TOUCH TO GO 阿久津 智紀|無人決済店舗システムの普及に挑む

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年04月に行われた取材時点のものです。

社内起業と起業の違いとは? 大企業のソースやオープンイノベーションをうまく利用するのも起業家のひとつの戦略

高輪ゲートウェイ駅の無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」で一躍注目された、株式会社TOUCH TO GOの阿久津智紀氏にインタビュー。JR東日本スタートアップとサインポストの合弁会社として設立された株式会社TOUCH TO GOでは、店舗の働き手が不足する将来を見据え、無人店舗決済システムの普及に取り組んでいます。JR東日本スタートアップのオープンイノベーションや、ご自身の哲学についてお話をうかがいました。

阿久津 智紀(あくつ ともき)
株式会社TOUCH TO GO 代表取締役社長 
1982年、栃木県生まれ。2004年専修大学法学部卒業後、JR東日本へ入社。駅ナカコンビニNEWDAYSの店長や、青森でのシードル工房事業、ポイント統合事業の担当などを経て、ベンチャー企業との連携など、新規事業の開発に携わる。19年7月より現職。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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新しい買い物体験を可能にする無人決済店舗システム「TTG-SENSE」とは

大久保:本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。阿久津さんが代表取締役を務められている株式会社TOUCH TO GO無人決済店舗システム「TTG-SENSE」を導入すると、「はいる。とる。でる。」の3ステップで買い物ができるそうですね。

阿久津:はい。お店に入り、陳列棚から商品を手に取って、出口付近の決済エリアに立つと、商品をスキャンすることなく会計ができる仕組みです。

決済方法は、クレジットカード、交通系電子マネー、現金の中から選べます。

非対面の無人店舗で買い物ができる仕組みなので、従業員の方々のレジ打ち作業が不要になり、店舗のオペレーションの省人化が実現できます。

この新事業は、サインポスト株式会社とJR東日本スタートアップ株式会社とで、お客様へのサービス向上や従業員の働き方改革、人手不足の解消を目的に実証実験をしていた中で、開発を加速するために合弁会社を設立することで生まれました。

大久保:TTG-SENSEの開発は大変でしたか?

阿久津:誰も作ったことのない仕組みのため、ユーザーに使っていただけるように作り上げるところと、今まさにシステムを外販しているので市場に合わせていくところに大変さがあります。

大久保:TTG-SENSEのシステムはどこで体験できますか。

阿久津:高輪ゲートウェイ駅の無人AI決済店舗TOUCH TO GO、JR目白駅の改札外に無人決済小型店KINOKUNIYASutto(スット)目白駅店、東京駅日本橋口のファミマ!! サピアタワー/S店がオープンしています。

大久保:無人店舗でスピーディーに決済できるという点は、鉄道会社としてはかなり重要でしたか?

阿久津:いえ、鉄道会社ということにあまり関係なくやっています

私が所属をしているJRスタートアップは、コーポレートベンチャーキャピタルの資本金を扱っていますが、システムを導入いただいたファミリーマートさんや合弁会社をつくったサインポストさんもJRグループ外の会社です。基本的にはグループの中で閉じることなく、外の方と対等にビジネスをやっていこうとする姿勢です。

大久保:なるほど。今後はTTG-SENSEのシステムがさまざまな業種に広がっていきそうですね。

阿久津:そうですね。今後はより広範囲の業種での省人化に貢献したいと思っています。

目標は4年で無人店舗100カ所導入

大久保:これからはどのように進めていかれる予定ですか?

阿久津:無人決済店舗システム「TTG-SENSE」の導入は4年で100カ所が目標です。最終的には地方の買い物難民の方に対する課題解決や、世界進出を目指しています。

もともと高速道路のインターチェンジ、病院やホテルの売店といったマイクロマーケットを対象としているので、人を雇うと採算が採れないところにも出店できます。そうやって買い物ができる場をつくるのが我々の役割です。

当面は取引先に拡販してサービスを導入いただくこと、将来的には会社を上場させることを目標としています。

大久保:買い物難民のお話が出ましたが、これからの社会はどう発展するとお考えですか?

阿久津どこでも買い物ができる、こんな便利な生活はいつまでも続かないと思います。

人件費も上がりますし、アジアが発展したら、コンビニでレジ打ちをしてくれる外国人労働者は日本に来なくなります。システムの力を使って今と同じ豊かな生活をどこまで守り、維持できるかを考えてシステム開発をしています。

大久保:今当たり前に思っていることも、将来は当たり前ではなくなるかもしれないのですね。人件費の高騰や働き手の枯渇となると、無人決済店舗システムはキーになるテクノロジーですね。

阿久津:もともとこのような仕組み作りや、人手不足の会社を援助したいと思って会社をつくりました。販売側も購買側も不便を強いられることがないように、システムで課題を解消したいですね。

新事業立ち上げの日々

大久保:現在は何人ぐらいの組織で動いてらっしゃるのでしょうか。

阿久津:まだ20数名の組織のため業務量は多く、フロントとバックエンドを私を含めた2人でやっています。トップライン作りや組織をまとめることまで全て自分たちでやっていますので、日々必死ですね。

大久保:何か予想外だったことはありますか?

阿久津:システムを導入していくと、導入先様の業務フローもあるし、使っているシステムとの連携もあるので、紐解かなければいけないことがたくさんあります。それは実際に導入してみてから分かったことです。

オープンイノベーションとは

大久保:オープンイノベーションを辞書的でなく、阿久津さんの言葉で言うと、どのような言葉になりますか。

阿久津オープンイノベーション新規事業づくりの手段のひとつだと思います。基本的には外部の人と一緒に新規事業をつくるという概念に近く、目的ではなく、ただの手段だと捉えています。

話が来るのを待っていた記憶はない。やりたいことがあれば資料を作って持って行く

大久保:阿久津さんがオープンイノベーションの担当になった経緯はどのようなものですか?

阿久津:もともとそういうことをやりたいなと思っていたところに、話が来ました。昔からプロジェクトで会社をつくったり、新しいことをやらせてもらえる部門にいたのもよかったのかもしれません。

ただ、昔から話が来るのを待っていた記憶はありません。自分がこういうことをやりたいとか、自分がやりたいことはこういう大義名分に合っているからいいんだという姿勢で、資料を作って説明をして資金を獲得しに行く、というのがわたしのやり方です。話が振られてくるのを待っていたことは一切ないです。

あまり何を言われても気にしない性格なのかもしれません。やりたいことがあれば、それに対して、それを裏付ける理由がこれだけありますという風にプレゼンしてきました。

大久保:なるほど。なかなかそれを普通の会社員で当たり前のようにできる人はいないと思います。阿久津さんは大企業の社員でありながらも、スタートアップ精神、起業家精神を持ち合わせていらっしゃったのですね。

オープンイノベーションの成功事例

大久保:オープンイノベーションの中で成功した事例をご紹介ください。

阿久津無人駅の活性化もやっていますし、ガーラ湯沢スキー場の事例があります。ガーラ湯沢では、TTG-MONSTARという端末を使って、スキー用品のレンタル申し込みから決済までを非対面で行います。リアルなアセットを使ってビジネスするところは頑張っているので成功例は多いです。

大久保:なるほど。アセットを活かすものは成果が出やすいということですね。

ベンチャー企業と大企業の関係性

ベンチャー企業へのアドバイス

大久保:阿久津さんは東日本スタートアップ所属で、TOUCH TO GOの代表取締役社長でもあります。大企業との付き合い方について、ベンチャー企業にアドバイスをお願いします。

阿久津:スタートアップ側からすると、大企業はプロダクトを売る相手になりますが、大企業側は大企業側でルールがあったり動けないことがあるので、そこをちゃんと読み解くことが必要です。スタートアップ側がアジャストしていくのが重要です。

大久保:打ち合わせの中で、大企業側の事情を探っていくということでしょうか?

阿久津:打ち合わせもそうですし、裏側の仕組みなどを勉強せずに大企業と協業するのは難しいと思います。

大久保:担当者の方はその辺りを話してくれるものですか?

阿久津:そこはどんな担当者と当たるかがポイントですね。あまり協力的ではない方もいるので、人を見る目を養うことが重要です。

大企業の社員に向けて

大久保:阿久津さんは大企業のJR東日本スタートアップにいてベンチャーと関わる仕事をされ、今はベンチャー企業の社長です。キャリア設計としては特殊なキャリアですが、会社員に向けてメッセージをお願いします。

阿久津:確かに珍しいかもしれません。個人的には、もう少し私のようなパターンが増えてもいいのではと思います。

大久保:大企業に入社する人は、基本的にスキルが高く頭がいい方が多いと思いますが、その一方で何もせずに埋もれていってしまう方もいます。スタートアップはいいアイデアもあるし突破力もあるけれど、人材を集めるのに苦労します。

阿久津:そうですね。大企業からもう一度スタートアップをつくるとか、逆にスタートアップが大企業側に加わるとか、もう少し融合が生まれると事業が加速度的に進むと思います。

大久保:大企業の方は、日本における仕事の基本を覚えられるメリットもある一方、一定年齢を越えると世界が固まってしまい、新しいことに適応しにくくなると思いますが、いかがでしょうか?

阿久津:スタートアップ側にいて大企業に入るなど、もう少しいろいろな経験ができるといいのでしょうね。今は大企業に入ったら入りっぱなしということが多いと思いますので。

大久保:大企業は持っている世界が大きいので、その中で完結してしまう面も大きいのでしょうね。

阿久津:そうですね。

大久保:会社員が外の世界を見るという意味では、オープンイノベーションの担当者になれたら最高です。なかなかそのポストはないと思いますので、大企業の社員はどうしたらいいですか?

阿久津自分で最初に動くことです。そういうポストは待っていてはいつまでたっても回ってきません。そこは自分で動き始めないといけませんね。

起業と社内起業の違い

大久保:起業家に対してはどのように思われていますか?

阿久津:起業家の皆さんは死ぬほど苦労されているという認識なので、逆に私は純粋に尊敬しています。

世の中のアセットを大企業が握っているところがあるので、大企業やオープンイノベーションをうまく使っていただけたらと思います。

大久保:阿久津さんは、ご自身は社内起業家という認識ですか?

阿久津:いや、全く何も考えていないです(笑)。形はどうでもよくて、やりたいことをやっているだけです。

大久保:私の経験では、大企業では組織を動かすのがなかなか大変だったので、社内起業のほうがむしろ難易度が高いと思います。

社内起業、社内新事業という呼び方もありますが、そこには大変さと面白さがあると思います。社内で力が発揮できていない人やチャレンジしようと思っている人にメッセージをいただけますか?

阿久津:まず大変さに違いがあって、社内の起業は調整やバランスを取らないといけません。個人で起業するのは本当にリスクが高いので生き残るのが大変です。そこは一長一短ありますが、どちらかを知っている人は、その反対側でも通用する気がします。

私自身「両利きなところがいいね」とよく言ってもらえますので、そういう意味では両方を知っていることが一番の自分の強みだと思います。

社内の政治的なことや出世、評価のようなことはあまり気にせずに、自分がやりたいことをやろうとすると、すごく自分が楽になることはあるように思います。

大久保:やりだすと意外と動いたり、恐れるほどではないことがありますよね。

阿久津:同感です。

大久保:これから多様性の時代になってきて、いろいろな考え方をする人を社内に置いたほうが、会社の生存確率が上がるのではないかと思います。

日本の企業は画一的な人を採用しがちですが、自分の考えで対応できる人、小さいプロジェクトを腕力でできてしまう人も、大企業に必要になってきたと思います。

阿久津:昔とは違いシステムも進化しているので、ひとりでやろうと思えばできて、昔のように紙に書いて何十人で動かさなければいけないということはありません。

そういう意味では画一的な仕事をしていると、人材としての価値はなくなってきてしまうと思います。自分にしかできない、ジョブ型の能力を身につけていくことが必要だと思います。

大久保:今日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

阿久津:ありがとうございました。

創業手帳株式会社は、最前線で活躍している起業家にインタビューを行っています。新しい知見のつまった「創業手帳」を起業にぜひお役立てください。
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(取材協力: 株式会社TOUCH TO GO 代表取締役社長 阿久津 智紀
(編集: 創業手帳編集部)



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