書道家・武田双雲【第一回】起業家に贈る「ワクワクして生きる方法」
書道家 武田双雲氏インタビュー
(2015/07/31更新)
創造的かつエネルギッシュな作風で人気の書道家・武田双雲氏。大手企業のNTTを辞めてストリート書道からその経歴をスタートさせた氏は、現在NHK大河ドラマ『天地人』の題字をはじめ、多くの作品を生み出すアーティストとして活躍、すぐに満席になる書道教室も主宰しています。その一方で、突き抜けたポジティブさで訴えかけるビジネスマン向けの講演も好評を博しています。
経営者というのは日々圧倒的なプレッシャーと戦い、精神面の管理が重要になってくる仕事。そんな経営者にとって、双雲流の伸びやかな感性は琴線に触れるものがあり、話を聞いているだけで自然とストレスから解放されるかもしれません。そこで創業手帳では、『無悩力』などの著書も多い武田氏に、湘南のアトリエでインタビューを敢行。インタビュアーもワクワクしながら伺ったその話の内容を、全2回に分けてお届けします。
ネガティブな状況をゲームのように遊んでいく
双雲:ポジティブって人によって全然イメージが違うんですよ。例えば松岡修造さんもポジティブだし、ベッキーだってポジティブですよね?僕のポジティブはネガをポジに変えるポジではなく、ただふざけているだけなんです。だから高田純次さんに近い(笑)。
逆境に負けないとか、苦しいことも乗り越えるとか、どんな問題でも解決するという感じのポジではなくて、もっと状況をゲームのように遊んでいく。常にワクワクしている感じですね。
双雲:そもそも僕には失敗や成功という概念がないんですよ。全部が面白いから毎日がパラダイスになる。
だから書道家としてストリートに出た時も、お客さんが来ないということが面白すぎて1人でゲラゲラ笑っていました。2日目でやっと1人目のお客さんが来たんですけど、そのおじさんが志村けんのコントかってぐらい酔っ払っていて、僕に「大好きな松田聖子の名前を書いてくれ」って言うんです。
人生最初の依頼が松田聖子ってなかなかないじゃないですか(笑)。もちろん喜んで書きましたけど、帰りに駅の改札を通りかかるとその「松田聖子」が落ちていてね。ガンガン人に踏まれているわけです。でも何だか面白かったんですよね。文章にすると切ないけれど、あのおっさんやっぱり落としたかってね(笑)。
この状況を逆境と言うかどうかというのは自分次第じゃないかな。僕はインタビューを受けるとどうしても苦労時代について聞かれることが多いけれど、無理矢理苦労話を探して答えているようなところがあって。だってその瞬間瞬間が最高に楽しいから、全然苦しくないんですよ。
双雲:例えば自分がカフェを開くことになって、オープン日の目標を100人にしたのに2人しか来なかったとする。多くの人はそれに対して落ち込んで、残りの98人を獲得するためにチラシを撒きに行ったりするじゃないですか。でもそんなことよりも、来てくれた2人に最高だと思わせる何かをやりたくないですか?「お客様もてなしゲーム」みたいにね。
ビジネスってそもそもお客様を獲得することが目的じゃなくて、「こんなにすごいものが出来たから食べてみて、使ってみて」というのが始まりじゃないですか。それを忘れてしまうと、単なる数字獲得ゲームになって虚が生まれてしまう。数字を達成したところでリアルがないですからね。それよりも、本当に旨いよって言いながら一緒に泣いてくれる人とか、分かるよって共感してくれる人を大切にすべきなんですよ。現代人は、うまくいっているかどうかということを早く決めすぎるんじゃないかな。
考える人称の単位を上げ、大きな視点から物事を考える
双雲:以前「いつか街で一番の会社になって自社ビルを持ちたい」という起業家の方に出会ったので、「じゃあそのビルは100年後街にとってどういうシンボルになっていますか?ビルで働く社員の幸福度はどのぐらいになっているでしょうか」と聞いたんですね。そうしたらその方はビルを持つことが目的になってしまっていて、その質問に答えられなかった。
でも本来は「一番になってどうしたいか」の方が大事なんですよね。ところが、一番になった後にどういう社会になれば豊かでみんながハッピーになれるのか、ということを語っている人が少ない。物理的な大きさや規模など、想像が付くレベルで物事を話していて、夢が三次元の世界で終わってしまっているんですよね。みんなの幸福力や家族力、自律神経が整っている人の割合をどれだけ増やせるか、というようなことを真剣に語っている企業なんて見たことがない。でも本来そっちの方が目的なわけで、会社を大きくすることが目的じゃないと思うんですよ。
子供の宿題で書けそうなレベルで目的が終わってしまうというのは少し小さいなと。人間の想像力ってそんなレベルで留まるものではなくて、本来シームレスなものですよね。せっかく人間には無限の想像力があるんだから、もっと宇宙レベルで考えればいいのにと思います。しかも想像力が膨らむと、想像以上の現実がやってきますからね。
目標が物理的なレイヤーで止まってしまっている人が多い気がするので、もっとレイヤーを上げていくといいと思うんですよね。僕はそれをよく「人称を上げる」と言うんですけど、一人称だと自分がこうしたい、二人称だと妻やパートナー、三人称だと家族などの自分のコミュニティで、みんなその人称が四人称ぐらいで終わってしまっている。なのでその人称をもっと上げられればいいなと。
五人称、六人称ぐらいになっていくと、100年後の人類とかそういう視点から物事を考えられるようになる。そこから落とし込んでいくとエネルギーが全然違うわけですよ。エネルギーは高いところから低いところへ流れるので、想像しながら一瞬でエネルギーを高いところに持っていけばいいだけなんですよね。そうしないと、物理的規模で終わってしまってもったいないと思いますね。
起業家の皆さんはビジネスのプロなので、利益を上げることにおいては天才的ですが、持っている経営技術やスキルをもっと人称が高いところで活かして、より大きな志を持って欲しいと思います。ただ便利にするだけ、ただニーズに応えているだけでは資本主義は間違いなく行き詰まりますし、いくら便利になってスピードが上がったって幸福にはなれませんからね。
双雲:直接言うことはないですけど、漏れていますよね。だからみんな会社を辞めて起業しちゃう(笑)。逆に起業家が会社をたたむこともありますよ。
楽しむことと感謝すること、それだけでポジティブになれる
双雲:誰でも絶対小さい頃は、何でも無邪気に楽しめていたはずなんですよね。それを忘れているだけだから、思い出すだけでいいんですよ。うちにも10カ月の赤ん坊がいますけど、ピン留めをただガシャーンってバラまくだけのことを楽しんで、それをひたすらずっとやっていますからね。例えば朝起きる時、それだけでも楽しもうと思えば楽しめる。どれだけふわっと起きれるかって考えながら起きたら楽しくないですか?どれだけ少ない水でコスパ良く顔の全面を洗えるか、とかね。
双雲:楽しそうな表情をして楽しそうなことを言っていたら、人間ってそれだけで楽しくなる。食事の時も、どんな食事が出ようが最高の食事だと思って食べた方がいいですよ。たとえまずくたって面白いじゃないですか。「なんでこんな味になったんですか」って店主に聞きたくなるでしょ(笑)。もしかしたら壮絶な物語があるかもしれない。僕はそんなことを常に想像しているから、どこへ行っても毎日楽しいですよ。
双雲:僕と1週間一緒に過ごしてもらったらみんな洗脳されると思います。木が風にそよそよと揺れているだけで、バイバイしてるんじゃないよと思ったりね(笑)。僕はそんなことを小学校からずっとやって煙たがられてきたんですけど、なぜか書道家になると聞いてくれる人が増えました。サラリーマン時代は「仕事は遊びじゃないんだ!」って相当怒られましたけど(笑)。
だって僕、就職活動の面接で「NTTがどんな会社か知りませんけど、世界一楽しい会社します」って言ったんですよ。なんでそんなに偉そうなんだ、空気ってものがあるだろっていう感じですよね(笑)。でも担当者の人に「君が一番面白かった」と言われて運良く受かりました。就職活動だって楽しめば受かるんですよ。楽しんでいて採用されなかったら、その会社と合わないということです。
双雲:先ほど言った「楽しむ」ということと、「感謝する」ということを意識して毎日過ごしています。人間は普通何かがあるからありがたいと思うんだけど、そうじゃなくて最初から「ありがたい」と言っていると、世の中すべてがありがたいものに見えてくるんですよ。
例えばこの取材。俺は喋りたがり屋だけど誰も聞いてくれない。妻も書道教室の生徒さんも聞いてくれずになかなか喋る機会が与えられなくて、でも今日は皆さんがこうして聞きに来てくれた。その上綺麗にまとめて周りに伝えてくれるなんて、僕からするとサンタさんみたいな存在ですよ。そうやって感謝していると、さらにそれがいい縁になってどんどん輪が広がっていくんです。感謝は最高の状態で縁を引き寄せますね。
(創業手帳編集部)
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