マニュアルにまつわるさまざまなQ&A【中山氏連載その6】
内閣官房で業務見直しを任された業務効率化のプロ、中山亮氏に聞く。マニュアルの効果と可能性
日常業務、また異動、退職に伴う引き継ぎ、事業承継など、あらゆる場面でのマニュアルの活用法や作り方について、500社以上のマニュアル作りに関わった中山氏にうかがってきた本連載。全6回にわたってお送りしてきましたが、いよいよ最終回となった今回は、マニュアルにまつわるさまざまな質問に、段階別に答えていただきました。
内閣官房「業務の抜本見直し推進チーム」アドバイザー
株式会社2.1 代表取締役社長
長崎大学大学院を修了後、株式会社アルファシステムズにSEとして入社。その後株式会社リクルートを経て、プルデンシャル生命保険株式会社へ。リクルートでは住宅情報誌の営業MVP、プルデンシャルでは業界上位1%の保険営業マンに送られるMDRTの称号を獲得し、横浜エリアにて営業所長を務めた。多くの企業に戦略的なマニュアルが導入・活用されていないことで、生産性の低下や人材が活躍できていないことに着目し、2014年、株式会社2.1を創業。
これまでマニュアル導入支援事業を通じて300社以上の組織活性化を実現した実績から、2019年より政府機関である内閣官房にて日本行政全体のマニュアル化を支援。2020年より、福祉介護業界の属人化脱却を掲げる一般社団法人CI connectや、働きにくい環境の排除を推進する一般社団法人働きやすさ推進協会で理事を務める。
また、マニュアルの真価と重要性を解説した著書『社長、僕らをロボットにする気ですか?』で好評を得ている。
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この記事の目次
マニュアル作成に取りかかる前のQ&A
すべての業務をマニュアル化しようと思ったら、半年以上かかりますか?
企業の規模にもよりますが、全部署・全業務のマニュアルを作るとなったら、数か月では到底終わりません。再現性の高いマニュアルにするため、業務の細部まで細かくマニュアル化することが望ましいからです。
また、時間をかけている間に、業務自体が変わってしまうこともあります。そこで、1~2か月に期間を区切り、課題解決の優先度がもっとも高い業務に絞ってマニュアルを作成することをお勧めしています。
例えば、新人の離職率を下げるために営業マニュアルを作るのであれば、管理職を含めた営業の全業務ではなく、新人に絞った業務に特化してマニュアルを作成します。最優先の課題が解決したら、次に優先度の高い業務のマニュアルに着手するというように、ひとつ1つ進めていくのがベストだと思います。
どんなときにマニュアル作成の依頼をされることが多いですか?
まずは新卒採用など、人を増やすときが多いですね。こういう場合は時期が分かっているので前もって用意することができます。しかし、次にご依頼が多い、社員の急な退職や休暇が決まったというような場合は前もって用意ができず、緊急でマニュアルを作ることになります。弊社でお引き受けする場合、そういった場合は単価が上がってしまいますので、普段からそういった緊急時に備えてマニュアルを準備し、常にブラッシュアップしておくことが望ましいといえます。
マニュアル作成をする際のQ&A
「自分のノウハウは人に教えたくない」という秘密主義型の社員がいたらどうすればいいでしょうか。
たまにいるんですよね、そういう方。マニュアルを作る目的というのは、業務の王道のやり方を定めることですから、例えその方が仕事が抜群にできる人であっても、無理にその人からその人なりのやり方を聞き出す必要はありません。その次ぐらいに仕事ができる人に聞けば問題はありません。大事なのは、一度マニュアルを作成すること。その後、よりいい業務の進め方が見つかれば改善していけばよいのです。
フォーマットにできないような複雑な業務がある場合はどうすればいいですか?
その場合は、業務自体を見直すべきだと思います。もう一度業務を確認し、見える化していくと、業務の無駄が見つかったり、よりよい方法が見つかったりして業務の改善につながることも多いものです。
今までの連載でもお話ししましたが、営業のように顧客の反応に合わせて柔軟に対応を変えるという業務でも、想定問答をきちんと設定し、「相手に必要な対応ができなければ次は何を提案する」と決めれば、マニュアルにすることは十分に可能です。
マニュアル作成の際に、社員の中で意見が分かれて議論になってしまうことはないんですか?
これはあるあるですね。複数の人でマニュアルを作ろうとすると、議論ばかりで作業が進みません。一番いいのは担当者をひとりに絞り、たたき台としてのマニュアルを作ってしまうことです。その後に、他の人に見てもらって改善していけばいいのです。
複数の店舗があり、売上げが店舗によって相当違うような場合はどういう風にマニュアルを作るべきでしょうか?
複数の店舗があって、店舗ごとに店長がいて、少しずつ業務の内容が違うような場合は、各店舗ごとに聞き取りをしてマニュアルを作るのに相当な労力がかかります。お勧めしているのは、まず経営側に理解があり、できれば売上げも高い1店舗から、業務の可視化、ひいてはマニュアル化を始めることです。
その1店舗の成果をたたき台として、他の店舗にもシェアし、業務内容を平準化していきましょう。他の店舗のやり方のほうが優れている点があれば、それを取り入れてマニュアルを改善していくことも可能です。
マニュアル作成後のQ&A
年代によってマニュアルの捉え方が違います。どうすればいいでしょうか。
40代後半以上の世代は、働き方が若い世代とは違います。彼らは先輩の背中を見て仕事を覚え、10年かけて一人前になると考えてきました。そのため、独自のやり方がある彼らには、マニュアルにネガティブな印象を持っている方も少なくありません。そんな環境の中でマニュアルを導入する時には、そのあたりの配慮をするとよいでしょう。
あまりにも抵抗が強い場合には、マニュアルの使用範囲を考えてみましょう。例えば営業マニュアルの目的が新人教育であれば、営業スタッフ全員にマニュアルの使用を義務付ける必要はありません。使用者を新人のみに絞るなどの対応をしましょう。
マニュアルの使用を徹底できない場合はどうすればいいでしょうか。
業務によってマニュアルのフォーマットがバラバラだったり、図やイラストなどが全く無くて見にくいマニュアルだったりしていませんか?フォーマットの統一化や見せ方の工夫をしましょう。強調したい部分は赤字や太字にするべきですが、それが多すぎてかえってわかりにくいこともあります。余計なことはなるべく書かず簡潔にし、強調する部分は最小限にとどめましょう。
また、マニュアルを使用することを徹底させることもまた重要です。マニュアルを使ったり使わなかったり、という状態はよくありませんので、例えば会議には必ずマニュアルを持って参加する、1か月または四半期ごとにマニュアルをアップデートする必要性がないかどうか部門ごとに話し合う、などと日常業務にマニュアルを取り入れることが大事になってきます。
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ワンポイントコラム イラストや便利なサービスの活用
言うまでもありませんが、ビジュアルの工夫は見やすいマニュアルにとって不可欠。
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(取材協力:
株式会社2.1代表取締役 中山 亮)
(編集: 創業手帳編集部)