鎌倉インターナショナルFC 四方健太郎|地方サッカーチームが生きるプロセスエコノミー経営術

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年02月に行われた取材時点のものです。

「みんなの鳩サブレースタジアム」はどうやって3000万円を集めたのか?

「旅が好き」「サッカーが好き」そんな思いを追いかけ、ついには仕事にしてしまったのが四方健太郎さんです。「世界一蹴旅行」で気づいた世界の広さをビジネスパーソンに伝える教育事業を立ち上げ、その後友人のひとことがきっかけでサッカークラブを作りました。

創業手帳代表の大久保が、起業の経緯やサッカークラブの運営、また人々がお金を出す対象が変わっているという「プロセスエコノミー」についてお聞きしました。

四方健太郎(よも けんたろう)
鎌倉インターナショナルFCオーナー
株式会社スパイスアップ・ジャパン シンガポール法人 代表
2002年に外資系コンサルティング会社に入社し、通信・ハイテク産業の業務改革・ITシステム構築に従事。2006年から中国に拠点を移し、台湾・香港を含む大中華圏の日系企業に対するコンサルティング業務にあたる。2009年、フリーランスのコンサルタントとして独立。独立後、サッカーワールドカップ2010年大会に出場する32カ国を巡る「世界一蹴の旅」を遂行し、経済界社より『世界はジャパンをどう見たか?』を上梓。現在、東南アジアやインドでグローバル人材育成のための海外研修事業に従事。シンガポール在住。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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「世界一蹴」旅行とは

大久保:まず、現在手がけていらっしゃる事業を教えてください。

四方サッカーチームの運営会社の代表と、グローバル人材育成事業の会社のシンガポール事務所の代表をやっています。

大久保:対照的とも思える事業ですが、どのように2つの事業を手がけるようになったのか、順を追ってお聞かせください。最初はアクセンチュアにいらっしゃったんですよね。

四方:そうなんです。新卒でアクセンチュアでコンサルタントとして勤務していまして、2006年に駐在で中国の大連に移りました。その後現地採用に切り替えて、上海オフィス所属になり、合計で中国には3年ほどいましたね。コンサルって終身雇用という意識があまりないんです。

社会人7年目、30歳になるころから漠然と「自分の人生、サラリーマンでいいのかな」という思いはありました。

個人事業主になり、独立してコンサルをやっていたんですが、1998年に初めて現地フランスで観戦したサッカーのワールドカップが非常に楽しくて、それ以降2002年の韓国・日本、2006年のドイツと現地で観戦していたので、全部見に行くぞ!と「世界一蹴」旅行に出かけようと決意したんです。

大久保:それはどんな旅行だったんですか。

四方1年間かけて、サッカーのワールドカップに出場する32カ国を巡る旅を行い、最後はワールドカップ開催地である南アフリカに1ヶ月住んでいました。北朝鮮やコートジボワールなど、旅行でも仕事でもあまり行かないよね、という国々も周り、言葉としては月並みですが、「世界って広いな、マーケットというのは大きいんだな」と肌で感じましたね。新興国は若い人たちがキラキラしていますし、その中で日本に帰国すると、おじさんたちが死んだ目で満員電車に乗っているわけですよ。

日本は高齢化や人口減少と言われていますが、地球そのものはマーケットも人口も伸びています。「若者よ、世界へ出ろ」じゃないですけど、自分の原体験をふまえてこれからは日本の中だけを見るのではなく、世界を見ていこうということを日本の若者に広めたいと思いました。

これをどう自分自身のライスワークにしていくのか試行錯誤した結果、大手企業の研修として、ビジネスパーソンをグローバル化するという切り口がうまくいき、2014年に「スパイスアップ・ジャパン」という会社で事業化し、僕自身はシンガポールにベースを移し、現地法人の代表となりました。

大久保:なるほど、そういう経緯だったのですね。実際に海外で働かれた経験もありますし、研修の講師としても活躍できそうです。

四方:そうですね。企画や営業もやりますし、現地で講師もやれます。当時結婚して子どももいたんですが、案件も増えてきてシンガポールに引っ越してから今に至るまで約8年間、シンガポールに住んでいます。

なぜサッカーのクラブチームを作ったのか?

大久保:サッカー事業はどのように立ち上げられたのですか?

四方:サッカーが好きだったのはもちろん以前からだったのですが、並行してサッカーってすごいコンテンツだなというのは考えていました。世界中の人が注目していますし、ファンの熱量がすごいですよね。

Jリーグは名前のとおり、「日本人による日本人のための団体」というイメージがあるかもしれませんが、2012年の南アフリカのワールドカップの頃ぐらいからJリーグアジア戦略というのを始めて、最初は「恵まれない人々に中古のユニフォームをあげよう」というような世界と関わる活動を始めたんです。Jリーグはその強さやこのような活動ゆえに、アジア各国からリスペクトされているんですよね。

例えば東南アジアのサッカーチームって財閥だったり、軍の権力者などがオーナーシップを持っているんですが、日本のチームのように強くなるにはどうすればいいのか?と興味を持っています。

イギリスのマンチェスターユナイテッドのような世界中にファンがいる強豪チームを考えてみたときに、少なくともアジアの中でJリーグってこういう存在になれるんじゃないかと考えられていたんです。

大久保スポーツがビジネスや政治のかけ橋になり得るというのは昔から注目されてきたところではありますよね。

四方:はい。あれから10年ほどたった現在ですと、例えばタイのスーパースターがJリーグに入ったら、タイ人がみんな試合を見て、Jリーグの放映権がタイのテレビ局に売れています。中田ヒデや三浦カズがイタリアに移籍したときに、日本人がみんなWOWOWに加入しましたよね。そういうことで経済も動かすことができるんです。

自分が関わることで、大好きな日本のサッカーに少しでも貢献できたらいいなという思いがあって、「東南アジアとのコネクションを作るので、ビジネスをしませんか?」という提案をしてみましたが、皆さんいいねいいね、という反応なんですが、話がまったく進まないんです。

一般の企業と同じといえば同じで、現場が忙しすぎて新しいことをやる余裕がなかったり、外国人や外国語が苦手、という反応もありました。

2017年にシンガポールの屋台街で飲んでいたときに、その進まなさ具合を嘆いていたら、ある人に「Jリーグのチームが動かないなら、四方さんがチームを作っちゃえばいいんじゃないですか?」と言われたんです。

自分はコンサルだったので、自分で作るという発想がすっぽり抜けていたんですが、そういえばきちんとサッカーを部活などでやった経験もなかったですし、サッカーの内側の話も知りませんでした。これはゼロからグローバルな付加価値をつけられるクラブチームを作ってみるのもいいかもしれない、と思いました。

大久保:それで本当にクラブチームを作られた行動力に脱帽です。それが何年のときですか。

四方:サッカーチームができたのが2018年1月ですね。法人登記がその1年後です。

大久保:ホームタウンが鎌倉ということですが、鎌倉って面白い人が住んでいますし、いいところですよね。

四方:そうですね。ビジョン作りから始まって、じゃあホームタウンをどこにするかということで、東京や横浜、大阪や札幌も考えましたが、だいたい先にどこかしらのサッカーチームがあるんです。やはり二番煎じではなく他のチームがないところ、かつグローバルという文脈がハマる場所というところで決めました。

プロセスエコノミーとは?

大久保:サッカークラブにもいろいろあると思うんですが、リーグという意味ではどのあたりに位置するのですか。

四方:現在「鎌倉インテル」は神奈川県リーグ2部というところに位置しています。いわゆるJリーグと呼ばれているのはJ1からJ3までですね。そのJ1(1部リーグ)から数えると、8部リーグとなります。

鎌倉にサッカーチームを作る、と言ったものの、鎌倉にはサッカーができるような整備された芝生のグラウンドがひとつもなかったんですね。それで2021年に作ったのが「みんなの鳩サブレースタジアム」と名づけたグラウンドです。

鎌倉市深沢にある1万平米もある空き地を借りようということになったのですが、このグラウンドを作るのに、3000万円が足りないということはわかっていました。ではどうする?と考えた結果、記者会見をしてクラウドファンディングでお金を集めよう、ということになったんです。

鎌倉の老舗企業であり「鳩サブレー」で有名な株式会社豊島屋さんにもネーミングパートナーとしてご支援いただきましたし、個人の皆さんにも、1平米3万円で3年間のスタジアム芝生オーナーになる権利を募りました。サッカーファンなら誰でも「俺はスタジアムのオーナーなんだ」と言いたい夢があると思うんですよね。

クラウドファンディングってユニフォームなどの物をリターンにしてしまうと、原価がかさんで結局手元にあまり残らないんですが、これは「モノ」ではなく「コト」をリターンにしているので、原価がほぼかかっていないんです。

人工芝を敷くのも、地域の老若男女のみなさんや、前述の一平米オーナーさんなどが協力してくれて、みんなで作り上げたグラウンドになりました。

大久保:集金力がすごいですね!みんなで作りあげるからこそ自分が応援したい、という気持ちになるのでしょうか。

四方:そうですね、ある意味地下アイドルを応援するのに似ていると自分は思っています。「プロセスエコノミー」といって、商品の機能や性能で差別化が難しくなってきた今だからこそ、その人や組織が持つ哲学であったり、物を作り上げるプロセス自体に価値があるという考え方があるのですが、まさにこういうことかなと思います。合言葉は「みんなでつくろう、鎌倉インテル」ですから。現在は第二期のクラウドファンディングを実施しているところです。

また、最新のブロックチェーンを活用した新世代クラウドファンディングともいえる、クラブトークンも販売しています。海外のビッグクラブやJリーグクラブをはじめ、話題のサッカークラブが新しい形でファンエンゲージメントを強化するものとして導入しています。こちらもかなり盛り上がっている状態ですね。日本のスポーツクラブではまだまだ珍しいNFTの発行も行っています。

大久保:作り上げるプロセス自体に価値があり、そのプロセスに参加する権利にお金を出すというのは新しい発想ですね。いろいろと工夫されていて素晴らしいです。

四方:サッカークラブにずっといるとあまりこういう発想ってないかもしれませんね。私は元々はサッカービジネスやサッカークラブ経営は門外漢だったので、柔軟な発想でいろいろとトライしてみようというマインドは持っているのかもしれません。

コロナ禍の現在、なかなか鎌倉に行けず、シンガポールからリモートで運営していますが、現場のメンバーの奮闘もあり、支援していただけるスポンサーや一般の方々のご協力もあり、まさにみんなで作ってきた鎌倉インテルだなあと感じていますこれからもさまざまな方の力を借りて、みんなで鎌倉インテルを盛り上げていきたいですね。

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(取材協力: 鎌倉インターナショナルFC オーナー 四方健太郎
(編集: 創業手帳編集部)



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