経営のリスク対策に有効な保険とは?起業の際に考えるべき備えについて
経営者が抱える事業リスクにはどのようなものがあるのか?リスク対策に使える保険について詳しく解説!
中小企業を取り巻く事業リスクにはさまざまなものがあります。原油価格の高騰など外的環境変化による業績悪化や製品不良によるリコール問題、取引先からの賠償責任問題、従業員の労災や労務リスク、自然災害によるリスクなど多岐にわたります。
この記事では、中小企業を取り巻く事業リスクと、リスク対策に有効な保険について詳しく解説していきます。起業準備中の方や、まだリスク対策をしていない経営者の方はぜひ参考にしてください。
この記事の目次
経営にかかわる押さえておくべき代表的な事業リスクとは
経営者は会社経営で起こり得る事業リスクについて常に把握し、万が一リスクが発生した場合には的確に対処できるように備えておく必要があります。
事業リスクにはどのようなものがあるのか、主な事業リスクについてご紹介していきます。
1.賠償責任のリスク
賠償責任のリスクとは、損害賠償請求を受けた場合に生じる損害賠償金や訴訟費用等を負担するリスクのことです。
自社の製品やサービスなどの不備により、利用者や取引先などの第三者に対して経済的損失を与えた場合や、業務中の対人・対物事故の発生によるものなどさまざまなケースがあります。
損害賠償請求をされるケースは大きく分けて3つです。それぞれの具体例もご紹介します。
製品不良やサービスなどに関連するもの
自社で製造した製品やサービスなどが原因で事故が発生した場合、被害者に対する損害賠償が求められます。
欠陥品の回収費用や取引会社への経済的損失の負担費用、お客様の治療費や見舞いにかかる費用などです。さらに、訴訟となった場合には弁護士費用なども必要になってきます。
(例)
・販売した弁当が原因で食中毒が発生した。
・製造、販売した製品の欠陥が原因で、取引先が加工した製品に不具合が起きた。
・ワックスがけの拭き残しにより、階段でお客様が転んでケガをした。
施設・設備などに関連するもの
オフィスや店舗施設、生産設備などの管理不備により事故が発生した場合、被害者に対する損害賠償が求められます。
ケガをしたお客様の治療費や、建物の修繕費用、仮店舗を借りるための費用などが必要になってきます。
(例)
・店舗内の棚に積み上げられていた商品が落下してお客様にあたってケガをした。
・搭乗中のエスカレーターが故障し、お客様が転倒してケガをした。
・漏水により他の店舗の設備や商品などを水浸しにしてしまった。
業務遂行に関連するもの
お客様にケガをさせてしまったり、サイバー攻撃により情報漏洩が発生したりなど、業務遂行中に起きたトラブルにより損害賠償が求められます。
近年、ITの利用が活発化する中において、情報漏洩や不正アクセスなどの被害に遭うリスクが高まっています。
(例)
・荷物を運搬中に、通行人に台車があたりケガをさせてしまった。
・メールの送信ミスにより、取引先との情報を他社に流出させてしまった。
・サイバー攻撃を受けたことにより、顧客の情報漏洩が発生した。
2.従業員のリスク
従業員のリスクとは、従業員の労働災害や損害賠償を企業が負担するリスクのことです。
業務中に起きた事故によるケガや、ハラスメントが原因で従業員から損害賠償を請求されるケースなどがあります。
従業員の労働災害
従業員の労働災害には、業務災害と通勤災害があります。
(例)
・業務中に起きた事故により従業員が足を骨折し、後遺障害が生じた。
・通勤途中に交通事故に巻き込まれてケガをした。
政府労災保険に上乗せして補償を用意することで福利厚生を手厚くし、従業員が安心して働ける環境を整えられます。
従業員からの損害賠償請求
従業員が企業を相手に損害賠償請求をする場合があります。
(例)
・ハラスメントや長時間労働などの理由からうつ病を発症した従業員が自殺し、従業員の両親から訴えられた。
・長時間労働と過度な業務により脳梗塞や心筋梗塞などの脳・心臓疾患を発症し後遺症が残った。企業の安全配慮義務違反として従業員と両親から訴えられた。
治療費以外に慰謝料や冠婚葬祭費用などの支払いが必要になる場合もあります。
3.経営者・役員のリスク
経営者・役員のリスクとは、経営者や役員に万が一の場合の経済的損失や、損害賠償請求を受けた場合の損害賠償金や訴訟費用等を負担するリスクです。
経営者や役員の病気やケガによる長期離脱
経営者や役員が万が一の場合や病気やケガにより、長期間経営から離脱するケースです。
(例)
・経営者や役員が病気治療のため、長期入院したことにより業務が回らなくなった。
・業務中に不慮の事故でケガをして半身不随になり、以前と同様には業務を遂行できなくなった。
経営者や役員個人に対しての損害賠償請求
従業員が経営者や会社役員個人に対し、損害賠償請求をするケースです。
(例)
・パワハラや、職員同士のいじめが原因で退職を余儀なくされた従業員が、経営者に対して健全な職場環境を整える義務を怠ったとして訴えた。
・従業員が長時間労働の常態化が原因として急性心不全で死亡した。長時間労働を生じさせないように配慮する安全配慮義務を怠ったとして、死亡した従業員の両親が経営者を訴えた。
4.企業財産のリスク
企業財産のリスクとは、さまざまな天災や災害などの事故によって商品や建物、設備などの企業財産が被る損害のリスクのことです。
商品・製品等の損害:出荷予定だった商品や製品が、豪雨で水浸しになった。
建物の損害:厨房などからの出火による火災や、地震などにより建物が破損した。
設備・什器等の損害:火災や地震などにより、設備や什器等が破損した。
5.休業のリスク
休業のリスクとは、自然災害や火事などによって事業存続が困難になり、休業せざるを得ない場合のリスクです。
自然災害による休業:地震による建物の崩壊や、台風や集中豪雨などの影響による設備が損壊し、商品が生産できない。
火災による休業:火災によって建物が全焼し、業務を行なえなかった。
6.社用車のリスク
社用車のリスクとは、業務中の事故に伴うさまざまな損害を負担するリスクです。
法人や個人事業主が所有・使用する自動車で、業務中に事故を起こす可能性は少なくありません。
自動車の破損:自然災害により社用車が水没した場合などの修理費用
通行人にケガを負わせた:相手方への治療費用や休業補償、慰謝料等
経営に関するリスクに役立つ保険とは
各事業リスクに応じた保険についてそれぞれ解説します。
1.賠償責任のリスクに備える「賠償責任保険」
「賠償責任保険」は、損害賠償請求を受けた場合に生じる損害賠償金や訴訟費用等を補償します。
自社製品やサービスが原因でお客様が病気になった場合や、店舗施設の管理不備が原因でケガを負った場合の治療費や慰謝料などに備えられます。
また、IT化が進んでいる中では、サイバー攻撃による情報漏えいで顧客に不利益が生じるケースもあります。中小企業においても高額な損害賠償を請求されるケースもあるため、十分な備えが必要です。
2.従業員のリスクに備える「業務災害補償保険」「団体長期障害所得補償保険」
「業務災害補償保険」は、従業員の業務や通勤に起因するケガや病気によるリスクに備えられます。
「団体長期障害所得保証保険」は、長期にわたり働けなくなった場合の所得損失を補償する保険です。団体長期障害所得補償保険は、GLTDと呼ばれることもあります。
3.経営者・役員のリスクに備える「経営者保険」「会社役員賠償責任保険」「雇用慣行賠償責任保険」
「経営者保険」は、経営者のケガや病気による長期離脱に備えられます。また、経営者不在により業績が悪化した場合の売上赤字の補填にも使えます。
「会社役員賠償責任保険」は、会社役員が業務遂行に関連して損害賠償請求をされた時に備えられます。
「雇用慣行賠償責任保険」は、経営者や役員等が損害賠償請求をされた際の損害賠償金を補償するものです。
4.企業財産のリスクに備える「事業活動総合保険」
「事業活動総合保険」は、建物や設備、商品などの損害に備えるための保険です。
地震や台風、大雪などの自然災害や火災、建物への飛来物の衝突や車両の衝突、予測できない突発的な事故、電気的・機械的な事故などによる企業財産の損害を補償します。
5.休業のリスク「事業活動総合保険」
「事業活動総合保険」は、企業財産のリスク同様に、休業によって発生する損失にも備えられる保険です。
休業中でも発生する従業員の人件費や、破損した建物を修理する間に借りる仮店舗の賃貸費用などを補償します。また、営業再開した際に必要な広告費用などの補償も受けられます。
6.社用車のリスクに備える「事業用自動車保険」
「事業用自動車保険」は、業務中の自動車事故に備えられる法人向けの自動車保険です。
対人、対物、レッカー車によるけん引費用や代車費用などを補償します。また、相手へのお見舞い費用や従業員が死亡した場合や後遺障害を被った場合など、事業主が負担する費用を補償します。
備えておきたい経営者のための保険とは
起業して間もない会社は、経営的にもまだ不安定でもっともリスクの高い時期といえます。経営者が営業を兼務している場合も多く、経営者に万が一のことが起きた際には経営が立ち行かなくなる可能性があります。
ここで、経営者が備えておくとよい経営者のための保険について確認しておきましょう。
死亡・高度障害に備えるための生命保険
経営者に万が一のことが起きた場合に備えて、生命保険の加入を検討する必要があります。起業して間もない時期は、キャッシュを残すことは企業にとって重要なことのため、固定費は最小限に押さえておきたいものです。
そこで、できるだけ負担を減らすためには保険料が掛け捨ての生命保険をおすすめします。
掛け捨ての生命保険は以下の2つです。それぞれの利用法などについても詳しく解説します。
定期保険
経営者が万が一の場合にまとまった金額を受け取れます。借り入れの返済などに当てられるため、家族に負の遺産を残さないようすることが可能です。保険期間が短いほど保険料を低く抑えられるため、掛け金を抑えつつ高額な保障を必要とする企業に適しています。
収入保証保険
経営者が万が一の場合に、その月から毎月一定額を年金形式で受け取ることができる保険です。経営者が亡くなった後でも事業の安定化を図ることができるため、事業保障として大変有効な保険といえます。
病気やケガ、長期離脱の場合に備える
経営者が病気やケガの場合、業務に与える影響は大きく、会社の売上がダウンする可能性も考えられます。経営者は社会保障の「傷病手当」は対象外です。また、危篤状態の場合に支給される「障害年金」の保障額も会社員と比べて少ない場合もあります。
したがって、経営者は病気やケガの際に備えて自助努力が大切になるため、保障が一生涯続く終身タイプの医療保険とがん保険をおすすめします。
終身タイプの医療保険
病気やケガで入院や手術をした場合に給付金を受け取れる保険です。経営者個人の医療保障だけでなく、経営者が長期離脱した場合の事業の経済的損失に備えることができます。
そのため、入院や手術の際に受け取れる給付金の設定額は、ある程度大きくしておくことをおすすめします。
終身タイプのがん保険
がんに罹患する人は年々増加傾向にあります。現在は通院しながら治療するケースがほとんどのため、通院保障のある保険を選ぶことが大切です。終身タイプであれば、退職金代わりに活用することも可能です。
経営者が法人保険に加入するおすすめポイント
法人保険とは、契約者が法人となっている保険のことですが、経営者が法人保険に加入するメリットはリスク対策以外にも存在します。
法人保険に加入するおすすめポイントを解説します。
保険料を経費として計上できる
法人保険は保険料を経費として処理することが可能です。保障を備えながらも、法人税の負担が軽減でき節税効果が期待できます。
起業間もなくてもリスクに対応できる
起業したばかりの頃は、資金が少ない中で事業を行う企業も少なくないでしょう。しかし、事業リスクが起こる可能性は常にあります。保険に加入しておくことで万が一の場合の経済的損失にも備えられ、事業の存続を可能にします。
まとめ
会社を経営していくなかで起こり得る事業リスクにはどのようなものがあるのかを詳しく解説しました。
起業準備中の方や、起業して数年の経営者の方が最低限備えておくとよい保険についてもご紹介しましたので、ぜひ参考にしてください。