鎌倉新書 清水 祐孝|出版事業からお墓のポータルビジネスへ! 事業承継後の華麗な業態変換のヒントとは?【清水氏連載その1】

事業承継手帳
※このインタビュー内容は2020年12月に行われた取材時点のものです。

第2創業で上場!大ピンチの零細出版社を業態変換で成長企業に生まれ変わらせた鎌倉新書の清水会長に聞く、成長基調へのヒント

葬儀やお墓、仏壇、士業などの事業者とユーザーをマッチングさせるポータルサイト『いい葬儀』『いいお墓』『いい仏壇』『いい相続』を運営する株式会社鎌倉新書。相場感なども曖昧だった業界に、2000年からいち早くインターネットを活用したサービスを導入し、新たなビジネスモデルを創り上げました。2015年に東京証券取引所マザーズ市場に上場を果たし、2017年には第一部に市場変更するなど、急成長を遂げています。

しかし、その立役者である清水祐孝氏が事業承継をされた時点では、実は倒産寸前まで追い込まれていたといいます。そのような会社を承継して業態転換を行い、第二創業を成功させた清水会長にインタビューを敢行。全3回の連載でその内容をご紹介します。まず第1回では、事業承継のコツや業態転換のエピソードをうかがいました。

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清水祐孝

清水 祐孝(しみず ひろたか)
株式会社鎌倉新書 代表取締役会長CEO 
証券会社勤務を経て、1990年に父親の経営する株式会社鎌倉新書に入社。同社を仏教書から、葬儀やお墓、宗教用具等の業界へ向けた出版社へと転換。さらに「出版業」を「情報加工業」と定義付け、セミナーやコンサルティング、さらにはインターネットサービスへと事業を転換させた。現在『いい葬儀』『いいお墓』『いい仏壇』『いい相続』など、終活関連のさまざまなポータルサイトを運営し、高齢者の課題解決へ向けたサービスを提供している。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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28歳の証券マンが、倒産寸前の父親の出版事業を救う

大久保:清水会長は1990年にお父様の出版社に入社して、葬儀のポータルビジネスへと業態を転換され、大きく業績を伸ばされています。そのご経験からは、事業承継というものを成功させるためのヒントが多く得られると思います。まず、事業承継の経緯をお聞かせください。

清水:「事業承継を成功させた」などというカッコイイ話ではないのですが、お話させていただきましょう。株式会社鎌倉新書は1984年に父が創業し、営んでいた出版社でした。出版社といっても手がけるのは主に仏教書や仏具関連の、一般の方はあまり手にされない専門書ばかりでしたので、私が入社した1990年にはビジネスとしての広がりが感じられず、経営も悪化する一方で辞めていく社員も多い。倒産寸前といっていい状況でした。父からすれば、誰にも手伝ってもらえない中で、長男である私に頼るしかなかったのかもしれません。

大久保:清水会長は当時、サラリーマンだったのですね。

清水:28歳くらいで、証券会社に勤務していました。バブルが弾ける前夜ですから、毎月のように日経平均は高値更新という時代です。給料など待遇面も申し分なく、特に転職する理由もなかったのですが、強いて言えば忙しすぎる中で、父を手伝う形であればもう少し時間の融通も利くのではといった、甘い考えもありました。

大久保:二代目が会社に入ってみたら、経営の立て直しが急務な状態だったというのは、よくある話ですが、会長も入社されて厳しい現実に直面されたのでしょうか?

清水:そのとおりです。借入が売り上げの3倍近くにもなっていました。出版社というのは商品である書籍を印刷会社に印刷してもらわねばなりません。その買掛金が何年分も払えずに溜まりに溜まっていたのです。長い付き合いということでそれが許されていたのでしょうが、仏教書をこのまま作り続けていたら、この借金は返せない。逆転ホームランとなる、新しいビジネスが必要だと痛感しました。

紙からインターネットへの転換を業界でいち早く実践

大久保:後の業態転換への最初のステップかと思われますが、具体的には、何から始められたのですか?

清水仏教の周辺にある、葬儀や仏具関連のマーケットを見極めることですね。人が亡くなられた時にはお葬式を執り行い、仏壇を購入されるわけですが、多くのご家族が実際にはどのようにされているのか。一連の購買行動や市場動向といったものを調べてみました。これは当時でも大きく、約2兆円という規模がありました。亡くなる人の数は、多死社会といわれる現在の日本で年間136万人、当時でも82万人おられ、個人消費としてもお一人の葬儀・仏具関連で150万円くらいが使われていました。そこで、このマーケットに向けた業界誌を作る方向に、出版社をシフトさせたのです。

大久保:業界の方をターゲットとする紙媒体ということですね。ニーズは大いに見込めそうです。

清水:葬儀業者がお客様にお配りする小冊子といった販促用の印刷物を作成して、事業を拡張させました。供養業界向けの業界誌である『月刊仏事』も2000年に創刊したものですが、今も発刊し続けています。

大久保:会社の経営もだいぶ安定されたのではないですか。

清水:はい。売上げは少しずつですが増え、借入金についても減らしていくことができました。また、業界の方々と接していくうちに自ずと見えてきていた、次のステップがありました。つまり、求められているのは雑誌ではなく「情報」であり、それが欲しいから雑誌が購入されていた、ということです。当社は出版社であると思い込んでいましたが、実は「情報会社」ではないかという気づきですね。

大久保:なるほど。届けている価値は情報で、出版はそれを届けている手段の一つということですね。

清水:そこで、紙に書いてある情報をもっと詳しく、セミナーやインターネットで展開すればいいのではと考えました。「情報加工会社」として、届け方は出版にこだわる必要はないわけです。ネットも情報を届ける方法のひとつであると考え、ネットを利用した何かができないかと関連の勉強会に参加して周りました。そうして2000年に、全国のお葬式のマナーや葬儀に関する総合情報サイト『いい葬儀』をスタートさせたのです。

大久保:2000年ですか。ずいぶん前からポータルサイトビジネスを始められたのですね。

清水:そうですね。以降、2003年に霊園・墓地・お墓探しの総合情報サイト『いいお墓』と、仏壇と仏壇店探しに関する総合情報サイト『いい仏壇』を、2008年に全国の優良な石材店と霊園探しのサイト『優良墓石・石材店ガイド』というように、葬儀周辺でのニーズに応えて、ネットでの情報提供プラットフォームを固めていきました。

ユーザーのニーズが、マッチングサービスを生むヒントに

大久保:改めて、事業承継を成功させるポイントは何だったと思われますか?

清水:私の場合はまず、膨らみきっていた借入れを何とか解消することを考えて、できること、事業として利益を上げられるものを形にできたことですね。もともと、出版事業という核になるものはあったので、決して退路を断って・・・といった悲惨な状況ではありませんでした。

大久保:実は情報が求められていた、ということに気づき、そこからどのように情報を届けられるのかというところに発展させていった行動力が素晴らしいですね。

清水意識を変えて臨むことは、事業承継者の役割といえるでしょう。そして、諦めてはダメだという事ですね。それでも、逆転ホームランを打つためにと始めたインターネットでの情報発信は、ヨチヨチ歩きから始まったようなものでした。最初は単純に、葬儀に関するよくある疑問に答えるだけの、紙で行っていた情報発信をネットに置き換えただけだったのです。2年ほどやっていて、その事業からの売り上げはほぼゼロという状況でした。

大久保:2000年というと、中高年世代も現在ほどインターネットに親しんでいた人は少なかったでしょうね。業界に先駆けて動くというのは、そうしたリスクも伴うのですね。今のようなポータルサイトに変わるきっかけは何だったのですか?

清水:サイトを見たユーザーからの1本の電話です。親御さんを亡くされたばかりの方で、どのように葬儀を手配すればよいのか分からないので葬儀社を紹介してほしいという相談でした。

大久保:今はもう、昔のように日頃からお寺と付き合いがあるような時代ではなく、町内会などの地域のつながりも希薄になりつつあります。身近なところではサポートが得られないので、聞いてもらえそうなところに相談をされたということでしょうか。

清水:そうですね。そこで、業界誌を購読いただいていた葬儀社に連絡して、対応をお願いしたところ、すぐに葬儀の段取りをとってもらえました。相談をしてくれたユーザーにもとても喜ばれ、この経験が後に、マッチングサービスにつながっていったのです。

承継した事業を黒字にすれば、安心して新規事業に取り組める

大久保:今でこそマッチングサービスやアプリは多種多様な業種で生まれていますが、その先駆けともいえますね。その前にまず、承継された仏教書の出版というニッチな事業から、利益につながる周辺事業というのを見出されていたのがカギだったと思います。「葬儀」という誰にでも関わる課題を、全般的に捉えるベースができていた。

それを、インターネットというプラットフォームに変換したことで、マッチングという新たな価値提供の形につなげていくことができたということですね。このようにマーケットを捉えなおしたり、解釈を変えて広げること、そしてそれを展開する手法も紙からインターネットへといったように、さまざまな視点から物事を見て、転換をしてみることが、事業承継の際には大事なポイントになるのだと改めて思いました。

清水:そうですね。そして、やはりベースとなる事業があるというのは強いと思います。そこで赤字体質から抜け出しさえすれば、会社を存続させる基盤となるわけですから。その大事な資産である事業から、新たな価値創出につながるものを見出せれば、さらに成長につなげられるのだと思います。

大久保:潜在ニーズをとらえて事業化できるのも、承継した事業があればこそといえそうですね。次回は、鎌倉新書が葬儀業界から、さらにライフエンディング業界へと発想を広げていく過程をうかがっていきます。引き続きよろしくお願いいたします。

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(取材協力: 鎌倉新書 代表取締役会長CEO 清水祐孝
(編集: 創業手帳編集部)



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