AppBank 村井 智建|創業にはビジョンより事業が重要!「マックスむらい」が語る【前編】

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年07月に行われた取材時点のものです。

村井智建さんに創業のきっかけや事業に必要な人との関わりかたなどを創業手帳代表の大久保がインタビュー

村井智建
2020年1月「マックスむらい」こと村井智建さんが、5年振りにAppBank株式会社の代表に復帰。復帰後の中期経営計画では「脱マックスむらい」を掲げており、新規事業として炭フードブランドの「友竹庵」を立ち上げ、ラーメン「麺屋翔」やフルーツ大福「凛々堂」とのコラボレーションをおこないました。「友竹庵」については実店舗として原宿・竹下通りに「友竹庵.ICHIGO」を8月下旬にオープン予定。まさに脱マックスむらいの新しい収益構造を確立しはじめています。

18歳からビジネスの世界に飛び込み、24歳で会社を創業した村井智建さんに、創業のきっかけや創業に必要なことなど、創業手帳株式会社創業者の大久保が聞きました。

村井智建(むらい ともたけ)
AppBank株式会社 代表取締役社長CEO
2000年、株式会社ガイアックス入社。2006年、株式会社GT-Agencyを設立。2012年、AppBank株式会社を設立し、代表取締役CEO就任。2013年からは「マックスむらい」としてニコニコ動画やYouTubeに出演し。YouTubeチャンネルでは、日本最大級の登録者数を獲得。2020年、5年振りにAppBank株式会社の代表に復帰。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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最初の創業はガイアックスの100%子会社


大久保:村井さんが、はじめて創業しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

村井:はじめて会社を創業したのは、2006年の2月です。株式会社GT-Agencyという占いのコンテンツ会社を立ち上げました。

当時、株式会社ガイアックスで働いていて、GT-Agencyはガイアックスの100%子会社なので、いわゆる雇われ社長です。社長になりたかったというよりも、会社を作ったほうが組織的に意思決定が迅速になります。「仕事をやりやすくするため」というのが、きっかけというか理由ですね。あまり「会社作るぞ!」といった気負いはなかったです。

大久保:仕事をやりやすくするための「手段」としての起業ということですね。自分でいきなり起業するより、100%子会社の社長を経験するほうがリスクも少ないし、いろいろと学べるので良いですよね。

村井:社長になる前から事業を任せてもらっていたので、社長になってもあまり変わらなかったですね。いまはわかりませんが、当時のガイアックスは一人ひとりが事業主というか、事業のPLを書かせて任せる会社でした。

ガイアックスには「カーブアウト」という、社内で事業を立ち上げた人が、その事業を買って独立できる制度があります。

資本的な応援やバックアップ体制も整っています。現在、私が代表を務めるAppBank株式会社も2012年にガイアックスからカーブアウトしたのですが、最初の1年くらいは経理や総務といったバックオフィス業務をサポートしていただきました。

オフィスもガイアックスの社内に間借りしていました。めちゃくちゃありがたかったです。

大久保:ガイアックスは、起業家を輩出している印象が強いです。育成だけではなく、起業後にサポートもしてくれるのは助かりますね。当時を振り返って、創業するうえで重要だと思うことはありますか?

村井:まず、事業がしっかりあること。これが前提です。

仲間が集ったから起業するケースが多い気がしますが、それだとすぐにキャッシュが尽きてしまうと思います。

事業がしっかり決まらない状態で役員構成を決めると、絶対トラブルになりますよ。そうなると、会社の解散に直結してしまいます。

ゼロから起業となると資本がしんどいので、個人事業主で軌道に乗ってから法人化してもいいかもしれません

最近の流行りだと思うのですが、壮大なビジョンを描けるかどうか、ビジョンを気にする人が多いですよね。

「ビジョンが弱い」とかよく言うじゃないですか。でも私は、足元のキャッシュフローやしっかりした事業があることのほうが重要だと思います。ビジョンは後からでもよいスタンスです。

業界の成熟具合を意識する


大久保:村井さんは、世の中の変化の流れをつかむのがうまいですよね。何か意識していることはあるのでしょうか?

村井:変化の境目に事業を立ち上げているというよりか、業界の成熟具合を意識しています

たとえば、ある業界でプレイヤーが5社に限定されていて、その5社の売上がよくあるような配分になっていて、それが5年-10年変わっていないとします。さらに新規で参入しているプレイヤーもない。そういうところに横からドーンと入っていって、コスト構造を変えたり営業の手法を変えて最適化することで、市場を取りに行くような事業を立ち上げることが多いです。

世の中の変化に対して、早いところにいると思われがちなんですけど、じつは新しいテクノロジーで事業を立ち上げた経験は一度もありません。

既存のものを組み合わせたり、無駄が多いところを自動化して、スケールさせるイメージです。

まさに、AppBankの前におこなっていた占い事業はその典型です。占い産業が凝り固まっていた時代に、占いのBtoB事業をはじめました。

占いの場合、お客さんが占い師の先生にお金を払って「ありがとう」って言いますよね。でも、顧客サービスってお金をもらった側が「ありがとう」と言うのが本来の姿です。逆転現象が起こっているわけですよ。

それが当たり前になっていたので、商品開発や営業の部分でちょっと仕組みを変えるだけで大きく変わりました。

大久保:業界の当たり前を変えていくわけですね。村井さんは人付き合いも多そうですが、意識して人と会うようにしているのでしょうか?

村井:「マックスむらい」になる前から、人を紹介されることが非常に多いです。ベンチャーキャピタルの仕事をしている人よりも、人に多く会ってるかもしれません。

それは多分、私が害のない顔をしているのも一つの理由だと思います。騙しやすそう、人を信じやすそうな顔ですから。めっちゃ得もしているけど、めっちゃ損もしている顔ですね。良いときも悪いときも、人はたくさん寄ってきます。

だから、やりたくなかったり興味のないことを、どう断るかをよく考えています。私が「やりたい」か「やりたくない」か。これが判断軸です。

これまでに、いろいろな人といろいろな事業をしてますけど、共同事業のパターンが多いんですよ。

自分たちだけでやることはあまりなくて、誰かしらを巻き込んでやっています。

その場合、自分から辞めたいとは言わないですね。99%相手から辞めたいって言われたときに辞めるかどうか考えます。最後まで責任を持ちますね。

だから、いろいろな人から声をかけられるのかもしれません。

事業を進めるのは”人”

大久保:単独で事業したほうが身軽じゃないですか?

村井:私の経験では、利益率が下がったとしても責任の所在が複数あって、誰か一人が心折れても、誰かが頑張っている状況のほうが事業がうまくいく可能性が高いです。失敗しても問題ないくらいにキャッシュリッチであれば、話は変わるかもしれませんが…。

事業を立ち上げてから、リーダーの心が折れることなんて往々にしてありますよ。

事業を進めるのは、結局”人”なので、そこのリスクヘッジをしたい派です。

成功したときの取り分は減りますが、それでも責任を分散したほうが良いと思っています。誰かに助けてもらわないと事業なんてできませんから、積極的に人を巻き込みます。

大久保:それだけ多くの人と会って、いろいろな話が舞い込んでくる中で、一緒に何かやりたいと思うのはどのようなときでしょうか?

村井:楽しそうか、儲かるかですね。

ただ、それだけで仕事って選べないじゃないですか。

2020年にAppBankの社長に5年ぶりに復帰したんですけど、5年連続赤字の会社に社長として戻ったわけです。赤字が続いている会社を黒字にするのって、とても難しいですよ。ゼロから新しくはじめたほうが、簡単です。正直言って損しかありません。でも自分で作った会社なので、覚悟を決めて選びました。

大久保:自分が生んだ子どもだから、責任を持つ感じですかね。事業を立ち上げるとき、村井さんの役割はどのようなものでしょうか?

村井:事業を立ち上げるとき、はじめの計画書は全部自分で書きます。勝ち筋が見えたら、誰がどこを担うのかを決めて、あとは応援です。「頑張れ、頑張れ」と言ってます。

事業が走り出すと壁にぶつかるので、そのときに相談に乗ります。なかなか壁にぶつからない人もいますが、早くぶつかったほうがよいので「早くぶつかれ」と言ってますね。

壁を乗り越えることで、さらに前に進めますから。事業がうまくいっているときには何も言わないです。

私はどんなときでも楽観的です。いつも笑顔でいます。頑張って何かを成し遂げようと走ってるときに、うまくいかなくても笑いながらやるべきだと思うんです。意外と現場ではネチネチやっている人が多いですね。私は、サバサバと次どうしようかを常に考えています。

事業を任せた人が失敗して、会社に損害を与えたとしても怒るのではなく「いい勉強になったね。次どうする?」という感じです。

どうして失敗したか、次失敗しないためにどうするかを、資料にして提出させるようなことはないですね。そんな時間は無駄です。

どうして失敗したかなんて、失敗した本人が一番よくわかってますから。

ただし、それが二回、三回と続いたらその人は何も考えていないと思うので、外れてもらいます。

大久保:リーダーが笑顔でいることは大事ですよね。リーダーが暗い顔をしていると、チーム全体が暗くなりますから。

村井:そうですね。AppBankの決算発表を「マックスむらいチャンネル」でおこなっているのですが、赤字でも笑顔でやってますよ。

赤字だから暗い顔で話すような性格ではないんです。もっと悲しそうな顔をしてれば同情されるのに、と言われるんですけどね。損な性格です。どんなときでも楽観的です。

つまづくと終わりってパターンが多いですが、つまずいたうえで前に進むようにしています。

(後編に続きます)

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