとつの会社になる手法です。形だけでなく実質的にひとつの会社になり、資産や負債、権利義務もすべて統一されます。
合併の手法は、さらに吸収合併と新設合併に分かれます。

吸収合併

吸収合併は、買い手企業が売り手企業の資産や負債、権利義務をすべて引き継ぐ合併です。
吸収して残る存続会社と吸収されて消滅する消滅会社があります。存続会社は消滅会社の権利義務をすべて承継し、消滅会社は権利義務を渡して法人格を失います。

存続会社は、消滅会社の商品やサービス、そのノウハウや人材を統合することが可能です。
消滅会社は自社の企業名やブランドを失いますが、存続会社の信用力やブランドイメージを手に入れ、安定した経営資源のもとで事業を続けられます。

新設合併

新設合併は、新たに設立した会社に資産などを承継させる合併の手法です。
吸収合併ではひとつの会社が存続会社として他社を吸収しましたが、新設合併ではすべての会社が消滅し、それらの資産などは新設された会社にすべて集められます。

吸収合併では多くの場合、存続会社のほうが大きく、その信用力やブランドイメージを残す方向で進みますが、新設合併では比較的対等な立場での合併といえるでしょう。

会社分割

会社分割とは、会社の権利義務の全部、または一部を分割して相手企業へ承継させる手法です。
事業譲渡に似ていますが、事業譲渡が取引法上の契約であるのに対し、会社分割は会社法上の組織再編行為にあたります。

会社分割には吸収分割と新設分割があり、合併の手法と同じく承継の方法がそれぞれ異なります。

吸収分割

吸収分割は、承継する会社が分割会社の事業を吸収する組織再編の手法です。
分割会社は一部の事業を切り離すことでスリム化ができ、承継会社はリソースを手に入れて事業を拡大できます。

新設分割

新設分割は、新しく会社を設立し、そこに既存の事業を引き継ぐ方法です。
複数の事業を持っている会社が、ひとつの部門を切り離し、より専門的な会社として立ち上げられます。
新設した会社には、切り離した既存事業のノウハウをそっくり承継させます。

株式交換

株式交換は、買い手企業が売り手企業の発行済み株式をすべて取得し、売り手企業の株主へ対価として買い手企業の株式を渡す方法です。
株式交換では、買い手企業が持株会社となり、売り手企業を完全子会社化します。

株式交換と呼ばれるのは、株主から見た場合、子会社の株式を親会社の株式と交換しているためです。

株式移転

株式移転は、2社が共同で持株会社を設立して、その2社がどちらもその持株会社の完全子会社となる方法です。
2社の株主には持株会社の株式を交付します。

株式交付

株式交付は、売り手企業の株主に対して買い手企業が自社の株式を交付し、売り手企業の株式を譲り受ける方法です。
これによって買い手企業は、売り手企業の支配権を得られます。

株式交換では、買い手企業は売り手企業を完全子会社化するためにすべての株式を交換しますが、株式交付では一部の株式を対象として実施することも可能です。

M&A後の組織形成における問題点


M&Aでは、合意に至るまでの過程だけでなく、実際に組織形成を行い、新会社としてスタートを切るまでにも様々な問題が生じやすいものです。
M&Aを検討する際には、その後に起こりえる問題点や難しさを理解しておきましょう。

企業文化の融合ができていない

M&Aによって統合された企業は、新しいひとつの会社組織として歩んでいくこととなります。
しかし、異なる文化を持つ企業同士が統合した場合、企業文化は急には融合できません。

企業文化は長期間かけて培われ、暗黙的に共有されてきたものです。価値観や信念として従業員の行動や考え方に影響を与えます。
組織は統合されても、そこで働く生身の人間や社内に根付いた風土まですぐに歩み寄れるとは限りません。

意思決定のスタイルやリーダーシップのスタイル、チームワークの形が変化すれば、意思決定遅延や従業員の反発などが起こるリスクが考えられます。
また、従業員同士のいがみ合いなどのトラブルも起こりやすくなります。

社内政治による足の引っ張り合い

M&Aによって統合された両社の従業員間が対立し、社内政治によって足の引っ張り合いが起こることもあります。
M&A以前に所属していた会社の従業員が集まって派閥を作り、派閥同士が対立することがあれば、M&Aに期待していた効果は得られません。
むしろ、統合後のいざこざによって優秀な人材が流出したり、パフォーマンスが低下したりするケースもあります。

相対的ポストの減少によりあきらめムード

統合によって2つの事業部がひとつになれば、ポストも自ずと減少します。
ポストの減少によって、従業員間にあきらめムードが漂い、モチベーションが停滞することも考えられます。

新たなシステム・ルールによる混乱

M&Aでは、従業員は新会社や新しい部署、新しい上司のもとで働くことも多く、新たなシステムやルールに対応できないこともあります。
そのため、一時的にせよ、社内に混乱が起こり、事業推進のスピードが落ちる恐れも考えられます。

従業員の心理的不安や不満

M&Aによる新しい組織の形成時には、従業員の心理的不安や不満も出やすくなります。
前のほうが良かった、納得していないといった気持ちが働き、モチベーションが低下してパフォーマンスにも問題が起こります。

また、従業員の不満が解消されないままでいると、大量退職が起こりかねません。
M&Aでは人的リソースの獲得も目的とすることも多いため、既存の従業員の大量退職は大ダメージです。

M&A後に問題が起こる原因


M&A後の統合で様々な問題が起こる原因は、統合前の準備不足にあります。M&Aを成功の手立てを知るために、問題が起こった原因について掘り下げておきましょう。

事前リサーチ不足

M&Aで企業文化の違いによって従業員同士の軋轢(あつれき)が起こったり、モチベーションが停滞したりするのは、事前のリサーチ不足が根本的な原因です。
事前に合わない部分がわかっていれば、ゆとりを持って対策できます。
しかし、実際に組織形成するまでわからず対策を講じなかった場合、従業員の不満や不安も高まるでしょう。

M&Aでは、当然合意までに様々な調査や分析を行い、統合に適しているかを検討します。
資産や負債、従業員数などの目に見える測定可能なものは調査できますが、企業文化や風土など実体のないものは調査がしにくいものです。
そのため、調査しやすい情報しかM&Aの事前の調査では見えてきません。

説明不足

M&A後の組織形成で従業員から不安や不満が出るのは、企業が従業員に対して説明を怠ったことが原因かもしれません。
事前に正しく説明しないことで、従業員は会社に対して不信感を抱き、M&Aを受け入れにくくなります。

M&Aでは、企業文化の異なる会社がひとつになるため、従業員も新しい会社のシステムを受け入れる必要があります。また、働き方や待遇面が変わることもあるでしょう。
しかし、会社から説明がなされなければ、納得して受け入れることは心情的にも難しく、先行きに不安も感じます。

従業員だけでなく役員も、待遇が変わることがあります。
場合によっては待遇の悪化もあるため、説明がなければモチベーションが下がり、自主退職する人も増えるかもしれません。

M&Aのリスクを回避する組織・人材マネジメント法


M&Aのリスクを回避し、ポストM&Aをスムーズに進めるためには、適切な組織と人材のマネジメントが必要です。
M&Aの真の成功は、相手企業との交渉や相手企業の分析だけでは成り立ちません。どのようなマネジメント法を実施したら良いか、具体的な進め方を紹介します。

実施プロセスで対象企業との理解を深める

M&Aのリスクを回避し、スムーズに組織形成するためには、M&A実施プロセス全体において対象企業との理解を深めることが欠かせません。
相手企業の企業文化や風土への深い理解のないM&Aでは、特に売り手企業の従業員は「乗っ取り」に遭った気になり、M&A後も前向きに働くことはできないでしょう。

そのため、M&Aを実施する際には、対象企業の社風や企業文化、理念をしっかりと理解するプロセスを大切に進める必要があります。

締結前に役員・従業員と話し合いを持つ

締結前に、役員や従業員との話し合いを持つことも重要です。
役員は待遇の悪化や経営から遠ざかるリスクなどを不安に思い、従業員も待遇の悪化や働き方の変化などでモチベーションが下がります。
それを防ぐためには、話し合いによって納得した上で変化を受け入れてもらえるように努めるしかありません。

役員は早い段階でM&Aの実施が伝えられますが、従業員へ情報の開示は最終段階というケースが多くなります。
それでも、その段階で経緯や今後の方針などを伝え、不安を和らげるようにします。

目指すべき方向を明確にする

M&Aの組織形成では、会社の将来や自分の働き方の変化などに不安を持つ従業員に対して、目指すべき方向を明確にすることも重要です。
目指す方向が見えにくいと業務の融合も進みにくく、従業員の不安も解消できません。
今後の目標や計画を具体的に数値化し、はっきりと進む方向を示すことで、ひとつの企業として意識の統一を目指します。

PMI担当の責任者を配置する

M&A後の統合には、部門を横断的に見て、進める必要があります。
M&A後の組織形成をスムーズに進めるためには、PMIを専門的に進める責任者を配置することも効果的です。
そのため、全部門を見られる立場の役員などを責任者に据え、トータルで統合を進めることが大切です。
また、統合には調整業務が多くなるため、担当者は専任とするのが望ましいでしょう。

新しい経営者がきちんと説明をする

M&A後に経営陣が変わる場合には、新しい経営陣は従業員に対して待遇面や条件面の説明をしなければいけません。

M&Aは従業員に大きな影響を与えるもので、自身の待遇や立場などへの不安に加え、感情的に受け入れにくく、反発心を抱くことも多いものです。
不安や反発に対して、新しい経営者はきちんと向き合い、今後の状況について納得できるよう説明をする必要があります。

新しい企業において社内向けのブランドを確立する

M&Aを経て誕生した新しい企業に対して魅力や親しみやすさを感じ、企業の一員であると感じてもらうためには、社内向けのブランドを確立することも大切です。
新たなブランドに魅力を感じることによってM&Aに意義を見出し、共感を得ることで、一体感を生み出します。

買い手企業の文化やブランドが強く反映された場合でも、売り手企業の従業員にとっても価値があると思えるブランドであることが必要です。

従業員が受け入れやすいものから融合作業を進める

M&Aでは、従業員が新しい会社や起こった変化を受け入れられない場合もあります。M&Aでは、短期間で統合を受け入れざる得ないことも多いものです。
そのため、従業員への負担が増え、通常業務が停滞したり心理的に抵抗を感じたりすることも多くなります。

リスクを抑えるためには、融合作業では従業員の受け入れやすいものから始めることが効果的です。
負担が軽いものから始めると、心理的にも肉体的にも統合を受け入れやすくなります。

まとめ

M&Aは、ポストM&Aの組織形成によって成否が決まるといっても過言ではありません。
多くの場合、合意までのプロセスを重視しがちですが、企業間の合意から実際の統合までの作業もやるべきことが多く、重要な意味を持ちます。

M&A後の組織形成では、従業員や役員などの精神面のケアと実務面での対策が必要です。
起こりやすいリスクとその原因を理解した上で、着実な統合プロセスを進めていきましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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