失業保険の要件が緩和!雇用保険改正で給付制限期間が短縮に【2025年4月〜】

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起業したい方に朗報!教育訓練ありなら自己都合退職でも失業手当が即支給に!訓練なし受給制限も1ヶ月に

2024年度の雇用保険制度の改正により、失業保険や教育訓練給付などの制度拡充が予定されています。自己都合退職でも失業手当が受け取りやすくなるため、これから起業にチャレンジしたいと考えている方の追い風となるでしょう。

この記事では、今回の雇用保険制度改正のポイントを、主に起業家志望者の観点から解説します。中小企業への影響や対策についても紹介するのでぜひ参考にしてください。

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2024年5月に雇用保険制度が改正

2024年5月10日に雇用保険制度が改正され、雇用保険の要件や教育訓練給付金などにかかわるルールが一部変更となりました。主な変更内容は以下の通りです。

雇用保険制度の改正(令和6年改正)の概要

  • 雇用保険の適用拡大:被保険者の要件の、週所定労働時間を「20時間以上」→「10時間以上」に変更
  • 失業保険の給付制限の緩和:自己都合退職でも教育訓練を受ければ給付制限なしに。訓練なしの制限期間も「2ヶ月」→「1ヶ月」に短縮
  • 教育訓練給付金の引き上げ:教育訓練給付金の支給率を「最大70%」→「最大80%」に引き上げ
  • 教育訓練休暇給付金の創設:教育訓練のための休暇取得に対して基本手当を支給
  • 育児休業給付の財政基盤の強化:国庫負担割合を「1/80」→「1/8」に、保険料率を「0.4%」→「0.5%」に引き上げ
  • その他の見直し:教育訓練支援給付金の給付率引き上げ、就業促進手当(就業手当)の廃止など


上記のうち、中小企業にとって影響が大きいといえるのが、雇用保険の適用拡大や育児休業給付のための保険料率引き上げです。大半の中小企業にとって雇用保険料や事務手続きの負担増は必至であり、場合によって資金の確保などの対策も必要となります。

一方、労働者、とくに起業を志す人々にとっては、失業保険の給付制限の緩和や教育訓練給付金等の拡充など、メリットの多い改正です。これについては次項で詳しく解説します。

【起業志望者向け】雇用保険制度改正のポイント

今回の雇用保険制度の改正は、労働者の再就職活動やリスキリングを促進する内容となっています。本改正の施行(2024年10月〜)以後は、新しくなった教育訓練給付や失業手当をうまく利用することで、起業準備をより良く進められるでしょう。

以下では、起業志望者向けに今回の雇用保険改正のポイントを紹介します。

【2024年10月】教育訓練給付金の給付上限を70%→80%に引き上げ

2024年10月1日より、教育訓練給付金の給付率が最大70%から最大80%に引き上げられます。教育訓練給付制度とは、行政が指定したキャリア形成のための講座を修了した際に、受講費用の一部が補助される仕組みです。

今回の給付上限の引き上げは、所定の要件を満たした場合に、現行の上限にプラスしてさらに10%の追加給付が行われるという形で実現されます。例えば、中長期キャリア形成のための専門実践教育訓練給付金の場合、講座受講後に賃金が上昇すれば+10%が支給されます。すみやかな再就職等のための特定一般教育訓練給付金の場合は、受講後に資格を取得して就職等することが追加支給のための条件です。

出典:厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」, 教育訓練給付の拡充【雇用保険法等の一部を改正する法律案 】

改正後の教育訓練給付制度を利用すれば、自己負担20%〜でキャリア講座が受講できるため、起業に向けたスキルアップにもおすすめです。後述の通り、今回の改正では、教育訓練を受けることで失業手当の受給においても恩恵を受けられます。

【2025年4月】自己都合退職による失業手当の給付制限の緩和

2025年4月1日より、離職前後(離職前は1年以内)に教育訓練を受講した場合は、自己都合離職における失業給付(基本手当)の給付制限が解除されます。そのため、事前に教育訓練を受けていれば、自己都合で会社を辞めた場合でも、7日間の待機期間が明けたらすぐに失業保険を受給できます。

現行法では、自己都合で退職すると、待機満了から2ヶ月(5年以内に2回を超える受給では3ヶ月)は給付制限がかかり、すぐに失業保険を受給できません。対して今回の改正では、教育訓練ありなら給付制限を解除、教育訓練なしでも給付制限期間が2ヶ月から1ヶ月に短縮されました。

自己都合離職者でも失業給付が受け取りやすくなることで、起業や転職といったキャリアチェンジは今よりもしやすくなります。最短で即支給される失業給付を、起業準備期間や再就職活動期間中の生活資金に充てられるからです。

前述の通り、給付制限の緩和に先立つ2024年10月に教育訓練給付金の給付率が上がります。そのため、例えば起業志望の場合には、24年10月以降に経営や実業に役立つキャリア講座を受講し、翌25年4月以降に起業に向けて自己都合で退職するというプランも考えられます。

【2025年10月】休暇中に基本手当が出る教育訓練休暇給付金の創設

2025年10月1日からは、教育訓練のための休暇時に手当が受け取れる教育訓練休暇給付金も創設されます。教育訓練を受けるために休暇を取った際、90〜150日の間、失業手当と同等の給付を受けられるという制度です。

休暇を取れば、将来創り上げたい事業について考える時間も作れるので、同制度を起業への足がかりにするのもよいでしょう。教育訓練を受けておくことで失業保険の給付制限も解除されるため、よりスムーズに退職、起業準備へと進めます。

出典:厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」, 教育訓練中の生活を支えるための給付の創設【雇用保険法等の一部を改正する法律案】


【中小企業向け】雇用保険法改正に伴う懸念点と対策

起業志望者にとってはメリットの多い今回の雇用保険制度改正ですが、中小企業にとっては実質的な負担増となります。起業した後のことも想定して、中小企業にとっての懸念点も確認しておきましょう。

懸念点1:自己都合退職による離職増加

失業保険の給付制限が緩和されることで、自己都合で退職するハードルは下がります。労働者にとっては起業や再就職に向けて会社を辞めやすくなるのでよいことですが、雇用する会社にとっては人材流出のリスクが上がるのでデメリットです。

中小企業は来たる2025年4月に向けて、大規模な自己都合離職を防止するための措置を何か講じなければなりません。起業して経営者となったのち、優れた人材の維持が難しくなる可能性があることから、離職防止は起業志望者にとっても考えるべき課題といえます。

対策案

離職率を低レベルに維持するには、たとえ自己都合退職がしやすくなったとしても「この会社にとどまりたい」と労働者に思わせるような労働環境を築き上げることが重要です。具体的な対策としては以下のような方法が挙げられます。

離職率を上げないための対策案の例

  • 長時間労働を是正する
  • 賃金体系や評価方法を見直す
  • 育休や介護休暇を推進する
  • 業績を上げて将来性を高める

なお、賃上げや働き方改革、育休制度の拡充など、雇用関係の対策を講じる際には助成金も便利です。助成金を活用すれば、労働条件を整備しながら人件費や設備投資のための支給を受けられます。助成金については以下の記事で詳しく解説しているのでぜひ参考にしてください。

【従業員1名から使える】小規模事業者におすすめの助成金7選|賃上げ、設備投資など

懸念点2:雇用保険の適用拡大の影響

まだ少し先ですが、2028年10月1日より、雇用保険の適用が週所定労働時間「20時間以上」から「10時間以上」に拡大されます。この適用拡大により、今まで適用対象外だったパート・アルバイト等の労働者が新たに500万人雇用保険に加入するといわれています。また2025年度からは、育児休業給付に関する保険料率が現行の0.4%から0.5%に引き上げられる予定です。

こうした改正によって、中小企業が負担する雇用保険料は確実に大きくなります。2028年10月以降、新たに適用対象となる労働者の数が多い場合には、とりわけ大幅な負担増となりえます。雇用保険料は年間一括払いであり、とくに資金力に乏しい小規模事業者にとっては相当な負担になる恐れがあるので注意すべきです。

また雇用保険の加入者が増えることで、「雇用保険被保険者資格取得届」の提出をはじめとする事務手続きが増えることも懸念されます。これまで雇用保険の加入者がいなかった小規模事業者では、新たに事業所設置の手続きも必要になります。

対策案

2028年10月の適用拡大によって雇用保険の加入者が自社でどれだけ増えるかを、早めに試算しておくのがおすすめです。保険料の負担が大幅に増加する場合は、そのための資金も確保しておかなければなりません。

また事務処理に関してもどれだけ負担が増えるのか、新たにどのような手続きが必要になるかを確認しておきましょう。自社で処理するのが難しい場合には、社労士事務所や労働保険事務組合などの専門機関に頼るのもよいでしょう。

まとめ

2025年4月以降、自己都合退職でも教育訓練を受ければ失業保険の給付制限が解除されます。前年10月には教育訓練給付制度も拡充されるので、教育訓練給付金と失業保険をセットで活用して起業の足がかりにするのもおすすめです。

一方、失業給付を受け取りやすくなることは、中小企業にとっては離職率が上がる懸念材料であり、2028年10月からは雇用保険の適用拡大も予定されています。中小企業の経営者の方々は、また起業家志望の方は将来のことを想定して、離職防止に向けた労働環境の改善などの対策について検討するのがよいでしょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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