経済産業省 平松淳・安藤裕介・柳真裕|オープンイノベーションが日本の経済を元気にする

創業手帳

延長・改正されるオープンイノベーション促進税制について経産省の方々に聞きました

大企業とスタートアップのコラボレーションを促進する、オープンイノベーション促進税制を知っていますか?
2年間延長されることが決定し、内容も改正されることになりました。

今回は、創業手帳代表の大久保が経産省の方々にオープンイノベーション促進税制について、また政策にかける熱い思いについてお聞きしました。

平松淳(ひらまつ じゅん)
経済産業省経済産業政策局産業創造課 総括補佐
2008年経済産業省入省。特許法の改正、インフラ輸出支援、東京電力福島第一原子力発電所事故の対応・事故後の原子力安全規制改革、自動車政策等を担当した後、カリフォルニア大学サンディエゴ校でMBAを取得。2017年より株式会社経営共創基盤(IGPI)にて、製造業等の事業再生計画策定・実行支援、M&Aアドバイザリー、スタートアップの資金調達支援等に従事。2020年より現職にて、産業競争力強化法の改正、DX税制の創設等に携わる。

安藤裕介(あんどう ゆうすけ)
経済産業省経済産業政策局産業創造課 課長補佐
公認会計士として大手監査法人で上場企業の監査やスタートアップの上場支援に従事。2019年より現職にて大企業とスタートアップとのオープンイノベーションをテーマに、『オープンイノベーション促進税制』の制度創設及び執行、今回の延長拡充に関わるほか、スタートアップの株式取得に先立って機動的な資金供給を実現する新株予約権等の『「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン』や、オープンイノベーションの一つの手段としての『大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書』の作成等に携わる。

柳真裕(やなぎ まさひろ)
経済産業省経済産業政策局産業創造課 係員
2020年経済産業省入省。スタートアップ政策、イノベーション政策に従事。オープンイノベーション促進税制の審査・改正を担当。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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オープンイノベーション促進税制、いったいどんなもの?

大久保:オープンイノベーション促進税制という制度について、今回延長と改正となったわけですけれども、まずは制度について簡単に教えていただけますか。また、1年間経ってみて手応えはどのような感じでしょうか?

平松:オープンイノベーション促進税制は、事業会社がスタートアップとオープンイノベーションを行うために、スタートアップの新規発行株式を一定額以上取得する場合に、株式取得金額の最大25%が所得控除される制度です。

制度開始から1年弱で100件以上の利用がありますが、事業会社からスタートアップへの投資の下支えになっているという認識です。

大久保:企業が投資する場合、CVCやVC(※1)の表に出ないLP(※2)や、直接VCが投資するなどいくつかのパターンがあると思いますが、全て対象になるんでしょうか?

平松CVC(※3)は対象となりますが、VCや二人組合でないLPは対象となっていません。

※1 ベンチャーキャピタルの略。未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンドのこと。
※2 リミテッドパートナーの略。有限責任組合委員、ファンドに出資する投資家を指す。
※3 コーポレートベンチャーキャピタルの略。投資を本業としない事業会社が、自社の事業分野とシナジーを生む可能性のあるベンチャー企業に対して投資を行うことや、そのための組織のこと。

大久保:このオープンイノベーション促進税制はスタートアップにも、大企業にとってもwin-winな制度ですよね。

平松:おっしゃる通りです。事業会社の目線からは、持続的な成長を考えると、オーガニックグロースだけではなかなか難しいと言えます。そういった中で、スタートアップの持つ革新的な技術やビジネスモデルを取り込むことで、新たな成長につながります
スタートアップの目線からは、スタートアップの成長に必要な資金面のみならず、人やチャネルなどのアセットを事業会社から取り込むことで成長を更に加速化することが期待されます。

スタートアップ・事業会社両方の成長を後押しするということに、政策担当としての思いがあります。

大久保:この税制は総額でいくらぐらい使われたのでしょうか?

約1年半で約340億円の投資が税制の対象になっています。

大久保:今はVC投資が増えたのであまり珍しくないかもしれませんが、昔でいったら相当な金額ですよね。投資されている方はどういった企業が多いですか?やっぱり上場企業など大企業が多いのでしょうか。

平松:中小企業の利用もあります。制度上、税制の対象となる投資額の下限が、大企業の場合は1億円、中小企業は1千万円となっており、中小企業はより使いやすい制度になっています。件数ベースで言うと、中小企業が2割程度です。

大久保:この制度を本来使った方が良いのに使わない会社もあると思いますが、それはどんな理由からだと思いますか?

平松:この税制の名前の通り、スタートアップと事業会社が、お互いの経営資源を共有しながら新しい取り組みにチャレンジするというのが条件になります。キャピタルゲインだけが目的のいわゆる純投資は税制の対象となりませんので、事業会社やCVCによるスタートアップ投資の全てが対象になるわけではありません。担当者としては、この税制を活用しながら、一件でも多くのオープンイノベーションの取り組みを進めていただきたいと思っていますので、一層広報活動を頑張っていきたいと思います。

大久保:創業手帳で起業家支援をやってきた実感として、VC投資って「もう上場が見えてきた」という段階の企業に投資する例はたくさんあると思うのですが、もっとスタートアップのシード期に投資がいくといいのかなと感じています。その辺りはいかがですか。

平松シード・プレシード期のスタートアップに対する投資が少ないというのは我々も同様の認識で、日本のスタートアップエコシステムの課題の1つだと思っています。ただ、政策的な目線で言えば、リスクマネー供給という1つの課題をとっても、この税制のみならず、他の税制やグラント性の資金、官民ファンドによる資金供給など様々な政策ツールを適材適所で措置するのが効果的だと考えています。
この税制に関して言えば、事業会社とスタートアップのオープンイノベーションというのが目的にありますので、少し後ろのステージを念頭に制度設計させていただいています。

「本気」のオープンイノベーションに取り組んで欲しい

大久保:オープンイノベーションという言葉は過去に流行って、世の中にもだいぶ普及したなと感じるのですが、オープンイノベーションについての主観ってあったりしますか?

平松:政府としても、ここ十数年来、オープンイノベーション取組が進むよう、発信し続けてきたと思います。その甲斐もあってか、多くの企業が他の企業との協業やCVCを組成するなど、オープンイノベーションに前向きに取り組む雰囲気も醸成されてきたと思います。
ただ、その中には、同業他社もやっているからCVCを作ろう、オープンイノベーションの部署を作ろうという実態もあり、言葉を選ばずに言えば、なんちゃってのオープンイノベーションもあると思っています。
今後は、スタートアップをはじめ、他社の経営資源を取り込む新しい取り組みにチャレンジすることを経営課題・経営戦略の中心に位置付け、本気のオープンイノベーションに取り組めるか、という点が課題になると思っています。

大久保:オープンイノベーションに対して、手探りの状態から業界が成熟して来たということですよね。

平松:そうですね、今後は、オープンイノベーションの質、本気度が問われる段階に来ていると思います。

大久保:創業手帳自体も自分で出資して作った会社で、公庫の融資もエンジェル投資も使い、事業会社からの投資も使い、という方法で立ち上げました。一方で、企業によってはたくさんの出資者を入れないという考え方もあります。

平松:事業者によっては、種まきのように薄く広くやるやり方もありますよね。それはそれで、1つの重要な経営戦略だと思っています。

大久保:大まかな方針は前回と変わりませんか?

平松:今回の改正のポイントは2つあります。1つは、税制の対象となる投資先のスタートアップが、これまでは設立10年未満の非上場企業だったものが、一定要件をクリアすると設立15年未満までとなり、投資するスタートアップの対象が広がります
もうひとつは、出資したスタートアップの株式を5年間保有する必要がありましたが、3年間に保有期間が短縮されます。

大久保:設立から時間が経った企業も対象になるということですよね。

平松:そうですね、いわゆるテック系をはじめ事業化までに時間がかかるスタートアップもあります。そういう場合、事業会社目線で事業シナジーを前提として製品化や市場投入が見えてきた段階などで投資をしようとしたところ、「もう10年超えちゃってます」というケースも多いのではないかと思います。
スタートアップ側の目線でも、設立から10年以上たっても引き続きリスクマネーが必要というケースも多いと思いまして、一定の要件を満たせば、15年まで対象になるよということにしました。

大久保:上場を目指している会社って、例えば3年で上場を目指すつもりでも、実際上場した会社って実績でいうと10年ぐらい経ってしまっていることが多い印象です。ですから今回の改正はスタートアップ側からしてもありがたいですね。

平松:政府としても、科学技術立国、イノベーションと唄っており、こうした文脈でもスタートアップは担う役割が大きい中、事業化まで時間がかかるテック系のスタートアップの資金調達環境が少しでも改善することを期待しています。

大久保:それでは、これまでの事例でうまくシナジーを起こしたような事例があれば教えてください。

安藤:IT系やSaaS系企業と同士が組むという事例だけではなく、さまざまなケースがあります。例えば、製造業の大企業が宇宙系のスタートアップに投資して、両社の技術をうまく使い、宇宙空間で事業共創を目指すというような壮大なプロジェクトですね。

あとは今までなかった技術の研究結果を一種の機器に組み込み、新しく継続する技術やプロダクトを生み出したりと様々なケースもあります。

平松:他に典型的なのは、「空飛ぶ車」のように新しいプロダクトをスタートアップが開発しても量産はなかなか難しいところ、成熟した自動車部品メーカーと組んで量産というようなコラボレーションもあります。
よりローカルに根差して、社会課題解決をするスタートアップとコラボしている中小企業の事例もあります。イベントや営業活動をして、もっといろんなところにこの税制を届けていきたいと思っています。

日本の停滞感を打ち破りたい!3人からの熱いメッセージ

大久保:今回はオープンイノベーション促進税制のトピックですが、あまり知られていないけどもっと起業家が使えばいいのにっていう税制などありますか?

安藤:この税制についてもいろいろと広報活動はやっているつもりなのですが、財務、税務、経理などに携わる方はご存知でも、いざ現場で投資をやっている方や、オープンイノベーションに関わっている方は意外と知らないこともあります。そういう意味では、もっといろいろな媒体や場所で露出をしていかないといけないなと感じています。

やはり税制と聞くと、小難しいもの、自分には関係ないものと思われてしまいがちなので、まずはこの税制自体が、税のスキームとしてはそんなに難しい話じゃないんですよ、ということをもっと広めていきたいですね。またほかにも経産省として各種ガイダンスや調査報告なども出しているんですが、なかなか経産省のホームページを見に来てくださる方もいらっしゃらないので、そこもひとつの課題かなと思います。

大久保:少し前ですけど、経産省若手のレポートっていうのが話題になりました。あれは例外的にバズってましたけど、そういう価値があるものが実はたくさんありそうですよね。

安藤:そうですね。あと創業という観点に少し近いシード・プレシードで資金調達しようと思った時に、いわゆる普通株式とか優先株式とかでなはく、新株予約権を使ったコンバーティブル系の手段があるよということで、そのガイダンスを作ったりもしています。「これをきっかけに、資金調達のコンバーティブルエクイティーを一緒にやりました!」と言ってくださる方もいらっしゃいました。詳しくは「コンバーティブル投資手段」活用ガイドラインをご覧ください。

大久保:起業家としては切羽詰まった状況で株を手放さなくても良いということですよね。政策に関わっている方として、メッセージはありますか。

平松:オープンイノベーション促進税制と聞いても、一般の方からすると、「こういう税制があるんだね」ぐらいの印象かもしれませんが、この制度ができる裏側には、多くの関係者の努力、協力、苦労があります。私自身、こうした困難があってもなおトライしようと思ったのは、成熟した企業が自社に閉じこもることなく、内向きから外向きにマインドが変わって、スタートアップとコラボレーションすることは、日本経済にとって非常に重要だと思ったからです。

経産省に入って10年以上経つのですが、その間、民間のコンサルティングファームで働いた経験などから、失われた30年と言われてるように、長い間日本企業の存在感が失われる中で、大企業はじめエスタブリッシュメント(社会的に確立された体制・制度)をどうにかできないかと考えてきました。

経済成長も含んだ日本の停滞感というのは、新しいムーブメントが出てこないとなかなか打ち破れないのではないかと感じています。以前から、スタートアップはありましたが、どうしても社会の関心はエスタブリッシュメントに向いてしまうことが多かったと思うんです。

ですから今まさに、スタートアップでも大企業でも、リスクをとって新しいことにチャレンジする人にスポットを当てて、全力で応援したいという気持ちが強いですね。ぜひこの税制を活用していただきたいですし、使ってください、だけではなく、我々もこの制度が活用できる人を探していくつもりです。

安藤:私は平松とは全く逆で、民間で10年ちょっとくらい働いて今ここに数年います。「官と民」って文字通り異質で違うものみたいに分けがちで、民から見たときの官の敷居の高さみたいなものって、直接こうやってお話しない限り、どうしても意識してしまうと思うんですよね。私自身もそうでしたし。

そういった意味で、「その垣根をできるだけなくす、お互いの思いを通じさせる」というのが自分の最大のミッションであり、自分の中にテーマとして掲げてやって来ました。

省内の職員が、今の日本経済の発展のためになるような汗をかいているっていうのが頭ではわかっていましたけど、中に入ってみて初めて、想像以上に彼らが日々頑張っていることを実感しました。日本の停滞感や閉塞感をどう打破するのかというのを、官だから民だからではなく、コミュニケーションを取りながら一緒になってやっていかないといけないと、今つくづく感じています。これを一言伝えたいですね。

大久保:官というとつい霞が関のお役所が浮かんで来てしまいますが、単なる建物ではなく、中で人が働いているということがよくわかる、非常にいい言葉をいただけてありがたいです。

:まさにコミュニケーションは非常に重要なことだと思います。このオープンイノベーション促進税制は、制度としての一方で、なによりも政府としてのメッセージなのだと思っています。大企業とスタートアップのオープンイノベーション、これこそが日本の進んでいくべき勝ち筋で、力を入れていくべきことだと感じています。

政府がこういうメッセージを出しているのだから、我が社もオープンイノベーションに取り組んでいこう、というある種の説得材料としてぜひ使っていただきたいと思っています。

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(取材協力: 経済産業省 経済産業政策局産業創造課 平松淳、安藤裕介、柳真裕
(編集: 創業手帳編集部)

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