介護事業の事業計画書を作成するには?書き方のコツ&注意点を解説

創業手帳

介護事業の見通しを立てるために事業計画書を作成しよう


日本は高齢化社会が進んでおり、介護事業の需要はますます高まっています。
介護事業で起業するのであれば、事業計画書を作成して事業の見通しを立てておくことが大事です。

事業計画書には特に決まったテンプレートがないため、書き方がわからない起業家も多いかもしれません。
この記事では、介護事業の立ち上げに役立つ事業計画書の書き方や注意点を解説するので、ぜひ作成の際の参考にしてください。

事業計画書とは?


事業計画書は、事業内容や企業の戦略、収益見込みなど、内外に説明するために作成する書類です。
起業時に提出する義務はない書類ですが、事業の見通しを明確にするためにも作成することをおすすめします。
なお、介護保険が適用されるサービスを提供する場合は、都道府県知事や市町村長から介護保険事業者の指定を受ける必要があり、その申請時に事業計画書が必要です。

介護事業の場合、訪問介護・デイサービス(通所介護)・居宅介護事業所など様々なサービスがあります。
まずは、どのサービスを展開するか決めて、事業計画書の作成を通じて具体的なビジネスプランを立てていかなければなりません。

事業計画書を作成すると、事業を客観的に見ることや改善のヒントも得られます。
経営のアドバイザーに相談する際、事業計画書があると事業の全体像を伝えやすくなるのも作成のメリットです。

事業計画書を作成する目的


事業計画書を作成する目的は主に3つあります。作成の目的について詳しく解説します。

事業を明確化し、見通しを立てる

事業計画書の作成では、自分の考えを整理整頓しながら書き出すので、方向性や事業を展開する上での問題点、欠点などが客観的に見えてきます。
そこから、将来性や起こり得るリスクなどに考慮しながら、どのような事業を実現するのか見通しを立てることが可能です。

介護事業を運営するには資金も必要です。当面の運営を維持するにはどのくらいの資金が必要で、どうやって調達するかも事前に計画しておかなければなりません。
ほかにも、施設を建てる場所やサービスの利用促進の施策を立案するためには、商圏(集客できる範囲)を決めて、情報収集と分析する商圏調査も必要です。
さらに、サービスの展開には人手も必要なので、人材の採用や育成についても考えておかなければなりません。

このように、事業計画書では様々な面から事業の運営や展望を書きまとめることが大事です。

融資・借入れを受ける

事業の準備や当面の運営には膨大な資金が必要となるので、金融機関や日本政策金融金庫など公的機関から融資や借入れを受けて調達するのが一般的です。
介護事業法人として融資や借入れを受けるためには、事業について金融担当者に伝える必要があります。

金融機関や公的機関は、経営者が事業に失敗して返済できなくなるリスクを回避しなければなりません。
そのため、事業内容や計画性などを確認して融資の可否を判断していますが、その判断材料となるのが、事業内容やビジネスプランが事細かく書かれた事業計画書です。
融資を受けるためにも、融資担当者が納得できる事業計画書を作る必要があります。

介護事業の立ち上げで利用できる融資制度には、以下のように様々な種類があります。

新規開業資金・新創業融資制度

「新規開業資金・新創業融資制度」は、日本政策金融公庫による融資制度です。
申込みにあたり、事業の種類が限定されていないので、創業したばかりの介護事業者も無担保・無保証で資金調達できます。

ただし、融資の条件に自己資金の要件がある点に注意してください。
具体的な要件は、「事業開始前、または事業開始後で税務申告を終わらせていない場合、創業時に創業資産総額の10分の1以上が自己資金と確認できるほう」となっています。

事業資金総額のうち、10分の1以上の自己資金を確保できてもギリギリの金額である場合、融資が通らない場合があります。
そのため、余裕を持って自己資金を準備しておくと安心です。

新規開業資金について、詳しくはこちらの記事を>>
新規開業資金とは?概要や特徴、新創業融資制度との違いを解説

ソーシャルビジネス支援資金

「ソーシャルビジネス支援金」も、日本政策金融公庫が行う融資制度です。
社会的な課題の解決を目的とした事業、介護・保育関連の事業などが含まれるソーシャルビジネスを開業する事業者が利用できます。

資金の用途は、開業に必要な設備資金および運転資金に限られています。借入れの限度額は7,200万円までで、そのうち運転資金の上限は4,800万円です。

「ソーシャルビジネス支援資金」を利用するためには、日本政策金融公庫が定める条件と事業内容が合致している必要があります。
事業計画書から融資が受けられるのか、どこまで借りられるのか照らし合わせておくことをおすすめします。

銀行からの融資

銀行の場合、信用や実績のない新規事業への融資は、一般的にためらう傾向にあります。
しかし、全国信用保証協会連合会(以下、信用保証協会)に仲介してもらうことで、実績がない起業家も銀行から融資を受けられやすくなります。
銀行から融資する場合、金額や状況次第では担保や保証人が必要なるので注意してください。

また、信用保証協会は経営者が資金の回収ができなくなる貸し倒れになった場合、代位返済してくれます。その見返りとして、経営者は信用保険料の支払いが必要です。

会社の方向性をスタッフに示す

事業の成功には、経営者とスタッフの足並みを揃えることが大事です。その実現にはスタッフに会社の方向性を示し、理解してもらわなければなりません。

事業計画書は、どのような事業をするのか、どう展開していくのかを説明するのに役立つ資料です。
書類を通して会社の方向性をうまく伝えられると、スタッフも方向性を見失わず安心して働けるようになるでしょう。

介護事業の事業計画書で記載する項目


事業計画書には決まったテンプレートがありませんが、記載すべき項目はあります。実際に介護事業の事業計画書を作成する際、必須の項目とその内容を紹介します。

事業概要

どのようなサービスを提供する事業なのか、その内容・規模・ターゲット(利用者)・売上げの構造などを記載する項目です。
融資を受ける時など、外部に事業内容を説明するために必要な項目です。
例えば、訪問介護事業を立ち上げるのであれば、以下のような書き方をします。

介護保険法に基づく訪問介護事業
介護保険法に基づく介護予防訪問介護事業又は第1号訪問事業

身体介護:入浴・排せつ・食事・体位交換・通院介助などの介助を行います。
生活支援:調理・洗濯・掃除・買い物などの日常生活上の支援を行います。

このように、事業内容やサービスの目的をイメージしやすいよう簡潔に記載してください。

会社概要

会社名・事業形態(株式会社や個人事業など)・代表者・予定の所在地・従業員数など、会社の基本情報を記載する項目です。
介護保険事業者として指定を受ける場合は、法人という要件をクリアしなければなりません。
そのため、どのような事業を行う法人なのか、事業計画書にしっかり記しておく必要があります。

創業者・創業メンバーの経歴や資格

会社概要と併せて、創設者や創設メンバーの経歴や資格も記載します。過去の経験・実績・ノウハウ・技術を証明することで、社外からの評価を高めることが可能です。

この創業者、あるいはメンバーなら事業を成功させられることを伝えられるプロフィールにするのがポイントです。
事業内容と無関係の経歴はアピール要素にならないので、注意してください。

執行体制

企業には代表取締役以外に、取締役・監査役・顧問などの役員も存在します。
どのような体制で事業執行の意思決定を行うのか示すために、取締役や監査役などは誰が務めるのか、現状の執行体制も記載してください。
事業所やサービス提供の責任者も記載するとなお良いでしょう。

企業理念・ビジョン

経営理念やビジョンとは、事業活動を行う上で重要視している考え方・価値観・会社の存在意義・会社全体の目標や方向性などを明文化したものです。
経営者の企業や事業に対する思いともいえます。

社内外からの賛同や協力を得るためにも重要な項目です。
融資担当者や支援者から支持を得たり、顧客を獲得したりするために、読み手に共感を与える理念やビジョンを記載してください。

市場の分析や戦略・実行方法

市場での需要・事業に関連する政策・競合の存在など、事業を取り巻く環境について説明する項目です。
介護事業の場合、利用者の定員数・規模・ターゲット層など利用者層や施設のコンセプトを明確にしておきます。
事業計画書では、どうしてその利用者層やコンセプトにしたのか、根拠や需要を示すことも必要です。

地域内の利用者の要介護度分布や競合他社のサービス内容などを調査し、比較を交えて分析すると、事業の優位性をアピールできます。
競合他社と差別化できている部分や、付加価値を高めている点については、しっかりアピールしてください。
また、統計データなどの資料をわかりやすく伝えるには、表やグラフの活用をするとより効果的です。

収入計画

事業開始後、いつまでに、どれだけの利益が見込めるのか記載する項目です。利益が出ないと経営の継続は見込めません。
融資の可否においても、収入計画は重要な項目です。

具体的には、開業年度の収入予測や事業の軌道が載った年度の収入予測を作成します。
介護事業はサービス業となるので、サービス単価を利用回数や顧客数から収入を予測します。
介護サービス内容によって介護報酬が異なるので、サービスごとに収入をシミュレーションしてください。

損益分岐点についても、いつ超えることを予定しているのか明確にしてください。損益分岐点とは、売上高と費用が等しく、損益がゼロと計算される売上高を指します。
売上高が損益分岐点を超えると利益が出ていることになります。収入予測に基づいていつ頃から利益が出るのを見込めるのか、事業計画書に記してください。

収支計画

収支計画も収入計画と同様に重要な項目です。介護保険報酬は2カ月後の入金となるため、開業してすぐに利益は見込めません。
確定している利益は黒字でも現金の不足により支払いができないという事態を回避するためにも、収支計画の作成が必要です。

人件費やそのほかの経費を計算することで、介護報酬が出るまでどれだけの運転資金が必要なのか明確になります。
また、利益を出すためには、どれだけの利用者を確保しなければならないのかも予想もできるようになります。

資金計画

どの時期にどれほどの資金が必要なのか、資金計画についても記載します。
介護事業では、施設代・送迎車台・設備投資・広告代・採用活動や研修費など多岐にわたる資金が必要になり、人件費や水道光熱費などの各種支払いと支出も多く出ます。

これらの費用をどのような方法で調達するのか、どれだけの自己資金が必要なのか、しっかりと計画を立ててください。
融資を受ける場合は利子も含め、毎月の返済額やどのくらいの期間をかけて返済するのか計画することも大事です。

介護事業の事業計画書を作成する上で注意したいこと


介護事業の事業計画書は、一般的な事業計画書とは作成のポイントが少し異なってきます。ここで、介護事業の計画書を作成する際の注意点を紹介します。

介護保険の運営基準・指定基準は必ず満たす

介護保険サービスを提供する場合、介護保険が定める運営基準や指定基準を満たす必要があります。
満たさない場合、指定事業者と認められず介護保険サービスを提供できません。

指定事業者は、指定居宅介護施設・指定居宅サービス事業者・介護保険施設の3種類に分けられます。
サービスごとに人員・設備・運営の基準が異なる点に注意が必要です。例えば、デイサービスの事業者であれば、以下の人員基準が定められています。

配置する人員 必要な人員数
管理者 常勤1名
生活相談員 デイサービスを提供する時間数に応じて、同サービスを専従で提供する人が1名以上
機能訓練指導員 常勤1名以上
看護職員 1名以上(利用者数に合わせて変動)
介護職員 1名以上(利用者数に合わせて変動)

サービスごとの指定基準は、厚生労働省のホームページから確認できます。

専門用語は多用しない

事業計画書を作成する際は、専門用語の使用は極力避けてください。
金融機関の融資担当者など、介護業界外の人が事業計画書を見た時、専門用語が多いと内容が正確に伝わらなかったり、誤解を招いたりする恐れがあります。
融資審査においても影響を与えるリスクがあるので、誰が読んでもわかりやすい表現で記入することを意識します。

事業開始後を具体的に想定する

事業開始後の具体的なイメージを持つことも大事です。
例えば、事業計画書の物件調査では、サービスごとの設備基準を満たせる物件かどうか、施設内で食事を提供する際は、どのような形式で提供するのかなど想定していく必要があります。

大規模な施設内で食事を提供する際、調理行為があれば健康増進法に基づく「給食開始届」を提出するほかに、給食施設としての要件をクリアしなければなりません。
防災・防火のために、スプリンクラーや通報装置の有無、避難経路の確保などの確認も必要です。

ほかにも事故、災害などが起きた時や職員が病欠などで休んだ日の対応や資金繰りなど、あらゆるリスクを想定し、それに対応できる体制を事前に考えて、事業計画書に落とし込むことが大事です。

まとめ

事業計画書は、人々の受け入れられる事業の立ち上げや継続のために必要なものです。
出資や融資を受けるためにも必要な資料であり、その内容によって審査の結果は左右されます。
介護事業で起業するのであれば、運営基準や施設基準も確認しながら、事業の中身をじっくり考えて事業計画を立ててみてください。

創業手帳の冊子版(無料)は、起業の準備や事業開始後に役立つ情報を掲載しています。介護事業の開業のサポートにぜひお役立てください。
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(編集:創業手帳編集部)

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