和える 矢島 里佳|「日本の伝統を次世代につなぐために」若きなでしこが率いる“和える”のブレない経営とは
伝統産業品を子ども世代につなぐ「和える」代表 矢島里佳氏インタビュー
(2016/04/11更新)
おっとりした雰囲気に、美しい日本語。その凛とした姿から、まさに「なでしこ」という言葉がぴったりの矢島里佳氏。だが、話を伺うとその第一印象からは想像もつかないほどの芯の強さを感じる。何が彼女をこれほどまで強く突き動かしているのか?「職人さんに惚れてしまった」と話す彼女が、「和える」を通して伝えていきたいことを取材しました。
1988年7月24日生まれ東京都出身。職人の技術と日本伝統の魅力に惹かれ、慶應義塾大学在学中の19歳の頃から日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「伝統や先人の智慧を、次世代につなげたい」という想いから、大学4年時である2011年3月、株式会社「和える」を設立。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、子どもたちのための日用品を、日本全国の職人と共につくる”0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げる。
「今までにない仕事だから、自分で会社を創るところから始めた」
矢島:日本の伝統文化に触れたのは遅く、中学に入って茶華道の部活動を始めたことがきっかけでした。
小学生の頃から「伝える」ということに興味を持ち、ジャーナリストを目指していましたが、大学に入って「何を伝えたいんだろう」と自問自答した時に、中学、高校時代に出会った茶華道を通して、日本の伝統に興味があることに改めて気づきました。
その時に自分は実際の物作りの現場を知らない事に気づき、実際に職人さんを取材するための企画書を作りました。
学生時代、20代〜40代の若手の職人さん達に取材する連載の仕事をJTBと週刊朝日で3年間させて頂きました。
矢島:元々起業をしたかったわけではなく、企業への就職を考えていました。ジャーナリストとして働くということを考えた時に、やはり伝統や先人の智慧を次世代に伝えていきたいなと思いました。
そこから赤ちゃん、子どもたちのために伝統産業品を作る会社に就職しようと思いました。
しかし、そういった会社が見つからなかったのでビジネスコンテストに出し、自ら仕事を創る道を選びました。
まずは、こういうビジネスが必要とされているかを、社会の皆様に問うことから始めました。
矢島:はい。
そもそも自国の伝統に幼少期に触れる機会が自分自身を含めて少なく、日本の伝統や先人の智慧を知らずに大人になっていました。
これからの時代、子どもの頃から知る機会があったら良いなと考えました。
そのため、まずは伝統を赤ちゃん・子どもたちに知っていただく機会を生み出すことが、大切なのではないかと考えました。
けれども、赤ちゃんや子どもたちに伝えるということなので、文章や言葉では伝えられない。
ではどうやって伝えようかと考えたときに、暮らしの中で使う日用品を、職人さんとともに作り、物を通して伝えることが、一番本質的なアプローチになるのではないかと思いました。
また、伝統産業品は自然の素材を活かして作るものが多く、この出会いは、赤ちゃんや子どもたちにとっても、今求められているのではないかと同時に感じました。
そこで、学生時代に取材でお世話になった職人さんに連絡をしました。
矢島:職人さんにお話しすると、伝統を次世代につなげていきたいという想いが重なり、興味を持って話を聞いてくださいました。
ぜひ協力したいと、すぐに一緒に赤ちゃん、子どもたちのための物づくりりが始まりました。
職人さん達とは、ビジネスパートナーというよりも、「伝統や先人の智慧を次世代につなぐ」という、同じ志を持つ同志として、スタートができました。
矢島:皆様が想像するような頑固な職人さんという感じはなく、年齢も30代、40代の若い方が多く、少し上のお兄さん、お姉さんのような感じです。
私自身、全くビジネスの経験もなかったので、経営というよりもどうしたら良い循環を生み出せるかということを一番に考えて動いていました。
どちらかというと、職人さんたちの現場の声、成功や失敗を含めた過去の先人達の声を聞いていたのが、良かったのではないかと思います。
「誰かが悲しむ商売ではなく、三方よしを実現する」
矢島:私達は「物を売る」というよりは、やはり「伝える」という事を一番の仕事だと考えていて、「伝える」ために、物があり、場所があると考えています。
想いを伝えるために、すべてオリジナルで製品を作って、5年目になった今、ようやくスタートラインに立ったという感覚ですね。今の時代オンラインショップだけで実店舗を持たない流れもありますが、私たちはあえて直営店を持ち、物や自分達の存在、日本の伝統や文化を発信し、伝えていくことが大事だと思っております。
儲けることが目の前にあるビジネスをするのではなく、三方良しのビジネスを。本質的に良い循環を生み出すために、三方よしを実現したいと思い、日々取り組んでいます。
21世紀に生きる私たちなりの感覚で色々なことに挑戦し、新たな日本を生きていくための発信の場として、直営店があります。
東京直営店『aeru meguro』は目黒の閑静な住宅街で、京都直営店『aeru gojo』は100年佇む京町家で、伝統と今を生きる私たちの感性や感覚を和えた空間を、それぞれ体現しています。
矢島:伝統や先人の智慧と、今を生きる私達の感性や感覚を和えること、例えば、お料理のほうれん草の胡麻和えは、異素材同士が互いの魅力を引き出しあいながら1つになることで、単体の時よりもより美味しくなっていますよね。
そういうイメージなのだと思います。混ぜるというのはどちらでもなくなるという感覚がありますね。
そして、それが本質であればあるほど、その和えられた時の魅力というのは、何倍にも広がっていくのだと思います。
「どこかで諦めたら終わるけれど、諦めなければ続く」
矢島:今まである文化でありながら、ある意味新しい文化を生み出そうとして始めたので、そこが一番大変だったと思います。
今までは、出産お祝いや誕生お祝いの贈り物はするけれど、そこに日本の伝統品を贈るという選択肢がなかった。
一度、赤ちゃん、子どもたちに贈るという体感をしてくださった方は、その後、本当に何度もリピートしてくださいます。
知っていただき、体感する。その最初のハードルを乗り越えていただくまでが一つの難題で、そしてそのような感覚を持ってくださる方々が増えていくと、循環が生み出されます。
そのために、私たちに出来る事は、なぜ、赤ちゃんや子どもたちに日本の伝統の物を贈ることを、”0から6歳の伝統ブランドaeru”でやっているのかを体感的に伝えていく事。そしてこれを地道にやり続けることだと思います。
矢島:一番初めの商品『徳島県から 本藍染の 出産祝いセット』が完成するときに、自分で新聞社へ電話をしました。
そこから、少しずつ和えるの取り組みを知っていただけるようになり、その後は知っていただく循環が生まれ、取り上げていただけるようになりました。
そしてラジオ、講演会など私の声でお伝えすることも大切にしています。やはり直接言葉で伝えられることは、とても重要だと感じています。
矢島:もちろん和えるのホームページで採用情報も出していますが、それだけですと、和えるを知ってくださった方しか来ていただけません。
ですから、「和えるのことを知らなくても、和えるらしい方がいらっしゃったらご一報ください」と、和えるの周りにいらっしゃる方々にお伝えしています。
ぴったりの人材には、そう簡単に出逢えるものではありませんが、不思議と本当に必要になった時に、素敵な人が現れる。
ただいつでも明確にどんな人が良いかというイメージを持っていることが大切だと感じています。
ものすごく細かくイメージを持って…あとはひたすら探し、待つのみ。
「日本の伝統を次世代につなぐために、今できること。」
矢島:自分自身のビジネスアイディアをまとめる良い機会になりますね。
日々目の前の仕事を優先しがちですが、未来のことも同時に種を撒かないと先細りしてしまいます。
日々、なんとなく考えていることを、一度まとめる時間を意識的に取るためにも、コンテストへの挑戦を活用してきました。
期日までにまとめることを自分に課し、それを第三者である審査員の方へ分かりやすくお伝えする。昨年出場した「日本政策投資銀行主催、女性新ビジネスプランコンペティション」も5年の節目を迎え、最初の事業である『0から6歳の伝統ブランドaeru』の骨格が見え始めてきたタイミングだからこそ、今までのこと、そして新規事業にどんな反応を頂けるか、いろんな想いを込めて挑戦しました。
その結果優勝したことで、皆様から客観的に評価頂けたことが自分達の自信にもつながり、新規事業を始める際の後押しにもなりました。
矢島:そうですね、女性、男性と一概にはわけられないかと思いますが、確かに、熱い想いを持って創業される方が多い傾向はあると感じます。
働く=お金儲け、ではなく、働く=生きていくうえでのやりがい、と考えている人が多いのかもしれません。
もちろん結果的に、利益が出なければ会社として存続できませんが、利益を出すことが目的ではなく、別に目的があり、結果として利益が出るから継続できる。
そのように考えているからこそ、芯の強い方が多いのかもしれませんね。
矢島:私たちは、インバウンドを海外戦略と考えています。海外で評価されたことが素晴らしいと考えるのではなく、素晴らしいものを自分の目で選び取れる日本人であって欲しいという想いから、そのように考えています。
そうでなければこれからの国際競争において日本のアイデンティティーが揺らいでしまいます。
20年後に子どもたちにとって”和える”が日本にあることが、自分達の自慢と言っていただけるような会社でありたいと思っています。
そのためにはまず、国内での認知を推し進めていきたいです。その中で、日本に来てくださる外国の方に日本の魅力を最大限に伝え、お出迎えすることが海外戦略となっていくのだと思います。
矢島:自分に素直に生きるというのが大切だと思います。
私にとって会社は子どものような感覚です。和えるくんが二十歳になって独り立ちするまでは、私はお母さんとして頑張ろうと思っています。
経営するぞ!と意気込むよりも、育み育まれる、という感覚で会社とともに成長していきたいと思います。
会社を育てていると、時に悩むこともあるかと存じますが、ご自身のお気持ちには素直に生きて、ご自身の会社にとって、やるべきこと、そうでないことの取捨選択を、シンプルにブレずに行うことが大切ではないでしょうか。
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