千日回峰の限界突破から見えた挑戦する人のマインド研究

創業手帳

1000日間山道を歩き続けるという荒行を成し遂げた塩沼亮潤大阿闍梨にインタビュー

自社のビジネスを安定させ、業績を伸ばすために努力し続ける起業家、モチベーションを下げずに挑戦を続けられるマインドは必要不可欠といっても過言ではありません。

今回は、1300年の歴史で2人目となる大峯千日回峰行満行を達成した、金峯山修験本宗の僧侶・塩沼亮潤氏に自らを律し挑戦し続けるマインドについて、創業手帳・大久保がインタビューを行いました。

想像を絶する荒行の果てに、塩沼氏が辿り着いた人生の捉え方をお話しいただきました。

塩沼亮潤(しおぬま りょうじゅん)
福聚山 慈眼寺 住職大峯千日回峰行大行満大阿闍梨
1968年、仙台市に生まれる。1986年、東北高校卒業。1987年、吉野山金峯山寺で出家得度。1991年、大峯百日回峰行満行。1999年、金峯山寺(きんぷせんじ)1300年の歴史で2人目となる大峯千日回峰行(往復48キロ、高低差1,300mの山道を毎日、16時間かけて9年間歩き続ける)満行。2000年、四無行(断食、断水、不眠、不臥=食べない、飲まない、寝ない、横にならない、を9日間続ける)満行。2006年、八千枚大護摩供満行。現在、仙台市秋保・慈眼寺住職を務める。2008年『人生生涯小僧のこころ』(致知出版社)を出版。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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「自分の夢」と「ラクしたい」という気持ち、どちらが大事?

大久保:山に籠って厳しい修行をすることで、悟りを得ることを目的とした「修験道」が始まったのが約1300年前。それから2人しか達成していないという「大峯千日回峰行(1000日間かけて往復48kmの山道を歩く修行)」を塩沼さんは達成されたのですよね。そんな塩沼さんは起業家からの支持も多いようですが、それはマインドの部分に興味を持ってのことなのでしょうか。

塩沼:そうですね、起業家の方はよく講演会などに来られます。自分の経験上、自分のマインドがポジティブかネガティブかで、会社での働きも、人生も、変わっていくんじゃないかと思っています。私は何もわからないところから修行に入って、仏教の教えに従って勉強しました。勉強よりも修行に重点を置く宗派だったのですが、修行を積み重ねていくうちに、辛い環境下でも左右されないマインドが出来てきました。

生きていると、人として、どういう風に生きていくかで常に選択を迫られると思います。誰でも、しんどくないほうがいいし、ラクしたいという気持ちはあります。ですが、辛いことから逃げる人は成長がないですよね。辛くても、苦しくても、そこに飛び込んでいって、自分自身を高めていこうとの考えがある人が伸びていくと思います。

大久保:今おっしゃられていたマインドの話は、ある日突然悟りを開くのか、それともちょっとずつ考え方が成長していくのか、どちらが近いですか。

塩沼初めのうちは薄皮をはがすように少しずつ見えてきます。そしてある日、気づいたら気づきを得るという感じです。ロケットに例えると、初めはすごく燃料を使って重力に反して飛んでいく時間がありますよね。そこを通り過ぎて、宇宙に出て真空の状態に出ると、余計なエネルギーがいらなくなります。突き抜けるという瞬間はありますが、そこまではとても時間がかかりますね。

大久保:最初はちょっとずつの変化で、気づいたら考え方が変わっていたということですね。塩沼さんは、自らお寺に入られたそうですね。かなりの覚悟が必要だったんじゃないですか。

塩沼:はい。お寺を継ぐために修行に入ったわけではなく、家が寺だったから仕方なく入ったというわけでもありません。自ら修行してみたい、そこで得たものをみなさんに伝えていきたいと考え、困難や試練をものともしないモチベーションをそのままずっとキープしながら進んできた結果でしょうかね。

大久保:お寺の子供じゃなくて自ら志願して入られたのですよね。自分が飛び込んでいくみたいなところでは、起業家と似ていますね。

塩沼:そうですね、非常に似てますね。あるものを継承し、受け継いでいくというものではないので。言ってみればベンチャーお坊さんみたいなものですね(笑)。

大久保:とはいえ、1000日間という修行は精神的にも体力的にも想像を絶する辛さだったとつらかったと思います。起業家にも通じるところだと思うのですが、辛い環境の中でどのように自分を律されたのでしょうか。

塩沼:深い考えはありますが、とりあえず人生は自分で楽しまなければならない、世界で一番輝いているお坊さんになりたいという気持ちがありました。どんな辛いことでも、苦しいことでも、乗り越えられなかったら自分は将来世界で活躍できないと思っていました。ですから、若い頃は苦しいことにも妥協をしないで、乗り越えられたかなと思います。

大久保:目的があるから辛い体験も乗り越えられたというのは、それは起業家にも通じる部分がありますね。

塩沼:そうですね。例えば起業家として成功したい、仕事も頑張りたい、自分も一部上場企業の社長になりたいなどとのモチベーションを持っているのと同時に、は誰でも持ち続けると思います。それでも、遊びたいとか楽したいというかって欲もありますよね。そこをどのぐらい自分の夢と天秤にかけて、夢の方を優先できるのか、自分との戦いになるでしょうね。

私は、妥協せずしないで、きちんと自分を律していたら、皆さんにこうやって自分の言葉をお届けすることができる立場になり、とても充実した楽しい人生を歩むことができています。二兎を追うものは一兎をも得ずということわざの通りことですね。

伝統的なものも大事にしながら、自分で実践し納得したものを伝えたい

学問も修行も、両方怠るべからず

大久保:仏教では、経典的な仏教と、修行しているうちに自分で気付けという経験的な仏教で、二つあると思います。塩沼さんがやってらっしゃったことは後者に当たるのでしょうか。

塩沼:後者ですね。私の師匠は、自分の後ろ姿を見て、それを道しるべとして勝手に修行しろと言う人でした。伸びる人はどんどん伸びていきますけど、伸びない人はそれなりということですね。修行は強制するものではないし、いやいや修行しても成長しません。また、自分の弟子を束縛して個性のない人格の作り方はしたくないと考える方でしたね。

ただ、学問として学ぶもの、修行して得るもの、両方大事だと思います。

大久保:偏ってはいけないということですね。

塩沼ただ修行すれば、そこに価値があるという考えは間違いだと思います。一方で、学問だけ頭に詰め込んで、論理的に仏教を知っているけれど中身が空っぽな人間になるのも違います。お釈迦さまを始め、さまざまな先代の方々がお悟りになり、言葉として表現した道しるべを、自分の人生に参考にしながら実践して、そこから答えを見出すのがとても大事です。

「智目行足(ちもくぎょうそく)をもって清涼池(せいりょうち)に到る」という言葉がありますが、よく学び、よく修行をするとやがて悟りが開けるという意味です。つまり学問も修行も両方大事ということですね。

今までは、師匠から伝わったものを継承してそれを伝えていくのが、今までの常識でしたが、私が山を降りて里で実践しているのは、自分の内面的な問題が解決できないうちに、頭につめこんだ知識だけを伝えていくのは違うなと思ったからです。インプットした知識だけを、ただ伝えていく人生を歩みたくないなと思い、自分で自分の道を切り開きました。

仏教の伝統的なものを大切にしながら、自分でクリアできたものだけを皆に伝えていきたいというスタイルですね。

大久保:登山に例えると、人が作った地図を見てそれを辿るよりも、自分で実際に見て、感動したものを伝えたいということですかね。聞くことも大事だけども、実践して伝えてということでしょうか。

塩沼:伝統的に伝えられたものを道標とし、自分で開拓することが大切だと思います。だからこそ、言葉に力が加わるのです。

あえて禅の概念が浸透していない東海岸で活動

大久保:コロナの前は海外での活動もされていたそうですね。

塩沼:そうですね。私が世界に飛び出した理由は、狭い島の中でずっと自分がいろいろと挑戦してきたものは、世界からみたらとても小さなことなのではないだろうかと思ったからです。

もっといろんな国に行って、ご縁があった人との交流の中で、伝統・文化・宗教を学びとった上で、自分が得たものをどのように伝えられるのかについて非常に興味を持ったからですね。

大久保:海外では、どんな体験をされましたか。

塩沼:私がニューヨークに行った時に面白いなと思ったことは、あなたはどんな人?と聞かれて「1000日かけて山を48km歩いていました」と答えると皆さん驚かれて、そこで距離が一気に縮まるんですね。

その後はコミュニケーションも非常に楽になります。アメリカではすごいなと思った人には素直にリスペクトする文化がありますので、そこがきっかけとなって繋がりが増えていきました。千日回峰行をやって良かったと思った瞬間ですね。

大久保:あえて難しい地域に行かれたんですね。西海岸はNYより禅やマインドフルネスなどが浸透しているのではないですか。

塩沼:そうですね。鈴木大拙さん(ZENを世界に広めた仏教哲学者)が禅を広めてくださっているので、カリフォルニアならもう少しラクだったかもしれないですね。ただあえて難しい地域でという思いはありました。楽しんでやっていますよ。

運勢が下がる「なんで」よりも「次頑張ろう」

大久保:「こうなりたい」という欲は、人間にとっては大事なのでしょうか。

塩沼大事だと思います。だんだん年を取って考え方は変わってきますが、若い時は自分のモチベーションを保つためにガツガツ進んだ方がいいのではないでしょうか。

大久保:間違った方向だった場合は、そこは痛い目を見て学習していけばいいのでしょうか。

塩沼:そうですね。そこは自分で学習して進んでいけばいいと思います。

大久保:著書では「歩行禅」についても述べられてますよね。姿勢を正して歩くという。

塩沼:ただ歩くのと、姿勢を正して歩くのとでは全く違います。ただ生きるのと、精一杯力を振り絞って生きていくのとでは全然違うじゃないですか。毎日ちょっとでも自分をブラッシュアップしようという気持ちを持っていることが非常に大事です。

大久保:心の持ち方で大きく変わるということですね。

塩沼:例えば、皆さんの会社でも部下がミスした時に、なんでこんなこと起きたんだよって思うじゃないですか。なんでこういうことになったのって言うし、言われた方も100%自分が悪かったって思う人は少ないと思うんですよ。

「なんで」が出た瞬間に誰かのせいにしているんですよ。結果を出さない人、努力が嫌いな人はよく「なんで」って言いますね。

大久保:なるほど。

塩沼誰かのせいしている状態は、ネガティブなマインドなんです。「なんで」という気持ちが恨みと憎しみになってしまうんです。光と闇で言ったら闇ですよね。どんどん運勢が下がってしまう。だから私は「なんで」とは考えません。「もうしょうがない」と思って、「次頑張ろう」と次のことについて考えます

シンプルなんですけど難しい。コンマ何ミリだけでも自分の心をポジティブに向けるだけで、結果が全然違ってくるんですよね。

大久保:何かあった時に、ポジティブな気持ちを維持するのが大事ということですね。

塩沼:そうですね。どんどん深みにはまって行く時って頭では分かるんですけど、じゃあどうすればいいの?という疑問は当然湧いてくると思います。人間って「知」と「情」をコントロールすることができるのは、自分の意志しかないんです。しんどいな、と思っても、「考えないでおこう」「とらわれないでおこう」という風に、自分の強い意志でポジティブな心を作っていくっていう訓練をするといいです。

始めはできなくても、訓練しているとある日感覚的に「こういうことか」とわかります。それは生涯忘れられない感覚です。自転車に乗れない子どもが練習して、ある日突然乗れるようになるようなものです。自分がどう解釈して、受け止めるかによって自分の人生は変わってきます。訳のわからないことがあっても、感情をポジティブに持って行こうとすることが大事ですね。

大久保:仏教のお経の内容には理屈がたくさん詰まってますが、一方で「理屈じゃないよ」というところもありますよね。

塩沼:そうですね。一昔前まではそういうお経の理論を頭に詰め込んで議論を交わしてということがもてはやされていましたけど、もうそういう時代ではないでしょうね。

お経にも難しいことは書いてないんです。慈しみの心を持って、他を想い、生きなさいっていう「足ることを知る」という精神ですね。どんな存在や相手に対しても敬意を払い、自分自身を反省し、感謝の心を忘れずに生きていく、ということです。それがなかなかできないから、良い姿勢で座りなさい。これが座禅ですね。

朝起きて、生きていることに感謝。ごはんが食べられるということに感謝。仕事ができることに感謝。みんなを楽しませるということに感謝できると気づけば、人生は素晴らしいなって思います。

テクノロジーは「ただ使う」だけ

大久保:世の中ではAIなどの進歩によって人間の仕事がなくなると言われていますけど、その「感謝」の部分が人が人たる所以ですね。

塩沼:そうですね。AIテクノロジーに関しては、もう今ぐらいでいいんじゃないかと思っています。技術研究などは必要だと思いますけど、みんな安心で安全に暮らせるだけでいいんじゃないでしょうか。技術が発展しすぎると、もっと本質的なことが失われるんじゃないかなと思います。

大久保:最近はZoomなどのコミュニケーションツールも出てきましたけど、逆に何か皆さん、生のコミュニケーションに飢えてるような感じがしますね。

塩沼:Zoomもそうですが、私は生み出されたものは否定せず受け入れるようにしています。SNSもやっていますけど、SNS上での写真と言葉だけでひとりの人間を理解できるかと言うと難しいと思います。今はClubhousceが流行ってますけど、あくまでライトな部分しか理解できないと思います。

大久保:あくまで道具として使って、実質的な所をもっと大事にしたいということですね。

塩沼:SNSは主にライトなつながりとコミュニケーションのツールとして使っています。昔のお坊さんが言っているんですけど、悟りの内容を文字や言葉で表現するのは無理なんですね。それは、人それぞれの経験値によって受け取れる内容が変わるからですね。

お釈迦さまは悟りを開いたあとに、自分の悟った内容を言葉で伝えるのは無理だと思われたんです。ところがインドの神、ブラフマンが大変それは貴重な悟りだから、お願いだから人々にそれを伝えて欲しいと懇願し、それならばやってみましょうということで仏教は始まったという話もあります。そのぐらい言葉というのは難しいものなので、最初から私はSNSには限界があるという認識です。

大久保:上手く使うぶんにはいいですけど、SNSを使うことでストレスが溜まるならアカウントを消すのもひとつの手ですよね。

塩沼:いい事や悪い事が書いてあるものを見て、自分自身が左右されてしまう人もいると思うんです。悪いことにとらわれてしまうと気分がネガティブになり、自分らしさがなくなってしまうことは避けたいですね。

何気ない幸せを大事にしてほしい

大久保:最後に、起業家に向けてメッセージをお願いします。

塩沼:私の価値観なんですけど、基本ご飯を食べていければそれでいいんじゃないかと思いますね。会社を大きくしたいという価値観を持っていらっしゃる方も大勢いらっしゃると思うんですけど、無理せず自分のできる範囲でやっていけばいいと思うんです。

若いと気持ちが熱くなるからどんどん努力してしまいますが、ふとした瞬間に失敗とか虚しさとかを抱えたりするんですね。例えとしては、一本の香木と線香の違いがあげられます。線香は火をつけると香りが辺りに広がりますが、すぐになくなりますよね。でも香木は、ほっておいても長い間かすかな香りが続きます。

大久保:一気に燃え尽きるんじゃなく、持続可能な努力をということですね。

塩沼:こんなことを言ったら夢も希望もなくなっちゃうかもしれませんけど、何千年続いた会社ってないでしょう。何事にも栄枯盛衰ってありますので、昨日より明日って、じわじわ成長していけばいいんじゃないですかね。自分も楽しくそして社員も楽しい、そういう職場が理想なんじゃないかなって思います。

みんなが仲良しクラブで努力はしないという訳じゃなくて、皆がひとつのチームになって、ひとつの目標に向かって努力する、そういう何気ない幸せを大事にしてほしいですね。

大久保:昔、Livedoorにいたんですね。当時まさに時価総額を伸ばすぞって言っていたんですけど、会社が無くなっちゃって今では一種の幻だったんじゃないかなと思います。

塩沼:私も若い頃は血尿を出しながら山を歩いたりしたことありました。でも、今は朝起きて生きている幸せ、ご飯を食べる幸せ、お仕事もらえる幸せ、それだけでも本当に幸せです。人生今53歳なんですけど人生100年時代って言われてることを考えたらもう半分まで来ています。だからもう絶対に楽しいことしかしないって決めてます。

大久保:東京の一流企業の社長さんで、苦しい顔をしている人でも、本当はもっと楽しく生きられるのかもしれませんね。本日はありがとうございました。

(取材協力:宮嶋健太郎)

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