ビースポーク 綱川明美|社会変化による時機を逃さずソリューションを提供することで急成長

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2024年03月に行われた取材時点のものです。

交通機関から政府まで世界中で導入多数!高品質のチャットボットで困りごとを即時解決


訪日観光客向けの観光案内から始まり、交通の要所となる空港や駅、自治体観光協会、国内外の政府も採用しているチャットボットサービス「Bebot」を提供するビースポーク。変化する時代に呼応して躍進を続ける同社CEOの綱川明美さんは、2歳の男の子の母でもあります。

そんな綱川さんに、生い立ちから起業、そして飛躍までの道のりを語って頂きました。ビジネスの潮目の読み方、ラッキーの掴み方、子育てと仕事の両立方法まで、創業手帳代表の大久保がお話を伺いました。

綱川 明美(つながわあけみ)
株式会社ビースポークCEO
2009年にUCLA卒業後、豪米系金融機関で勤務。2015年にビースポークを設立し、AIチャットボット「Bebot」を開発。
テロにあった経験から、「災害を含む緊急時のコミュニケーション」にも熱心に取り組んでいる。
2019年にシリコンバレーに米国子会社設立、2021年から岸田総理が創設したデジタル臨時行政調査会の有識者、2022年から富山県南砺市のデジタルアドバイザーに就任。
現在は2歳の息子と共に日本全国を出張し行政デジタル化推進中。
2023年JX Awards特別賞受賞。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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念願のサラリーマン生活を捨てて起業の道へ

大久保:私は起業家の生い立ちに非常に興味があるのですが、綱川さんはサラリーマンになりたかったのだとか。

綱川:そうなんです。小学生の時、父が起業しました。家電製品の輸出入から事業が拡大し、国内外でレストランを経営するなど、両親ともに非常に忙しい家庭でした。私は夏休みは栃木の祖母の家に預けられました。新学期になって、同級生が「ディズニーリゾートに家族旅行に行った」などと話しているのがとても羨ましくて、何があってもサラリーマンになろうと思っていました。

18歳でアメリカに留学し、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)を3年で卒業して帰国した時も、サラリーマンになるという誓いは捨てておらず、日本で就職活動をしました。しかし、日本企業の風土とは水が合わず、オーストラリアの投資銀行に入社しました。

大久保:サラリーマンになれたのですね。

綱川:入社時に日本語のテストで落第するというまさかのハプニングがあったのですが、「どうしても入社したい」と交渉に交渉を重ね、まずは月給10万円のインターンとしてメンバーになり、そこから実績を積んで正社員になったんです。その後2回転職し、アメリカの資産運用会社・フィデリティインターナショナルで仕事をしていた2015年夏、ひらめいて起業しました。

ローカル情報のサービス「ないなら作ろう」と起業

大久保:突然ですね。どんなひらめきがあったのでしょう。

綱川:私は旅行が大好きで、その夏はベトナムのハロン湾を訪れました。深い緑の海と奇岩が織りなす風景は世界遺産にも登録されており、絶景を期待していたのですが、実際の水は茶色く濁っていて、思っていた雰囲気と全然違ったのです。ホテルのフロントでその話をしたら「君が行ったツアーは日帰りだから浅いところにしか行けない。もっと奥まで行く旅程を選ばないと」と…。

泣く泣く帰国し、そして考えたのは、地元の人からの情報があれば素敵な穴場に行けるのに、自分で調べただけだといまいちな経験ばかりということ。現地に知り合いがいなくてもローカルな現地情報が得られるようなサービスがあればと探してみたものの、私が使ってみたいようなものはなかったので、それなら自分で作ろうと思って起業しました。

大久保:事業化するにあたってどのような勝ち筋を見ていたのでしょうか。

綱川:仕事柄、来日した外国人投資家のアテンドをよくするのですが、皆同じことを聞くんです。「観光地化されていなくて地元の人が行くような穴場はない?」と。海外にいる私の親族が来日した時も同じでした。他にお手洗いの流し方や、漢数字しか書いていない五円玉を見て「これはいくらのお金なの?」などは本当によく聞かれることですね。ですから、起業にあたって調査はしましたが、感触として自信はありました

チャンスは一瞬のものですから、「これだ」と思ったら掴みに行く姿勢が大事だと思います。それに人間は気の変わる生き物。「鉄は熱いうちに打て」とばかりにスピード感をもって起業しました。

訪日外国人の困りごと対応からチャットボットサービスを開始

大久保:金融系のお仕事から畑違いのIT系での起業。いかがでしたか。

綱川:大きな混乱はありませんでした。足を踏み入れた分野は違いますが、もともと1人でできるとも思っていなかったので、自分の強み以外の部分には、できる人を早めに採用する方針で進めました。特に、エンジニアがいないとスタートすらできないので、 SNSで繋がっている約700人に紹介を依頼するという、今では考えられないような奇策に出たこともあります。

大久保:起業からの道のりは、割と順当に進んで来られたのですか。

綱川:ラッキーなことは多かったものの、紆余曲折はありました。2015年に立ち上げた穴場紹介メディアでは、ニーズを知るために多くのユーザーインタビューをしました。広告を打つ資金はなかったので、渋谷の交差点や明治神宮、六本木などでスーツケースを引いている外国人を追いかけて登録してもらったり、インタビューに答えてもらったりしました。

利用者からのフィードバックを参考に多言語で情報を発信するだけではなく、コンシェルジュのようなサービスをイメージしていました。利用者に「困ったらここにメッセージして」とSMSを教え、やり取りをするようにしたら、スマートフォンが鳴り止まなくなりました。予想以上に頼りにしてくれる方が多かったんです。対応に追われている私を見たエンジニアが、チャットボットで対応したらいいとアイデアをくれました。そこがビースポークのチャットボット事業の原点です。

コロナ禍を経て大きく成長したチャットボット事業


大久保:チャットボット事業はどのように成長していったのですか。

綱川:CtoCの業態は難しく、投資家からのアドバイスもあり、BtoBtoCに変更する必要があると考えていました。今どのセグメントを進めるべきか考えた時に、ターゲットである外国人旅行客が、どのような旅程で来日しているかの情報を持っていないことが問題であるとわかりました。その情報を持っているのは、ホテル、旅行代理店、エアラインの3つです。そこでホテルに商談をしに行ったら「穴場にニーズはないけれども、フロントデスクの業務を自動化してほしい」と言われました。

フロントデスク業務のチャットボットは、ホリデイ・インで採用されました。すると次は成田国際空港やJR東日本など、名だたる交通機関から自動化の依頼が舞い込んだんです。その次は、京都市観光協会から街全体の観光案内の自動化が、その後には日本政府から緊急対応の自動応答チャットボットを作ってほしいと、どんどん話が進んでいきました。

その頃から、フランスやイギリス、ドイツなど、世界中のカンファレンスに呼ばれるようになりました。なぜなら、成田国際空港や東京駅などの巨大ターミナルでチャットボットを利用して人を誘導する事例や、国として緊急対応にチャットボットを利用する事例は世界初だったからです。手掛けた事例を、ワールドツアーのように各国で話して回りました。

大久保:旅行業界が相手でコロナ禍の影響はなかったのでしょうか。

綱川:最初は大丈夫かなと心配しました。すると、ワールドツアーで覚えていてくださった各国の事業者から、コロナ禍で大混乱の顧客対応にチャットボットを使いたいと、問い合わせが殺到したのです。ウィーン国際空港やタンパ国際空港、スターアライアンスなどのグローバル案件が一気に決まりました。

国内では、コロナ禍の前は、観光協会や市の観光課とのお仕事が多かったのですが、DXの波がやってきたことで、市長経由で行政全体でのデジタル化依頼が舞い込むようになりました。紆余曲折だらけですが、ラッキーも多いんです。

大久保:ラッキーを呼び寄せる秘訣はなんでしょう。

綱川投げてもらったボールを、誠実に投げ返してきたことでしょうか。依頼にしっかり対応することで次に繋げる姿勢は一番大事だと思います。

また、社会が動くタイミングを逃さないことも大切です。例えば、成田国際空港が実績のない弊社を採用してくれた理由は、急に増えた外国人観光客に対応できず、今すぐ有効なソリューションを求めていたから。他に代替ソリューションがないので、一も二もなく採用されました。

また2018年、関西国際空港が水没・孤立した台風21号は、日本政府が緊急対応を自動化するきっかけとなりました。コロナ禍はもう二度と来てほしくありませんが、これが緊急対応の自動化を推し進めた側面もあります。「2024年問題」もおそらく社会が大きく動くタイミングになると思っています。

自治体DXとチャットボットは好相性

大久保:自治体のDXはどのように進めるのですか。

綱川:決裁者クラスは「やらなくてはいけない」という危機感を持っていますが、現場の人たちは「仕事が増えてお給料は上がらない」「必要なのはわかるが、今は手持ちだけでキャパオーバー」といった感じでなかなか足並みが揃いません。

そこで弊社では、地方自治体の内情を知っている、自治体出身者の中途採用を強化しました。現場と同じ目線でリアルな話ができる人から「現場に負担がかからないよう、最初の雑務を最大限こちらで巻き取ります」という提案をするのです。DXで将来は必ず楽になると話をすると、皆さん大体わかってくれます。

特にDXの取り組みの中でも、チャットボットは「インパクトがあってサクッとできて、多くの職員を巻き込みすぎないという、とっかかりになりやすい性質を持っています。チャットボットは市民にもわかりやすく目に見えますし、職員の業務フローはあまり変わりません。市民にとっても、市役所の開庁時間以外も、夜や仕事の隙間時間にスマートフォンから問い合わせができるという、利便性の向上がはっきり実感できます。

その上、文字情報で様々な事柄が入力されるので、市民のニーズがはっきりわかります。分析して来年の政策立案の支援ができるという点も大きなメリットです。

大久保:令和6年能登半島地震でも、チャットボットが使われたとか。

綱川:大きな被害が報じられた珠洲市。こちらの観光サイトには、弊社のチャットボットが導入されています。このチャットボットに、住所とともにレスキュー依頼がたくさん書き込まれたのです。消防に電話が繋がらないので、スマートフォンの電池残量を節約するために、どこでもいいので行政の機関に住所を記録して、救援を待とうとする市民の要請でした。

本当に祈る思いで、珠洲市の消防や市役所に転送しました。チャットボットは緊急時に意外な働きをするというのは実感しましたし、完全にAI化して人間の監視をなくすのはまだ早いと思いました。

大久保:コミュニケーションが複線化され、確率があがるということですね。チャットボットの可能性を感じます。それにしても、裏には人間を配置しているのですね。

綱川生成AIとFAQ型と人力を、ユースケースで使い分け、ハイブリッドで運用しています。生成AIは何でも答えてくれますが、当たり障りがない程度とはいえ時々間違えます。どのソースから参照しているかわからず、反応も遅い。しかもAWSの運用コストが高いんですね。

FAQ型は、回答を前もって用意するので、間違いがないのが強みです。返信スピードも速くコストも安いですが、準備した質問以外は回答ができません。その点、人力は一番確実ですが、そうたくさんの人は配置できません。組み合わせて、いいところを集めて形にしています。

極秘出産を経て子連れワーカーに

大久保:子育てとの両立はどのようにされているのですか。

綱川:子どものパパがオーストリアで仕事をしているので、2歳5カ月の息子を一人で育てています。実は、生後5カ月くらいまで隠し子状態だったんです(笑)。妊娠・出産も秘密にし、育休はもちろん産休もとりませんでした。投資家や社員が心配するかもと思ったからです。しかしある日、社内のオンラインミーティング中に息子がギャン泣きしてしまったんですね。観念してカミングアウトしたら、みんなすごく喜んでくれたんです。

それ以来、世界一周出張や日本出張、市長室にも息子を連れて行っています。最初は託児していたのですがすごく嫌がるので、子連れスタイルになりました。

早朝の4時~7時、そして保育園に預けられる9時から15時を稼働時間にし、週末は働かないと決め、出産前よりもさらに効率化して仕事をするようになりました。元消費者庁長官の伊藤明子さんに「やるしかないんだから、やれる方法を考えなさい」と叱咤激励され、「どうにかする」とマインドを変えたんです。社内ではシニアレベルの人材をたくさん採用して業務が回るようにサポートしてもらっていますし、対外的にも「子ども同席NG」「夕方のミーティングしかダメ」などと言われたら、今はご縁がなかったと割り切るようにしています。

世界中の人に「使ってよかった」と思ってもらえるサービスに

大久保:これからの目標を教えてください。

綱川世界中の人に、私たちのサービスを使ってよかったと思ってもらうことです。実は私は、2020年の11月にウィーンで発砲事件に遭遇したことがあるんです。その時は走って逃げて事なきを得たのですが、次の日、タクシーに乗って空港に出かけると、街に人がいなくて、変だなと思いました。昨日のは単なる事件ではなくイスラム過激派によるテロであり、射殺された犯人以外にもテロリストがいるかもしれないと厳戒態勢が敷かれていたことを知らなかったんです。

情報がないが故に危ないことをしたと冷や汗をかきました。その時、私はたまたま無事でしたが、リアルタイムの現地情報が自分のわかる言語で知れるチャットボットがあれば、救われる命が実はたくさんあるんじゃないかなと思ったんです。

大久保:起業家に向けてメッセージをお願いします。

綱川:よく言われる話ですが、これだと決めた道を突き進む強さは大切です。私が2016年に投資家回りをした時は、95%ぐらい「こんなのに誰がお金を払うんだ」と否定的なことを言われました。しかし今となっては、チャットボットや生成AIは投資家が注目する領域です。

反対者は必ずいます。その一方でサポートしてくれる支援者も必ずいます。一握りかもしれないそういった支援者を大切にし、期待に応えて成長していくことが大事だと思います。

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(取材協力: 株式会社ビースポーク CEO 綱川 明美
(編集: 創業手帳編集部)



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