看護師から起業を目指すには?起業できる事業と流れを解説
看護師が起業するメリットや注意点、活用すべき制度など
看護師といえば、多くの人は病院やクリニックに勤務しているイメージを持つかもしれません。しかし、看護師の経験を活かして自ら起業することも可能です。
また、看護師で起業している人の中には、医療関係の事業だけでなく、他業界に参入している人もいます。
今回は、看護師が起業できる主な事業や起業までの流れ、メリットや知っておくべきポイントを紹介します。
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この記事の目次
看護師が起業できる事業
看護師が起業を目指す場合、複数の選択肢があります。
医療関係の事業だけでなく、看護師の経験を活かして他業界に進出することも可能です。医療関係の事業と他業界の事業で、看護師が起業する際に代表的なものを紹介します。
医療関係の事業
看護師の経験を活かした起業として代表的な事業は、看護や介護など医療関係のビジネスです。また、看護師以外に資格を持っていれば、選択肢も広がります。
今回は、医療関係の事業について3種類を解説します。
訪問看護ステーション
看護師の起業として、代表的なものに訪問看護ステーションが挙げられます。
訪問看護ステーションは、看護師でなければ設立できないため、看護師の資格や経験を活かして起業できます。
事務所があれば開設できるため、クリニックの開設に比べて設備費がかからないことが利点です。
開設にあたっては、市長または都道府県知事の指定を受けることが必須です。
施設によっては、職員の経験を活かして乳幼児専門やリハビリに特化するなど、差別化を図って運営している事業所もあります。
介護施設(デイサービス・グループホーム)
介護分野の経験がある場合、デイサービスやグループホームといった介護施設を開業する選択肢もあります。
デイサービスの開業にあたっては看護師の従事が必要なため、デイサービスを立ち上げて自らが看護職員として従事することも可能です。
また、デイサービスは日中だけの稼働となる点も特徴です。
病院勤務の看護師は、夜勤を含むシフト制であることが一般的であり、日勤だけで働きたい場合にはメリットとなるでしょう。
デイサービスだけでなく、グループホームや特別養護老人ホームを開業することも可能です。
高齢化社会の中で介護施設の需要は高まっていますが、通所介護に比べて施設費や人員が多く必要になります。
助産院
看護師資格にプラスして助産師資格を持っている場合、助産院の開業ができます。
ただし、助産師資格があるからといって、誰でも助産院を開業できるわけではありません。
職務経験5年以上であること、分娩件数200件以上など一定以上の業務経験が定められています。
助産院は地域に密着しながら妊婦や赤ちゃんに携われるため、助産師としての経験を活かして地域に根ざしたサービスを提供できます。
他業界の事業
看護師が起業できる事業は、医療業界だけではありません。
看護師として培った知識や経験を活かして、様々な分野から社会へアプローチができます。ここからは、他業界の事業を2点紹介します。
サロン
アロママッサージやフットケアを目的としたサロンを起業する看護師もいます。
例えば、糖尿病足病変の患者さんにストレス解消のためフットケアを行っている看護師であれば、その経験を活かしてサロンを開業するなどが考えられます。
知識や技術を駆使して起業できるほか、看護師の肩書きがあることで、利用者側も安心感や信頼感を持ちやすくなることもメリットです。
サロンの種類は、アロママッサージやリラクゼーション、フットケアなど様々なものがあります。
看護師ならではの施術メニューを作ることで、ほかのサロンと差別化を図ることにもつながります。
カフェ
健康に関する相談ができるカフェの開業も、選択肢のひとつです。
看護師経験を活かしてカフェを開業することで、プロの看護師へ気軽に健康相談ができる場を提供できるほか、地域住民にとって憩いと情報交換の場所となるでしょう。
店内をバリアフリーにしたり、提供する食品の原料に気を遣ったりと、高齢者や健康に不安を抱えている人が利用しやすい店舗にすることもポイントです。
こうした工夫をすることで、看護師ならではの価値を提供できます。
コンサルタント・カウンセラー
コンサルタントやカウンセラーは、悩みを聞く職業のことです。
看護師は患者と接することで得たコミュニケーション能力や医療知識があるため、医療や健康に対する相談を受ける人材として最適です。相談はオンライン面談が可能なため、場所にとらわれず開業できるでしょう。
ただし、開業を成功させるためには、ターゲットを明確にする必要があります。相談といっても、医師に相談する前に利用したい患者向けなのか、看護師の就職に関する相談なのか、また企業向けのコンサルタントなのかで、ターゲットがまるで違うからです。
看護師が起業するメリットと注意点
看護師として病院やクリニックに勤務する場合と比較して、独立して起業する場合はメリットがあります。
しかし、利点ばかりではありません。収入面など注意すべきポイントもあるため、メリットと注意点を紹介します。
メリット
看護師が起業することのメリットに、勤務時間を選択できることが挙げられます。
看護師は病院で勤務している場合、夜勤や土日祝を含むシフト制での雇用が一般的ですが、起業すれば事業内容によって日勤だけの稼働にすることも可能です。
また、自分が希望する方向で事業を決定でき、自分がやりたいことに集中できることも利点です。
起業した場合はすべてを自ら考えて行うため、自分が貢献したい分野に力を注げるでしょう。
ほかにも、定年に関係なく働けることや高収入を得るチャンスがあることなどのメリットがあります。
注意点
起業する際の注意点として、第一に収入面が挙げられます。事業が安定するまでは給与が不安定になることを覚悟しなければなりません。
起業にあたっては、医療器具や施設費などの初期投資が必要となります。
特に、グループホームなど介護施設をオープンする場合は賃貸費用や人件費など多額の出費を要します。
そのため、最初はマイナスからのスタートになることも覚悟したほうが良いでしょう。
また、自ら顧客を確保しなければならないことも事前に把握しておきます。
認知度を上げ顧客を獲得するために、ホームページを立ち上げたり、チラシを配布したりする作業が必要です。
看護師としての現場経験とはまったく異なる分野での仕事も、起業にあたっては必要になると認識しておくことが重要です。
看護師が起業する場合は法人?個人事業主?
看護師が起業する場合、個人事業主と法人設立の2つのやり方があります。どちらが向いているのか、詳しく見ていきましょう。
まずは個人事業主としてスモールスタートがおすすめ
個人事業主は、税務署に開業届を出すだけで開業できます。一方法人化は、開業資金の用意や定款の作成など面倒な手続きがあります。いきなり法人化を目指すより、個人事業主からスモールスタートするほうが、手間がかかりません。
また、開業した最初のうちは、市場が読めないものです。最初は小さな事業からコツコツと実績を積み上げていき、多くの顧客を獲得してから法人化すれば良いでしょう。
法人化は一定規模まで成長してからがおすすめ
法人化は、会社を設立することです。看護師が法人化すると、看護師は法人経営者としても活動することになります。
個人事業主として開業し、顧客獲得や知名度が一定以上向上したら、法人化を目指すのがおすすめです。
法人化では、登記や開業資金の用意、定款の作成などが必要です。個人事業主より開業に対する手続きが複雑になるため、専門家のサポートを受けると良いでしょう。
また、訪問看護ステーションやデイサービスを開業するときは、最初から法人化する場合もあります。
法人化すると社会的信用度が向上するため、取引先とのやり取りや、顧客獲得がスムーズになるからです。
看護師が起業する流れ
ここからは、看護師が起業するために必要なステップを紹介します。情報収集から人員確保まで、5段階にわけて見ていきます。
1.情報収集
起業するにあたっては、まずは情報収集が不可欠です。
自分が起業しようとしている分野の競合をチェックし、その上でプランを立てることは起業後に勝ち残っていくために必須です。
また、起業セミナーへの参加も有益で、同じように起業を目指す人と交流すれば、今後行っていく事業のアイデアが生まれるきっかけになります。
2.プラン・事業計画を考える
情報収集をした上で、具体的なビジネスプランを立てることが必要です。
自分が提供するサービスとターゲットを決め、それに併せて料金設定など細かく定めていきます。
例えば、サロンを開業する場合、多くの競合が存在するため、自分の看護師経験を活かし、他社と差別化を図れるプランを練ることがポイントです。
プランを考えたら、プランをもとに事業計画を作成します。開業資金や事業を継続するための費用、年間の売上予測などの詳細を数値化し、計画書に落とし込みます。
金融機関からの融資や自治体からの補助金を受ける場合は、詳細の情報も必要です。
3.資金調達
事業を開始するためには、事業の種類によっては資金調達が不可欠です。
設備投資といった開業資金や、人件費などを事業計画の段階で計算し、その金額を調達します。
資金調達は、金融機関や自治体からの融資、クラウドファンディング、自己資金などから捻出します。
なお、運転資金は余裕を持って計算するよう注意してください。
例えば、訪問看護ステーションや介護施設を開業する場合、介護保険からの支払いが数カ月後になることもあります。
そのため、開業して数カ月は無収入でも成り立つ程度の資金を事前に調達しておくことが、事業安定につながるポイントです。
4.開業手続き
資金調達が完了したら開業手続きに移ります。手続き方法は、個人事業主か法人経営かによって異なります。
個人事業主は、税務署へ開業届出書を提出することで事業を開始できますが、事業内容によって追加の届け出が必要となるケースもあるため、事前に調べておきましょう。
法人経営では、個人事業主と比較して手続きが多いため、行政書士や税理士といった専門家に相談すれば、ミスなく進められます。
なお、医療行為を行う事業を開業する場合は、専用の届け出が必要です。事業内容に応じて必要な手続きが変わるため、あらかじめ確認しておくようにしてください。
5.人員確保
人員確保は事業を開始する上で課題となります。
例えば、新規で看護師を募集する場合、看護師は有効求人倍率が比較的高い傾向にあります。
ハローワーク求人統計データによると、2021年の有効求人倍率(全国)は2.37と高く、売り手市場であるため、すぐに雇用できるとは限りません。
そのため、自分が持っている人脈を使って人材募集をかけることも手段のひとつです。
求人募集と並行して、以前勤務していた病院の同僚に声をかけるなどして、手伝ってくれる人を探すと、早期に人員を確保できるかもしれません。
看護師が起業にあたって受けられる支援
起業するにあたっては、開業や事業継続のために多くの資金を必要とします。そのため、事業をスタートする際はどのような支援や融資があるかを調べておきましょう。
起業にあたり、受けられる主な支援を3点紹介します。
厚生労働省からの支援
個人向けの手当として、厚生労働省の再就職手当があります。
この再就職手当は、企業に就職する場合だけでなく、条件によっては起業する場合も該当します。
厚生労働省によると、「受給手続き後、7日間の待期期間満了後に就職、または事業を開始したこと」が再就職手当の受給条件です。
事業開始も含まれているため、そのほかの条件を満たせば再就職手当を受け取れます。
もともと看護師として病院に勤務し雇用保険の対象だった場合、再就職手当を受け取れる可能性があるため、一度確認してみてください。
日本政策金融公庫からの融資
日本政策金融公庫は政府系の金融機関で、中小企業やこれから起業する人に向けて積極的に融資をしています。
これから起業する場合は、融資を受ける側だけでなく、融資する側もリスクを背負うことになります。
実績がない中での起業では、民間の銀行などから融資を受けるのは容易ではありません。
しかし、日本政策金融公庫には様々な融資プランがあります。
※新創業融資制度は、令和6年3月31日をもって終了しました。
日本政策金融公庫からの新規開業資金
日本政策金融公庫の新規開業資金は、創業者や開業後約7年以内の人に向けた融資です。
新たに事業を始める人や開業後の納税申告2期を終えていない人は、担保や保証人が不要で、利率が0.65%引き下げられる「新創業融資制度」の利用がおすすめです。
新規開業資金の融資限度額は、7,200万円までです。運転資金は4,800万円までで、残りの2,400万円は設備資金として使えます。返済期間は、運転資金が107年以内、設備資金は20年以内です。
利率は条件ごとの基準利率ですが、融資後に一定目標を達成すると利率を0.2%引き下げる制度もあります。
クラウドファンディング
近年はクラウドファンディングで資金調達を行う事例も増えています。
クラウドファンディングサイトへビジネスモデルを掲載し、事業に賛同してくれた人から資金提供を受ける流れが一般的な方法です。
ビジネスモデルを掲載すれば事業の宣伝にもつながり、メリットとなります。
ただし、掲載後に目標金額にすぐ到達するとは限りません。資金調達には時間がかかり、期限内に目標金額が集まらないこともあります。
そのため、専門家からアドバイスを受けながら実施するようおすすめします。
看護師が起業する上で知っておくべきこと
看護師の経験を活かして医療関係の事業をスタートする場合、保険加入など特別な要件もあります。事前に情報を持っておけば、事業を失敗するリスクを減らせるでしょう。
最後に、起業にあたって知っておくべき情報を3点紹介します。
保険加入が必要
看護ステーションや介護施設、助産院といった医療施設を開業する場合には、賠償責任保険の加入が義務のひとつです。
利用者やその家族などに怪我をさせてしまったり、利用者に物損被害を与えてしまったりしたケースでは、法律上の賠償責任を負うルールがあります。
それを補償するため、保険加入が義務付けられています。
訪問介護ステーションの開業では、一般社団法人全国訪問看護事業協会が運営する賠償責任保険もあるため、自分が運営する事業に合う保険をチェックしてください。
税金に関する基礎知識が必要
経費や売上げの記録が必要となるため、税金の基礎知識は起業するために必須です。
個人事業主の場合であっても、確定申告を自ら行うことになります。申告漏れがある場合は脱税となり、最悪の場合、事業の継続が困難となるケースも想定されます。
税金に関する内容は、看護師経験と直接関係がありません。そのため、事前に勉強して知識を得ておく必要があります。
初心者向けの本で勉強したり、不安な場合は税理士に相談したりすることも有効です。
また、無料セミナーも実施されているため、参加して知識を得ることもおすすめです。
まとめ・起業で看護師のキャリアを広げてみよう
看護師が起業する際には、訪問看護ステーションや介護施設など医療系の事業だけでなく、サロンやカフェなど他業界の選択肢もあり、様々な形で社会貢献が可能です。
起業には、勤務形態や事業内容を決められるなどのメリットだけでなく、収入が不安定になるなどのデメリットもあります。
起業に必要な情報だけでなく、起業後に起こりうる事柄を把握した上で、起業するか検討することが大切です。
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(編集:創業手帳編集部)