東大院卒のタイ人僧侶 ロンピーソムキャット|ブレない起業家の胆力講座 マインドフルネスと世界で活躍する方法

創業手帳

心を休ませ、空っぽにすることの大切さを日本人はもっと意識するべき

起業家が難しい決断を迫られる時に重要なのがブレない力、胆力です。強い組織は社長の心から。そんな社長の胆力を高める方法が、実は日常の隙間時間でできる瞑想にあると東大の大学院で仏教を学び、海外に瞑想の力を広める活動をしているロンピーソムキャット氏は言います。

創業手帳代表の大久保が、ロンピーソムキャット氏の今までの半生や瞑想の力についてうかがいました。

ロンピーソムキャット
タンマガーイ寺院僧侶
タイで大学卒業後、エンジニアとして日系企業に就職。東大大学院にてインド哲学仏教学を学ぶ。10年間勉強した後、タイに戻り出家。タンマガーイ寺院を拠点として、なじみのある日本を始め、ヨーロッパや中国など海外のさまざまな国に海外に瞑想を広める活動を行っている。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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タイの僧侶は給料がない!

大久保:東大の大学院で学び、その後僧侶になられたのですよね。

ロンピーソムキャット:タイでエンジニアになるための大学を卒業した後、22才から2年間エンジニアとしてタイにある日本の企業で働いていました。その後、仏教に興味を持ち、インド哲学仏教学を学ぶために東大大学院に留学しました。

大久保:日本語は堪能だったのですか。

ロンピーソムキャット:ほぼゼロに近い状態でした。インド哲学仏教学を勉強するためにはサンスクリット語なども学ぶ必要があり、日本語を介して理解しなければいけなかったので非常に大変でしたね。

周囲の皆さんが仏教を勉強していることもあってか優しく寛大で、いろいろと助けていただきました。

その後、タイに戻って出家しました。タイでは親孝行やそれまで育ててもらった恩返しのため、また一人前になるために出家をするという考え方があり、出家は日本に比べると身近なものです。

最初は軽い気持ちでしたが、初めて瞑想をしたときに「なんて素晴らしいんだ、永遠にしていたい」と感じました。それまで仏教を教科書で勉強していましたが、実践をすることで「あの時の文章はこういうことを指していたのか」というように、本当の仏教が理解できたのです。毎日の修行をすればするほど、もっと深いものが待っていると感じ、修行を続けたいと思いました。

エンジニアは実験が好きですから、もっと奥にある深いものが知りたい、極めたいという好奇心が出てきたのはそういった私のバックグラウンドもあるかもしれません。

大久保:修行はどのように進むのですか。

ロンピーソムキャット:最初の5年間は僧侶の元で学びます。立ち振る舞いや食べ方から始まり、例えばゆっくり噛むこと、飲み込んだ食べ物がどこまで届いたかなどに意識を集中するといったレッスンを受けるのですが、それまでの自分の当たり前は当たり前ではなかったことに気づき、より自分が何をしているのかにフォーカスする習慣がつきました。

次の5年間は学んだことを生かして実践します。私の場合は田舎に派遣され、地元の方のためにお寺で瞑想会やイベントを行いました。10年経つと独立ということになります。

大久保:タイでの僧侶の役割はどういったものでしょうか。

ロンピーソムキャットタイの僧侶は給料がありません。そのかわり托鉢で一般の方々から食料等を頂いて支えられています。皆さんから支援して頂いたご恩に対して修行で得たものに基づいて信者さんにアドバイスします。

皆さんからは生活の支援をして頂き、また僧侶は精神面で皆さんを支えます。この面では僧侶は精神的な医者でもあると私は考えています。誰かのために生きる事は価値がある事だと思っていますので。そのため毎日世界の人々に瞑想を教え、皆さんが苦しみから逃れられるように指導しています。

忙しくてもできる瞑想やマインドフルネスのすすめ

大久保:給料がないというのは驚きですね。社長になると難しい判断をしないといけない場面がありますが、浮かれていたり心がブレていると正しい決断ができない気がしています。心を無にするためにはどんな心がけが必要でしょうか。

ロンピーソムキャット:人生を道のようなものと考えると、突然大きな石が邪魔してきたりすることはよくあります。多くの人はその石を背負って疲れ切ってしまいます。もう疲れたからやめたいと思っても、石をおろすことで自分が楽になることが許せない人が多いのです。

問題がおきたときにやるべきことはそれを背負うのではなく、いったんはそこから離れて瞑想などで自分を冷静にすることです。

冷静になれば正しい判断ができますし、解決できるものとできないものを判断することも可能です。例えばコロナのように、個人のレベルではほとんど何も解決できない問題があるとすれば、それに対してなんとか解決しようと努力するのではなく、自分がコントロールできることに心を向けましょう。

問題の本質は蟻のようなものなのに、心配しすぎて象であるかのように考えてしまうのも人間のおかしてしまいがちな間違いです。

心配していたり、不安になっているときというのは自分の心が濁っているときです。そんなときに判断しても、ベストな選択はできません。純粋な心になると、物事のありのままを見ることができるのです。自分の心をガラスのようにきれいにする必要性があり、そのためには瞑想が有効なのです。

大久保:大久保:日本の政治家の中曽根康弘氏は首相在任中、毎週のように東京・谷中にある臨済宗の禅寺「全生庵(ぜんしょうあん)」で座禅を組んでいたそうです。また「経営の神様」と呼ばれた京セラの稲盛和夫氏は仏門に入り修行や托鉢も経験したとか。重要な決断をしなければならないトップにとって仏教は身近なものなんですね。

ロンピーソムキャット:はい。稲盛さんの本を読みました。『生き方』という本の中に、魂を清らかにするために人は生きているという一文がありますが、これはブッダの考え方と同じですね。自分の魂を清らかにすること、心を純粋にすることが生きていく上で大切なことです。起業家にとっても、それは同じです。

大久保:座禅や瞑想に時間を割く余裕がなかなかない、忙しい人におすすめの方法はありますか。

ロンピーソムキャット:瞑想は座らないとできないことではありません。簡単な瞑想法として、食べるときに携帯電話やテレビを見ないで、食べることだけに集中することを試してみてください。自分が食べているものがどんな味や食感なのかを感じてみましょう。歩くときは歩いていることにフォーカスし、例えば風が吹いていることや鳥の声を感じてみてください。

また、日本の方が手軽にできる瞑想としては温泉やお風呂に入ってリラックスしたり、クラシックなど心が安定する音楽を聞いて音声に集中するのもいいですよ。

大久保:デジタル社会の弊害として、意識していないとついスマートフォンを見過ぎてしまうというのはありますよね。社長の心が安定していると、会社にもいい影響がありそうです。

ロンピーソムキャット:タイでは会社にうかがって瞑想を広める活動をしています。最初は雰囲気がよくなかった会社でも、何度か瞑想をすると雰囲気がよくなっていく例を何度も見てきました。

人はみな、自分たちの心や雰囲気が周りに影響を与えているということを自覚しなければいけません。自分が優しい雰囲気を生み出すことができたら、周りもそれを受け取ることができます。怒っていたり、イライラしている顔を見たら近づきにくいですよね。内面をきれいにすれば自分の持つ雰囲気が周囲に伝わり、会社の雰囲気もよくなるのです。

大久保:コロナの影響で最近はリモートワークが増えていて、どこにいても話すことができるのは便利ではありますが、実際に会うことができないと表情などを読み取りにくい部分もありますよね。

ロンピーソムキャットどんなに技術が発達しても人の心が一番大事です。汚れている心を持っていたら、技術を悪い方に使ってしまいます。多くの社会で悪事を防ぐために法律を定めていますが、人の心が原因にあるのに表面だけを解決しようとしても駄目だと私は思っています。本当は環境や人から影響を受けている人の心を変える必要があり、悪事を働いた人がいたら瞑想をやらせるべきなのです。自分を発見し、悪いことをしてはいけないとわかるでしょう。

適度な休息とサバーイサバーイが日本人には必要

大久保:日本語と英語ができるので、海外にも積極的に行かれて瞑想を広める活動をされているそうですね。各国で反応の違いなどはありますか。

ロンピーソムキャット:そうですね。日本では瞑想会に来てくださる方々はお名前や顔を公表したがらないですが、ヨーロッパでは皆さん気にされないですね。

また中国は競争社会で、皆がお金持ちになりたいと上を目指している結果、失敗したり悩んでいる人が多いです。瞑想よりも僧侶が祈ってすぐに自分の状態がよくなることを期待している傾向があるのですが、ブッダも自分を助けることができるのは自分だけだと言っているように、簡単な近道というのはないのです。

瞑想するときに宗教は関係ないのです。私もそれを望んでいます。わたしは仏教の僧侶ですが、イスラム教徒やキリスト教徒の方とも瞑想したいと思っています。宗教の壁がない世界があったらいいなと思います。

大久保:最後に、読者にメッセージをいただけますか。

ロンピーソムキャット:こういう話を聞いたことがありますか? 木を切る仕事をしている人がいる。刃の歯がまだ鋭いときは何本も切ることができたけれど、ずっと続けていると同時に何本も切ることが難しくなってしまった。

日本の方は働きすぎている傾向があると感じています。疲れているのに休まずに努力するのは、効率がいい方法とは言えません。携帯電話の充電のように、バッテリーチャージしてから頑張るほうがいい結果が出ると思います。自分の心を休ませてあげることがとても大事です。

長く日本の方とつきあって、思いやりがある国だなと思います。優しい人が多いですが、本音を見せるまでの壁が高いということも体感として感じました。

地震など大変な状況の中でも、日本人は奪い合いをしないですし、ルールを守ることをつらぬいていて、本当に素晴らしいですよね。もう少しストレスがなかったら本当にいい社会だと思います。タイのサバーイサバーイ(大丈夫、なんとかなるさという考え方)を取り入れて、気楽に人生を楽しむという気持ちも時には大切ですよ。

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(取材協力: タンマガーイ寺院 僧侶 ロンピー ソムキャット
(編集: 創業手帳編集部)

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