正しいマニュアルはM&Aにも新人教育にも役に立つ【中山氏連載その3】

創業手帳

内閣官房で業務見直しを任された業務効率化のプロ、中山亮氏に聞く。マニュアルの効果と可能性

日本企業にはまだなじみが深いとはいえない「マニュアル」ですが、属人化しがちな仕事を誰でも効率的に行えるようにするためには必須のものと言えます。第一回と二回では、マニュアルの必要性や、2020年のコロナ禍で急速に広まったリモートワークにおける注意点などについて、今まで500社以上の企業のマニュアルを作ってきた中山氏にお聞きしました。

第三回である今回は、経営者が頭を悩ませる社員教育や、M&Aにおけるマニュアルの役割、そしてマニュアル作成の仕事をなぜ始めたのかについて、じっくりと語っていただきます。

中山亮

中山 亮(なかやま りょう)
内閣官房「業務の抜本見直し推進チーム」アドバイザー
株式会社2.1 代表取締役社長
長崎大学大学院を修了後、株式会社アルファシステムズにSEとして入社。その後株式会社リクルートを経て、プルデンシャル生命保険株式会社へ。リクルートでは住宅情報誌の営業MVP、プルデンシャルでは業界上位1%の保険営業マンに送られるMDRTの称号を獲得し、横浜エリアにて営業所長を務めた。多くの企業に戦略的なマニュアルが導入・活用されていないことで、生産性の低下や人材が活躍できていないことに着目し、2014年、株式会社2.1を創業。
これまでマニュアル導入支援事業を通じて500社以上の組織活性化を実現した実績から、2019年より政府機関である内閣官房にて日本行政全体のマニュアル化を支援。2020年より、福祉介護業界の属人化脱却を掲げる一般社団法人CI connectや、働きにくい環境の排除を推進する一般社団法人働きやすさ推進協会で理事を務める。
また、マニュアルの真価と重要性を解説した著書『社長、僕らをロボットにする気ですか?』で好評を得ている。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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M&Aの前に業務の「デューデリジェンス」をすべき

中山:最近のトレンドでいうと、M&A(企業の合併や買収)もマニュアル化をご依頼されることが増えている案件ですね。会計のデューデリジェンス(投資や企業取引、合併や買収などの際に対象となる企業の価値やリスクを詳しく把握するために、企業価値の査定や法律に関わる資産について調査すること)は皆さんするけれど、業務のデューデリジェンスはしないじゃないですか。

会社を買ってから、業務が属人的(特定の人のみが把握している状態)ということに気づいて、困った…と駆け込んでくるクライアントの方が多いんですよ。

大久保:PMI(M&Aの後に、企業を統合するプロセスのこと)が重要ということですよね。PMIがうまくいかない場合には、業務のマニュアル化ができているかをチェックしてみる必要がありそうです。

中山:はい。実際に業務があまりにも属人化していて、M&Aがうまくいかなかったという例もあります。ですからやはりM&Aにも業務のマニュアル化が重要ということです。

大久保:会社を買う側が大手のことが多いと思いますが、やはり大手の企業はマニュアル化をきちんとされていますか?

中山:それがそうでもないんですよ。大手の企業は離職率が低いですから、意外と業務のマニュアル化は進んでいなくて、かなり属人的だったりします。特に管理部門、経理部門はそうですね。某新聞社さんで実際にあった話なんですが、ヒアリングしていたら「夕刊のこのコラムは〇〇さんじゃないと書けません」とおっしゃっていて。「〇〇さんが休んだらどうするんですか?」と聞いたら「前任者が別の部署にいるので、その人に書いてもらいます」と返ってきて、愕然としました。

大久保:それはまた極端な話ですね。昭和50年頃にモーレツ社員っていう言葉が流行りましたけど、そんな感じでしょうか。

中山:今まで新人が入ってきたり、異動があったり、どこかで業務を教えたり引き継ぐチャンスは絶対にあったはずなのに、まったくそれをしていないっていうことですよね。驚きました。

足し算しかできない新人に方程式を教えるのは社員教育のタブー

大久保:新人というワードが出ましたけど、マニュアルというものは新入社員の教育にも役立つものなんですか。

中山:もちろんです。ただ、いくつか気をつけなくてはいけないところもあります。時々、お客様から「トップ営業のノウハウをもとに、新入社員用のマニュアルを作ってほしい」と依頼されることがあります。お気持ちはよーくわかるのですが、これは正直いいアイディアとは言えません。なぜなら、足し算・引き算もよくわからない人に、いきなり方程式を教えるようなものだからです。

算数と同じように、業務もやはり大切なのは基本・基礎。いきなり方程式を習って頭の中がはてなマークだらけになっている人の何が問題かというと、足し算からわかっていないのか、掛け算からわかっていないのかも不明なので、結局イチから教えないといけないということです。

大久保:なるほど。トップ営業のノウハウは、足し算・引き算から掛け算・割り算、つまり基礎を地道に学んできた人にこそ通用するんですね。

中山:そういうことです。その基礎を教えるための「会社の教科書」として、マニュアルは最適なツールなんです。マニュアルがあることで、社員教育の内容にブレがなくなりますし、学ぶ側としても仕事の流れが明確に把握できるので、不安や悩みがなくなり、結果として離職率の低下にもつながるんですよ。これは実際にマニュアルを導入していただいたお客様からの声で実証されています。

仕事を教える際には、必ずマニュアルを教材にして指導をし、どこかを省略したりすることがないようにしてください。基本を徹底的に身につけさせることが、とにかく大切です。

正しいマニュアルをもっと日本企業に広めたい

大久保:そもそも中山さんは、なぜマニュアル作成を仕事にしようと思われたんですか?

部下マネジメントを通して気づいた、マニュアルの留意点

中山:実は、部下マネジメントに苦手意識を持っていた私を救ってくれたのがマニュアルだったんです。プルデンシャル生命には、営業だけでも20冊を超えるマニュアルが存在します。

まずは部下に営業マニュアルを徹底的に読み込ませ、それだけでは結果が出なかったので、考えた末に自分がマニュアルを読んでどう解釈したかをマニュアルの行間を埋めるように書き出していきました。

例えば「お客様から信頼を得るために、レスポンスを早くしましょう」という内容を、より具体的に「メールをいただいたら即お返事をする。返事をしている時間がないときは、後ほど詳細をご連絡します、という旨でも返信する。可能であれば1時間以内」というようにです。

大久保:なるほど。確かにただレスポンスを早くと言われても、どのぐらいで返信すべきかという理解は個人によって違いますよね。

中山:はい。ここまで徹底して、ようやく部下たちの売上げは上がりました。このことで、同じマニュアルを見ても人によって理解度や再現度に差が出るということに気づき、マニュアルには誰が見ても同じように業務を再現できるところまで書いてあるべきだ、という結論に至ったんです。

マニュアル作成会社との出会いで「マニュアル屋」の道へ

大久保:しかし、営業マンとしては絶好調で、業界上位1%の保険営業マンしか獲得できない「MDRT」まで入手されたわけですよね。そんな営業の世界からマニュアル作成の道に進まれたきっかけはあったのでしょうか?

中山:そうですね。営業マンとして法人営業をしているうちに、それまで私にとっては当然だった「会社に充実したマニュアルがある」という環境が、世の中にとっては当たり前ではないということに気づいたことが、まずひとつのきっかけでしたね。

お客様の中には中小企業の経営者の方も多くいて、その方たちから「人材の雇用が難しい」「離職率を減らしたい」「業務を効率化させたい」という悩みをよく聞きました。

そのたびに自社ではマニュアルを活用しています、とお伝えしていたんですが、皆さん「うちにはマニュアルを作る時間も人材もノウハウもない」と言われます。

大久保:実はマニュアルが整備されている会社は、少数派ということですね。

中山:はい。世の中にもっとマニュアルの大切さを広めるべきではないのか、そんな風に考えていたときに、マニュアル作成会社との出会いがあったんです。

その会社は、広告は一切やっていないのにも関わらずクライアントは有名企業ばかり、というすごいところでした。でも社長は当時60代、在籍している社員の平均年齢は50歳オーバーで、会社を引き継ぐあてがないというのです。

大久保:そんな会社があるんですね。人生を変える運命的な出会いですね!それで、そこを継がれたのですか。

中山:そうなんです。いつか起業することが人生の目標だったこともあり、マニュアルの重要性を実感していたこともあり、迷わず立候補しました。半年間その会社で学び、その後マニュアル整備代行サービスを立ち上げたのです。

大久保:なるほど。中山さんの起業には、いろいろなタイミングや出会いが裏にあったのですね。マニュアル導入で広く知られている企業としては、無印良品や日本電産がありますね。そのあたりのお話も含め、次回は事業継承やリスク対策についてお聞きしたいと思います。

(次回に続きます)

ワンポイントコラム マニュアル作成の企画は「5W1H」が大事

WHO 誰が使うのか 年齢、身分、技術・知識水準
WHEN どんな時に使うのか 使用する場面
WHAT 使用者が望むこと ニーズ
WHERE どこを目指すのか ゴール
WHY 何のために作るのか 解決すべき課題
HOW どのように作るのか 人員、予算、期間

マニュアルを作成しようと思ったら、まずは企画をしてみましょう。「何のために」「誰のために」「どんな時に」「どこを目指して」「どのように」作るのかを考えます。

最初から全ての業務をマニュアル化しようと思うと膨大な作業になるので、現状困っていたり、優先度が高い部分の業務をまずマニュアル化するというのもひとつの考え方として有効です。

また、WHOのところで「誰のために」を考えると書きましたが、こちらも全社員に向けたマニュアルとなると範囲が広いので、例えば新入社員向け、営業部向け、派遣社員向け、など限られた層に向けてのマニュアルを作るようにするのもおすすめです。

HOWの部分で人員、予算、期間を考えるとありますが、マニュアルの制作には①担当者や担当部署が作る②プロジェクトチームによる全社的な取り組みにする3人事部などの管理部門が作る④外注するなどの方法があります。ご自分の会社に合った方法を選んでもらえばいいのですが、外注する場合は丸投げは禁物です。

企画書を作成した後、調査・分析→設計書の作成→作成へと進んで行きます。

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(取材協力: 株式会社2.1代表取締役 中山 亮
(編集: 創業手帳編集部)

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