売却・廃業・倒産…専門家に手を借りて最善の道を!コロナに負けず未来に可能性を残す幕引きとは【松本氏連載その4】

事業承継手帳
※このインタビュー内容は2020年12月に行われた取材時点のものです。

倒産寸前の中小企業700社の再生を支援。9割の会社を成功に導いた“事業再生のプロ”松本光輝氏に聞く

倒産寸前の中小企業700社の再生を支援。9割の会社を成功に導いた“事業再生のプロ”松本光輝氏に聞く

コロナ禍の影響が長期化する中、中小企業をめぐる経営環境は一段と厳しい状況が続いています。

帝国データバンクの調査では、「新型コロナウイルス関連倒産」は全国で600件を突破。東京商工リサーチの「休廃業・解散企業」動向調査(速報値)でも、2020年1〜8月に全国で休廃業・解散した企業は3万5,816件(前年同期比23.9%増)となっています。

今回は700社以上の倒産寸前の会社に携わってきた松本氏に、事業売却や廃業も視野に入れたコロナ禍の時代の経営者への処方箋を提示していただきました。

松本光輝

松本光輝(まつもとこうき)株式会社事業パートナー 代表取締役
1948年生まれ。独協大学経済学部経営学科を卒業後、飲食業の2代目として、バブル期には17店舗を経営し、年商8億円企業に拡大。バブル崩壊後に25億円の負債を抱え、自ら事業再生を経験。その際の知識、経験を生かして、2003年から事業再生専門コンサルタントに。17年間に請け負ってきた中小企業700社の9割を事業再生に導き、数多くの中小企業経営者を救済してきた。2020年7月、あさ出版より「社長! コロナを生き残るにはこの3つをやりなさい」を出版。

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

この記事のシリーズ一覧

コロナ禍で1割近くの中小企業が廃業を視野に。第一の選択肢として売却の検討を

コロナ禍で1割近くの中小企業が廃業を視野に。第一の選択肢として売却の検討を

大久保:現在のペースで企業の休廃業・解散が続くと、年間5万3,000件を突破し、過去最多の件数となる可能性も指摘されています。

松本:東京商工リサーチの調査では、コロナ禍が長引いた場合に中小企業の8.8%が廃業を検討する可能性が「ある」と回答しています。その内44.4%が検討時期を「1年以内」としているとも。

今までは不渡り手形を出してから再生に入る支援を手がけてきましたが、今年4月頃からは私のところへ相談に来られる時点で、廃業せざるを得ない状態という方が多く占めるようになってきました。

大久保:中小企業の経営者としては廃業についても知識を深めておく必要がありますね。

松本:経営者としては廃業のタイミングを考えておくことは大切です。その前にまず、事業の終焉には「売却・廃業・倒産」の3つの形しかないことを知っておく必要があります。
一番良いのが売却。二番目に廃業。最悪の事態が倒産です。

会社の売却とは?いくらで売れるのか計算する方法

大久保:売却について詳しく教えてください。

松本:売却の方法には「株の売却」と、事業自体を売る「事業譲渡」の2通りがあります。
株の売却の場合、基本的な考え方は貸借対照表の右下の純資産の部にある「純資産の部合計」の金額が目安になります。純資産というのは簡単に言えば、会社の財産の合計から借金の合計を差し引いた金額です。

資産の部は、
①現金・預金や売掛金・受取手形・材料・商品・貸付金などの「流動資産」
②建物や土地、機械や設備、車などの「無形固定資産」
③出資金や保険積立金、保証金などの「投資その他の資産」
の3つで成り立っています。

ただし、これら貸借対照表に記載されている財産は「帳簿価格」といって、定まった規則の上で計算された金額であって、時価=実際の価格とは必ずしも一致していません。買い手の側が帳簿価格を時価に計算し直すことになります。

売掛金や受取手形には本当に入金されるのか、貸付金には確実に返済されるのかというリスクがありますし、材料や商品は帳簿通りの金額で売れる保証はありません。

土地は取得したときの金額になりますが、現在の価格が下がっていれば時価は低くなります。多くの場合、時価の方が帳簿価格よりも低いものです。また、機械や設備は古い物でしたら再調達価格で再評価されます。

一方、借金の部は貸借対照表に書かれている金額通り。
結果的に、資産の帳簿価格を時価に計算し直してみると、貸借対照表に記載されている「純資産の部合計」の金額からかなり低くなってしまうのが現実です。

大久保:売却金額は当初思っていたよりも低くなってしまうわけですね。

松本:そうですね。ただ、会社には「見える財産」と「見えない財産」があります。貸借対照表に書かれているのが「見える財産」。「見えない財産」とは、技術を持った従業員や販売先のお客さま、長年にわたって信頼関係を築き上げてきた仕入先など。

言い方を変えれば、「今後も利益を上げてくれるだろうと思われる財産」で、一般的には「のれん(営業権)」と言います。つまり、会社を売るときの計算方法は、「純資産プラスのれん」ということになるのです。この合計金額を元にして、売り手と買い手が交渉して、折り合いをつけることになります。

会社の売却価値を左右する「のれん」=営業権の算出方法

大久保:会社を売却する場合には「見える財産」と「見えない財産」があるということですね。見えない財産である「のれん」=営業権というのは、どうやって算出されるんでしょう。

松本:これは一律ではありません。買う側がのれんの中身を「どれだけ欲しいか」によって決まります。基本的な計算方法としては、企業価値を測るための指標である「EBITDA」が目安になります。

簡単に言うと、「営業利益+減価償却費」。この合計金額の過去3年から10年分くらいの平均と近い将来の収益予測を計算して、「のれん」の金額を算出します。

大久保:将来的な収益力が見込まれていれば、のれん代が高くついて、会社を高い価格で売却することができるわけですね。

松本:株を売って会社を丸ごと売り渡すのではなく、事業の全部や一部を売却する「事業譲渡」でも、のれん代は見えない財産として重要な意味を持ちます。

事業譲渡の場合は、賃借対照表の純資産は計算せず、資産の部にある材料や土地、建物、機械設備を各々の時価で一つずつ計算して売却します。借金は引き取りません。事業譲渡では、「賃借対照表上のそれぞれの必要な資産とのれん」を合計した金額が基準になります。

大久保:のれん代が高く見込まれなければ、なかなか会社を売却できないし、売れたとしてもタダ同然になってしまうこともありますね。

松本:ごく一部の会社しか金額がついて売却できていないという現実はあります。しかし、たとえタダ同然でしか売れなかったとしても、廃業するよりは全然良いです。

従業員の雇用維持や仕入先の利益などメリットはたくさんあります。売却相手は血縁者以外にも、従業員だったり、外部から意欲のある人を見つけてきたりと、方法はいくらでもあります。

ただ、昨年までは事業譲渡という形で乗り切ることができたような会社でも、現在は需要と供給のバランスが完全に崩れて供給過多になってしまっており、さらに厳しい状況に置かれています。

廃業時、銀行の借入金を減額していく方法も

廃業時、銀行の借入金を減額していく方法も

大久保:その場合は、廃業という方法も選択肢として考えておく必要があるわけですね。

松本:廃業とは誰にも迷惑をかけずに会社を閉じること。売却の次に選ぶべき方法です。会社を閉めるときに給料や仕入れ代金、借入金、税金、社会保険料、リース代金などを全部会社や社長自身のお金で払い切れる状態であれば、廃業を選ぶことができます。

問題点としては、長年勤めてくれた従業員が職を失うことが1点。可能な限り会社が再就職の斡旋をしてほしいです。

もうひとつ、銀行からの借入金が完済できなければ、保証人である社長自身が支払わなければならないという問題もありますが、銀行が債権を「サービサー」という債権回収会社へ売却すれば、サービサーを相手に残った借入金以下で和解することも可能です。

大久保:借入金を実際の額よりも減らすことができるわけですか。ただ、債権回収会社と交渉するとなると、経営者の方も金融や法律の知識が必要になりますね。経営にあたってきた経験はあっても、こうした事態に対処するノウハウを備えている方は少ないのでは。

松本:そうですね、都市銀行や地方銀行が債権回収会社に貸付金を少額で売却すれば、元々の借入残額よりもかなり少額で和解する道が拓けますが、相手は金融の匠です。素人が素手で闘っても勝てるわけがありません。

私たちは法律知識と金融知識を駆使して、金融弱者の側について支援してきました。こうした専門家に相談して支援を受けることで対等な立場で交渉ができるようになります。ぜひ、専門家の力を借りることをお勧めします。

倒産に際しては「私的整理」の道を探ることが大切

倒産に際しては「私的整理」の道を探ることが大切

大久保:事業を終了する際の方法として売却、廃業があって、いよいよ手立てがなくなると倒産となりますが、これには2つの形があるということですね。

松本:倒産には裁判所に判断してもらって処理を図る「法的整理」と、裁判所を介さずに債務者が直接もしくは弁護士に代理人になってもらって債権者と協議して和解を進める「私的整理」があります。

法的整理で「破産」となった場合は、倒産した会社の財産を差し出して、それ以上払い切れない借金は免除してもらうことになります。その時点で社長が保証人となっている借金があれば、保証人が自分の財産を処分して支払いますが、一般的には会社と保証人が同時に破産する場合が多いです。

一方、「私的整理」の場合は債権者との協議などに時間がかかりますが、債権者に誠意を示すことができる。債権者と和解という形になるので、破産者として汚名が残ることもありません。一度破産すると金融機関は二度とお金を貸してくれなくなるので、ビジネス人生が終わりになってしまう。まずは誠意を示して私的整理を試みるべきだと思っています。破産はいつでもできますから。

「私的整理」 で未来への可能性を残して倒産するために

大久保:法的整理で破産となれば家庭も崩壊し、事業の再起を図ることもできなくなってしまう。しかし、倒産に際して私的整理という選択肢が頭に入っていない経営者の方も多いのではないでしょうか。

松本:事業の失敗は人格の否定ではないんです。日本の経営者の多くは真面目な方。精一杯事業を続けてきた結果が家庭崩壊を招いていはいけません。

会社の借金は会社の倒産と同時に終わります。銀行の借金は家族が連帯保証人となっている場合は残りますが、相続放棄という形で精算することができます。贈与でも、20年以上婚姻期間のある夫婦の間で居住用の不動産や購入資金を贈与する場合には、贈与税の配偶者控除の特例を適用でき、2110万円までは非課税となります。

こうした法律知識を活用すればさまざまな方策が立てられる。知識の欠如が不幸を招いてしまうんです。

大久保:私的整理を進めるためには、松本さんのような専門家の助けを借りることが必要になってくるんですね。

松本:私たちが私的整理を手がけるときは、銀行法、商法、民法などを駆使して、法律に則って債権者とスムーズに交渉を進めます。そして、ある程度進んだ段階になって弁護士に入ってもらうことで、破産をしのいで、綺麗に幕引きを図れます。

こうした流れを知っていてもらえれば、倒産しても最悪の事態は免れることができるのです。ただ、私的整理の方法に長けた弁護士は少ないというのも現実。私たちがパートナーを組んでいる弁護士は何度も私的整理を手がけていますので、そうした経験が得られたノウハウを駆使することができます。もうダメだと諦める前に、専門家に相談してください。

大久保:倒産が避けられない事態に陥っても、取るべき方法は十分残されているんですね。経営者の方にとって心強いお話です。そうした心構えを踏まえた上で、次回はこの苦境を乗り越えた先にどのように活路を切り拓いていくかについて、お話をお伺いしたいと思います。

(次回へ続きます)

創業手帳が発行している「資金調達手帳」(無料)には、資金調達の方法はもちろんのこと、キャッシュフロー改善チェックシートなどの実務に役立つツールを掲載。多くの経営者の方に役立てていただいています。また、今ならコロナ禍を乗り切るための支援制度を分かりやすくまとめた「対コロナ支援制度」フローチャートを冊子版創業手帳」(無料)に掲載しています。ぜひご参考にご覧ください。

関連記事
コロナ禍で倒産しないために、中小企業の経営者が今やるべきこと~事業再生のプロ直伝~【松本氏連載その1】
「中小企業の社長さん、経営は戦いです!」コロナ禍で戦いに勝つために、不足資金の計算方法を教えます【松本氏連載その2】
中小企業がコロナ禍で生き残るに、今は返済の心配より潰れない対策を!【松本氏連載その3】



事業承継手帳
この記事に関連するタグ
創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す
今すぐ
申し込む
【無料】