AGE technologies 塩原 優太|相続とデジタルを掛け合わせ「相続のプラットフォーム」を目指す

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年10月に行われた取材時点のものです。

高齢化社会とともに注目される「AgeTech(エイジテック)」相続領域で独自のビジネスモデルを構築

近年注目されている「AgeTech(エイジテック)」をご存じでしょうか。

AgeTechとは、Age(年齢)とTechnology(テクノロジー)を合わせた造語です。高齢者や高齢化社会の課題を、デジタル技術によって解決する産業を指します。世界での市場規模は約300兆円と言われており、今後参入する企業が増えるでしょう。

今回は、AgeTechのなかでも現在は「相続手続き」に特化したサービスを展開する、株式会社AGE technologies 代表取締役CEOの塩原 優太さんに、起業までの経緯や事業展開について伺いました。

塩原 優太(しおはら ゆうた)
株式会社AGE technologies 代表取締役CEO
新卒でIT広告代理店に入社、Web広告の運用実務を経験。その後アプリ開発を行うスタートアップを経て、中小企業の相続・事業承継に特化したコンサルティング企業へ入社。拡大する超高齢社会に起こる課題の大きさを感じ、2018年、AGE technologiesを創業。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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「経営者ってかっこいい」漠然と抱いていた夢を現実に


大久保:起業に至った経緯を教えていただけますでしょうか。

塩原:いつもこういったインタビューを受けるときに思い返すのですが、これといった明確な理由があって起業したわけではないんですよね。

物心ついたときから自分で何かを創りあげたり、主体的に行動したりするのが好きでした。所属していたサッカークラブでキャプテンをしたり、大学時代にはサークルを自分で作ったりもしましたね。そういった性格もあり、自然と起業を意識していた部分はあるかもしれません。

転機になったのは大学2〜3年生で経験した就職活動だと思います。就職活動中は、さまざまな経営者の本を読みました。そこで漠然と「経営者ってかっこいい」と感じたんです。正直、それが一番の起業の理由でした。

結局、新卒では起業しなかったんですけれど。それでも「起業したい」という思いはずっとあって、2度の転職を経て起業をしました。

大久保:それぞれの会社ではどのような経験をされましたか?

塩原1社目のIT広告代理店では、IT・広告運用についてと、ベンチャー企業の心意気みたいなものを学びました。今でも覚えているんですけど、「一人一人が社長」という新卒採用スローガンが当時あり、そこに惹かれて入社しました。既に上場企業でしたが、ベンチャーマインドや、インターネット業界の基礎みたいなものは学べたなと記憶しています。

2社目は自社アプリの開発を行うスタートアップに転職しました。全員で5人くらいしかいない小さな会社でしたが、CEOが身近にいる状況だったので、スタートアップ経営の基礎を学べたと思っています。

「赤字でも会社って存続するんだ」「そもそも投資家からどうやって資金調達するのか」といった、一般企業の社員では見られない部分を見させてもらえました。

2社目のスタートアップを退職するときは、まだ起業領域について決めていませんでしたね。そこから3社目の経営者の財務コンサルティング会社に転職したあと、2018年に起業しました

「生活に不可欠な領域で勝負したい」相続事業を志したきっかけ

大久保:起業するにあたって、領域を決めたのはいつ頃ですか。

塩原:相続事業に着目したのは3社目の財務コンサルティングの会社に在籍しているときですね。当時力を入れていたのが、事業継承コンサルティングだったんですけど、そこで初めて「人が亡くなる」という事象について考え出したんです。当時のクライアントは経営者や富裕層が中心でしたが、資産の預け先や税金対策など、さまざまな課題と向き合いました。

そういった日々を送るなかで、相続は日本社会全体で課題の強い領域だと感じたんです。それで「相続」と、自身がこれまで経験してきた「デジタル」分野を掛け合わせた事業を始めようと考えました。

大久保:「事業継承コンサルティング」と「デジタル」を掛け合わせようとは思われなかったのでしょうか。

塩原:最初はその方向も考えましたが、結果的にテクノロジーの介在予知を見出せなかったんです。事業継承を必要とする方々の多くは富裕層で、コンサル会社や信託銀行が提供するプロフェッショナルサービスに対して、しっかりと対価を支払える人たちばかりでした。優秀なコンサルタントや士業がいることが重要で、費用が高額になったとしても問題がない。依頼する側もされる側も、現状のままでWin-Winのマーケットだったんです。

だから富裕層が必要な「事業継承」ではなく、個人の「相続」に目を向けました。そして相続について調べるなかで、特に不動産が多くの人が抱える問題だと分かったんです。課題は大きいが、手続きはテンプレート化できる、という点を見て、デジタルと組み合わせるのにいいのではないかと。そこから『そうぞくドットコム不動産』は生まれました。

大久保:そうなんですね。相続に注目したのは「社会課題を解決したかった」からという理由だけでしょうか。

塩原:もちろんそういった気持ちもありました。でも1番は「一見、事業難易度が高そうに見えて、一度入り込むと人々の生活に根付いた盤石なサービスが築ける領域」で勝負したかったんです。

2社目のスタートアップ企業では、10代後半~20代をターゲットにしたエンタメ・アウトドア領域のアプリを開発していました。若者が好むコンテンツには流行り廃りもありますし、余暇時間を奪いに行く事業の難しさを感じていたんです。

だから自分が起業する際は、衣食住のように、生活に不可欠なもので勝負したいと思っていました。そして行きついた先が「人が亡くなる」という事象だったんです。

2040年まで日本の人口は減り続けると言われています。これから拡大するであろうマーケットのなかで、まだ完全な「勝ちプレイヤー」はいない。だからこそ挑戦したいと思いました。

相続手続きの大変さはやってみないと分からない


大久保:メインサービスである『そうぞくドットコム不動産』の概要を教えていただけますか?

塩原:『そうぞくドットコム不動産』は、相続で発生した自宅や土地などの不動産の名義変更手続きを行うサービスです。必要書類の代行取得・書類の自動作成サービスの提供などによって、手続きにかかる負担を大幅に軽減します。

大久保:私自身、相続手続きの経験がないのですが、代行してもらいたくなるほど面倒なのでしょうか。

塩原:非常に面倒です。実際に『そうぞくドットコム不動産』のユーザーでも、「一度は自分で手続きを初めてみたけど大変で断念した」という方もいます。

最も面倒な点は戸籍の収集です。

例えば私の父が亡くなった場合、役所に行って「父の不動産名義を変更させてください」と言っても、簡単にはさせてくれません。名義を変更するためには、まず「父の子どもは私と姉だけである」といったようなことを証明しなくてはいけない。家族に打ち明けていないとしても、「実は隠し子がいた」なんてケースもあり得ますからね。そういった可能性を否定するためには、父の戸籍謄本をすべて遡る必要があるんです。

しかし、これが厄介でして。戸籍謄本は本籍地でしかとれないので、私が東京に住んでいたとしても、父の本籍である大阪の役所に請求しないといけません。

そして転籍した回数が多ければ多いほど、戸籍謄本を得るために要する移動回数や距離も増えます。1人あたり約5〜8通の戸籍謄本が必要で、これだけでも面倒ですよね。

さらに遺産分割協議書・登記申請書・相続関係説明図といった専門的な書類の作成も必要ですし、付随書類の準備もあります。結果、1家庭平均して、10〜20種類の書類収集・作成が必要なので、それだけでも疲弊してしまいますよね。

「費用を抑えたいけど自分でやるのは手間」「仕事をしながら相続手続きを行うのが大変」「既に実家を離れており、現地まで行くのが面倒」といったニーズに応えたのが『そうぞくドットコム不動産』なんです。

大久保:なるほど。手間を大幅に減らせる上に、費用の部分でもメリットが大きいというわけですね。見込み客にはどのようにアプローチされているのでしょうか。

塩原実際に手続きが発生した方に直接アプローチしています。

例えば、相続手続きについて検索したら弊社サービスや会社の紹介記事がヒットするといった具合です。本来は不動産の所有者が亡くなる前から訴求をしていきたいのですが、日本ではまだ実際に人が亡くならないと、相続について考える人は少ないのが現状なので。

今後時代が進むとともに、我々のアプローチ方法も変わってくるかもしれません。

デジタル化は「リアル」に寄せないと意味がない


大久保:「不動産」「相続」と聞くと、デジタルとは遠い領域のような気がします。

塩原:おっしゃるとおりですね。現状、相続に関しては完全にデジタル化できていません。

例えば『そうぞくドットコム不動産』を立ち上げた当初、サイト内にチャットボットを実装して問い合わせ対応を完結させようとしました。でも、誰も使わないんですね。『そうぞくドットコム不動産』のユーザー平均年齢は58歳。Webブラウザ上のチャットボットを駆使する年代ではありません。

だからアナログなんですけど、コールセンターを設置して、電話で問い合わせ対応するようにしました。

申し込みに関しても同じことが言えます。当初はWebからログインしてそのままセルフで申し込みを完了させるっていう感じにしていたんですけど、途中で離脱してしまうんですよね。そこで、紙ベースで複写式の”よく見る形の申込書”を作成しました。すると徐々に受注が増えていきました。

結局、一概に「デジタル化」と言っても、リアルとの折り合い地点を見つけることが重要です。『そうぞくドットコム不動産』を利用するのは私の親世代ですが、その人たちが利用しやすいサービスを作ることを意識しています。

とはいえ今までのアナログな方法を真似するだけでは、利益は出ません。なので、弊社独自のビジネスモデルを作る意識をもってやってきました。

「相続のプラットフォーム」を目指したい

大久保:今後の展望について教えていただけますでしょうか?

塩原:大きく分けて2つ構想を立てています。

1つ目は、3年のサービス提供で培ってきたオペレーション&システムを、金融機関を中心とした事業者向けに提供するBPaaS事業です。これまで得た知見や技術を使って、エンドユーザーだけなく事業者の相続手続き事務を効率化していくというサービスをローンチします。

2つ目は、相続手続き後に生まれた、資産の利活用といった分野への展開です。不動産の名義変更後には不動産の売却・解体・土地活用といったニーズが生まれます。名義変更をきっかけとして、その周辺領域や、アフターサービスを充実させていきたいと考えています。

弊社サービスの中で、相続に関するさまざまなニーズに応えられる。いわば「相続のプラットフォーム」のような存在を目指したいと思っています。

大久保:今後相続手続きが必要になる方々に向けてメッセージがあればお願いします。

塩原:まず相続手続きが必要になる方には、どのような手段で相続手続きを進めるかについては、複数の選択肢があるということをお伝えしたいです。弊社のようなITサービスだけが正解ではなく、専門家のプロフェッショナルサービス、自治体の無料相談、またはご自身で調べて手続きを進めるのも選択肢の1つだと思います。ご家庭によって難易度や前提が変わるのが相続なので、まずは話し合って最適な手段を考えられることを推奨いたします。

また事業者に向けては、拡大する超高齢社会のなかで、相続を含めた本領域に関してはまだまだ課題が山積みです。自治体・金融機関・士業なども含めて、官民連携で取り組む必要があると感じています。そういった関係機関としっかりと連携をとっていきたいですね。

創業者に必要なのは「しんどさを楽しめる力」


大久保:最後に、これから起業される方や起業したての方にメッセージをお願いします。

塩原:マインドの問題なんですが、「楽になることなんてないよ!」とお伝えしたいです。僕自身、起業した当初は「月商〇〇万円達成したら楽なんだろうな」「オフィスが広くて綺麗になれば毎日楽しいんだろうな」と考えてしまっていたんです。でも、どれだけ願望を叶えても、楽になることはなくて。むしろずっとしんどいです。

会社が大きくなればなるほど、やるべきこともどんどん増えて、難易度も上がっていきますからね。大切なのは、”自分で決めた道”と割り切って、しんどさや大変さをいかに楽しむかじゃないかって。そのマインドがあれば、少々大変なことでも乗り越えられると個人的には思っています。そしてその先に本当の楽しさがあるのだろうと。

これから創業される方や創業したばかりで今がきついという方には、「それはこの先もずっと」なので、是非割り切って一緒に楽しんでいきましょう!

大久保写真大久保の感想

「不動産×相続」という超アナログな業界に、ITスタートアップのスピード感や思考で挑む姿が新鮮でした。

地味だけれども巨大という領域こそ起業家は挑戦する価値があると思いました。

相続の問題で活用されていない土地は九州に匹敵するとのこと。こういった相続の問題で活用されていない土地や資産がより円滑に回っていくだけでも日本はかなり良くなると思います。

勢いのある塩原さんの今後に注目です。

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(取材協力: 株式会社AGE technologies 代表取締役CEO 塩原 優太
(編集: 創業手帳編集部)



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