シンクロ 西井敏恭|「マーケティングの焦点は“売るまで”から“売った後”に変化している」

創業手帳

サブスクリプションの先達 西井敏恭氏にサブスク・デジタルマーケティングの重要性と実践方法について聞きました

オイシックス・ラ・大地ではCMT(チーフ・マーケティング・テクノロジスト)としてサブスクリプションを取り入れたEC事業の設計を担当する西井敏恭氏。著書「サブスクリプションで売上の壁を超える方法」を出版するなど、サブスク・デジタルマーケティングにおける第一人者として知られています。

従来型の定期モデルとサブスクとの違いやサブスクのメリット、サブスクを取り入れるためのポイントなどについて、創業手帳株式会社創業者の大久保が聞きました。

西井敏恭(にしい としやす)株式会社シンクロ代表取締役社長
1975年5月福井県生まれ。金沢大学大学院卒業。2001年から世界一周の旅に出る。帰国後、旅の本を出版し、ECの世界へ。2014年に二度目の世界一周の旅をしたのち、起業。大手通販・スタートアップなど多くの企業のマーケティング支援やデジタル事業の協業・推進を行う。
オイシックス・ラ・大地の専門役員やグロース Xなど複数の企業の取締役も務める。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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サブスクのメリットとは

大久保:西井さんはサブスクについて書籍も出されています。サブスクに詳しくない方も理解できるよう、そもそもサブスクにはどのような利点があるのかをあらためてお話いただけますか。

西井:近年になってサブスクリプションやD2Cといったビジネスモデルが注目されるようになりましたが、実はビジネスモデル自体が特別斬新であったり素晴らしかったりするわけではないと僕は思っています。ビジネスモデルとしての定期購入やメーカー直販というものは以前から存在しています。

では、どうして最近になってサブスクがフォーカスされているのかというと、これまでは商品を「買うまで」しかユーザーの状態が分からなかったのが、「買ってから」のユーザーの状態も分かるようになったという点が大きいと思います。

これまでマーケティングにしても営業にしても売ることがゴールになっていて、売れた後の様子についてはよく分かりませんでした。実際に使ってくれているのか、どのくらい満足してくれているのか、SNSなどでどのような口コミを発信しているのか、といったことです。それがサブスクにおいては、IoTやデジタルマーケティングを取り入れることによって、商品を買った後までユーザーの姿を追えることができるようになりました
この点が、従来の定期モデルと現代のサブスクのあいだにある変革的な違いであり、サブスクの素晴らしい利点だと考えています。

大久保:「売れてから」のユーザーの状態を見ることで、具体的にどのようなことがマーケティングに生かせますか?

西井:例えば僕がCMOを務めるグロース Xは、マーケティングの人材教育をおこなうSaaSですが、従来のe-learningと大きく違うのは、契約いただいた法人のお客様がアプリを起動してどこまで学習しているのか、学習でつまずいているのはどのコンテンツなのか、などが詳しく分析できるところです。また、学習したコンテンツのNPS(顧客ロイヤルティーを数値化した指標)も取っていて、数字が悪い箇所は常にコンテンツチームが修正しています。
グロース Xの扱うデジタルマーケティングの分野は日進月歩で情報が変わるので、「作って終わり」ではなく、お客様のフィードバックを元にしてサービスの質を上げていく必要があります
サブスク型では、サービスの質を向上させるために必要な情報を随時追い続けることができます。つまり、売れてからのユーザーの状態も見ることで、データドリブンでマーケティングを進められるようになるということです。

大久保:これまでも一部の大手企業に限って言えば、データを細かく収集していた企業はありましたが、データの扱い方は従来と異なってきていますか?

西井:たしかに、これまでも例えばPOSなどを用いて積極的にデータを活用する企業はありました。ただしそれらは、何がいくら売れたかという、あくまで商品軸でのデータに留まっていました。サブスクモデルから得られるデータは顧客軸です。例えば、初めてのお客さんが何を買っているのか、そのお客様が次には何を買うのか、どのような商品をリピートしているのか。顧客軸でデータを見ることで、どのような理由で商品がリピートされているのか、あるいはされないのかという因果を推察できます

大久保:なるほど。これまでは「この店舗で、この時間帯にはこれが売れている」ということしか分からなかったのが、顧客一人ひとりの購入行動を連続的に見れるようになったのですね。そうすると、商品や満足度の改善に向けてさらに具体的な方法が考えられそうですね。

西井:そうですね。僕は集客について、「今いるお客様が新しいお客様をどんどん連れてくる」と考えています。つまり売って終わりではなくて、購入したお客様が知り合いや隣の部署にリコメンドしてくれるサービスを作れるかというところがすごく大事なんです。

それを作るためには、今までは感覚や予想で「こうすれば売れるんじゃないか。満足してもらえるんじゃないか」とやっていたところを、「この時点で解約されているな」といったことをデータで見て、データドリブンでやっていく。それが現代のサブスクで重要な部分だろうと考えています。

大久保:ユーザーのリコメンドや口コミの重要性は年々大きくなっていますよね。

西井:その通りですね。例えば、BtoBの企業でマーケティングオートメーションのツールを入れましょうという話になったときに、昔だと競合とスペック比較して購入するみたいなことが一般的でしたよね。それが今は、知り合いで導入している企業を探して「これどう?」と聞いてみる人が圧倒的に増えました。「ここのは全然駄目だよ」という話になればもう買ってもらえません。

だから、新しいお客様に購入してもらおうというときに、機能比較してもらって売れれば良いのではなくて、すでに使っているお客さんの満足度や評判が実は購入にめちゃくちゃ影響するようになっている。SNSなどを通じて簡単に人同士が繋がる時代だからこそ、従来とは大きく異なっている部分かなと思います。

「売った後」重視のマーケティングにどうアップデートしていくか

部分最適でなく全体最適で考える

大久保:著書を読んでいると西井さんの考え方や手法はいつも「王道」ですよね。奇をてらった話というのは実はない。「売った後が大切」という話も王道的だし非常にうなずける話だと思います。
これまで「売るまで」ばかりを見てきた企業にとっては、新しく視野が広がる話だと思うんですが、一方で、従来の「売るまで」を見て成功してきた企業からなかなか受け入れられないといったことはないですか?

西井:もちろん、従来のやり方を正しいとしている人の中には、これまでの手法を変えることに抵抗感を示す方もいます。ただ、経営者から反発を受けることはほとんどありませんね。僕は経営者と話をして仕事することが多いですが、経営者の方はどうしたら会社全体を良くできるかという視点で考えているので、マーケティングだけで部分最適を考えるのではなく会社での全体最適という観点から「売った後が大事ですよね」という話をすると理解してもらえる場合が多いです。

また、デジタルマーケティングのいいところは、起こりうる結果をデータを用いて定量的に説明できるところにあります。会社にあるデータをきちんと構造化して数値に落とし込んでいくと、現れた値が外部と比べてどう違うのか、何を変えれば何が起こるのかということを感覚的でなく定量的に証明することができます。そういった説明も経営者の方には理解してもらいやすいかなと思います。

大久保:マーケティングの考え方とか経営の「数字で考える」っていうところにほぼ直結しているから、理解はされやすそうですね。

西井:そうですね。ただ、実際に推進していくとなるとときには組織ごと大幅に変えていくことが必要な場合もあって現実には大変です。既存のマーケティング部門は、広告やPRといった「売るまで」のマーケティングは行ってきているけれど、カスタマーサポートや商品開発、サービス開発といった「売ってから」のマーケティングという発想はほとんどないことが多い。
だから、今ある「マーケティング部」と呼ばれる部門にそのまま「売ってから」のマーケティングを担当してもらおうと思っても難しいんです

組織自体の形や組織のやり方を変えるなど、組織ごと大きく変換することになる場合が結構多いかなと思います。

社内の誰がマーケティングを担当していくのがよいか

大久保:新しくマーケティングの体制を整えようとしたとき、誰が牽引していくのがよいのでしょうか。マーケティング系の人材はすごく希少で、社内に担当者がいないと悩んでいる企業も多いかと思います。

西井:誰を担当者にすればよいかはいろんなパターンがありますが、本質的には、上のポジションの方がある程度きちんとマーケティングについて理解しておく必要があります
僕はよく「概算力」という話をします。「このビジネスでは通常これぐらいの数字を出さないといけないよね」という当たりをおおむね付けられる力ですね。それはやっぱり経験者だったりプロフェッショナルじゃないとわからないところが多いんですが、ここがまったく分かっていないと、気づかぬところで間違った方向に向かってしまっているということがあります

大久保:コンバージョンを見れば数字は良くなっていても、蓋を開けてみたら売りたいサービスは全然伸びていなかったというようなケースはありますよね。概算力がないとそういったズレに気がつけないということですね。

西井:おっしゃるとおりです。だから、単純にマーケティングのプロを連れてきて担当者にすれば良いのかというと、実は難しい。例えば広告代理店で広告を経験してきた人は、あくまで広告のプロであって、事業のプロではないからです。広告以外のことはよく分かっていないという方も多く「マーケティングのプロ」として任せるつもりが、実際にはスキルのギャップが生まれているという状況が多く見られます。

だからやっぱり、その事業をやってきた人、この先もやっていく人がマーケティングの知識をインストールする、あるいは事業の軸となる人材を取ることが第一に必要。そうした上で、武器として広告だったりカスタマーサクセスとかいうところをやってきた人を採用してチームを作る、というのが良いと思います。

まず何から始めればよいか


大久保:西井さんの元に企業から相談があった際、まずどんなことから始めていますか。

西井まず事業全体の構造化を考えた上で、構造の中にある各要素を数値化するということを必ず最初にやります。新規のお客さんがどれぐらいで、2回購入してくれているのがどれぐらい。定期購入ユーザーの離脱率がどれぐらいで、毎月の単価がどれぐらいか。それらの要素を構造として見るということですね。

大久保:会社によっては、構造化がされていなかったりとか、数字があまり意識されていなかったり、そもそも必要な数字が集められていないということもありますか。

西井:そうですね。その場合は、構造化や数値化のためにどうしたらいいかというところからお話ししています。例えば小売りの店舗の例で言えば、POSデータしか管理していなかったとしたら、例えばスマホの会員証などを取り入れて、ID-POSを管理することを提案する。IDを連携させることで、POSデータからは分からない「どういった人が買っているのか」を見ることができます。

そうしてまずは部分的にでもいいから、顧客を軸にした構造化したデータをどう作れるかを組み直すところから始めます。

数値を見ていく上で特に大切なポイントは

大久保:構造化を考える上で特に大切なポイントは何ですか。

西井僕が一番重視しているのは「2回目の購入率」です。多くの方が全体の売上でしか見ていなかったり、事業が伸びてないのは新規のお客さんが足りないせいだと考えたりしています。しかし実際には、初めて買ってくれたお客様がきちんと2回目に定着してるかという部分が一番のボトルネックになってることが多いんです。

大久保:1回目のリピート。ほとんどの顧客はそこに行かないということですね。

西井:そのとおりです。1回で離れてしまうと、新規のお客様を次々に集めていかなくてはいけませんが、高い広告費を出して刈り取り型でずっとやっていくというビジネスだと、数年にわたって事業を伸ばすことはなかなかできません。どこかで破綻しちゃうわけです。

大久保:顧客が1回きりで離れてしまっている状態を変えることがまず先ということですね。

西井:そのとおりです。2回目の集客率が好ましくない場合、集客方法以前にそもそも商品やサービスに問題があることがすごく多いんですよね。新規の集客だけを見ていると、なかなかそこに気がつけません。

2回目の購入率を見た次には、「顧客のロイヤル化」について考えます。1回目から2回目に進んでもらった後、長期的に使っていただいているかどうかというところですね。「ロイヤル化」が進むとリコメンドや口コミが広がって新規のお客様は増えていき、反対に「あのサービスやめた方がいい」といった声が広がっているようだと新規顧客の集客はうまくいきません。

なので、継続的な事業成長をするために僕が重視していることを整理すると、まずは2回目の購入率。次に顧客のロイヤル化。3つ目になって、新規のお客さんに対するアプローチという順番で進めていくことがほとんどかと思いますね。

大久保:なるほど。どうしても新規顧客獲得にまず目がいきがちですが、順番としては逆なんですね。サブスクリプションのそもそものメリットといった基礎的な話から本質的な話までお話しいただいてありがとうございました。

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(取材協力: 株式会社シンクロ 代表取締役社長 西井敏恭
(編集: 創業手帳編集部)

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