中小企業は物価高にどう対策すべきか?支援事業も活用すべき

創業手帳

いつまで続くかわからない物価高騰に自社で打開策を打ちましょう!事業再構築補助金・緊急対策枠も使えます


ウクライナ情勢や円安の影響で、急速に物価高が進行している日本経済。とくに価格転嫁力に乏しい中小企業への影響は甚大です。

物価高騰による悪影響は、いつまで続くかわからないので、事態が好転するのをただ待っているだけでは不十分だといえます。中小企業は各社で対策を打ち、物価高を克服する努力をすべきです。

そこで今回は、物価高に中小企業が取り得る対策を紹介します。このピンチが事業を発展させる思わぬきっかけになる可能性もあるため、ぜひ積極的に行動してみましょう。

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物価高の現状【中小企業への影響】


2022年12月現在、国際情勢の悪化や円安などにより、日本は記録的な物価高に直面しています。以下では、中小企業に与える影響という観点から、この物価高の現状を見ていきましょう。

企業物価指数が8ヶ月連続で過去最高を更新




企業間で売買されるモノの値上がりを示す「企業物価指数」は、過去2年間で上昇の一途をたどっています。

2022年11月の指数は118.5ポイントとなり、1980年以降の比較では8ヶ月連続で過去最高を更新しました。また前年同月から上昇率は9.3%と、1年9ヶ月連続で前年を上回っています。

ちなみに2022年11月の企業物価指数に最も影響を与えた要因は、事業用電力および都市ガスの高騰です。ウクライナ情勢などによって生じている資源価格の高止まりが、中小企業の固定費を圧迫しています。

一方、歴史的な円安による輸入物価の上昇は落ち着いてきており、輸入物価が国内物価を押し上げるという状況には変化が見え始めています。

この物価高はいつまで続く?

国内物価指数 輸入物価指数
(円ベース)
前月比 前年比 前月比 前年比
2021年10月 1.6 8.2 4.2 36.5
11月 0.6 9.1 5.3 43.1
12月 0.0 8.6 -0.1 40.2
2022年1月 0.9 9.1 -0.2 35.4
2月 0.8 9.4 2.5 33.0
3月 1.0 9.4 3.5 32.6
4月 1.6 9.9 10.3 42.6
5月 0.1 9.4 3.9 44.9
6月 0.9 9.6 5.3 48.3
7月 0.8 9.3 2.8 49.2
8月 0.4 9.6 -2.2 42.8
9月 1.0 10.3 5.5 48.7
10月 0.8 9.4 -0.3 42.3
11月 0.6 9.3 -5.1 28.2

出典:日本銀行調査統計局「企業物価指数(2022年11月)」

国内企業物価指数は、2022年9月で前月比・前年比ともにピークアウトし、その後は伸びが鈍化してきています。また国内物価の先行指標といわれる輸入物価は、同年10月と11月にかけて、前月比がそれぞれ5ポイントずつ減少しました。

以上より、法人間の取引における物価高の上昇は、これから少しずつ収まっていくと考えられます。いつまでとはっきりはいえませんが、現状のデータを見る限り、ここからさらに伸びていく可能性は低いです。

とはいえ、企業物価指数の上昇が弱まっても、物価が急激に下がるわけではありません。物価は依然として上がり続けるか、高止まりになる可能性も十分にあります。そのため、中小企業は物価高が収まるのをただ待っているのではなく、積極的に対策を打って現状を打開していくのが望ましいです。

中小企業は価格転嫁が十分にできていない

物価が上がっても、その分を価格に転嫁し、粗利益も上げられれば基本的に問題はないといえます。
しかし2022年版中小企業白書によるとは、68.6%もの中小企業において物価が上昇したことによる価格への転嫁ができておらず、粗利益率を大きく落としています

中小企業が価格転嫁をできない要因には、下請けという立場から価格交渉力に乏しい会社が多いことが挙げられます。また長年のデフレ経済に慣れている消費者は値上げに敏感であり、消費者向けの商品やサービスはそもそも価格転嫁が難しいです。

このように中小企業は、元請けに対しても消費者に対しても価格を上げにくい立場にあります。そのため、どうしても利益を削って、自ら負担を背負うという事態になりやすいのです。

物価高による倒産も急激に増えている

帝国データバンクの調査によると、2022年上半期に物価高で倒産した企業は159社で、過去最多だった前年同期の2倍以上に増えました。また同年7月〜9月には、1ヶ月あたりの倒産件数が3ヶ月連続で過去最多を更新し、多くの中小企業がなくなりました。

とくに倒産が目立つのが「建設業」、「運輸・通信業」、「製造業」の3業種です。これらは燃料費の高騰などの影響を大きく受ける業種でありながら、価格転嫁がとりわけ進んでおらず、大変厳しい状況にあります。

物価高に関する政府の対応

政府は、2022年9月を「価格交渉促進月間」と位置付けるなどして、下請け中小企業の価格転嫁を推進しています。

また2022年10月28日には「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」が閣議決定されました。同経済対策には、電力料金や都市ガス料金、燃料油価格の高騰の激変緩和事業が含まれています。エネルギーを供給する事業者を補助することで、電気やガス、ガソリンなどの料金を抑制する政策です。

企業の7割以上が政府の対策に満足していない

帝国データバンクが2022年9月に実施した調査によると、企業1,649社のうち、7割以上が物価高に関する政府の対策に満足していないと回答しました。具体的には、「あまり効果を実感していない」が38.9%、「ほとんど効果を実感していない」が34.3%だったそうです。

よって、残念ながら、物価高に対する政策は十分に機能していないといえます。今後も劇的な効果を望むのは現実的ではないでしょう。そのため、中小企業は国からの支援を待つのではなく、各自で物価高に対応していくのが望ましいです。物価高への具体的な対策方法については、次項を参考にしてください。

物価高に中小企業が取るべき対策5選


中小企業が取れる物価高への対策は、大まかにいうと「支援を受ける」「稼ぎを増やす」「無駄を減らす」の3つです。具体的には、以下で説明するような方法をお試しください。

1. 地方自治体の支援制度を利用する

地方自治体によっては、物価高に苦しむ企業を助けるための支援制度が設けられていることもあります。そのため、まずはお住まいの自治体について調べ、もらえる支援金等があれば、申請するのがおすすめです。

ちなみに全国の自治体では、物価高に対する以下のような支援策が実行されています。

大阪府河内長野市「物価高騰等対策事業者支援金」

大阪府河内長野市は、コロナ禍において原油価格や物価高騰などの影響を受ける市内の中小企業を支援しています。売上の減少に関する所定の条件を満たせば、法人には20万円、個人事業主には10万円が交付されます。

こちらは近況を受けて申請期間が2023年3月15日まで延長され、その他の要件も拡大されました。

京都府「原油価格・物価高騰対策緊急支援事業交付金」

京都府は、原油価格・物価高騰に直面する医療機関や社会福祉施設等を支援する事業を実施しています。「光熱費支援事業」と「燃料費支援事業」の二つがあり、施設の規模や車両数に応じた支援金が出る仕組みです。

対象施設には、病院や診療所、介護施設のほか、薬局や公衆浴場なども含まれています。

沖縄県「おきなわ物価高対策支援金」

2022年11月16日より、沖縄県は原油価格や物価高騰の影響を受けた中小企業等を支援する「おきなわ物価高対策支援金」の受付を始めました。物価高騰による影響が大きい法人に対して最大50万円、個人には25万円が支給されます

申請は2023年1月13日まで、オンラインにて受け付けています。申請から支給までの期間はおおよそ4週間だそうです。

2. 専門家に相談しつつ価格転嫁を図っていく

物価高の問題を解決するシンプルな方法は、価格転嫁です。原価が上がった分、商品やサービスの価格も上げられれば、収益性は改善します。

そのため、取引先と交渉し、値上げを実現するのがやはり理想的です。価格交渉には難しい部分も多いでしょうが、現状の価格で物価高に耐えるのでは、いつか限界がきてしまうかもしれません。

なお、取引先と直接交渉するのもよいですが、トラブルを招く恐れもあるため、一度専門家に相談してみるのもおすすめです。例えば、全国中小企業振興機関協会が運営する「下請けかけこみ寺」には、原材料・エネルギーコスト増に関する相談窓口が用意されています。フリーダイヤルで専門家に無料で相談ができるので、気軽に活用してみましょう。

3. もっと稼げる事業構造に変えていく

物価高が引き起こす本質的な問題は、粗利益の減少です。そのため、現況でも十分な利益が出せるように、事業のあり方自体を見直すことも大切だといえます。

具体的には、新しい商品・サービスの開発や新市場の開拓などです。場合によっては業種・業態の転換まで考えてもよいでしょう。

そうした思い切った事業改革には、「事業再構築補助金」が使えます。「原油価格・物価高騰等緊急対策枠(緊急対策枠)」も設けられており、物価高を機に事業を見直すにはうってつけの制度だといえます。

事業再構築補助金・緊急対策枠の要件(補助金額や補助率等)は以下の通りです。

【原油価格・物価高騰等緊急対策枠(緊急対策枠)】

項目 要件
概要 原油価格・物価高騰等の、予期せぬ経済環境の変化の影響を受けている中小企業等の事業再構築を支援。
補助金額 【従業員数 5 人以下】 100 万円 ~ 1,000 万円
【従業員数6~20 人】 100 万円 ~ 2,000 万円
【従業員数 21~50 人】 100 万円 ~ 3,000 万円
【従業員 51 人~】 100 万円 ~ 4,000 万円
補助率 中小企業者等 3/4(※1)
中堅企業等 2/3(※2)
(※1)従業員数 5 人以下の場合 500 万円を超える部分、従業員数 6~20 人の
場合 1,000 万円を超える部分、従業員数 21 人以上の場合 1,500 万円を
超える部分は2/3)
(※2)従業員数 5 人以下の場合 500 万円を超える部分、従業員数 6~20 人の
場合 1,000 万円を超える部分、従業員数 21 人以上の場合 1,500 万円を
超える部分は1/2)
補助事業
実施期間
交付決定日~12 か月以内(ただし、採択発表日から 14 か月後の日まで)
補助対象経費 建物費、機械装置・システム構築費(リース料を含む)、技術導入費、専門
家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、外注費、知的財産権等関連経費、
広告宣伝・販売促進費、研修費

出典:事業再構築補助金 公募要領(第8回)

4. DXを推進して効率化やコストカットを実現する

昨今のトレンドであるDXも、物価高への対策として有効です。まずDXが成功すれば、生産性が上がって粗利が増えるので、売上原価が増えた分のいくらかをまかなえます

またDXはさまざまなコストカットにも寄与します。わかりやすいのはペーパーレス化による用紙代や印刷代の削減です。物価高に伴い、用紙代も上がっているので、DXで紙資料をやめれば、大きな節約になるでしょう。

さらに新しいシステムを入れることでテレワークを増やせば、事業場でかかる光熱費やガス代も大幅に減らすことが可能です。そのほか、レガシーシステムを維持するための修理代なども減るので、全体としてかなりのコストカットになります。

なお、DX推進のための設備投資にも、補助金が活用できます。DXに使える補助金については、以下の記事もぜひお読みください。

▼補助金を使って少ない負担でDXを推進!
【2022年11月版】DX推進におすすめの補助金・助成金|中小企業のデジタル化

5. サプライチェーンや固定費を見直す

コストカットの観点では、サプライチェーン(調達・生産・販売にかかる一連の流れ、工程)を見直すことも大切です。例えば、調達先を集約して仕入れ値を下げたり、材料を現地調達できるようにルートを開拓したりといったことが挙げられます。先ほどのDXの関連で言うと、ECサイトに力を入れて、実店舗を減らすというのも一つの選択でしょう。

また光熱費やオフィス賃料、車両費といった固定費にも目を向け、減らせる無駄は減らすべきです。例を挙げると、光熱費に関しては、法人向けのお得なプランやキャンペーンを展開する新電力に切り替えることで、料金を抑えられる可能性があります。

まとめ

物価高による中小企業への影響は、2023年以降も続くと考えられます。国の政策にはどこまで効果があるかわからないので、中小企業各社の対策によって、現状を打開していくのが望ましいです。

具体的には、地方自治体の支援制度を活用するほか、取引先との価格交渉や事業構造の見直しに取り組んでみてください。加えて、DXも取り入れながらサプライチェーンや固定費支出の合理化を図っていくことも有効だといえます。

これを機会にぜひ御社に合った物価高への対策を考えてみましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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