目指すは「就職率ゼロ」の大学!?中村 伊知哉が仕掛ける起業家のための”i専門職大学”
i専門職大学 学長(就任予定) 中村 伊知哉インタビュー(前編)
(2019/01/25更新)
2020年に開学予定の「i専門職大学」(仮称・設置認可申請中)。ICT(情報・通信に関する技術)を生かして新たなビジネスを作り出す人材を育成することを目的とした大学で、創業手帳 代表の大久保も客員教員に就任する予定です。
その学長に就任するのが、政策学者の中村 伊知哉氏。ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターから旧郵政省に入省したという異色の経歴をもつ中村氏ですが、一体どのような大学を作ろうとしているのでしょうか?創業手帳 代表の大久保が、お話を伺いました。
1984年ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送 融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当するが、橋本行革で省庁再編に携わったのを最後に退官し渡米。
1998年 MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長。2006年より慶應義塾大学大学院教授。
創業手帳の創業者(代表取締役)
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
取材や提携、無料経営相談はこちら
パンクロッカーから官僚になった理由
中村:もともと僕は音楽をやっていたのですが、本当に音楽でやっていこうという人に勝てないと思った時がありました。
勉強も何もできないけどギターだけはすごく上手かったり、空のビール瓶を集めては酒屋に持っていき、10円をもらって食費に充てる生活をしているくらい極貧の生活をしていても、ギターだけはものすごくいいものを持っていたり。そういったやつらが周りにいまして、「彼らには勝てない」と感じたんです。
僕ができるのは、プロデューサーの立場でそういう人たちがフルスイングできるように環境を整えてあげることだと思いました。「どうしたらそれができるのか?」と調べていた時に、アーティストに関わるルール作成をしているところが郵政省だということがわかって、そこに入省したいと思ったのが始まりでした。
だから、他の省庁には全く興味がなくて、郵政省一択でした。入省するために1年がっちり勉強しましたね。
中村:そうですね。パンクロックをやっている仲間のライブイベントなどでチケットのもぎりをしながら勉強していた時なんかは、「勉強しているんなら帰れ!」って言われたこともあります(笑)。
そんな勉強漬けの日々を過ごしまして、無事に郵政省に入省することができました。
郵政省に入省してからは、通信・放送 融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当しまして、その後はMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ客員教授、スタンフォード日本センター研究所長、2006年からは慶應義塾大学大学院教授を務めています。
大きなビジネスを作り出すための「i専門職大学」
中村:もともと、ICTとビジネスのプラットフォームが必要だと思っていました。先ほどもお話した通り、以前MITやスタンフォード大学にいたことがあったのですが、これらの大学がアメリカの大きな産業・ビジネスを生み出すプラットフォームの役割を担っていました。
アメリカに対して、日本にはそういった場所がありません。
「教育機関であってもビジネス寄り・プロフェッショナル向きのもの、日本じゃないとできないようなポップカルチャーを取り入れた学校ができないかな」という構想をずっと描いていました。
そのように考えていた時に、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関として「専門職大学」を平成31年度から創設するという制度ができました。
この制度を使って、先ほどの構想を実現しようということになったんです。
中村:そうですね。実は、僕が教授を務める慶應義塾大学大学院には留学生が半数以上いまして、そのほとんどが日本の漫画・アニメ・ゲームに影響を受けてきた人たちなんです。これが20年前だったらトヨタ・ソニー・ホンダといった大企業に憧れて来たという人たちが多かったと思います。
つまり、日本が海外に向けている顔がガラッと変わっているということです。それを生かさない手はありません。
ポップカルチャーもあれば、テクノロジーもある。そういった総合力が日本の強みです。どちらか一方ではダメで、両方とも発揮できるような大学にしたいと思っています。
中村:僕も最初はポップカルチャーを独立した新しい文化だと思っていました。ですが、日本に古くからあるものづくりの文化、職人を尊敬する文化。そういったものが基礎となって、ポップカルチャーができたんだと思っています。
例えば、初音ミクはそれに当たるのではないでしょうか。
初音ミクは、もともと「ボーカロイド」というソフトウェアの技術でした。それがニコニコ動画で人気に火がついて、一般の方々が育てていったカルチャーなんです。
ハリウッドのコンテンツは、超一級のプロがすごいコンテンツを生んで世界中に売るというパターンが多い。ですが、日本は小さく生まれたコンテンツをみんなで育てていくパターンが多い。それが日本の強みだと考えています。
「現場を見せる」ではなく、「現場で学ぶ」「現場とつくる」カリキュラム
中村:「現場を見せる」というよりは「現場で学ぶ」「現場とつくる」と言う感じです。
ICTビジネスを主軸にするので、それらを扱うプロ、いわば起業家の方々と一緒に学校を作っていきます。これまで日本がやってこなかったマーケットやメディアに特化した学校をやりたいですね。
もちろん、プロになるためには学問も必要なので、徹底的にやります。それとは別に、腕を磨く・ビジネスの足腰を鍛えるという点はプロと一緒にやっていこう、ということですね。
中村:大学と一緒に株式会社も作って、ビジネスを作る、といったことを計画しています。それに付随するかたちで、全員が起業できるチャンスを整えようと思っています。
さらに、ICTの大学なので、オンラインでの学習を徹底します。
僕は、大学で行う授業ってほとんどいらないと思っています。家のリビングやお風呂、寝室などで授業を受けてもらい、大学に来た時にはディベートやものづくりや起業準備など、実践的なことをやってもらおうという考えです。
また、客員教員を100名ほど集めようと思って募集していたのですが、100名を超えちゃいまして。なので、大学ができる頃には200名にしたいと思っています。それが実現したら、おそらく世界で初めて生徒より教員が多い大学になるかもしれませんね(笑)。
中村:デジタルの教科書に関して、日本は後進国です。
この点は大学だけで終わらせる話じゃないので、他の教育機関との壁を取っ払って、全体に波及させたいと思っています。
今はエッジの効いたことをやっている大学も出てきたので、そういったところともどんどん連携していきたいですね。
目指すは「就職率ゼロ」の大学
中村:それが、全然ないんです。というのも、「こんな大学必要じゃありませんか?」と企業の方々に伺って回った時に、たくさんの賛同が集まってくれたからです。その結果、70社ほどの企業様が協力してくれることになりました。正直、こんなに賛同してくれるとは思っていませんでした。
この事業が、求められていることだとわかったのが良かったですね。
まだ認可は下りていませんが、この勢いで行くしかないと思っています。
中村:実は、「i専門職大学」での本当の理想は「就職率ゼロ」なんです。
就職率は「既存の企業に就職する確率」じゃないですか。そうじゃなくて、全員が起業してうまくいけば、就職率はゼロになりますよね。
そこを目指していきたいと思っています(笑)。
(取材協力:学校法人電子学園 i専門職大学 学長(就任予定) 中村 伊知哉)
(編集:創業手帳編集部)