フーディソン 山本徹|「世界の食をもっと楽しく」生鮮流通のDX化を推進し水産業界の課題解決を目指す手腕に迫る

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年03月に行われた取材時点のものです。

水産業界にイノベーションを。他業界から入り込み課題を解決する堅実かつ最先端の手法


かつて世界一の水産大国だった日本は、近年漁業水産量の減少が目立ち、諸外国に比べ衰退。またどの業界にも共通する問題として、少子高齢化や人口減少などにより水産業全体の高齢化と後継者不足に悩まされています。

こうした水産業界のあらゆる課題を解決するため、生鮮流通のDX化を推進し、業界全体をアップデートさせるプラットフォーム企業として大きな注目を集めているのがフーディソンです。

「世界の食をもっと楽しく」をミッションに掲げ、生鮮流通に新たな循環を生み出すべく「魚ポチ(うおぽち)」「sakana bacca(サカナバッカ)」「フード人材バンク」を軸にサービス展開しています。

今回は代表取締役CEOを務める山本さんの起業までの経緯や、水産業界が抱える問題点と解決手法について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

山本 徹(やまもと とおる)
株式会社フーディソン 代表取締役CEO
2001年4月不動産ディベロッパー入社。2003年4月に株式会社エス・エム・エスへ創業メンバーとして参画し、ゼロからIPO後の成長フェーズまで人材事業のマネジメント、新規事業開発に携わる。2013年4月に株式会社フーディソンを創業し、代表取締役CEOに就任。北海道大学工学部卒業。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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漁師との出会いで決意。大きな課題を認識したことで水産業界の改革に着手

大久保:まずはご経歴についてお聞かせ願えますか。

山本:北海道大学工学部を卒業後、2001年に不動産ディベロッパーに入社し営業職として経験を積みました。

このときに出会ったのが、エス・エム・エス創業者の諸藤さんと田口さんです。非常に大きな影響を受けまして、彼らが起業するタイミングで私も退職し、ともに医療・介護業界の改革を目指そうと同社の立ち上げに参画しました。

大久保:エス・エム・エスの創業メンバー4人のうちのおひとりが山本さんでしたよね。そこからフーディソン設立までの経緯についてお教えください。

山本:エス・エム・エスでの日々は充実していましたが、自分自身の人生をあらためて考えたとき、「ゼロから再び始めてみたい」という想いを抱くようになったんですね。新たな領域で挑戦しながら、その分野の課題を解決していきたいなと。

そんなとき、たまたまある漁師さんと出会ったんです。魚の流通に関して聞かせてもらったのですが、サンマが1キロ10円から30円程度で売られているとのことでした。

この話に衝撃を受けまして。私は埼玉県出身ですので鮮魚関係にそれほど詳しいわけではありませんでしたが、それでも日常的に食べていてよく知っているサンマだからこそ「サンマ漁業を営む漁師は儲かっているんだろうな」と思い込んでいたんですね。

大久保:現実がまったく違ったため、危機意識を持たれたんですね。

山本:はい。当事者の漁師の方から悩みを聞かせていただいたことで、水産業界の大きな課題を認識したんです。

続けて、「ぜんぜん儲からないから辞めようと思っている」「なかなか稼げない状況だし、後を継がせず終わらせる」との本音まで打ち明けてくださいました。

その瞬間、「消費者はまだ気づいていないけれど、誰もが当たり前のように食べているサンマという身近な魚が、食べられなくなってしまう可能性もあるんだ」と強い危機感を抱くと同時に、「なんとかしなければ」という奮い立つような感情が湧き上がったんですね。

社会問題は大きければ大きいほど解決のしがいがあります。そしてまだ誰もチャレンジしていないからこそ、積極的に取り組んでいこうと決意しました。
こうした経緯で、2013年4月にフーディソンを設立し、代表取締役CEOに就任しました。

ミッションは「世界の食をもっと楽しく」。生鮮流通に新しい循環を生み出すサービス

大久保:御社のサービス内容についてお教えください。

山本:弊社は「世界の食をもっと楽しく」をミッションに掲げ、生鮮流通に新しい循環を生み出すことを目的に「魚ポチ(うおぽち)」「sakana bacca(サカナバッカ)」「フード人材バンク」3つのサービスを展開しています。

「魚ポチ」飲食店向けの食品Eコマースサービスです。全国70以上の産地ネットワークから「旬の魚」が毎日入荷し、常時3,000種以上の水産品を中心とする生鮮品を取り扱っています。

スマホを使って簡単に仕入れが可能なことや、市場に出回らない珍しい水産品の流通にまで力を入れていることも特長です。おかげさまで月間のアクティブユーザー数は4,000店舗近くにのぼります。

大久保:ダイレクトな取引を実現することで、業界の流通問題を解決するサービスなんですね。続いて「sakana bacca」「フード人材バンク」についてもお願いいたします。

山本「sakana bacca」個人向け鮮魚セレクトショップです。コンセプトは「毎日の食卓に感動と冒険を」。日常に魚のある風景を守り続けるために、一般消費者に最適な商品を取り揃えています。

実店舗とオンラインで展開しており、水産品だけでなく魚料理に合うお酒やオリジナルアイテムの販売、魚の下処理から保存法、ワンランクアップのアレンジなどの魚レシピの提案も行っています。

「フード人材バンク」鮮魚加工・精肉加工・青果販売に特化した技術経験者を対象に、デパートやスーパー、専門店、飲食店など幅広い分野における仕事探しができるサービスです。

求職者は完全無料で利用でき、募集側の企業は手数料を支払うことで優秀な人材を採用することができます。

業界の求人情報に精通した専任のキャリアコーディネーターが求職者の仕事探しをサポートしており、面接のセッティングやフォロー、給与や就業条件の交渉なども代行。転職・就職活動での面倒やストレスの大幅な軽減が可能です。

これら3つのサービスを軸に展開していますが、水産業界の活性化と水産をはじめとする生鮮流通のプラットフォーム化に向け、現在も事業拡大を続けています。

流通構造のアンバランスが最大の課題。魚に適正価格をつけて流通させ、持続可能な業界へ

大久保:先ほど漁師の方のお話をお聞かせいただきましたが、事業計画を立てるにあたって「解決すべき課題」として認識されていた、水産業界の最も大きな問題についてさらに具体的にお教えいただけますか。

山本サプライチェーンの事情に合わせて流通構造が構築されているため、バランスが崩れていることです。

そしてこの背景には、水揚げ後の魚は一定期間のうちに消費しないといけないという特性や、流通関連情報がアナログのままやりとりされている問題が関係しています。

どういうことかと申し上げますと、まとまって水揚げされた魚を一定期間で効率よく消費するためにスーパーマーケットの販売力が非常に重要な役割を担っているんですね。スーパーで売れる魚が全国から効率よく市場に集荷される仕組みになっていて、良い悪いではなく実態としてスーパーマーケットに最適化された流通が構築されているんです。

一方、生産サイドは約8割が個人事業主で、そのうちの8割に後継者がいません。そのため、構造的に生産者が圧倒的な販売力を持つスーパーに対して交渉力がない状況でした。水産業界特有の流通構造の影響で、最も重要な生産者が弱い立場になってしまっているんですね。

これでは生産者だけでなく、いずれスーパーマーケットも衰退しますし、持続不可能だなと。サスティナブルな社会の実現を目指す時代の流れにも逆行していますからね。

大久保:課題を明確に認識されたことで、解決のために事業計画を立て、サービス展開を進めてこられたんですね。

山本:はい。先ほどお話ししましたが、その根本原因として「流通関連情報がアナログのまま扱われている」という要素が大きいと痛感しました。きちんと活用されず、結果的に情報を必要としている各所がそれぞれ分断されていたんです。

たとえば個人事業の漁師と小口の飲食店は「魚を小ロットで取引したい」というお互いの需要と供給が一致していました。にも関わらず、情報網が構築されていないためにつながりようがなかったんですね。

そこでまずは「魚ポチ」をリリースし、情報のデジタル化に着手しました。これまでつながれなかった人同士をつなげ、適正価格を作っていくというのが目的のひとつです。

加えて、情報のデジタル化により流通の生産性をあげていくという狙いもあります。労働力が減少するなかで、持続可能な業界や産業へと改革していくことが弊社の取り組みです。

大久保:「魚ポチ」や「sakana bacca」を展開することで、同じ規格を大量にさばくのに適している従来の流通構造に合わない小ロットの多くの魚が取引できるようになり、需要と供給のマッチングに成功したというわけですね。

山本:はい。現状の構造ですと、バイヤーは「スーパーマーケット全店舗分の共通商品を仕入れる」というような概念になっていますので、十分な量を確保できないとスーパーマーケット向けにならないんですね。

本来であれば東京で適正価格がついて販売されるのに、情報網が未構築だったため、地元の漁師酒場などにて二束三文で販売するしかないというケースが圧倒的に多かったんです。

よく漁業が盛んな土地の店舗で、安くて美味しい海鮮料理が提供されていますよね。「なんでこんなに美味しい魚をこの程度の値段で食べられるんだろう?」と多くが疑問を抱いてきました。その答えが、水産業界の流通構造にあると考えています。

このままでは業界全体が崩壊してしまいます。だからこそ、すべての魚に正当な適正価格をつけていかなければなりません。

と同時に、「今のままだと漁師さんは事業を続けていけないんだよ。そしてその結果として、私たちはこれまでのように美味しい海産物を食べることができなくなってしまう可能性が高いんだよ」という問題を多くの方が認識する必要があるんですね。

業界の“破壊者”ではなく“身内”に。ともに改革を目指す仲間としてビジョンを共有しながら推進

大久保:明確に課題を認識し、的確な事業計画を立てたことで順調に事業を拡大されていらっしゃいますが、業界未経験で参入するにあたって工夫されたポイントについてお聞かせください。

山本:先ほどお話しした漁師さんとの出会いの後、次に当時の築地、現在の豊洲市場で発言権や影響力を持つ卸売業者を訪ねました。

この方と信頼関係を築けたことが重要なポイントです。水産業界の問題提起を行いながら私の想いをすべてお伝えしたところ、ビジョンや熱意が通じて、それ以来ずっと応援していただけるようになりました。

多方面に声をかけてくださったので、業界内でものすごく動きやすくなったんですね。それだけでなく、現在も大口の取引を継続してくださっています。

こうしたつながりがベースにあったおかげで、大田市場での仲卸権利の取得にも成功しました。本来は業界以外の人間が権利取得しようとしても難しいのですが、以前から懇意にしていたせりの経験を持つ方が弊社に入社してくださったんです。

大久保:「業界を改革するぞ!」と自己利益に走ったり破壊するようなスタンスで参入すると敬遠されて終わってしまいますが、一貫して業界関係者と良好な関係を構築しながら堅実に進めてこられたんですね。

山本:おっしゃる通りです。当初から業界内の方々に対して、身内だと思っていました。「業界をアップデートする仲間として一緒にやっていきましょう!」というスタンスだったんですね。

水産業界を改革するためには、当然のことながら弊社の力だけでは不可能です。だからこそ「みんなでより良くしていこう!」と。この在り方を徹底してきました。

その結果として、弊社のビジョンへの賛同者が続々と集まってくださったんですね。「この業界をなんとかしたい」という危機感を抱いていたものの、「どうしようもない」と途方に暮れていた方がものすごく多かったからです。

皆さんが一気に私たちのもとに集結してくださり、社員になった方もいれば、外から応援してくださる方もいらっしゃいます。私たちが「仲間として一緒にやっていこう!」という姿勢だったからこそ、想いが伝わり輪が広がっているんですね。

日常的な接点から得た情報を活用し支援サービスを提供。あらゆる業界関係者が使いやすいプラットフォームの構築へ

大久保:今後の展望についてお聞かせください。

山本:生鮮流通の分野において、これまで日常的に事業者や業界関係者とのつながりをベースに事業を運営してきました。

今後もこの理念を変えず、常時流通でのつながりを広げながら連携を取ると同時に、そこで得た情報を活用して非日常的に支援するサービスを随時構築していきたいと考えています。

大きく分けると「流通系サービス」「流通事象者の支援サービス」2つで、これが弊社のビジネス展開上の軸となっているんですね。この軸に対して個々のサービスを構築していくという方針で事業展開していきます。

大久保:最後に、業界内の関係者に向けてメッセージをいただけますか。

山本:生産者や仲卸業者、飲食店など、水産業界はあらゆる立場の方が携わっていらっしゃいます。そのすべての方にとって、将来的にさらに快適かつ日常的に使いやすいプラットフォームを作っているのが弊社です。

現在は完成を目指している段階ですが、すでに多くの方々にご愛用いただいています。ぜひ積極的にご活用いただけたらうれしいです。皆さんとつながれる日を楽しみにしています。

大久保の感想

大久保写真
水産や農業という食の生産の分野は起業家にとって注目の分野だ。それはなぜか?

高齢化や販路の問題、効率性や透明性など様々な問題が山積している「課題の宝庫」だからである。

社会課題を前にして、評論家やマスコミは嘆く人だが、起業家は課題を解決する人だ。社会課題だから問題のサイズが大きい。問題が大きいがゆえに大きな事業チャンスでもある。

社会課題の解決というと、政治やNPOの世界が思い浮かぶ。それらの役割もあるのだが、利益(利益を生むとは、つまり税金を使うのではなく払うということ)と雇用、最先端の技術を生み出しながら拡大していくのは、スタートアップにしかできないタイプの社会課題の解決だ。

フーディソンの山本さんは、IT・人材で上場したエス・エム・エスの有形メンバーだ。普通であれば、一般的な人材やITの市場で起業するだろう。おそらく、1回目と同じような業界業態の方が楽だったはずだ。(そもそも上場企業の創業メンバーなので、起業という大変な道を選ばずにそのまま会社にいるという選択肢の方が一般的な感覚だろう。)

フーディソンも、ITや人材の要素はあるのだが、基本的には水産業界の人の課題を解決する会社だ。あえて難しい、しかし、より手応えの形態に挑戦した。

インタビューでは、一つ一つ考えながら、誠実に答えようとする姿が印象的だった。

事業も同じように、一つ一つ検証を重ねながら小さく始めて大きくしていく方式で、足場を元に新しいサービスを付け足して拡大していった印象だ。

やり方は堅実なのに、テーマはあえて難しい道に挑戦した。ここにフーディソン山本徹さんという起業家の行動の面白さがある。

山本さんのように、1回成功して得たノウハウを、社会的な課題に投下する人が増えれば日本はもっと良くなっていくだろう。

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