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2022年9月16日ビネット&クラリティ合同会社 安田翔也|ファッションの感性分析を行うAIアプリの開発事業で注目の企業
ファッションの感性分析を行うAIアプリ開発事業で注目なのが、安田翔也さんが2018年7月に創業したビネット&クラリティ合同会社です。
大量生産によってモノがあふれかえり、使い捨て文化が根付いた現代。今その在り方に警鐘が鳴らされています。
中でもアパレル消費の在り方に関わる環境問題や社会問題は、今後解決すべき課題としてさまざまな場面で取り上げられています。環境破壊や生態系破壊にも繋がりかねないこうした文化を変えていくためには買い手一人一人の意識変革と共に、プロダクト提供側の供給方法を工夫したり調整したりすることも肝要です。
幸いにも一昔前とは違い、今は個々人それぞれが自身の個性を、身に付けるものに取り入れて、独自性の高い唯一無二のファッションを楽しむ方が増えています。
従来ファッションに関しては、明確な定義などないまま、感性や直感で選ばれたり作られたりすることが多かったかと思います。
これをある程度目に見える形で体系化し、各自のファッションセンスや好みの傾向、体格や活動状況を鑑みた、本当にその個人に似合うファッションを明確に把握することが出来るようになれば、モノの選び方が変わったりモノを大切にする意識が醸成されたり、供給の仕方も無駄が省かれ、業界全体の価値向上にも繋がっていくのではないでしょうか。
今、AIを活用し、ファッションにおける感覚的な部分を ‶見える化” することによって、ビジネス戦略や消費者意識を変え、世界的な社会問題の解決へとつなげていく起業家の取り組みに注目が集まっています。
ビネット&クラリティ合同会社の安田翔也さんに、事業の特徴や今後の展開、課題についてお話をお聞きしました。
・このプロダクトの特徴は何ですか?
Nadera(ナデラ)と読みます。スナップショット写真を入力すると、ファッションの感性分類に用いられる8カテゴリーのスコアを判定してくれます。8つの指標はソフィスティケート、エレガント、ロマンティック、エスニック、カントリー、アクティブ、マニッシュ、フューチャリズム(≒モダン)のことです。原宿のファッションテックスクールとの共同開発で、あらかじめ数千枚の写真を学習させてあります。
“アパレルブランド”単位や”街”単位でもファッションテイストの分析ができます。例えば東京の5つの街に着目して、2009年と2018年のスナップショットを各100枚ずつ判定して中央値をプロットしました。これを見ると街ごとのファッションテイストの違いや経時変化を可視化できて非常に興味深く、また、ビジネス戦略にも有用です。2009年からの10年間で原宿はカントリーからエスニックにシフトし、渋谷では逆の傾向があるようです。
・どういう方にこのサービスを使ってほしいですか?
個人ユーザー向けにWebアプリとして公開していた時期もありますが、自宅で自分自身のスナップショットを撮るのは大変だということで、現在は店舗向けにデジタルサイネージのコンテンツとして使っていただけるようにアプリを整えています。買い物中にちょっと立ち止まると現在の服のテイストを判定してくれて、さらに自分のテイストに近いショップをおすすめしてくれます。ただ、普段街に出る格好はたいてい地味なのでマニッシュやエレガントが強めに出る傾向があります。ロマンティックはそれこそウェディングドレスでも着ないと高得点は出にくいです(苦笑)。
(デジタルサイネージに搭載したイメージ)
・このサービスの解決する社会課題は何ですか?
2018年にNHKの『クローズアップ現代』において、年間に市場に投入される28億点の衣服の約半数が売れ残っていることが報じられました(https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4182/)。それ以前にも、2013年にはバングラデシュでラナプラザ崩落事故が発生しており、世界的アパレルブランドの下請け工場が数多く詰め込まれていたことから、ファストファッション業界の生産体制が見直されるようになりました。
Naderaはそういったアパレル業界の大量生産・大量消費にブレーキをかけたいという思いから開発が始まりました。ユーザーが気に入った服を受注生産すれば在庫は発生しないはずですし、自分にピッタリでオンリーワンの服が買えればすぐに捨てたりしないだろうと考えました。
・創業期に大変だったことは何でしょう?またどうやって乗り越えましたか?
開発で大変だったことは、着せ替えアプリやバーチャル試着など、様々なファッションサービスが登場していて顧客も企業も目が肥えています。Naderaはまだ発展途上ということもあり、完成度100%のサービスでないと導入できない、と言われてしまうとベンチャーには厳しいです。いち早くアパレルの商流に乗せられるように開発を続けています。
・どういう会社、サービスに今後していきたいですか?
アパレルの商流に乗せるため、機械学習で感性の判定ができるだけでなく、指定した感性に合ったデザインを生成し、さらにそれが縫製可能な型紙として出力できることを目指しています。
ファッションに特化した3Dモデリングソフトと統合して、型紙デザイン、縫製後の見た目、推定される感性の3つを同時に調整(≒最適化)できる仕組みを構築中です。3つの要素にはそれぞれ制約条件があります。まず、型紙として成立している必要があります。次に、縫製後のサイズ、”ゆるみ”、生地の質感がユーザーの体型や肌質に合っていなければなりません。そして、Naderaで判定される感性がユーザーの要望に合っている必要があります。
HPをご覧いただけると分かりますが、私たちは幅広いITスキルの融合を得意としています。前述の3つを同時に満たすデザインを得るために、vcopt(ブイシーオプト)という組合せ最適化モジュールを中心に、機械学習であるNadera、画像認識、3Dモデル、数理モデリング、Webアプリを融合したシステムを目指しています。
・今の課題はなんですか?
そういった開発上の課題とは別に、Naderaは問題を抱えています。当初は「ユーザーの感性に合う服を作れば気に入ってくれるだろう」と思っていました。しかしユーザーの声を聞くと「自分の好みとは別に、他人からこう見られたい」という服の選び方もあることがわかりました。つまり、「自分に似合う服」「自分が着たい服」「他人が自分に似合うと思う服」「他人が自分に着てほしい服」という2×2=4象限の決定基準があるというのです。
このうちNaderaが直接解決できるのはごく一部です。例えば「今の私は地味すぎるので、あの芸能人のようにロマンティックな服を着たい」という願いは叶えられるでしょうか?こういった場合は、「現状の自分のテイストから少しロマンティックに寄せたデザイン」を提案し、少しずつ憧れの芸能人に近づけるサポートができれば良いのかなと思っています。このように具体的な利用シーンの調査を続けています。
・読者にメッセージをお願いします。
私たちは幅広いITスキルとフットワークの軽さを武器に、多くの企業と連携して研究開発を行なっています。「人間の感覚に頼っているものを機械化・可視化・数値化したい」といった要望がありましたら、ITの専門家がゼロから相談に乗り、適切な手法を組み合わせて解決に取り組みます。比較的安価で予算に合わせたご提案も可能です。ご関心お持ちいただける方がいらっしゃいましたら、是非お気軽にお声かけください。
会社名 | ビネット&クラリティ合同会社 |
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代表者名 | 安田翔也(やすだ しょうや) |
創業年 | 2018年7月 |
社員数 | 2名 |
事業内容 | 機械学習、最適化、3Dモデルを伴う研究開発 |
サービス名 | ファッションの感性分析を行うAI「Nadera」 |
所在地 | 神奈川県横浜市 |
代表者プロフィール | 東京工業大学知能システム科学専攻にて博士(理学)を取得。2016年度日本学術振興会特別研究員に採択。2016年度Albert Einstein College of Medicine、2018年度Fudan Universityで研究に従事。在学中の2018年7月にビネクラを設立。現在はビネクラと大学の研究員/非常勤講師を兼任。 |
カテゴリ | 有望企業 |
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関連タグ | 3Dモデル データ分析 ビネット&クラリティ 安田翔也 数理モデル 機械学習 画像処理 |
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