DXYZ 木村晋太郎|誰もが持つ“顔”を用いて、個人認証をもっと高セキュリティで快適に。一つのアプリで顔認証システムを横断的に利用可能にする「FreeiD」とは

創業手帳

鍵やスマホ認証に代わる「顔認証システム」について、DXYZにお聞きしました。

企業のオフィスや大規模施設などで導入が進む「顔認証システム」。着実に広がりを見せている一方で、まだまだ利用シーンが限定的な印象も受けます。

中国などの「顔認証先進国」と比べて、日本の顔認証システムの普及が遅れている理由の一つに「システムが分断している」と話すのはDXYZ(ディクシーズ)の木村晋太郎取締役社長。

日本における顔認証システムの現状と、その現状を解消するために開発した顔認証プラットフォームアプリ「FreeiD」についてお話をうかがいました。

木村晋太郎(きむらしんたろう)DXYZ株式会社 取締役社長
慶応義塾大学 法学部法律学科卒業。在学中にシリコンバレーの通信系ベンチャー GigSky, Inc.に出資・インターンし、日本市場のマーケティングを支援。三井物産株式会社 ICT事業本部に入社し、米・イスラエルのサイバーセキュリティ企業への出資・日本へのサービス展開に従事。
その後、三井物産エレクトロニクス社に出向し、物流業界向けに新たなDXサービスの立ち上げをプロジェクトマネージャーとして実施。
顔認証プラットフォーム事業(FreeiD)の対外的なローンチに向けてDXYZ株式会社に参画し、2021年4月に取締役社長就任。

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あらゆる場所での顔認証システムを利用可能にする顔認証プラットフォーム「FreeiD」とは

—はじめに、事業の概要について教えてください。

木村:私たちは、「FreeiD(フリード)」という顔認証プラットフォーム事業を展開しています。FreeiDとは簡単に言うと、あらゆる場所で顔認証システムを利用可能にするアプリです。

顔認証については国内でもすでに大企業がオフィスに導入していたり、スポーツ大会の会場やアミューズメントパークの入場にも顔認証を用いられるなど、実際に目にする場面が徐々に広まってきています。その一方で、「当たり前に目にする」というレベルではまだ普及していません。普及が遅れている大きな理由の一つに、利用されている顔認証システムが施設や建物によってバラバラであるということが挙げられます。つまり、ホテルならその建物内、会社ならそのオフィス内でしか顔認証システムが利用できず、ユーザーは利用する場所ごとに都度登録する必要があるということです。

その不便な状況を変えようとしているのが、我々の提供するアプリ「FreeiD」です。FreeiDに一度顔を登録すれば、個別の登録は必要なく、横断的に顔認証システムが利用できるようになります。この技術においては、特許も取得済です。

また、顔認証を使用する施設や場所はユーザー自身が選択でき、選択してはじめてその端末上でそのユーザーの顔データが扱われるようになるという点も、FreeiD独自の特徴です。顔認証に関して日本の先を行く中国などでは、ユーザーの許諾なしでも顔認証ができるため急速に普及が進みましたが、一方で「監視カメラ」を向けられているような印象もあり、プライバシーの観点から否定的な意見も挙がっています。

広く横断的な利用を可能にし、かつユーザー自身がオプトインによって利用範囲を選択できるFreeiDの仕組みは、そのプライバシーにおけるユーザーの懸念点を克服した仕組みだと考えています。

—個人認証の手段として「顔」に着目した理由を教えてください。

木村:今、個人を認証したり買い物をしたりするために用いられているのはスマホが中心となっていますが、スマホだと電池切れがあったり持ち忘れもあったり、その都度カバンやポケットから出し入れする必要があるなど、端末へ物理的に依存するという課題がどうしても残ります。一方で、顔であれば当然持ち忘れも電池切れもなく、皆さんが必ず持っているものです。
指紋や静脈などの生体認証と比べても端末導入や登録にかかるコストがかからないという点も含め、顔認証の利便性の高さに注目しました。

「手ぶらで出かけられる」世界を目指す

—FreeiDを使うと、具体的にどのような場面で顔認証が利用できるのでしょうか?

木村:現時点では、マンションやオフィス、保育園といった施設のエントランスでのセキュリティチェックが可能です。今後はタクシーへの乗車や、店舗での決済、自動販売機における購入時の利用も見据えています。

特にマンションにおいては、エントランスの開扉から宅配ボックスの解錠、ゴミ捨て場の解錠まで、顔一つで生活できる「完全顔認証マンション」を国内で初めて実現することができました。

利用箇所に関して言うと、私たちは、リアルな世界で認証が必要な場所に顔認証を広げていくことを主眼に考えています。つまり、オンラインバンキングでの振り込み時やスマホを開くための顔認証などではなく、私たちが日常生活の中で普段当たり前に持ち歩いている、お財布やスマホ、社員証や鍵、これらに替わるものを作ろうということです。FreeiDに登録さえしていれば、人に会いに行こうというときにも、何かを買いに行こうというときにも手ぶらで出かけられるような世界を目指しています。

導入先からの反応「鍵付きのマンションにはもう戻れない」

—実際に利用している方からは具体的にどのような反応がありますか?

木村:マンションと保育園に向けてアンケートを実施したのですが、マンションで言うと、およそ90%の方に「鍵ありと比べて便利になった」と回答していただき「もう鍵付きのマンションには戻れない」ということも言っていただいています。

私自身も自宅に顔認証をつけていますが、たとえば両手に子どもを抱えて帰宅したときなど、顔だけで解錠できるというのは本当に便利だなと実感しています。ポケットやカバンに入れたまま施錠・解錠ができる似た製品も登場していますが、自宅は毎日出入りする場所だからこそ、「まったく何も持たなくてよい」「何も操作しなくて良い」というところの利便性は一層大きなメリットになるなと感じています。

また、保育園へのアンケートでは保護者の95%ほどの方に「すごく便利だ」とご回答いただきました。さらに、大切なお子さんを預けている上で、これまでインターホン越しに氏名だけでの確認で解錠していたことに実は不安を感じていたという親御さんもいました。“顔”であれば、IDカードや暗証番号のように、紛失したり盗まれたりすることもないため、セキュリティ面のさらなる安心という点でも喜びの反応を寄せてもらっています。

さらに、それまでインターホンで受付をしてから保育園スタッフが扉を開けていたのが、顔認証で瞬時に済むようになったことで、登園・降園時の特に忙しい時間帯において、保護者、保育士さん双方の負担が減っているということも導入の効果として報告していただいています。

—コロナ禍において、非接触であることについては何か反応はありますか?

木村:接触を回避できて感染対策にも安心だという声はもちろんあります。また、コロナ禍に関連した話としては「マスクをしているとスマホのロックが開けない」といったケースを耳にしたことがあるかもしれませんが、FreeiDを使った顔認証は、状況に応じて認証精度を調整することができます

例えばマンションやオフィスに複数の認証端末を入れるとしたら、エントランスなどの共用部分では、マスクを着けていてもクリアできるくらいの認証精度にする。反対に、個人の玄関やメールボックスを解錠する場合、あるいは会社の中でも機密性の高い事象を扱うサーバールームなど特に厳重なエリアでは、マスクを外した状態でしか認証できないように照合のレベルを高くする。

そのように、セキュリティとほかの条件とのバランスを保ちながら細かく調整できる点も便利だとご指摘いただいています。

顔認証セキュリティの主たるメリットとして、セキュリティ精度や持ち歩きが要らなくなる利便性などはご想像いただけるところかと思いますが、実際に導入いただく中で、認証時間の短縮や非接触性のメリットなど、ほかにもメリットを感じていただけている状況です。

高校生で創業を目指す。”父を継ぐ”から”自分で会社をつくる”へと変化したきっかけとは

—起業したいと思った経緯と動機について教えてください。

木村:創業を考えるようになった経緯は、高校3年生のころにまでさかのぼります。父にまつわるできごとと、父から言われた一言が大きなきっかけでした。

私の父は、26歳のときに「株式会社インボイス」という会社を立ち上げました。東証一部に上場し、一時期、時価総額は3700億円ほどに及ぶ会社でした。西武ドームの命名権を取得していたこともあるので「インボイスSEIBUドーム」という名前に関連して記憶に残っている方もいるかもしれません。そのような会社を経営する父の元に育ち、いつのころからか私は当然父の会社を継ぐものだと思っていましたし、親戚はじめ周囲からもそう言われて育ちました

しかし、リーマンショックの影響によって、買収した関連企業の倒産が引き金となり、甚大な負債が生じたため父はインボイスから退くことになりました。

そんなことを当時の私はまったく知らず、祖父の葬式にインボイスから届いた献花の代表取締役が父の名前でないのを見て不思議に思ったり、母に「これからあまりお金を使わないようにね」と言われたりする中で何かおかしいと感じるようにはなりましたが、詳しいことは聞かされていないままでした。

しかし、その後高校3年になって将来について父と話をしていたときに、私は当然父と一緒に仕事をするものだと思っていましたが、「一緒に働きたいんだったら、自分で会社を作って俺の会社を買収するんだ」というようなことを父が口にしました。そうしてはっきりと父の会社の状況を知り、自分であらためて自分の将来を決めようと思ったとき、自分で会社を作ろうと思ったのが起業したいと思ったきっかけでした。

その後大学に進学し、シリコンバレーにあるベンチャー企業に出資をし、インターンを経験します。帰国後は就職活動をし、私がやりたいと思っていたITの営業部隊に配属していただけるという話を三井物産からいただきました。「将来起業したい」という話を率直にお伝えした上で、「三井物産から独立して成功したら当社としても嬉しいし、喜んで応援します」とすごく懐の広いお言葉をかけていただいたことにはとても感謝しています。

そうして三井物産に入社し、サイバーセキュリティやDXを経験したことがのちのFreeiDの構想にも深くつながっていると思います。

—その後、DXYZ経営参画の話が進み始めたのはどのような経緯ですか?

木村:現在、DXYZとは資本的に親会社の関係にあるプロパティエージェント社の中西社長とご縁があって、顔認証をプラットフォーム化させていく事業構想を伺いました。私自身も三井物産時代に中国の広州などへ出張する機会がよくあり、地下鉄に乗るにもコンビニで買い物をするにも、まちのいたるところで顔認証が当たり前に利用されているまちの光景に衝撃を感じていたところでした。

一方で、日本で中国のような顔認証による便利な生活が日常に溶け込むようになるためには、企業文化をとっても、社会的・政治的にも相当ハードルがあることは容易に想像できました。この世界観を日本で作るためには、デジタルの知見に加えて、父から受け継いだ資産である様々な人のネットワークをフル活用しないと実現できないと思い、自分にしかできない挑戦であり任せてほしいと直談判をして、中西社長とともにFreeiDやDXYZの事業拡大に向けた構想を創り上げていくことになり本日にいたるという流れです。

これまで受けてきた「人との縁」を、何よりも大切に

—起業、経営の中で特に大切にしていることは何ですか?

木村所謂起業ではないものの、世にないものを広めていくという意味では起業と自分として定義しており、その中でも「人との縁」は、もっとも大切に考えていることです。起業理念にも「人と人が深く繋がり、温もりある世界を作る」ということを掲げているように、FreeiDも「リアルな世界で人がつながる」ということを目指すための事業ですし、組織自体も、人間同士が深く温もりをもってつながるチームというところを目指しています。

人との縁を大切にするようになったきっかけの一つに、父がインボイスから退いた後の、会社の2代目でもなくなった私を助けてくれた方への御恩というのがやはり強くあります。

会社の全盛期にはお金に困ることはありませんでしたが、それが全てなくなった経験をしたことでお金というのは水物だなということを感じました。ただ、お金も何もなくなったときでも、その時手を差し伸べてくれる方々がいつもいました。

シリコンバレーへインターンに行く際には、化学系専門商社「KISCO」の岸本社長が大変よく面倒を見てくださり、インターンとして私を送り出し出資についてもバックアップしてくださいました。その後、三井物産で育てていただいたこともそうですし、プロパティエージェント社の中西社長にさまざまなところでサポートしてもらいながらこの機会をいただくこともできました。人とのご縁は、本当に私の大きな財産ですし、ビジネスにおいても何よりも大切にしていきたいと考えています

一つの「まち」を中心にサービスを展開予定

—FreeiDの展開予定について教えてください。

木村:事業展開について言うと、まだ一般的に顔認証が広まっていない現時点においてFreeiDは、一つのまちや沿線上にコミュニティを持っているような大手デベロッパーさんなどのサービスと相性が良いのではないかと考えております。そういった団体や施設と連携して、顔認証を用いたソリューションをプラットフォームとして提供していくということを進めていきたいと考えています。

一例としては、いま三菱地所が「Machi Pass(まちぱす)」という、エリア内のさまざまなサービスを一つのIDで利用できるような仕組みを構築しており、その中での”顔”認証にFreeiDの技術を提供しています。生活や体験が「顔パス」で可能になる、そういったまちのあり方の開発に携わらせていただいているところです。

また機能面については、今年から決済機能の開発を進めていきます。それによって今後タクシーの乗車や、自動販売機、無人店舗での購入を顔認証で可能にするようなものになっていく見込みです。

—最後に、これから起業を目指す方に向けたメッセージをいただけますか。

木村:私自身まだ29歳でまさに若手実業家ですし、まだまだ大したメッセージを言える立場にはありませんが、起業することやその後上場を目指すことをゴールとして終わらせないでほしいなと思います。起業は、あくまで人生を通じてあるいは社会に向けてやりたいことを実現するためのただのスタートラインであるはずです。

私自身の今回のチャレンジも上場会社の子会社としての始まりであり、創業ゼロスタートとしての起業ではなく、他の純粋なスタートアップ企業とは少し毛色の違うやり方だとは認識しています。ただ、このような大きく社会を変える挑戦を0からする中で、お金や名声に拘らなければ最短距離で最高確率の道を選んだと思っています。

起業することは若手の方にとって大きなモチベーションになることは私自身も分かりますが、名声や人からの見映え、自己満足だけではなくて、人生における本質的な目的から逆算して、自分が選ぶべき道を選んでいただけるといいなと思います。

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(取材協力: DXYZ株式会社 取締役社長 木村晋太郎
(編集: 創業手帳編集部)

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