マニュアルは異動や退職へのリスク対策。事業承継のお供にも!【中山氏連載その4】

事業承継手帳
※このインタビュー内容は2021年02月に行われた取材時点のものです。

内閣官房で業務見直しを任された業務効率化のプロ、中山亮氏に聞く。マニュアルの効果と可能性

企業であれば無縁ではいられない退職や休職、異動などによる引き継ぎ。事業承継に際しての人員配置変えや業務の把握、新事業のスタート。これらの課題には、マニュアルを作成するのが非常に効果的だと、今まで500社を超える企業のマニュアル作成を請け負ってきた中山氏は言います。

放っておくと仕事は属人的になりやすく、「その人にしかできない」仕事になりがちです。今の日本の大きな課題である事業承継や、伝統芸能を支えてきた職人の跡継ぎがいないという問題にもつながります。素晴らしい技術を後世に伝えるためには、技術や業務の可視化、
誰にでも分かりやすいようにシェアするということが重要で、そのためにマニュアルが役に立つでしょう。

連載4回目である今回は、事業承継やリスク対策におけるマニュアルの役割についてお聞きしました。

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中山亮

中山 亮(なかやま りょう)
内閣官房「業務の抜本見直し推進チーム」アドバイザー
株式会社2.1 代表取締役社長
長崎大学大学院を修了後、株式会社アルファシステムズにSEとして入社。その後株式会社リクルートを経て、プルデンシャル生命保険株式会社へ。リクルートでは住宅情報誌の営業MVP、プルデンシャルでは業界上位1%の保険営業マンに送られるMDRTの称号を獲得し、横浜エリアにて営業所長を務めた。多くの企業に戦略的なマニュアルが導入・活用されていないことで、生産性の低下や人材が活躍できていないことに着目し、2014年、株式会社2.1を創業。
これまでマニュアル導入支援事業を通じて300社以上の組織活性化を実現した実績から、2019年より政府機関である内閣官房にて日本行政全体のマニュアル化を支援。2020年より、福祉介護業界の属人化脱却を掲げる一般社団法人CI connectや、働きにくい環境の排除を推進する一般社団法人働きやすさ推進協会で理事を務める。
また、マニュアルの真価と重要性を解説した著書『社長、僕らをロボットにする気ですか?』で好評を得ている。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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事業承継にはまず「業務の可視化」を

中山:中小企業経営者の高齢化が進む日本では、事業承継は大きな課題となっていると思うのですが、創業者がキャラクターで人を動かすタイプの方だと、2代目3代目は苦労します。

なぜかというと、カリスマ性といえば響きはいいけれど、仕事が属人的でロジカルではなく、どう仕事を引き継げばいいのかが全く見えてこないからです。

実は前職で相続・事業承継という分野で生命保険の提案を行っていたことがあり、今でも親の会社を継ぐ息子さん、娘さん、つまり2代目や3代目の社長さんたちとのやり取りが多いんですが、社内での苦労話を本当によく聞きます。

みなさん、引き継いだ会社の売上げをよくするために、新規事業を立案したり、コストカットのために人員や業務の効率化などを断行しているんですが…。

大久保痛みを伴う改革というのは当然、既存メンバーの受けはよくないことが多いでしょうね。

中山:そうなんです。彼らを見ていると孤軍奮闘という言葉が頭に浮かびます。しかしそんな時こそ、マニュアルを整備していただきたいですね。業務を可視化することで、非効率な業務や人材の配置ミスに気づくこともできますし、組織として何が足りないかが見えてきます。

また、新しい事業を始める際におすすめしたいのが、マニュアルも一緒に作ることです。そうすれば、業務を終えた時点でマニュアルも出来上がるからです。そして、次にその業務にあたる人は、前任者に教えてもらうのではなく、そのマニュアルを見ながら業務を進めていきます。手順を改善する必要があれば修正する、という運用をしていけば、マニュアルは常に最新の状態に保たれます。

大久保:それはいいですね。急な退職や異動などが決まってから慌ててマニュアルを作るのは大変ですから。

異動や退職が決まってからマニュアルを作るのでは遅すぎる!

中山:そうなんです。社員の異動、休職や退職にあたって、後任の誰かに業務を引き継ぐということは、会社ならば避けて通れないですよね。

よくあるケースは、異動や休職・退職する本人が引き継ぎ用の資料を作るというものですが、それって精度が高いものができると思いますか?

大久保:思わないですね。だってもう自分はいなくなるわけですから。異動ならまだしも退職だったら、仮に抜けや漏れがあってもなかなか本人を追いかけて連絡も取りにくいですよね。

中山:その通りなんです。つまり、異動や退職が決まってからマニュアルを作るのでは遅いんです。一番いいのは、日常的にマニュアルを使い、それに伴って改善を繰り返していくことです。

大久保:いつも使っているマニュアルが、引き継ぎのマニュアルになるように整備しておけばいいんですね。そうすれば、急な退職や休職も怖くありませんね。

中山:はい。これこそがマニュアルがリスク対策にもなるゆえんです。あまり考えたくないですが、もしもその人にしかできない重要な仕事をまかせている社員が、急に交通事故にあってしまったらどうしますか?

そんな時に安心して休んでもらうためにも、マニュアルによる業務内容の共有を普段から意識しておきましょう。

「ゴルフ場のおじいちゃん」が職人芸の見本

中山:仕事の属人化という意味でいうと、職人さんの芸なんてその最たるものじゃないかと思うんですけど、このことを考えると僕はいつもゴルフ場のおじいちゃんを思い出すんです。

客観的に見るとあり得ないフォームでクラブを振っているんだけど、すごく真っ直ぐ飛んでいるんですよ。

最初は右に飛んでしまうからもう少し左、あれ、今度は右、と消去法を重ねて最終的にそのフォームになっているんですが、ご本人は「こういう風にすればこのフォームになる」というのを他の人に説明できないわけですよ。年月を経て消去法の結果出来上がったものなので、他の人にその方法を伝えることが難しいんです。こういう状況が、日本の職人さんには往々にしてあるんじゃないかと思いますね。

大久保:なるほど、ゴルフと職人ですか。面白い発想ですね。この問題に関しては、テックがそれを解決してくれる場合もあるかもしれません。実際、技能承継が課題である某工場では、目線を把握できるメガネ型の情報端末を使い、ベテランがそれをかけて作業をすることで、作業者の目線で動画を撮影しているそうです。

それを若手社員に見せることで、作業をどのように進めるとよいのかを共有しているそうなので、これは動画という形を取ったマニュアルと言えるかもしれないですね。

中山:動画を使ったマニュアルも、確かにひとつの形態なので悪くはないのですが、気をつけていただきたいのは、データ量が膨大になってしまうこと。保存する場所を考えましょう。

また、もうひとつ気をつけていただきたい点として、動画は冗長になってしまいがちで、見るのに時間がかかってしまうということです。

その点、文書であれば、目次をたどれば自分の見たい部分をパッと見ることができるので、時間もかからず効率的と言えます。

大久保:確かに動画は検索性という意味では文書に劣ると言えるかもしれないですね。ありがとうございます。次回はいよいよ、マニュアルの作り方について具体的に聞いていきたいと思います。

(次回に続きます)

ワンポイントコラム マニュアル作成では文章を図解化しよう

ダラダラと文章のみが続くマニュアルと、図やグラフが適度に入ったマニュアルと、あなたならどちらを読みたいと思うでしょうか?

答えは決まっていますよね。図やグラフが入ったマニュアルです。

データなどはグラフやチャートにしたり、イラストを使って視覚的に説明したほうが理解しやすいことなどは、イラストを使うのもひとつの手です。

文字のみの場合でも、以下のような工夫が考えられます。

  • 大見出しや小見出しをつける
  • 一部を箇条書きやチェックリストにする
  • 表組にしたほうがわかりやすいものは表にする

読みやすく、短時間で内容を理解できるマニュアルを作るためには、書かれている内容はもちろん、ビジュアルも非常に重要です。出来る限り上記のような工夫をして、誰が見ても業務内容がすぐにつかめるマニュアルを作りたいものです。

創業手帳が発行している「事業承継手帳」では、事業承継に関わるインタビューを掲載しています。無料で届きますので、ぜひご活用ください。

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(取材協力: 株式会社2.1代表取締役 中山 亮
(編集: 創業手帳編集部)



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