ヒュープロ 山本 玲奈|学生起業を軌道にのせるまでの紆余曲折の日々 領域特化で顧客にとっての一番を提供

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2023年09月に行われた取材時点のものです。

士業・管理部門の転職・求人に特化!スピーディーなマッチングを目指す「ヒュープロ」

「ヒュープロ」は、税理士や会計士などの士業や、経理などの管理部門に特化した、日本最大級の求人・転職サービスです。企業が求人を掲載し、ユーザーが応募する求人プラットフォームです。業界の特性上、現役で仕事をしているユーザーはかなり忙しいこと、また求人を掲載する企業も急を要している場合が多いことから、従来は非常に閉鎖的な求人・転職環境でした。ヒュープロはそんな士業・管理部門の転職・求人市場をオープンにし、スキルベースでマッチングすることによって、スピーディーなマッチングを目標にサポートしています。

今回お話を伺ったのは、株式会社ヒュープロで代表取締役を務める山本玲奈さんです。大学在学中に数々のビジネスコンテストで優勝したことをきっかけに、学生起業で同社を設立しました。そんな山本さんに、学生起業のコツから士業・管理部門のトレンド、スタートアップの勝ち筋の見つけ方まで、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

山本玲奈(やまもとれいな)
株式会社ヒュープロ 代表取締役

1993年兵庫県生まれ。幼少期からインドネシアやアメリカ等、18年間を海外で過ごす。慶應義塾大学法学部への入学と共に日本へ帰国。大学3年時に司法試験の受験勉強をしながら、ビジネスコンテストへ出場。優勝した経験をきっかけに大学在学中である2015年11月、株式会社ヒュープロを創業し、代表取締役へ就任。これまでに約7億円の資金調達に成功し、士業・管理部門転職に特化した人材サービス「ヒュープロ」を運営。「Forbes 30 Under 30 Asia 2022」「EY Winning Women 2021ファイナリスト」等にも選出された。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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学生起業はスモールに始める

大久保:ヒュープロは学生起業から始まったとお聞きしています。学生のうちに起業に至ったのはどのような経緯だったのでしょうか。

山本:インドネシアやアメリカなど海外で18年過ごして慶応義塾大学に入学後、司法試験の受験勉強をしていたんです。ロースクールの学費を稼ぎたくて、勉強のかたわらビジネスコンテストに出始めました。ここでスタートアップやベンチャーの仕事の流儀に触れ、何回か優勝もできたおかげで、割と界隈から注目していただいたんです。「起業しないの?」「出資するよ」など後押ししていただいたこともあり、司法試験ではなくこのまま事業をしようと決心して、大学4年生の11月にヒュープロを起業したという流れです。

大久保ビジコンでのプランは実現がなかなか難しい印象がありますが、ヒュープロの事業は当時のものですか?

山本:いえ、作り直しています。起業してから実行した事業プランもありましたが、やはり上手くいかず方向転換をして、現在のヒュープロは全く別の事業です。

とはいえ、学生起業をしてよかったと心から思っています。ビジコンに多く出場したおかげで、事業を作るうえで必要なプロセス、例えば事業計画で人件費や設備資金などを一つひとつ考え、資金計画や収支計画を書き、さらにはマーケティングについても考え…といった、「事業を作る上で必要なプロセスの分解が半自動的にできる筋肉が鍛えられました。

大久保:軌道に乗せた先輩として、学生起業家へのアドバイスはありますか。

山本:とにかくお金の使い方含め「スモールにやることです。創業時に役員報酬含めお給料をとらなくても生活していけるのは学生起業の最大のメリット。たとえ資金調達できたとしても、広告宣伝費や人件費などで豪快に使ってはダメです。私も初めて資金調達を受けた時「とりあえずたくさん人を採用したら伸びる」と考えて見事に失敗しました。本当にしんどいのは資金調達を受けた後です。原点回帰的ですが、大切なことは最小限の費用で最大パフォーマンスを出すこと、持続可能な売上を立てること。学生起業をしてやめてしまう人の多くは、やはり金銭感覚がおかしくなってしまってのキャッシュアウトなんです。私の場合は、スタートアップで企業の営業代行事業をしていたときに、資金や人の希少さ大切さを間近で見て痛感したので、お金をシビアに使うマインドセットはありました。だから続けてこられたんだと思います。

マネジメントを習得して業績がV字回復

大久保:会社としての組織作りに関してはどのような変遷を経たのですか。

山本:実は2回組織崩壊を経験しています。最初は「インターン生は、いればいるだけいいんじゃない?」なんて思っていて(笑)。でも採用しても、してもらう仕事がないんですよ。それで、コアになる仲間が必要だと気づいてメンバーを集めたんですが、情報を活用して仕事を振り分けて収益を作るやり方が全然分からず、あまりに暇でみんなでゲームをしていたことも…。それだとスタートアップでバリバリ活躍したいメンバーは抜けていきますよね。

1回目の組織崩壊でマネジメントに課題があるとわかったものの、どうしても実行に移せず2回目の失敗。課題がわかっても実行しないとダメ」と腹おちしたのは2か月後に会社が潰れるという危機的事態が肉薄した時です。そこでやっとマネジメントスキルが身に着きました。

するといきなり歯車がかみ合ったようになりました。振り返ると、現場のこともほとんどせず会議も表面をなぞるだけ、ドラッカーの言う「使命を与える」ことも実行できていなかったので、スタッフ全員が低空飛行といった状態でした。マネジメントに自分で手を下すようになると、いきなりのV字回復で売上も1年間で10倍以上に伸びました。

大久保:素晴らしいです。でも、私もそうですが、転ばないと学べないものですよね。ちょっとクレイジーなくらいでないと起業できないからか、マネジメントが苦手な起業家は多いように思います。

山本:そうなんです。そういう時は、経営幹部が組織マネジメントを担い、起業家はクレイジーにアイデアを出し続けて、両輪で組織を邁進させるのが王道ですよね。でもいかんせん学生起業なもので、マネジメントチームがいないか、いてもあまり機能せずといった状態でした。強制的にでも社長としてマネジメントを担うことになり、最終的に力がついたのはよかったと思っています。

スタートアップはカルチャーフィットが大事

大久保:管理部門を置くならその人材の選び方などは会社のフェーズによって変わってくると思うのですが、特にスタートアップの場合はどのような選択が考えられるでしょうか。

山本:本当に起業したばかりの会社は、社長とCOOが経理をしていたり、税理士に丸投げにしていたりする状態もありうると思うのですが、社員を採用し始めると、交通費や源泉徴収など諸々の問題が出てきますから、しっかり管理する必要が出てきます。

そんなスタートアップに最適な人材は「経験豊富な大会社の元経理部長」などではなく、「バックオフィス全般を取り仕切ってくれるジェネラリスト」です。経費精算をはじめ、税理士や社労士と協力をして決算の段取りもしてくれる、時には営業のサポートや秘書的な仕事、メールアドレスの設定までこなしてくれる、いわば事務を含む管理部門のことは一通りできる人材ですね。なぜなら、その時期の管理部門は仕事がそう多いわけではないからです。管理や経理だけをやっていたら7割くらいの稼働で終わってしまう。残り3割の稼働を考えると、必然的にジェネラリストのほうが合うのです。

そこで大事な点は企業カルチャーに人材がマッチしていること。社内の困りごと全般に細かく応じてくれる能力は、社風にフィットしていないとうまく発揮されません。実際に私たちも、スタートアップの管理部門には、経験者ではなく素直でフットワークの軽い新卒の方をご紹介することもあります。

AI時代に求められる課題解決力とコミュニケーション力

大久保:士業の方の転職に絡めて、人手不足についてお伺いします。クラウド会計ソフトが登場した頃は、これで会計士や税理士は失業するなんて騒がれていました。でも、失業どころか皆さんどんどん多忙になっている印象なのですが、どうしてなのでしょうか。

山本:本当にそうですね。理由は3つあり、1つ目は会社の数が増えていることです。新規立ち上げだけでなく大手企業が子会社をたくさん作る流れがあり、そのぶん士業のニーズが増えています。2つ目は高齢化に伴い、相続のマーケットが非常に伸びていることです。特に2007年(平成19年)に税制改正が行われてから、相続税の申告や生前贈与シミュレーションなどの業務が増えました。3つ目は、M&AにしろIPOにしろ、要件なども含めガバナンスやコンプライアンスで求められるものが増え、それに比例して法対策に関して会社顧問への相談が増えています。このように手が足りないところに、働き方改革や世代交代に伴う後進育成などがのしかかり、非常にきつい状況だと見ています。

大久保:以前のゲームチェンジャーはクラウド会計ソフトでしたが、今はなんといっても生成AIですよね。単純作業はスピード感も含め生成AIが有利なように思うのですが、AI化の波の中にあっていつまでも求められるのはどのような人材でしょうか。

山本:そうですね、私は2点あると思います。1つ目はクライアントの課題解決ができる人です。例えば、M&AをするならデューデリジェンスやPMIに備える、また将来に備えてキャッシュをためる体制に変更しようと決まったら管理会計の計算方法を変えるといったことですね。予定されたことだけでなく、スキルを活用してクライアントのしたいことに合わせた根本的な課題解決手段を出せる人材です。コンサル能力にも通じるものがありますね。

2つ目はコミュニケーション能力でしょうか。給与ソフトやAIができない事柄は「シミュレーションはどうやるのか?」 や「この場合のリスクについて一緒に考えて」など、そのときどき個別の状況と対峙することです。決算ひとつにしても、出し方によって数字は変わります。何をどう出していくのが最善かは、社のビジョンや経営計画によって決まるところが大きいでしょう。人間がコミュニケーションをとればこそ提案できる付加価値です。

大久保:社内の管理部門についてはいかがでしょうか。

山本:この場合、逆にAIのサポートを積極的に入れると良いと思っている領域がありまして、それは社内外への質問回答です。会社が大きくなるほど管理部門への質問は多くなって、しかも同じことを100回くらい聞かれるんですよね。ここはAIがサポートできるところです。質問への対応時間を、より創造的で会社の意思決定を担う根幹に関わる仕事に割いてもらえるといいなと思っています。

大久保:ヒュープロでマッチングをされていて気づいた市場のトレンドで興味深い点はありますか。

山本:ヒュープロを始めた4~5年前では考えられなかったのが、専門家領域でありながら未経験の採用が増えていることです。今後は、新卒採用の専門職といったケースが増えてくる可能性があると思います。

もう1つは、IT企業やスタートアップの人気が上がっていることです。スタートアップは国からのバックアップもあることからトレンド化していますし、起業をひとつのスキルとしてみなす人も増えています。IT企業やベンチャーで働くメリットを感じる人が増えている印象ですね。

バーティカルに勝ち筋を掴んでいく

大久保:日本一早いマッチングを目指すヒュープロとして、他社との差別化で大切にしている点を教えてください。

山本:実は「想いを徹底的に大切にする」点を最大の差別化にしています。会計業界は独特で、割と利益率が高いところなんです。ですから「業界をこうしたい」 という志やサービスの質よりも、利益を上げることを優先事項にしている会社もあるんですね。弊社は、クライアントに対して「どういうふうに力になっていくのか」という想いを大切にしています。すると、プロダクトの動線の作り方や料金設定など、一つひとつが変わってくるんです。

結果的にその運営でお客様に支持されて成長できているので、これは全ての意思決定における基準になっています。他のベンダーと比べた時に少しでもヒュープロの方がいいものを出し続けるということです。特に弊社は領域に特化しているので、総合系の他社よりも濃い情報を提供できます。士業・管理部門業界のことは何でも提供できるのが強みです。

大久保:世界的な大会社がある人材領域で、後発でのスタートアップで参入を成功させました。こういう攻め方をするといいといった「勝ち筋」はありますか。

山本:2点挙げられるかと思います。まず、私たちが長年首位の会社もある中で、知名度をあげてこられた理由、それはバーティカルに市場を限定して狙い撃ちしたことです。強者がいないマーケットは、必ず何かトラップがあります。狙うのは、1強が独占しているとか、どこも横並びだとか、そういったマーケット。必ず狙える穴があります。弊社が狙ったマーケットはずっと大手の独占市場だったので、これでは細かいニーズは取りこぼされているに違いないと読みました。そこが私たちが狙える穴でした。

もう1点は、ファーストタッチを小さく小さく、とにかく絞ることです。私たちの人材業界も大きなマーケットですが、その中で自分たちはどこでなら勝てるのかを考え抜きました。スタートアップの強みは小回りが効くこと、スピード感を持って斬新にキワキワを攻められることですから、戦略も「選択と集中」が大切だと思います。

受けた恩を後続に繋ぎ、社会に還元したい

大久保:今後の展開はどのように考えられていますか。

山本:私たちは「日本を世界一の国にする」というパーパスを掲げています。世界中をターゲットにした日本のプロダクトとしてグローバルに出ていくには、足元をしっかり固め今の事業を発展させることだと思っています。

もう一つは社会への還元です。先輩がたに応援・支援していただいたからこそ、私は起業家として諦めずにやってこられました。私たちもまだまだこれからですが、未来の日本に貢献できる会社になれた暁には、自分がしてもらったように、次の世代の起業家をしっかり応援したい。そうすればその人たちも、その先の日本に貢献してくれるはずです。私たちが受けた恩を繋いでいく、社会に返していくことをしていきたいですね。

大久保写真大久保の感想

士業・管理系の人材は「AIで仕事がなくなる」と言われる一方、紙の処理など単純作業が減っていくと、その会社の方向を考えて答えを出すようなAIだとできない価値が出せる人には益々面白い業種になっていくかもしれないと思います。

管理系人材でいうと昔は大企業や監査法人が中心だったが、今は、スタートアップや事業承継、また「創造的な管理・士業系」にチャンスが有るように感じています。

また、「最初はスモールにするべき」「起業とマネジメントは違う」「管理系で大事なのはカルチャーや考え方があっていること」などスタートアップの起業家にとって参考になるお話が伺えました。

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(取材協力: 株式会社ヒュープロ 代表取締役 山本玲奈
(編集: 創業手帳編集部)



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