年末調整の基礎知識

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年末調整とは?やり方の手順や必要書類・対象者・注意点について解説


年末調整は、会社員であれば誰でも何となくは理解しているもの。しかし、その仕組みや対象者の条件などを詳しく知っている人は意外と少ないかもしれません。

年末調整は、会社に勤めている多くの人にはそれほど難しいものではありませんが、その人の状況によっては注意すべきケースもあります。
これまで漠然と対応してきた人は、年末調整のやり方の基本とともに、対象者の条件や注意点などをあらためて見直しましょう。
控除などで損をしないためにも、年末調整の知識は役立ちます。

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年末調整とは


年末調整とは、1年間で天引きされた源泉所得税を調整する作業のことを指します。会社員の場合、毎月の給料から所得税が源泉徴収されています。
しかし、源泉徴収されたその金額は、所得税法で規定された概算であり、正しい金額ではありません。
そのため、1年間の給料の金額が確定した時点で、正しい所得税額を計算し、実際に天引きしていた金額との差額を調整します。

年末調整はあくまでも差額の調整のため、実際に徴収されていた分が多ければ返金(還付)されますが、少なかった場合には追加で徴収されます。
実際には、できるだけ追加徴収はしないように天引きしていますが、人によっては追加徴収になるケースもあるようです。

追徴税額(所得税の追加徴収)されるケース

年末調整で追加徴収が必要となるのは、想定していたよりも給料や賞与の金額が増えた場合や扶養親族の人数が減った場合などです。

給料が途中で上がったり賞与が想定以上に支給されると、それまで毎月ほぼ同じ額で天引きしていた所得税額では足りなくなることがあります。
所得税は1年間の給与総額で決まり、源泉徴収は年間の給与額を想定して行っています。
そのため、途中で給与額が上がると給与総額も上がり、これまでの想定以上の所得税がかかってしまいます。

また、年度途中で扶養家族が減った場合には、扶養控除がなくなることで所得税が上がり、追加徴収が必要になるケースもあるでしょう。
源泉徴収の金額は、給与計算の時点で登録していた扶養人数にも影響されるものです。また、扶養控除は12月31日の段階で決定されます。
そのため、年末調整のタイミングで、それまでいた扶養家族が減ると、控除がなくなることで税額が増え、追加徴収の可能性が出てきます。

還付金がもらえるケース

年末調整では、個々の事情に合わせて様々な控除がなされます。
控除されることによって課税対象額が減ると、その分納めるべき所得税額も減るため、これまで天引きされてきた金額が余ることになります。
そこで、余った差額は、年末調整還付金として個々に戻されます。

控除とは、それぞれの家族構成や必要経費など、個人的な経済事情によって課税対象となる所得や税額を減らしてくれる仕組みです。
個々の事情に応じて控除は変わるため、源泉徴収の段階では反映できません。そのため、一般的には年末調整では控除によって還付金をもらえるパターンが多くなります。

年末調整のやり方


年末調整は、実施される時期や必要書類、やり方が決まっています。正しい方法を知っておけば、書類の出し忘れや提出の遅れなどを防げるでしょう。
正しく賢く年末調整をすると、会社員でも最大限の節税効果が期待できます。

年末調整の実施時期

年末調整が行われる時期は、それぞれの会社ごとに決められています。
ただし、早いところでは10月末あたりから告知や提出書類の配付、記入方法の説明などが始まり、還付金の振り込みは翌1月くらいまでに行われる場合が多いようです。

12月分の給料が確定して1年分の給料総額が出ないと、年末調整は行えません。そのため、12月を年末調整の時期にしている会社は多くあります。
ただし、年末調整で控除を受ける際に提出が必要な書類は、前述した10月末よりも前から送られていることもあるため、紛失しないように保管してください。

年末調整の流れ

年末調整の業務は、会社が契約している会計事務所と事務担当者が中心となって行うものです。
会計事務所は、年末調整の時期が近づくと、会社に必要書類の配付準備を依頼します。
会社では申請書などの配付を行い、従業員に対して年末調整の説明や書類の提出期限の告知を行います。

従業員がすべきことは、配付された書類に必要事項を記入して、添付書類を添えて提出するだけです。期限を守り、必要な書類はすべて提出してください。

年末調整は個々の経済状況によって提出書類や書き方が異なるため、全体への周知では伝えきれない情報もあるかもしれません。
不明な点があった場合には、担当者に問い合わせることも必要です。

申告書と添付書類を回収したら、会計事務所で内容の確認と所得税の計算、法定調書の作成が始まります。
また、会社では12月の給与明細書とともに源泉徴収票を作成し、給与支給日に備えます。
従業員への還付や追加徴収のタイミングは、12月の給与支給日から1月下旬頃です。

会計事務所で法定調書の作成が終わると、会社に年末調整資料が返却され、法定調書が提出されます。
資料は保管しておき、法定調書合計表は翌年の1月末までに税務署に提出しなくてはなりません。

控除一覧について

年末調整ではいくつもの種類の控除を受けられます。受けられる控除は全て利用し、節税に生かしましょう
控除は自分から申告しないと受けられないため、見逃さないことが大切です。

年末調整で受けられる控除

年末調整で受けられる主な控除の金額や当てはまる人などを下記の表にまとめました。

控除名 控除額 備考
基礎控除 48万円など 給与者の所得により変動
配偶者控除 38万円など 給与者及び配偶者の所得により変動
配偶者特別控除 1万円~38万円 給与者及び配偶者の所得により変動
扶養控除 63万円など 扶養家族の年齢により変動
社会保険料控除 全額 扶養している家族の分も可
生命保険料控除 平成24年以降に締結した保険契約は最大12万円まで

年末調整後に受けられる控除

年末調整では控除できず、その後の確定申告によって控除するものもあります。住宅ローン控除は、最初の1年だけ確定申告が必要で、その後は年末調整で控除できます。

控除名 控除額 備考
医療費控除 医療費-保険金などで補てんされる金額-10万円

もしくは

医療費-保険金などで補てんされる金額-総所得金額等×5%

多額の医療費(10万円超)がかかった人が対象
左の計算のうちどちらか多い額が控除
寄附金控除 特定寄附金の額-2,000円

もしくは

総所得金額等×40%相当-2,000円

左の計算のうちどちらか多い額が控除
雑損控除 正味の損失額-総所得金額等×10%

もしくは

差引損失額のうち災害関連支出額-5万円

左の計算のうちどちらか多い額が控除
住宅ローン控除 通常の住宅では、上限4,000万円までのローン残高×1%(最高40万円) 最初の年のみ確定申告が必要

年末調整の必要書類

年末調整では会社から受け取り、記入すればいい書類と自分で準備しなければいけない書類があります。それぞれに正しく準備して、提出してください。

担当者から従業員に配布し記入してもらうもの

会社の担当者から従業員に配布し、各自に記入してもらうのは以下の3種類の書類です。3種類とはいえ、1枚に複数の情報を記載する書類もあります。

扶養控除等申告書は、翌年の予定を書くために翌年付けの書類をもらい、ほかの2枚は今年の年末調整の控除に使う今年分をもらうのが一般的です。
年度の違う書類を配付されるので疑問に思うかもしれませんが、間違いではありません

扶養控除等申告書

正確には「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」です。
この書類では、自分の経済状況や家族環境について問われます。控除対象扶養親族・障害者・寡婦・ひとり親または勤労学生など、当てはまるものを記入します。

保険料控除申告書

保険料控除申告書は、保険料控除について申請する書類です。生命保険料控除・地震保険控除・社会保険料控除・小規模企業共済掛金控除の欄に分れています。
各種控除対象者は必要な箇所に記入し、年末調整に反映してもらいます。

基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書

これは、名前の通り「基礎控除申告書」・「給与所得者の配偶者控除等申告書」・「所得金額調整控除申告書」の3種類の書類がひとつになった申告書です。
それぞれの控除について申告し、年末調整に反映してもらいます。

従業員が自ら準備し提出するもの

年末調整では、会社から配付された書類に各種証明書などを自分で準備して、添付する必要があります。
年末調整で控除してもらうために大切な書類なので、各自で保管し、忘れずに書類に添えて提出してください。

住宅ローン控除申告書・年末残高証明書

住宅ローン控除では、初年度のみ確定申告が必要ですが、翌年以降は年末調整で控除できます。控除のためには、住宅ローン控除申請書と年末残高証明書の提出が必要です。

住宅ローン控除申請書は、確定申告をした年の10月頃に税務署から9年分まとめて郵送されるため、ちょうど2年目の年末調整にも間に合います
また、年末残高証明書は毎年10月頃に金融機関から送られてくる書類です。

保険料控除証明書

保険料控除証明書は、各種保険料の控除のために使います。生命保険や地震保険など、それぞれの控除証明書は保険会社から送られてきます。
また、国民年金保険料を納めている場合には、国民年金保険料の控除証明書も提出が必要です。

年末調整の対象者と対象外の人


年末調整は、正社員として働いていない人でも対象となる場合があります。
特に、この1年で働き方を変えた人は、自分が対象者かどうか確認しておきましょう。

対象となる人

年末調整の対象となるのは、会社に勤めている人、誰かに雇用されている人です。

年末まで勤務している人

基本的に、その年の12月頃に行う年末調整の対象となるには、その時点で会社に勤めていることが最低限の条件です。
退職した人は年末調整の対象にならないため、一定以上の年収があれば自分で確定申告を行う必要があります。

正社員・バイト

年末調整の対象となるのは、正社員だけではありません。パートやアルバイトの社員も、一定の条件を満たした場合には勤めている会社で年末調整を行います。

青色事業専従者

青色事業専従者とは、青色申告を行う事業主に雇われている人のことです。
個人事業主本人は確定申告を行うため、年末調整の対象ではありませんが、専従者として雇っている人がいる場合には、その人の分の手続きをしてあげる必要があります。
年末調整に必要な書類なども前述の会社員と同じです。

注意したい人

年末調整するにあたり、注意が必要な人もいます。個々の事情に合わせて正しい方法で年末調整を行いましょう。

中途就職者

年の途中で会社を辞めて、新しい職場に就職した場合には、転職先へ退職した会社から発行された源泉徴収票を提出することになっています。
源泉徴収票があると、転職先で前職場と転職先の給料を合わせた金額で年末調整をしてもらえます。

転職活動が長引いても、前職場で発行された源泉徴収票はなくさないように保管しておいてください。
また、年内に転職が決まらなかった場合には、その年は確定申告を行う必要があります。

掛け持ちバイトの人

掛け持ちで2カ所以上の会社でバイトをしている人も年末調整できるのは、ひとつの会社だけです。
1社で年末調整をした場合には、他の会社でもらった給料の分は年末調整できないので、確定申告を行う必要があります。

ただし、これは年末調整の時点で2社以上に勤めている場合の話です。
年末に1社を残してほかのバイトを辞めた場合、ほかのバイト先からもらった源泉徴収票を会社に提出すると、まとめて年末調整してもらえる場合もあります。

対象外の人

会社勤めをしているにも関わらず、年末調整できない人や特別な事情によって確定申告の必要がある人がいます。対象外となった場合には、必要に応じて確定申告してください。

年収103万円以下で源泉徴収されていない人

年収103万円以下で源泉徴収されていない人は、そもそも年末調整や確定申告の必要がありません
この場合には、自分は扶養家族となり、扶養者の所得税や住民税を抑えられます。

給与の総額が2,000万円を超える人

給与の総額が2,000万円を超える高額所得者は、年末調整ではなく確定申告が必要です。
2,000万円以上は控除が一般の年末調整のものとは違うため、年末調整は行えません。

災害などにあった人

災害減免法の規定により、災害で大規模な被害を受けた人は、所得税の減免があります。
規定に基づき、給与に対するその年の所得税及び復興特別所得税の源泉徴収について、徴収猶予や還付を受けた人は確定申告が必要です。

企業・経営者の年末調整の注意点


企業の経営者は毎年の年末調整を正しく、確実に行わなくてはなりません。また、年末調整書類についても正しく保管することが大切です。
ルールを守らなかった場合は、ペナルティもあります。

年末調整をしないとペナルティがある

年末調整をしない企業に対しては、2種類のペナルティがあります。
年末調整をせず、従業員から金額の徴収も行わなかった場合には、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金です。
また、年末調整はしたものの徴収した額を納付しなかった場合には、10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金となっています。
金額もさることながら、会社の信用問題にもなるためルールは厳守してください。

年末調整書類は保存が必要なものがある

年末調整書類は、手続き書類の作成のために会計事務所が一旦預かりますが、最終的には会社に戻されます。戻された書類については、7年間の保存が必要です。

まとめ

企業に勤めている人は、原則的に年末調整で所得税の差額を調整します。
企業・事務の作業の流れ、従業員の準備が必要な書類など、それぞれの立場で正しく理解しておきましょう。

会社員でも対象者とそうでない人がいるため、働き方を変えた時などは自分が対象者になるか確認することが必要です。
個人事業主でも従業員がいる場合には年末調整が必要となるため、注意してください。

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(編集:創業手帳編集部)

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