2.1 中山 亮|起業家こそ人に頼るな!マニュアルを作れ【中山氏連載その1】

創業手帳
※このインタビュー内容は2020年09月に行われた取材時点のものです。

内閣官房「業務の抜本見直し推進チーム」アドバイザー、中山亮氏に聞く。マニュアルの効果と可能性

内閣官房「業務の抜本見直し推進チーム」アドバイザー、中山亮氏に聞く。マニュアルの効果と可能性

(2020/09/24更新)

今まで500社以上の企業にマニュアルを通した業務改善を行ってきた、株式会社2.1の中山亮氏は、属人的になりがちな仕事を可視化し、マニュアル化することで業務に透明性が生まれ、組織として成長できるといいます。

「マニュアル」という言葉を聞いたとき、あなたの頭にはどんなイメージが浮かびますか? 「マニュアル人間」、「言われたことしかやらない」、そんなネガティブな言葉が浮かんだのではないでしょうか。

しかし、仕事ができる社員もいつかは年をとり退職しますし、転職、または病気やケガによって、ある日突然会社に来ないという事態も起こり得ます。そんなとき、別の誰かが業務の内容を把握していなかったとしたら、どうなるでしょうか。

創業手帳代表の大久保によるインタビューを通して、全6回にわたり、マニュアルが持つ可能性に迫ります。

中山亮

中山 亮(なかやまりょう)
株式会社2.1 代表取締役

長崎大学大学院卒業。株式会社アルファシステムズを経て、株式会社リクルート、プルデンシャル生命保険株式会社に勤務。住宅情報誌の提案営業でMVP受賞、業界の上位1%の保険営業マンに贈られるMDRTの称号などを獲得後、マニュアルの重要性に気づき株式会社2.1を創業。計500社を超える企業にマニュアルによる業務改善を行う。2019年より、内閣官房「業務の抜本見直し推進チームアドバイザー」に就任。2020年、著書『社長、僕らをロボットにする気ですか?』を出版。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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マニュアルは本当に悪なのか?

マニュアルは本当に悪なのか

大久保:中山さんは今まで500社以上に対してマニュアルを作ってきたわけですけど、マニュアルの内容に最近のトレンドはありますか。

中山「DX(デジタルトランスフォーメーション)」ですね。コロナの影響もあり、いろんな企業で「DXなんとかセミナー」をやっています。ただね、仕事が整理されていない状態で無理やりデジタル化しても、結局使いにくくて放置されているという事例が多いんです。

そこで皆さん、まず何をシステム化するかをクリアにしないといけない、ということに気づくんです。でも自分たちでやる時間もスキルもない、ということで業務のマニュアル化のご依頼をいただくことが非常に増えましたね。

大久保デジタル化しても使えないものは使えない(笑)。やることが決まっていないのにDXしても意味がないですよね。その前にまずはマニュアル化すべし、ということですね。

中山:DXをするためにマニュアルを作ることの何がいいかというと、業務内容がクリアになること意外にもいろんな効用があるんですよ。業務を全体で共有しやすくなりますし、実は「この作業手順、入れ替えたほうが効率的だ!」と気づくこともあります。自動的に業務改善につながるんですよ。

大久保マニュアル化する過程で、頭の中が整理されるということですね。仕事のダイエットにもなりそうです。

中山:はい。ただ、マニュアルって本当に誤解されているんです。わたしの著書のタイトル『社長、僕らをロボットにする気ですか?』というのは、マニュアル導入の説明をしに行った会社で、実際に社員の方に言われた言葉です。いかにみなさんがマニュアルに抵抗感を持っているかを思い知らされましたね。

「わたしにしかできない仕事だから」「複雑な仕事だから」マニュアル化なんかできるわけない、といった反発も実際によく耳にします。それもこれも、皆さんがマニュアルに対して良い印象を持っていないせいでもあるんです。

大久保:マニュアルに書いてあることしかできない、といった否定的な意味を持つ「マニュアル人間」という言葉もありますし、確かにネガティブなイメージを持っている人が大半かもしれません。

マニュアルの日本デビューは「スマイル0円」

マニュアルの日本デビューはスマイル0円

中山:マニュアルという概念が日本に入ってきたのは、マクドナルドからだといわれているんですよ。1971年、銀座に日本第一号店を開いたマクドナルドは、調理方法から接客に至るまで、手順を事細かに説明したマニュアルを取り入れたんです。

マニュアルを用いることによって、従業員は作業の手順で迷ったり、悩むこともなく短時間で仕事を覚えられる。消費者にとっては、いつどこの店舗に行っても同じ味のものを食べられて、同じ品質のサービスを受けることができる、というメリットがあります。これ以後、日本のサービス業は次々とマニュアルによるスタッフ教育を取り入れるようになったんです。

大久保:そうだったんですね。確かに1店舗しかない店と違って、全国に何店舗もあるようなチェーン店では、マニュアルがないと商品の質やサービスの統一が難しいでしょうね。

中山:その通りです。そもそもマニュアルの元になったのは、1800年代のアメリカで製鉄工場をシステム化した「テイラー・システム」で採用された手順書と言われています。
海外ではそれだけマニュアルの歴史がありますから、外資やグローバルに展開している企業は、やはりマニュアルをしっかり活用していますよね。わたしが働いていたプルデンシャル生命保険では、営業だけで20冊にも及ぶ業務マニュアルがありました。

営業なので、もちろん顧客によって業務の流れはさまざまなわけですが、初回の訪問から契約を結ぶところまで、何通りものケーススタディがしっかり用意されているんです。

研修中はこのマニュアルを読みながら、早く現場に出て学んだことを試したいとワクワクしていましたし、実際にマニュアルで身につけたトークやスキルをフル活用して契約数を伸ばし、業界上位1%の保険営業マンに贈られる「MDRT」という称号を獲得するまでに成長できました。こういった経験を通して、マニュアルのすごさに気づいていったんです。

楽譜はつまりマニュアルだった?

楽譜はつまりマニュアルだった

中山:『エリーゼのために』という曲を知っていますか? 聴いたことがないという人はいないぐらい有名な曲ですよね。子どもたちのピアノの発表会でも人気の曲だそうです。

作曲したのはベートーヴェンで、この曲が作曲されたのは1810年。200年以上も前に外国で作られた曲を、21世紀の日本の子どもたちが実際に弾けるって、実はすごいことだと思いませんか?

大久保:言われてみればそうですね。楽譜という存在がなければ、そんなことは不可能です。

中山:そうなんです。楽譜というのは、音楽を一定のルールに基づいて、記号や線を使って書き表したもの。ルールや記号の意味が決まっているからこそ、時代や国が違っても、その音楽を再現することができるんですね。

これ、マニュアルも同じなんです。やるべきことや手順を、誰でもわかるように、そして誰でも再現できるようにするためのもの、それがマニュアルなので、楽譜もひとつのマニュアルといえますね。もし楽譜というマニュアルがなかったら、200年後の私たちに、ベートーヴェンが作った『エリーゼのために』という曲を正確に再現するのは無理だったでしょう。

大久保北辰一刀流(ほくしんいっとうりゅう)という剣術と薙刀(なぎなた)術の流派を創設した幕末の剣客、千葉周作も、武道の型をマニュアル化して人気が集まり、門弟三千人といわれるほどの繁盛振りだったそうです。

中山:幕末の剣客にもそんな方がいたんですね! 素晴らしいです。伝統文化でいうと、茶道も400年以上前に生まれたものなのに、現代の日本にも脈々と受け継がれていますよね。私はその理由に「利休七則」の存在があると思っています。

利休七則とは、「茶は服のよきように点て」から始まる、茶道で守るべき基本的な精神と作法を説いた茶道の創始者、千利休の言葉です。こうして言葉として残されていた、つまりある意味でマニュアル化されていたからこそ、長い年月を経てもその教えや文化が失われることなく継承されているのだと思います。

これを企業に当てはめると、今の仕事のやり方を若い世代に引き継ぎ、会社を存続させていくには、業務内容の可視化、つまりマニュアル化がやはり必要だという結論にたどり着くわけです。

マニュアル人間を作っているのは「レベルの低いマニュアル」

大久保:これまでのお話で、マニュアルが悪いものではないということが分かってきました。

中山:マニュアルどおりに仕事をして、思考が停止しているロボットのような働き方しかできない人がいたら、それはその人の能力が低いわけではなく、使っているマニュアルのレベルが低いということです。

「悩む」「迷う」「やり直す」という仕事の生産性を邪魔する要素をなくし、頭の空き容量を増やす。そして「工夫する」「新しい発想をする」などに充てる時間を生むのが、正しいマニュアルなんです。

ですから、「離職率が最近気になるな」とか「教育がうまくいってないな」と思われる経営者の方は、うちの仕事はマニュアルに合うか合わないかと考える前に、一度業務内容を書き出すことをやってみたらいいと思います。可視化をするだけで、きっと気づくことがたくさんありますよ。

大久保:起業家目線でいうと、起業前後の足元のふわふわした時期に、いったん落ち着いて業務の可視化をやるとよさそうですね。マニュアルの効用、また作り方について、さらにお話を聞かせていただきたいと思います。

(次回へ続きます)

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(取材協力:株式会社2.1代表取締役 中山 亮)
(編集:創業手帳編集部)

ワンポイントコラム 「暗黙知と形式知」

    暗黙知と形式知

  • 正しいマニュアル作りとは、個人の頭の中にある、他人にはわからない知識や情報「暗黙知」を、誰でもわかるような「形式知」にすること。経験や勘、コツといった言葉で表現される個人の技能を、文字やビジュアルを使って誰でも理解できるように変換します。
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