グッドルーム 小倉 弘之|リノベーション情報サイト「goodroom」でもっとgoodな暮らしを提供

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年12月に行われた取材時点のものです。

リノベーション物件は持ち主、入居者、事業者の全てにメリットがある「サステナブルな住宅」

コロナ禍の影響で建築資材が高騰しており、新築物件を建てるハードルが高くなりつつあります。このような状況下でも、入居者により良い暮らしを提供したいと、グッドルームの小倉さんが選んだのが「リノベーション」という手法です。

そこで今回は、グッドルームの起業や事業拡大の背景や、今後の戦略について創業手帳の大久保が聞きました。

小倉 弘之(おぐら ひろゆき)
グッドルーム株式会社 代表取締役社長
東京大学卒業後、竹中工務店、BCGを経て2009年にハプティック株式会社(現グッドルーム株式会社)を設立。お部屋探しサイト・アプリ「goodroom」、オリジナルリノベーションブランド「TOMOS」を強みとし成長。「生活提案企業」として住宅とITという暮らしの基本を作る2つのエリアから「どこにもないふつう」を創造し、住宅の質向上を目指している。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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竹中工務店、ボストンコンサルティングを経て「グッドルーム」を起業

大久保:まず起業までの流れを伺えますでしょうか?

小倉:私が最初に起業を意識し始めたのは、竹中工務店というゼネコンに入社し、3年ほど経った頃でした。その後、ボストンコンサルティングに転職し、3年ほど務めた後で、2009年に「グッドルーム」を起業しました。

独立してどんな事業をやるかと考えた時に、「自分がやりたいこと」と「社会や世の中に貢献できること」の2つを同時に叶えられることをしたいと思いました。

そして、当時は空き家問題が顕在化していたタイミングだったので、「空き家のリノベーション事業」をスタートさせました。

事業開始後は、1部屋ずつリノベーションして「グッドルーム」というオウンドメディアで入居者を募集する、という流れでした。

オウンドメディアについても、少しずつ工夫を重ねて、今では200万ダウンロードを超えています。

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父親の会社と統合し「gooddaysホールディングス」を設立し上場を果たす

大久保:その後、上場されたということですね。

小倉:2016年に私の父が経営していたIT企業とグッドルームを統合させ「gooddaysホールディングス」を設立して、その会社が2019年3月に上場しました。

最近では、新橋・有楽町など全国14箇所にシェアオフィスを展開している「グッドオフィス」事業や、日本中の様々な場所に住めるようにするホテルサービス「​​ホテルパス」事業などの新規事業も展開しています。

大久保:お父様としては、事業承継できたという形ですね。

小倉:結果としてはそうですが、元々は父の会社を継ぐつもりはありませんでした。

私は私でやりたいことを見つけ、リノベーションや賃貸メディアという父とは全く違う領域で起業しました。

ですが、ITを行なっていた父の会社と統合することで、お互いの事業をより伸ばせるのではと考え、事業継承しました。

このようなケースは、今後も増えてくると思いますね。

もし父と私が同じ領域の事業をやっていた場合、このようにうまく事業継承はできなかったかもしれません。

私にはITの知見がなく、父の会社の強い部分を私の会社にも活用できるようになるため、うまく統合できたと思っています。

従来のリノベーション業者との大きな違いは「パッケージ化」

大久保:グッドルームのサービスは、従来のリノベーション業者と比べて、どういう違いがあるのでしょうか?

小倉「パッケージ化」していることが大きな特徴です。

一般的にリノベーションの見積もりを出すことは、簡単なことではありません。様々なリスクを精査した上で、しっかりと見積もり金額の計算をしないと、大きく損をする可能性があります。

一方で、グッドルームでは「TOMOS(トモス)」というリノベーション賃貸をパッケージ化しており、ある程度のリスクを加味した上で見積もり金額の算出方法をパターン化しています

もちろん、1軒あたりのリノベーションで損をしてしまう案件もありますが、年間何十〜何百部屋と施行するため、トータルで利益が残るようにでき、新入社員でも担当できる体制を作っています。

大久保:空間デザインという面での特徴もあるのでしょうか?

小倉:空間デザインは真似できてしまうため、そこに対しての差別化は求めていません。

真似できるものを頑張って作ったとしても、また真似されてしまうだけです。

「TOMOS」というブランドで統一感のあるリノベーション賃貸物件を作って、自分たちのメディアで直接エンドユーザーに届けることを大事にしています。

成長フェーズごとに直面した問題の解決に役立ったのは「先人の知恵」

大久保:起業してからどのような苦労がありましたか?

小倉:資金繰りやメンバーの入れ替わりなど、様々な苦労をして今に至ります。

起業家として必ず読んでおいた方が良いと言われている『成功者の告白(講談社)』という本があります。

それには、会社を経営する上で「売れるタイミング」「事業の成長と失敗のきっかけ」「持ち上がる数々の難題」などが書かれているのですが、同じようなことが私にも起きているなと思いました。

先輩経営者の話を聞いたり書籍を読んだりして、企業の成長フェーズごとに起こりうる問題点について事前に学習していたので、なんとか乗り越えられたのだと思います。

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事業領域を拡大させるには「人に任せる力」を社長が身につけるべき

大久保:成長フェーズごとに色々な問題がおきますよね。

小倉:会社のフェーズはいくつかあると思いますが、当社でも事業領域が広がり、人が増えてきたため、人に仕事を任せる領域を増やせるようにしています。

オーナー社長のようになってしまうと、会社のなかでは絶対的な存在になってしまいます。

しかし、オーナー社長は、全責任を自分が持つという意識が強い傾向にあるため、その意識は持ちつつ、事業領域を拡大できるように、人に任せることを意識しています。

大久保:メンバーの採用については、どのようにお考えですか?

小倉:起業当初から、良い人材ばかりが集まるわけではありませんよね。

なので、今いるメンバーに「何故これができないのか?」と疑問を抱いてしまう気持ちもわかりますが、そうではなく、今いるメンバーでできることを考える、という思考が大事だと思っています。

「社長と副社長の差」は「副社長とアルバイトの差」と言われることがあるように、周りが同じ意識で動けるわけではない、と考えて動くと良いですね。

「リノベーション工事」から「オウンドメディア運営」へ方向転換期

大久保:経営方針を変えざるを得ないタイミングはありましたか?

小倉:リノベーション工事が中心だったのですが、徐々にオウンドメディアの割合が増え、今ではオウンドメディアの運営があることが事業の根幹になっています。

元の中核事業を大事にしながらも、そればかりにはならないように、事業を広げてきました。

大久保:新事業を始める際に、気をつけていることを教えてください。

小倉:新事業にリソースを割くことは往々にしてありますが、特にベンチャー企業は、リソース不足でメイン事業すらダメになってしまうというケースがあります。

つまり、今の事業がうまくいかないから方向転換しようという発想ではなく、メイン事業を伸ばし守りつつ、新事業にも着手するという割合が良いと考えています。

大久保:オウンドメディアはどのようにして拡大させたのでしょうか?

小倉:メディアスタート時は、様々な物件を分け隔てなくメディアで紹介し、その中に自社物件も入れるという「比較サイト」としてスタートさせました。

ユーザーにとって有益な情報を明確にしつつ、自社物件の魅力を伝えるために、と考えた結果です。もちろん、自社物件と並行して、他社物件の魅力も伝えることにもなりますが、あくまでもユーザー目線で考えると、このスタイルが良いと判断しました。

コロナ禍の新しいライフスタイルに対応する「新しいオフィスの形」

大久保:「リノベーション」と「オウンドメディア」の2事業があり、その上でさらに「シェアオフィス」も始められたということですが、その経緯について教えていただけますか?

小倉:起業して上場するまでの期間に、4回もオフィスを引越ししました。

起業当初は、雑居ビルの1室からスタートしましたが、古いビルだと部屋の中にトイレがあったり、男女共用だったりという「トイレ」に関する不満が出てきました。

その他にもメンバーが増えると、オフィスに対する要望も増え、何度も引っ越しをすることになりました。

またコロナ禍の影響でリモートワークが増え、作業をする拠点が各地にあった方が便利だということもあり、シェアオフィス事業を始めることになりました。

大久保:コロナでオフィスの役割が変わってきていると思いますが、今後どのような存在になるとお考えでしょうか?

小倉:今までは、渋谷、六本木などの栄えている場所にオフィスがあることがステータスとしてありましたが、コロナで通勤しない経験をした若者たちにとって、通勤に時間をかけず家の近くで仕事をした方が良い、という一つの解を見つけています。

一方で、当社でも週に2、3回は出社しようという体制にしていますが、出社を再開したことで「対面の良さ」を再認識しました。

そこで、オフィスに行く新しい理由やきっかけを作ることも必要だと感じ始めました。

大久保:オフィスに行く理由とは具体的にどのようなことですか?

小倉サウナのあるシェアオフィスを今回日本橋に作りました。

裸の付き合いではありませんが、上下関係があまり関係なくなるような環境をデザインしたり、自宅ではできない気分転換ができる工夫をしたりという「日常の中の非日常要素」が、これからのオフィスには求められると思います。

このサービスでは、会員の方は顔認証登録さえ済ませておけば、どの拠点でも使えるようにしており、サウナも使い放題にしています。

渋谷の立地の良い場所、駅から少し離れているがゆったり広い場所など、様々なシェアオフィスを展開しているので、その時々に合わせて使い分けていただけるようにしています。

「住む」と「働く」を融合した「コリビングスペース」とは

大久保:今後の事業展開について教えていただけますでしょうか?

小倉「住む」と「働く」を融合させられるようなサービスを提供したいと考えています。

コロナ禍で働き方が変わってきているにもかかわらず、未だにオフィスもレジデンスも従来の賃貸の延長線から抜け出せていません。

もっと今の時代や人々のライフスタイルに合った形で、働いたり暮らしたりできる場所を提供したいと考えています。

それを実現するものとして、シェアオフィス、住宅、サウナ、カフェが併設された「コリビングスペース」を2023年に作る計画をしています。

大久保:空き家の問題についてはどうお考えですか?

小倉:今後さらに、日本の人口が減り、若者が減り、そして東京の人口も減ります。

その中で新築を建てると、当然、空き家も増えるでしょう。

そこで、我々の考えとしては、古い物件を生かして、長く使えるようにしたいということです。環境負荷を抑えて、新築を建てる方法を考えるよりも大事なことだと考えています。

今まで日本の住宅が短寿命だと考えられてきた理由は、日本が地震大国だからです。

しかし、1982年以降に新耐震基準で建てられた家は40年経過していますが、かなり壊れにくくなっており、実際にまだまだ住める家は多いです。

また現在は、建設材料費も高くなっているため、新築物件を建てる経済的バランスが取れなくなってきているのも、空き家をリノベーションする我々にはチャンスになりえると考えています。

空き家リノベーションは持ち主、入居者、事業者の全てにメリットを生む

大久保:改めて、リノベーションにはどういう価値がありますか?

小倉物件のオーナー様にとっては家賃を上げられますし、入居者からすると新築より安く住めるというように、両者にとっての金銭的メリットがあります。

リノベーション業者にとっては、建材ではなく、内装にお金を使えるので、新築と比べてコストを抑えつつ、質の高い内装の物件を提供できます。

大久保:起業家へのメッセージをお願いします。

小倉:あの時こうすればよかったと後悔することもあると思います。

しかし、一般的には後悔してしまいそうなことでも、逆にそれを楽しむために「リスク管理」を徹底しておくことが大事です。

10年続く会社は少ないと言われるように、起業初期は会社を潰さないことだけ注意して、楽しみながらも頑張ってほしいと思います。

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(取材協力: グッドルーム株式会社 代表取締役社長 小倉弘之
(編集: 創業手帳編集部)



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