「熱を伝える」広報になれ。PRアカデミー主宰 栗田朋一氏のベンチャー向け広報術(前編)
ベンチャーにはアピールするべき「強み」が必ずある
(2017/09/13更新)
メディアへの露出は、自社の業績を上げるために、最も有効な方法の一つです。
ですが、ベンチャー企業の広報のなかには「自社をどうアピールしていけば良いのだろうか?」と悩んでいる人も少なくありません。
そこで今回は、元ぐるなび広報で、「最強のPRイノベーターが教える 新しい広報の教科書」の著者でもあるPRアカデミー主宰・栗田朋一氏に、インタビューを敢行!前編では、ベンチャー企業の広報が最初にするべきこと、メディアに対しての対応方法について伺いました。
大学卒業後、事業会社の広報を6年、PR会社を4年経験。2007年から株式会社ぐるなびの広報責任者として6年半在籍し、2014年6月に退社。現在は、飲食店の広報支援を手掛ける株式会社外食広報会の代表および広報担当者養成スクール「PRアカデミー」の主宰者として、マスコミキーマンを講師に招いた勉強会や、記者と広報を集めた交流会などを主催し、本当に使える広報ノウハウやマスコミ人脈を多くの広報担当者に伝授している。
伝えるためには、ただ言いなりになってはいけない
栗田:広報は「トップをどう出していくか」ということを一番に考えなければいけないからです。しかも、ただ出すだけではなく、トップに寄り添って、「想い」を代弁できることが必要です。
私のぐるなび時代の具体的なエピソードを話すと、以前とある雑誌に、賢い飲食店の選び方というテーマで大々的に取り上げてもらったことがありました。ぐるなびともう1つ他社のグルメサイトをそれぞれどう使いこなすと、行きたいお店が見つかり、スムーズに検索や予約ができるのかというもので、普段なかなか表に出ないような機能なども書いていただき、利用者にとってのメリットも図解で紹介してもらいました。社長も開発者も社員みんなが喜んでくれました。
しかし、創業者でもある会長がこの記事を見て大激怒。2大グルメサイトとして取り上げられていたもう1つのサイトを指し、「ここと同じ土俵で戦っているわけじゃない」と。ぐるなびは飲食店の最新かつ正確な情報を提供するサイトであり、店の優劣を評価することでユーザーを集め広告で稼ぐサイトとは違います。「お前はそもそものビジネスモデルを理解していない。そんなやつに広報は任せられない」とキツく叱責されました。
ぐるなびは、あくまで情報サイトであって広告サイトではないという創業者の想いを常に頭に入れて行動し判断しなければいけない、と感じました。
栗田:この2社を並列で取り上げると分かった時点で断るべきでしたし、もし可能なら、1社だけで紹介してもらうための納得感ある理由を提示するべきでした。
これは単なる一例に過ぎませんが、広報はメディア側の言いなりになってしまうと、創業者や経営陣の想いを壊してしまうこともあります。そして経営陣と一括りに行っても、トップ(会長や社長)と、その他の役員は見ている世界や描くビジョンが違っているので、そこを広報としてしっかり把握しておくことはどの会社においても必要だなと感じます。
競合にはない、自社だけの強みを見つける
栗田:ベンチャー企業の場合、何でこの会社が生まれたのか、その背景や、「他にはこういう会社があるけど、うちはここが違う」といったオンリーワンの部分を見つけて、その自社だけの強みを落としどころにしたストーリーを立てるといいと思います。
さらに、そのストーリーを取り入れたプレスリリースは、出すタイミングも考慮しないと取り上げてもらえません。
リリースを出すタイミングで参考にするポイントは2つあります。
まず1つ目は「季節性」。つまり、残暑、敬老の日、内定式など季節イベントに引き付けると“なぜ今なのか”が説明できます。
2つ目は「社会性」。世の中の関心事や社会事件に関連づける方法です。特に国や行政がデータを発表したときなどはそこに絡め、「いま世の中はこんなことになっている。だから自社のこのサービス、取組が注目されるのです」と話を作っていくと取り上げられやすいです。
社内を知ることが広報の第一歩
栗田:広報担当になったらまずやるべきこと、それは社内のあらゆることを熟知することです。
社内を知る方法は色々あります。
各部門の会議に傍聴者として参加する方法もありますし、社内の人と飲みに行くのも良いですね。今この部署ではどんな問題を抱えているのか、今後どのような施策を考えているのか、会議では誰がどんな発言をしているのか、社員は何に悩み、不安を感じているのか等々、あらゆる社内情報を収拾する必要があります。
そして社員たちからも常に相談してもらえる存在になるべく、距離を縮めておかなければなりません。
そうやって社内に埋もれるPRネタを掘り起こし、広報に情報が集まってくるような仕組みを作っておきたいものです。
メディアが最も興味を示すのは「今現場で起きている面白い現象」ですから、社内を把握することに加えて、自社の業界や市場についても精通し、何を聞かれても即答できるようにしておかないといけないと思いますね。
メディアを知ることも広報戦略には必要
栗田:社内を熟知したら、今度はメディアのことも熟知するべきです。よく私が言っているのは「新聞のテレビ欄を暗記しなさい」ということです。もちろん全部暗記するのではなく、自社が取材してもらえる可能性のある番組を、です。
番組名を聞いただけで、どこの局で何時からやっているか、ターゲットは主婦か、シニア層か、サラリーマンなのか、瞬時にそれが分かれば、急に電話で問い合わせが来ても適切な対応や提案ができるようになります。
テレビだけではありません。新聞も全紙一通り目を通して、この媒体、この新聞にはこんなコーナーがあって、これまでどんな会社が取り上げられているのか、を調べておきましょう。
「自分の会社だったらどんな切り口でこのコーナーに取り上げてもらおう」といった妄想をしながら覚えると良いですよ。
メディアとの上手なアポの取り方
栗田:自社を取り上げてもらえるようなコーナーを調べると、その記事を書いた記者の名前がよく明記されています。いわゆる署名記事ですね。
代表電話から目当ての記者に繋いでもらったら「○○さんの記事読みましたよ」と伝え自分が読者であることをさりげなくアピール。その上「あの記事を読んでこんな行動を起こしました」と具体的に影響を受けたことを伝えたら、きっと邪険に扱われることはないでしょう。
記者は私たちが思っている以上に、自分が書いた記事がどう読まれているのか気にしています。それを一言伝えるだけで反応は全く違ってくるのです。そうやって立場を対等にしてからアポのお願いをすると、すんなり会ってくれると思いますよ。
いざ会うことになったら、さらなる読者アピールもしてみましょう。日経新聞社が提供している記事検索サービス『日経テレコン』で調べれば、その記者が過去に書いた記事が出てきますので、その中から印象に残った記事を話のとっかかりにしてもいいと思います。
そして本題に入り、取り上げてもらいたいネタを提案するときですが、ここで一つのテクニックがあります。それは資料を渡さず口頭だけで説明するということ。
資料を渡してしまうと、どうしても目を下に落とし資料を見ながら話を聞くことになりますが、人間の心理として下を向いているときには想像力が働きづらくなるのです。
特にテレビの人は、「どんな映像が撮れるのか」を想像してもらわないと、話が先に進みません。企画会議に上げてもらうためにも、あえて資料を渡さないことでイメージを膨らませてもらうことを心がけていました。
また、自分から働きかけるのではなく、メディアの方からアプローチしてくるように仕向けることもできます。それは何かの領域の第一人者だと思わせること。
私がぐるなびにいたときも、「外食産業で今何が起きているか」を取り上げたいメディアから、「こういう切り口でこんなお店を取材したいけど、どこを取材したらがいいですか?」とか、「何が流行っていますか?」という問い合わせがよくありました。外食話題で記事を書くなら、まずぐるなびの栗田さんに聞いてみよう、と多くの記者に思われていたからです。
ここまでなるには時間がかかるかもしれませんが、日ごろから自社のことだけでなく競合他社の話、業界全体の話を詳しくしていると、そのテーマで記事を書くときは真っ先にこの人に聞いてみようと思われ、向こうからアポを取ってくるようになるのです。
(取材協力:株式会社外食広報会/栗田朋一)
(編集:創業手帳編集部)