起業の成功確率を上げる「リーンキャンバス」とは?基礎知識や作り方を徹底解説!

創業手帳

リーンキャンバンスで事業計画書のたたき台を作ってみよう。起業のリスクと無駄を徹底的に省く方法


Webサービスの開発現場等を中心に注目を集めているのが、シリコンバレー発のフレームワーク「リーンキャンバス」です。

スピードが重視されるスタートアップにおいて、仮説・検証サイクルを効率化できるので、成功に近づくために役立つツールとして活用事例が多く紹介されています。

また、新分野の展開や業態転換など、コロナ禍による事業再構築を支援する「事業再構築補助金」事業計画書のたたき台としても活用できます。

本記事では、リーンキャンバスの基礎知識や考え方・作り方について解説します。
起業を考えている方は創業期のフレームワークに、業態転換などを検討されている経営者の方は、補助金申請に必要な「事業計画書」のたたき台としてご活用ください。

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リーンキャンバスとは


リーンキャンバスとは、新しいビジネスを開発・実践するためのフレームワークのことです。

シリコンバレーの起業家であるアッシュ・マウリャ氏によって開発され、『Running Lean』という彼の著書のなかで紹介されました。

そして、無数のスタートアップが生まれては消えるシリコンバレーにおいて、起業の成功確率を上げるための方法論が「リーンスタートアップ」です。

その特徴は、仮説を立てて検証を繰り返しながら、リスクを回避して無駄を省いていくことに集約されます。

フレームワークとは

新しいビジネスやプロジェクト、また製品・サービスの開発を始めるときに、以下のような取り組みに使われる「フォーマット」「テンプレート」となるのが、フレームワークです。

<フレームワークの役割>
  • 問題解決の糸口を見つける
  • 意思決定のための要素を抽出する
  • 戦略立案のための論理的思考の枠組みを作る

フレームワークは、ビジネスを構成する要素を分析するための切り口を提供し、ロジックに基づいた「計画の骨組み」を作るために役立ちます。

リーンキャンバスを理解するためのキーワード

まずは、リーンキャンバスを理解するために重要なキーワードについて解説します。

リーン

リーン(lean)には、「贅肉のない」「引き締まった」「無駄がない」といった和訳が当てはまります。

スタートアップのリスクについて、ビジネスアイデアから製品・サービスにおける「市場投入までにかけるリソース」を最小限に抑えることが目的です。

つまり、仮説・検証を繰り返しながら無駄な取り組みを除いていくというのが、リーンの意味合いになります。

リスク

起業において、新たな市場を作り出す可能性がある製品やサービスは、その段階では不確定要素を含んだアイディアにすぎません。

そのため、まだ見ぬ顧客に対して、望まれない製品・サービスを作り続けてしまうことが、スタートアップにとってのリスクです。

<スタートアップのリスク3つ>
  • 製品リスク
    → ユーザーの真の課題を解決する製品・サービスかどうか
  • 顧客リスク
    → 想定するターゲットが正しいかどうか、顧客へのアプローチ経路があるか
  • 市場リスク
    → ビジネスとして成立する収益を上げられるか

なお、後述する「リーンキャンバスの9つの要素」を埋めていくなかで、上記1~3のリスクを洗い出して把握することになります。

独自の価値(UVP:Unique Value Proposition)

UVP(独自の価値)とは、ビジネスアイディアによって解決する「顧客の課題」と、想定する顧客セグメントを結びつけることです。

UVPを高めるために、仮説・検証を繰り返しながら、より上位の価値・コンセプトに発展させていきます。

なお、「リーンキャンバスの9つの要素」では中央に配置され、ビジネスの意義を決定づける重要項目に位置づけられます。

アーリーアダプター

リリース直後の段階で、製品・サービスを使ってくれるのが「アーリーアダプター」です。

初期の製品・サービスに対する「顧客側の反応」を見る上でも重要な存在であり、彼らの反応が前期追随層(※)に拡大するかの試金石となります。

(※)前期追随層とは、新商品の購入に対して慎重ではあるものの、話題になると購入する消費者層のこと。市場全体の約3割は「前期追随者」と言われており、アーリーマジョリティとも呼ばれる。

実用最小限の製品(MVP:Minimum Viable Productr)

人・モノ・金・時間のリソース投入を最小限にしながら、無駄のない筋肉質なビジネスに成長させていくのが、リーンスタートアップです。

そのために、独自の価値(UVP)を実現するための最低限の要素に絞り込んだ製品・サービスを最初にリリースします。

これは、リーンキャンバスの各要素に不透明さが残る段階で、開発が誤った方向に進むことを防ぐためです。

インタビュー

リーンスタートアップでは、製品・サービスに対するフィードバックとして、ユーザーへのインタビューを重視します。

とくに、初期の段階で「製品やサービスを受け入れてくれそうな」アーリーアダプター候補からのインタビューは、リーンキャンバスで立てた仮説が課題解決につながるかを判断する重要な過程となります。

リーンキャンバスの9つの要素


リーンキャンバスは上記9つの要素を切り口として、ビジネスアイディアを具体的にしていきます。

ターゲットとなるユーザーの課題を解決する商品や、サービスを見極めていくための作業なので、「1.顧客セグメント」と「2.課題」からスタートして、番号順に考えていくのが自然な流れです。

ただし、1~9までの番号は記入する順番という意味ではないため、順番にこだわる必要はなく、埋められない要素があっても問題ありません。

1.顧客セグメント

まずは、製品・サービスのターゲットとなる「顧客層」を明確にします。

デモグラフィック属性(※)にとらわれず、課題を抱えるユーザーの利用シーンを想像した上で、ユーザーの特徴をより具体的に言語化しましょう。

また、スタートアップのポジションは新規参入者です。

そのため、最初から広い顧客セグメントを想定するのではなく、最初に買ってくれそうな人(アーリーアダプター)を鮮明に思い描いてみることが、次の課題とあわせて重要になります。

これは、細分化された市場に特化することで「競合他社との差別化」を図るほうが、新規参入者にとって有利な戦略だからです。

このように、顧客セグメントを特定していくなかで、リーンキャンバスの特徴と言えるのが、アーリーアダプターをとくに意識することになります。

(※)デモグラフィック属性とは、顧客データ分析の指標となる属性のこと。「性別」「年齢」「居住地」「家族構成」「職業」「年収」など。

2.課題

想定する顧客セグメントが、既存の製品・サービスに対して抱えている不便なところや行き届かないところを、課題として3つほど挙げていきます。

このとき、課題と顧客セグメントを行ったり来たりしながら、両者を具体化することで、ビジネスの領域がより明確になっていきます。

また、2.課題では「課題解決に対する既存の代替手段」も拾い上げておきます。既存の代替手段とは、すでにユーザーの悩みを解決する方法として考えられているものや、課題解決の代替案といったものです。

これは競合他社のリスクのあぶり出しや、新たな解決方法を見つける際に有効活用できます。

3.独自の価値提案

ユーザーが購入するところまで想定した上で、「製品・サービスを購入・利用することによって得られる価値」を言語化します。

このとき、既存の製品・サービスや代替品と差別化するために、機能・スペック・使用条件など「論理的に説明できる要素」を洗い出します。

また、UX(※)としての斬新さなど「感覚的な要素」の価値も意識しましょう。

特定の顧客セグメントに特化した課題を解決することが、ユーザーにとっての価値につながるので、既存品や代替品にはない独自性やユニークさが求められます。

(※)UXとは、ユーザーエクスペリエンスのこと。「ひとつの製品・サービスによって得られる体験」を意味しており、製品・サービスの向上を目的とする。

4.ソリューション

ユーザーの抱える課題を解決する方法を、具体的に挙げていきます。

もちろん、すべてが製品・サービスに落とし込めるわけではなく、想定した解決方法が不十分な可能性もあるでしょう。

そのため、最初の製品・サービスはMVP(実用最小限)として、仮説・検証を重ねながら精度を高めていく段階となります。

5.チャネル

ユーザーにリーチ(※)するための経路・販路といった意味合いのほかに、アーリーアダプターからフィードバックを得るための手段といったことも含みます。

例えば、オンラインであれば、オーガニック検索・SNSの活用・検索連動型広告の採用など、さまざまな手段が考えられます。リアルであれば、流通経路の開拓や営業戦略が必要です。

フィードバックは、オンラインで窓口を開いたり、SNSからアプローチしたりするなど、きっかけを作った上で、幅広く深い評価を拾い上げる工夫をしましょう。

(※)リーチとは、インターネット広告の到達率を意味するデジタルマーケティング用語。特定期間において広告を目にしたユーザーの人数(回数)のこと。

6.収益の流れ

収益の流れでは、「売上形態(※)」「価格設定」「想定市場に対する売上予測」を具体的な数字にします。

課題で設定した代替品の価格やキャッシュポイントをベンチマーク(基準)とします。

(※)一律価格、従量課金、成果報酬など

7.コスト構造

ビジネスとして成立するかを評価するために、「6.収益の流れ」とあわせて見ていく部分です。変動費・固定費に分けた上で、コストを見積もります。

ビジネス初期の段階では、収益・コストともに不透明な状態なので、9つの要素それぞれを更新しながら、同時に精緻化を図っていきましょう。

8.主要な指標

KPI(※)を設定します。「収益とリンクするものであるか」という点も重要ですが、スタートアップとして前に進んでいることを象徴するものであり、次の行動につながる指標であることが理想です。

(※)KPI(Key Performance Indicator)とは、重要業績評価指標のこと。目標達成に向けて、進捗状況を計測するための定量的な指標。

9.圧倒的な優位性

1~8までの各要素を俯瞰した上で、大手企業の同質化戦略にも対抗できるような差別化要因がないか、あるいは作り出せないかを検討します。

ありとあらゆる製品・サービスが既に存在し、チャレンジして破れていくスタートアップが多数を占めるなかで、圧倒的な優位性を作り出すのは並大抵のことではありません。

仮説・検証を繰り返して「リーンキャンバスの9つの要素」を更新しつつ、リスクの存在を認識しながら、ビジネスプランを精緻なものにしていくことが、スタートアップの成功確率を上げる「リーンスタートアップ」です。

リーンキャンバスが評価されている理由


ネット環境と多様なデバイスの普及により、スタートアップが身近になったことがリーンキャンバスが注目されている背景といえます。

資金調達手段が多様化し、成長スピードが求められるようになったスタートアップでは、ユーザーニーズに対するアプローチが弱いままだと、求められない製品・サービスを作り続けてしまうといった事例が多く見られます。

一方で、リーンキャンバスでは、初期の段階で「ユーザーの真の課題」と「解決方法」を探るために、インタビュー(情報量の多いフィードバック)を重視します。

そのため、技術力への過信や作り手側の思い込みにより、ユーザーニーズと乖離した製品・サービスに対して、無駄なコストと時間を費やすことはありません。

また、MVP(実用最小限の製品)からスタートすることも、リーンキャンバスによって起業の成功率が高まる、ひとつの大きな要素です。

リーンキャンバスで仮説と検証を繰り返す方法論は、PDCAサイクルの活用や、アンケート・インタビューからユーザーニーズを汲み取り、製品開発に活かす点において、従来のマーケティングの考え方です。

そのため、最初からKPIありきで動き出すスタートアップでは見過ごされがちな、最も重要となる「顧客の課題」にフォーカスできます。

つまり、ソリューション開発に向けて、着実にステップアップできる道筋を示している点が、リーンキャンバスが注目されている理由です。

リーンキャンバスの書き方・作り方


ここでは、リーンキャンバスの書き方・作り方の流れについて解説します。

9つの要素を言語化する


9つの要素に分けられたフォーマットの左側は「製品・サービス」となり、右側は「市場に関するそれぞれの切り口」が配置されています。

それらを結びつけるために中央に置かれているのが、3.独自の価値提案(UVP)です。

リーンキャンバスを作成する過程では、左側と右側を行ったり来たりしながら、9つの要素のそれぞれを言語化していくという作業になります。

その際に意識するのは、常にユーザーの視点から各要素を見ることです。一つの要素に記入した内容が、他の要素に影響することもあります。

さらに、インタビューの結果を受けて変更すべき要素、MVPリリース後やKPIを踏まえて、変更・修正すべき要素が出てきた場合などは、そのたびに各要素を更新していきます。

仮説・検証を繰り返しながら更新する


上記の図は、リーンキャンバスの作成プロセスを示したものです。リーンキャンバスは、9つの要素を書き込んだ時点で完成するものではありません。

「9.圧倒的優位性」にたどり着くまでの道筋が確実なものになるまで、修正を加えながら仮説・検証を繰り返していきます。

STEP1.課題の発見・解決方法の仮説

まずは、ビジネスプランの着想を9つの要素に分解して、書き込むところからスタートします。仮説を立てる段階なので、より自由な発想から9つの要素を埋めていきましょう。

図では3つに分岐していますが、ひとつのリーンキャンバスを修正しながら作り込むこともでき、何通りかの可能性が考えられる場合は、複数のオプション(選択肢)を設定します。

なお、次の検証過程に進む前に、9つの要素のうち「リスクとなる要素」に優先順位をつけて想定しておくことが重要です。

STEP2.仮説の検証

9つの要素を仮説として完成させたら、最初の検証過程に移ります。

この段階では、「1.顧客セグメント」「2.課題」「4.ソリューション」についての仮説が正しいかを検証します。

定性的な情報(数値化できない要素)が必要であり、設定した顧客セグメントに該当する「見込み客」に対して、課題の存在・解決の必要性を提案することになります。

また、課題解決の方法として提案するソリューションが、顧客の求めるものかどうかをインタビューによって確認しましょう。

このとき、インタビューで明らかになったリスク要素の大きさによっては、一から考え直さなければならない可能性もあり、部分的な修正だけの場合も考えられます。

インタビューは対面・オンラインなどの方法が考えられますが、重要なのは「想定した課題」とインタビュイー(話を聞かせてくれる人)の関連性が高いこと、そして出来る限り多様な意見を集めることです。

STEP3.MVP(実用最小限の製品)のリリース

インタビューによる検証過程で明らかになった、顧客が抱える課題の「本質的な部分のみを解決する」製品・サービスを試作しましょう。

試作品は最小限のコスト・時間で完成を目指しますが、これがMVP(実用最小限の製品)に該当します。

これは、リーンキャンバスの仮説をインタビューによって検証し、顧客の課題を解決できる(ソリューションを提供できる)見通しがついた段階です。

そのため、ビジネスとして成立するかを見極めるためには、さらに仮説・検証を繰り返す必要があります。

提供するソリューションを最適な形に作り込んでいくため、あるいは大きな修正が必要となる可能性も残るため、この段階では必要最低限の機能・性能・デザインに絞り込んでください。

STEP4.市場性の検証

MVPがビジネスとして成立するかを検証するステップに移ります。

この段階になると、ユーザーの反応はより具体的なものになりやすいので、リリース直後はMVPに対する「定性的な評価」を集めます。

ここでもインタビューという方法は、ユーザーのダイレクトな反応を見ながら、同時に詳しい感想を聞くことができる点で優れています。

このとき、インタビューをもとに必要があればMVPに変更や修正を加えます。

そして、販売数量・アクセス数などの規模が一定数になったところで、定量的なデータ収集(数値化できる要素)の段階に移行していきます。

収集可能なデータや、結果として表れる数値データは、業種やビジネスの種類によってさまざまですが、メンバーのモチベーションにつながるKPIを設定することが重要です。

STEP5.スケール

KPIの目標値を定めて、目標が達成されたところで本格的な規模拡大を目指します。

この段階ではMVP(実用最小限の製品)の最適化に加えて、プロモーション・チャネル戦略のウエイトを増していきましょう。

まとめ

フレームワークは、事業計画書を作るための叩き台として使われます。

しかし、「考え」や「アイディア」を言語化する作業は、それぞれのフレームワークに対する正しい理解がないと、絵に描いた餅になってしまうこともあるでしょう。

リーンキャンバスは、9つの要素に分けて効率的に計画できるため、仮説・検証の流れがスムーズに進み、リスクを洗い出しながら目標達成までの道筋を明確化できます。

創業期のスタートアップや、転換期の企業における事業計画書の作成に役立つため、リーンキャンバスを活用して、自社の事業内容を俯瞰的な視点で整理しましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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