中退共と小規模企業共済とは?それぞれの違いや特徴を解説

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中退共と小規模企業共済の違いを理解しよう


退職金にはいくつもの制度がありますが、代表的な制度として中退共や小規模企業共済が挙げられます。
退職金を導入するにあたって、中退共と小規模企業共済のどちらに加入するべきか迷っているのであれば、各制度の概要や違いを理解することが大切です。

この記事では、中退共と小規模企業共済の特徴や違いについて、詳しく紹介します。
各制度のメリットや注意点、併用可能かどうかについても解説しているので、ぜひ参考にしてください。

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中退共と小規模企業共済の違いとは


中退共と小規模企業共済の大まかな違いは、以下の表のとおりです。

中退共 小規模企業共済
種別 共済型 共済型
契約対象 中小企業
(従業員数・資本金による)
従業員数5人以下、または20人以下の小規模の企業
加入対象者 従業員 役員層・個人事業主
掛金の支払い 企業が全額負担 加入者本人が全額負担
掛金(月額) 5,000~30,000円までの範囲で設定可能
(短時間労働者は2,000円・3,000円・4,000円のいずれかで特例掛金月額も選択可能)
1,000~70,000円まで500円単位で設定可能
支給金額 基本退職金+付加退職金 掛金の月額・納付月数に応じて共済事由ごとに定められた金額
税制優遇 掛金は損金、または全額非課税 掛金が個人の所得控除の対象
その他 国からの助成あり 低金利の貸付制度を利用できる

ここからは、各制度の概要を紹介します。

中退共とは?制度の概要

中退共の正式名称は「中小企業退職金共済制度」で、独立行政法人勤労者退職金共済機構による中小企業を対象にした退職金制度です。
中小企業の退職金制度の確立や優良な人材の確保、従業員の生活を保護する目的で活用されています。加入対象者は従業員全員が原則で、経営者や役員層は対象外です。

この制度では、従業員ごとに掛金を設定して、事業主が毎月全額負担で支払っていきます。
従業員が退職する際には、機構から直接共済金(退職金)が支払われる仕組みです。退職金が支払われる際に、会社の利益に影響を与える心配がありません。

退職金の支払い方法

中退共の退職金の支払い方法は、全額を受け取る一時払いと、全額分割払い、一部分割払いの3つから退職者の意思で選択できます。
分割払いを選択する場合、「退職日において50歳以上である」など、一定の要件を満たさなければならないことに注意してください。

退職金の請求から支給までの大まかなステップは以下のとおりです。

1.事業主は中退共本部保全課に「被共済者退職届」を提出する
2.必要事項を記入した「退職金(解約手当金)請求書」と「退職金共済手帳(3枚)」を従業員に渡して、退職金請求を促す
3.退職者は受け取った請求書に必要書類を添付して、中退共本部給付業務部に提出する
4.請求人に「退職金等振込通知書」、事業主に「退職金等支払のお知らせ」が届くので、支給金額や振込予定日を確認する
5.振込予定日に指定の預金口座に退職金が入金される

小規模企業共済とは?制度の概要

小規模企業共済は、中小企業基盤整備機構による退職金制度です。積み立てた掛金に応じて、将来共済金を受け取れると点は中退共と共通しています。
ただし、加入対象は中小企業や経営者や役員、個人事業主などであり、従業員を対象とした制度ではない点が大きな違いです。

掛金は全額を所得控除できるので、節税効果があります。また、掛金の範囲内であれば、事業資金に関する様々な貸付制度を低金利で利用可能です。

どちらがお得?中退共と小規模企業共済の掛金、支給金額の違い


中退共と小規模企業共済ではどちらのほうがお得なのか、掛金と支給金額の違いは以下の表のとおりです。

中退共 小規模企業共済
掛金(月額) 5,000~30,000円までの範囲で設定可能
(短時間労働者は2,000円・3,000円・4,000円のいずれかで特例掛金月額も選択可能)
1,000~70,000円まで、500円単位で設定可能
支給金額 基本退職金+付加退職金 掛金の月額・納付月数に応じて共済事由ごとに定められた金額
税制優遇・サービス ・掛金は損金、または全額非課税
・国からの助成あり
・掛金が個人の所得控除の対象
・低金利の貸付制度を利用できる

掛金(月額)の違い

中退共の場合、掛金の月額は5,000~30,000円までの範囲で設定できます。掛金の金額は、従業員ごとに設定可能です。
また、短時間労働者の場合、特例掛金月額を設定できます。その場合、2,000円・3,000円・4,000円を選択して支払うことになります。

小規模企業共済の場合、1,000~70,000円まで、500円単位で設定が可能です。中退共と比べて、設定できる金額の範囲が広くなっています。
また、加入後は掛金の増減を自由に行えます。

支給金額の違い

中退共の場合、基本退職金と付加退職金を合算した金額が支給されます。基本金額は、掛金月額と納付月によって定められています。
基本金額は予定運用利回り1.0%として定められていますが、法令によって利回りが変わる可能性があることに注意してください。

付加退職金は、運用状況に応じて基本退職金に上乗せされる退職金です。
掛金の納付月数の43月目とその後12カ月ごとの基本退職金相当額に、その年の支給率を乗じた金額を退職時まで累計した金額が付加されます。

小規模企業の場合、掛金を6カ月以上積み立てれば、退職時や法人の解散時に基本共済金を受け取ることが可能です。
基本共済金は、掛金月額と納付月数に応じて、共済事由ごとに定められた金額で支給されます。
同じ掛金月額・納付月数でも、受け取る共済金の種類によって支給金額が異なることに注意が必要です。

税制優遇・サービスの違い

中退共では、掛金全額を損金または全額非課税にすることが可能です。ただし、資本金か出資金が1億円以上の法人は、法人税に外形標準課税が適用されます。
また、掛金の一部は国によって助成されることも大きな特徴です。

小規模企業には国の助成はありませんが、掛金の全額が個人の所得税控除の対象です。
さらに、一般貸付をはじめ、緊急経営安定貸付や傷病災害時貸付など低金利の貸付制度を利用して事業資金を確保できます。

どちらを選ぶべき?中退共と小規模企業共済の加入者の違い


次に、中退共と小規模企業共済について、加入者や契約対象などの違いを比較していきます。

中退共 小規模企業共済
契約対象 中小企業
(従業員数・資本金による)
従業員数5人以下、または20人以下の小規模の企業
加入対象者 従業員 役員層・個人事業主
掛金の支払い 企業が全額負担 加入者本人が全額負担

中退共は中小企業の従業員が対象

中退共の場合、契約対象が中小企業になるため、掛金の支払いは法人が負担することになります。
制度に加入できるかどうかは、常時雇用する従業員数や資本金・出資金の金額によって異なりますが、以下の範囲内であれば加入できます。

一般業種(製造業や建設業など) 常時従業員数が300人以下、または資本金・出資金は3億円以下
卸売業 常時従業員数が100人以下、または資本金・出資金は1億円以下
サービス業 常時従業員数が100人以下、または資本金・出資金は5,000万円以下
小売業 常時従業員数が50人以下、または資本金・出資金は5,000万円以下

雇用期間の定めがある者や短時間労働者など一部を除き、従業員全員の加入が原則です。
事業主と生計をともにする同居親族のみを従業員として雇用するケースも制度の加入対象になります。ただし、経営者や役員は含まれないことに注意してください。

小規模企業共済は経営者・役員・個人事業主などが対象

小規模企業共済の場合、加入者は中小企業や組合・士業法人の経営者や役員、個人事業主です。
中退共では対象外となる経営者や役員も、小規模企業共済に加入すれば退職金を確保できます。
個人事業の共同経営者も加入できますが、その場合は個人事業主1人につき2人までしか加入できないことに注意してください。

なお、中小企業の経営者・役員の場合、加入できるかどうかは、家族従業員やパート・アルバイトなども含めて常時使用する従業員数によって異なります。
業種別の従業員数の制限は以下のとおりです。

建設業/製造業/運輸業/不動産業/農業/サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)など 常時従業員数20人以下
商業(卸売業・小売業)/サービス業(宿泊業・娯楽業を除く) 常時従業員数5人以下

また、経営者や役員、個人事業主が加入する退職金制度であるため、掛金は個人で負担することになります。

中退共のメリット

中退共制度に加入して退職金制度を導入することには、以下のようなメリットがあります。

掛金の一部を国が助成してくれる

中退共制度のメリットとして、国が掛金の一部を助成してくれることが挙げられます。従業員の退職金を捻出するのは簡単なことではありません。
しかし、中退共を活用すれば国の助成によって掛金の負担を抑えながら従業員の退職金を確保することが可能です。

なお、国の助成は新規加入助成と月額変更助成の2つです。
新規加入助成では、新たに中退共制度に加入する事業主に対して、加入4カ月目から1年間、掛金月額の1/2(従業員ごとに5,000円が上限)が助成されます。
月経変更助成では、掛金月額が18,000円以下の場合、増減変更する事業主に対して1年間、増額分の1/3が助成されます。

掛金が損金扱いとなる

機構に納める掛金は、全額損金として扱えます。損金算入により、法人の所得が減るので法人税を節税することが可能です。

多額の退職金を一括で支払う場合、支払うタイミングで多額のコストが発生します。
中退共は退職金を少額ずつ積み立てていくため、一度にかかるコストが少なく、金銭的な負担を軽減できることも魅力です。

福利厚生サービスを提供できる

中退共のメリットとして、加入している事業所の事業主と役員、従業員に向けて福利厚生サービスが用意されている点も挙げられます。
福利厚生サービスによって、提携しているレジャー・宿泊施設、レンタカー、ハウスサービスなどを割引価格で利用できます
自社の福利厚生を拡充させたい場合に便利です。

管理がしやすい

退職金や解約手当金の支給に関する管理がしやすいことも中退共のメリットです。
従業員ごとに設定した掛金を口座振替で毎月納付するのみで、退職金に関する固定費を把握しやすい特徴があります。

なお、従業員の退職によって退職金や解約手当金の支払いが必要になった時は、請求は従業員自身が行います。
企業側は届け出の提出や従業員に申請書を渡すなどの業務は発生しますが、退職金を請求するための書類作成や請求書提出の作業は不要です。
また、請求後は機構から従業員に直接退職金が支払われるので、精算処理や振込みといった作業も必要ありません。

中退共の注意点

中退共の加入する際には、以下の点に注意してください。

役員の加入はできない

中退共の場合、加入対象は従業員のみで、経営者や役員は加入できません。
ただし、使用人兼役員で賃金を得ている場合は加入できます。経営者や役員の退職金を確保するためには、小規模企業共済への加入がおすすめです。

退職理由に関係なく支払われる

中退共の退職金は、退職理由に関係なく支払われる点に注意してください。懲戒解雇になった従業員にも対しても退職金は支払われます
厚生労働大臣から認定を得られれば、退職金の減額は可能です。ただし、減額分は中退共の支払い財産となり、企業側に還付されることはありません。

掛金の減額が難しい

中退共の掛金は、一度設定すると減額が難しい点にも注意してください。
減額できるケースは、「経営状況の悪化によって納付が難しくなった場合」や「従業員との合意があった場合」など、やむを得ない事情に限られます。
小規模企業共済と比べて減額にハードルがあるため、慎重に掛金を設定することが大切です。

小規模企業共済のメリット

小規模企業共済に加入して退職金を確保するメリットは以下のとおりです。

節税が可能

小規模企業共済に加入すれば、経営者や役員の退職金を確保すると同時に節税効果を得られます。
掛金は小規模企業共済等掛金控除の対象となり、確定申告によって個人の所得税を節税することが可能です。

一方、中退共との違いは、節税の対象が個人の所得税か法人税になることです。中退共では損益算入によって法人税の節税が可能ですが、個人の所得税までは軽減できません。
そのため、所得が多い経営者・役員にとっては小規模企業共済の加入するほうがメリットがあります。

受け取り方法を選択できる

退職金の受け取り方は、一括と分割、一部分割から選択できます。一括であれば、一般的な退職金と同じく一度にまとまった金額を受け取ることが可能です。
分割であれば、年金形式によって定期的に退職金を受け取れます。

ただし、中退共も退職者の意思で一括か分割か選択できるため、小規模企業共済のみのメリットとはいえません。

低金利の貸付制度の利用が可能

低金利の貸付制度を利用できる点は、中退共にはないメリットです。
一般的な融資と比べて金利が低く、経営者にとって有利な条件で事業資金を確保できます。

また、一般貸付制度、緊急経営安定貸付、創業転業時・新規事業展開等貸付など複数の貸付制度が用意されており、用途に合わせて利用することが可能です。

小規模企業共済の注意点

小規模企業共済に加入する際に注意すべき点は以下のとおりです。

元本割れのリスク

小規模企業共済は、任意解約のタイミングによって元本割れするリスクがあります。
掛金の納付月数が20年未満で任意解約すれば掛金合計を下回り、元本割れしてしまいます。
また、加入期間が12カ月未満で任意解約した場合、掛け捨てとなって解約手当金が発生しないため、短期の解約には注意してください。

なお、中退共は加入から23カ月目までは元本割れするといわれています。
元本割れを回避するためには、小規模企業共済で長期的な加入・掛金納付をしなければなりません。

共済金を受給する際に課税される

退職時に受け取った共済金は課税対象となる点に注意してください。税法上の取り扱いは受け取り方や受取人によって異なります。
例えば、一括で受け取る場合は退職所得になりますが、分割で受け取る場合は公的年金などの雑所得として扱われます。
確定申告をする際は、受け取った共済金が税法上でどのように扱われるか確認が必要です。

中退共も同様で、退職金を受給する際に課税されます。ただし、課税される対象は受け取った従業員本人となり、企業側に影響はありません。

中退共と小規模企業共済制度は併用できる?


すでに小規模企業共済制度に加入している場合には、中退共と重複加入ができません。
例えば、個人事業主として小規模企業共済制度に加入している人が、ほかの会社に属してWワークしている場合、中退共の加入対象から外れてしまいます。
それぞれ加入対象者が異なるため重複するケースはほぼありませんが、副業を行う場合には注意してください。

まとめ・中退共と小規模企業共済制度の仕組みを理解して加入を検討しよう

同じ退職金制度でも、中退共は従業員の退職金を確保する制度であることに対して、小規模企業共済制度は経営者や役員などの退職金を確保する制度であることが大きな違いです。
どのような目的で退職金制度に加入するのかによって、選択肢は変わります。
中退共と小規模企業共済制度の仕組みを理解して、目的に合わせた退職金制度に加入してください。

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(編集:創業手帳編集部)

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