経営で重要なリスクヘッジとは?起きやすいリスクと対策方法

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経営には様々なリスクが付きものだからこそリスクヘッジが重要


2023年3月、全米16位の資産規模を誇る銀行が経営破綻し、アメリカ史上で2番目に大規模な銀行破綻となりました。
ベンチャーキャピタルから資金を得て上場したIT企業・ヘルスケア企業の約半数が同行を利用しており、同行が経営破綻に陥ったことで預けていたお金を動かせなくなる事態が起こりました。
これは日本でも起こり得るため、経営者はリスクヘッジも考えておくことが必要です。今回は、経営で起きやすいリスクとリスクヘッジの方法をご紹介します。

リスクヘッジの意味とは?


リスクヘッジとは、危険を事前に予測し、回避できるよう対策することです。
「リスク」という言葉には本来「危険」を表す意味だけでなく、「予想外のことが起きる可能性」の意味も持ちます。
また、予期していなかった出来事が発生してしまった時、なるべく影響を抑えるための対策や減らす方法をリスクヘッジと呼ぶ場合もあります。

リスクヘッジは金融取引きの場面で使用されることが多い言葉でした。
例えばひとつの会社にだけ投資を行うと株価が下落した時に大きな影響を受けてしまいますが、投資する会社を複数社に分散しておけば、少ないダメージで済む場合もあります。
このように、分散投資などでリスクを回避することをリスクヘッジと呼んでいます。

経営における資金管理のリスク


経営において、資金管理がうまくいかなければ倒産に陥る恐れもあります。まずは、経営における資金管理のリスクをご紹介します。

キャッシュフローの悪化リスク

キャッシュフローは、企業でお金がどのように流れているかを示すものです。キャッシュフローが悪化すれば、企業は様々なリスクにさらされることになります。
具体的にどのようなリスクがあるのか、詳しくご紹介します。

1.経営に関する現金の支払いが難しくなる

経営する中で、現金で支払う場面は多くあります。例えば従業員への給与の支払いや買掛金の支払い、借入金の返済などです。

キャッシュフローが悪化した場合、手元に現金が残らない状態となります。その結果、給与の支払いなどが滞ってしまい、最終的には倒産に陥る恐れが高まります。
こうしたリスクを避けるためにも、資金管理において日常的に対策をとることが必要です。

2.企業成長のための投資ができなくなる

何とか現金での支払いはできていても、キャッシュフローの悪い状況が続いてしまえば企業成長のための投資が難しくなってしまいます。

企業成長の投資というと、生産性を向上させるための設備投資や人材育成を目的にした研修・教育制度への投資などが挙げられますが、現金がなければこれらの投資も行えません。
そのため、企業の成長がそこで止まってしまい、自転車操業のような状態が続く恐れもあります。

3.黒字倒産になる確率が高まる

基本的に企業が倒産するのは、債務が返済できない赤字状態で起こるものです。しかし、帳簿上は黒字であるにもかかわらず、倒産する恐れがあります。
なぜなら、利益は生み出せているのに手元の現金がなくなってしまうためです。

損益計算書には売掛金を当月の利益として記載します。ここには当月に売れ残った在庫も含まれています。
そのため、当月の利益が500万円でも、在庫分が200万円であれば手元の現金は300万円しかないことになります。
もし当月の支払いが400万円あった場合、100万円の赤字が出ている状態です。

取引銀行の破綻リスク

冒頭でもご紹介したように、取引銀行が突然破綻するリスクもあります。
日本には「預金保険制度(ペイオフ)」があるため、万が一金融機関が破綻してしまっても預金者1名につき、元本1,000万円と利息分が保護されます。

ただし、1,000万円までは保護されても、それ以上の金額になると保護されません。例えば、2,000万円を預けていた銀行が倒産してしまった場合、1,000万円までは保護されますが残りの1,000万円は戻らないことになります。

こうした破綻リスクを回避するためには、銀行を分散させることも視野に入れておく必要があります。詳しくは下記のリスクヘッジ方法に詳細をまとめました。

経営における資金管理のリスクヘッジ方法


資金管理のリスクでは、キャッシュフローの悪化や取引銀行の破綻などが起こり得ることをご紹介しました。
これらのリスクに対して、どのような対策をとるべきなのでしょうか。

資金繰り表を作成しキャッシュフローを管理

キャッシュフローを悪化させないためには、資金繰り表を作成して日頃から管理することが大切です。
資金繰り表は、一定期間で会社の資金がどのように動いているのかを把握するために用いられます。項目は、前月繰越金・収入・支出・過不足金・翌月繰越金などが基本です。

資金繰り表によって現金不足に陥る時期を事前に予測でき、早めに融資などで資金調達を行えるのも大きな強みです。
融資を受ける際も、資金繰り表を金融機関と共有することで、担当者とのヒアリングもスムーズに進みやすくなります。

また、経営状況を可視化することで、経費の見直しも図りやすいといえます。
例えば人材にかかるコストが多すぎる場合、正規雇用ではなく外注化することで販管費を抑えることも可能です。
ほかにも、固定資産も見直してリースに切り替えるなどの対策もあります。

複数の銀行との取引き

取引銀行が破綻するリスクへの対策には、複数の銀行との取引きを実施することが挙げられます。
日本では万が一金融機関が破綻しても、預金者1名につき、元本1,000万円と利息分が保護されると前述しました。
リスクヘッジとして、例えば3,000万円を1,000万円ずつ3つの銀行に預け入れると、すべての預金が戻ってくる可能性が高くなります。
もし戻ってこなかったとしても、ほかの銀行に預けている分は無事なので被害を最小限に抑えられます。

このようなペイオフ対策以外にも、事業ごとの資金管理が行いやすくなったり、取引実績を作ることで融資が受けやすくなったりするなど、様々なメリットが得られるでしょう。

経営における法律的なリスク・トラブル


企業が法令・契約などに違反したり、第三者への権利を侵害したりするなど、法律的なリスクやトラブルも起こり得ます。
続いては、企業が損害を被る恐れもある、法的リスク・トラブルを解説します。

法令違反リスク

事業を行う際に、各種法令を遵守した上で運営しなくてはならないことが多くあり、この法令に違反してしまうと刑事罰や行政処分を受ける恐れがあります。

例えば、同業他社のA社とB社が話し合いを行い、お互いで公平に利益が出るよう商品の供給量や価格などを取り決めた場合は、独占禁止法2条6項、3条の「不当な取引制限」に該当し、違反となります。
独占禁止法に違反すると排除措置命令や課徴金納付命令の対象になりますが、悪質と判断されると刑事罰の対象になる点も知っておきたいことです。

契約違反リスク

契約違反をした場合、損害賠償や期限の利益損失、契約解除などの責任を負わなければなりません。

例えば、売買契約に基づき買主へ商品を引き渡したところ欠陥が見つかり、買主側に修理費など損害が発生した場合、契約違反として買主に損害を賠償しなくてはならない場合もあります。
損害賠償は高額になるケースもあることから注意が必要です。

第三者への権利侵害リスク

契約関係を持たない第三者にも、万が一会社側が損害を与えてしまった場合には不法行為責任を負うことになります。
契約違反リスクと同様に、一般的には損害賠償の義務を負わなくてはなりません。

しかし、第三者の名誉を毀損してしまった場合は、裁判所の判断で謝罪広告を出すよう命じられる場合もあります。
謝罪広告だと広告を掲載するための費用がかかるのはもちろん、広告によって多くの人に名誉を毀損したことが知られてしまい、評判の低下につながります。

労務問題リスク

労務問題とは、企業と従業員間で起こり得るトラブルや、従業員間でのトラブルです。
例えば企業と従業員間だと、過重労働や解雇・懲戒処分のトラブル、従業員間でのトラブルにはパワハラやセクハラ、職場内でのいじめなどが挙げられます。

厚生労働省による「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」で、労働問題の現状と内訳が公表されています。
相談件数は合計約35万件で、その中でも最も多いのが「いじめ・嫌がらせ」で約86,000件、次いで「自己都合退職」の約40,000件、「解雇」の約33,000件です。
このように、1年間で多くの労務問題が発生していることから、自社でもリスクヘッジを行うことが大切です。

経営における法律的なリスクヘッジ方法


法律的な問題も、事前に対策を講じることが大切です。具体的にどのようなリスクヘッジの方法があるのかを解説します。

研修でコンプライアンスの意識向上

法務問題のリスクを回避するには、従業員一人ひとりのコンプライアンスの意識向上を目指すことも大切です。
例えば、経営者が法令について理解できていたとしても、現場で実際に業務にあたる従業員が法令を理解できていなければ意味がありません。

また、ハラスメントや過重労働などの問題は、優秀な従業員が離れてしまう要因でもあり、会社の評判まで落としてしまう恐れがあります。
こうした問題点に関しても、社内全体でコンプライアンス意識を向上させることが重要です。

弁護士にすぐ相談できる体制整備

法律的なリスク・トラブルに巻き込まれてしまった場合、迅速な対応がとれるよう弁護士にすぐ相談できる体制を整備することも必要なリスクヘッジのひとつです。
顧問弁護士をつけることによって普段から相談しやすいことはもちろん、コンプライアンス経営の実現にもつながります。

中小企業だと顧問弁護士は不要と考える方も多いようですが、万が一トラブルが発生した時に迅速な対応がとれず、かえって状況が悪化するかもしれません。
顧問弁護士がいることで、トラブルへの対策を的確にアドバイスしてもらえます。

また、日常的な部分でも契約書の作成やリーガルチェック、クレーマーへの対応、新規事業へのリスク調査、問題社員への対応に関するアドバイスなど、様々な役割を担ってくれるので安心できます。

経営における情報漏洩リスク


企業から重要な情報が流出してしまうことで、数々のリスクが生じてしまいます。ここからは、経営における情報漏洩リスクを解説します。

機密情報や個人情報の悪用リスク

企業にとって重要な機密情報や自社が管理していた顧客の個人情報が流出することで、情報を不正利用される恐れがあります。
例えば、まだ発表していない商品情報がリークされ、販売活動に支障をきたしたり、クレジットカード番号の悪用によって不正利用の被害が起きたりします。

こうした不正利用は会社にとって不利益を被ることはもちろん、情報を流出させたことで顧客や取引先からの信用がなくなり、事業活動の継続が困難に陥るケースも否定できません。

金銭の損失リスクがある

情報漏洩によって被害を被った個人や取引先から損害賠償請求をされたり、罰金の支払いが発生したりすることで、金銭の損失リスクが発生します。
また、ほかにも情報漏洩した原因を調査するための費用や、顧客・取引先への対応にかかる費用なども金銭の損失リスクのひとつです。

日本ネットワークセキュリティ協会が2018年に発表した調査結果では、情報漏洩事件が発生した際に想定される平均損害賠償額は、1件あたり6億3,767万円にも上りました。
あくまでも平均値ではあるものの、情報漏洩にはこれだけの金銭リスクがあることを理解しておかなければなりません。

社会的信頼の損失リスク

情報漏洩は、基本的に会社側のセキュリティ対策に落ち度があったから起こるものとイメージされてしまい、社会的信頼を失ってしまう恐れが高くなります。
顧客離れが起こり得ることはもちろんですが、取引先や投資家まで離れてしまうことも想像に難くありません。

顧客や取引先が離れてしまえば売上げが大きく低下するだけでなく、投資家が離れれば株価の低下にもつながります。

経営における情報漏洩のリスクヘッジ方法


情報漏洩は直接的な損害だけでなく、イメージの低下によって間接的な損害も生じてしまいます。少しでもリスクを減らすためには、どのような対策が必要かをご紹介します。

セキュリティ教育を実施

情報漏洩が発生する原因には外部からの不正アクセス以外に、従業員による情報の持ち出しや書類・データの管理不足なども挙げられます。
こうした内部からの情報漏洩を防ぐためには、従業員一人ひとりのセキュリティ意識を向上させることが必要です。

すべての従業員がセキュリティ意識を高められるよう、定期的に研修活動を実施するようおすすめします。
セキュリティ教育では、実例をもとに自社に当てはめた場合のリスクや情報漏洩に対する意識付けを行ってみてください。

情報の取扱規程規定を作成

セキュリティ教育のほかにも、情報の取扱規程がなければ作成しておくことも大切です。
取扱規程ではどのような情報を社内情報に位置付けるか、また、誰がどのように管理するかといった規程を取りまとめます。

また、従業員が持つSNSアカウントの利用方法も取扱規程に含めることで、SNSからの社内情報流出を防ぐことも可能です。
情報の取扱規程はすでに作成済みである場合にも、定期的に見直し・改善を図るようにしてください。

セキュリティ対策を徹底

社内のセキュリティ教育や情報の取扱規程と並行して、外部からの不正アクセスを防ぐために対策を強化させることも重要です。
例えば機密情報は限られた人しか閲覧できないようアクセス制限をかけたり、ウイルス対策としてセキュリティソフトを導入したりすることが挙げられます。

また、定期的にパスワードを変更することもセキュリティ対策につながります。
従業員が情報を持ち出す場合もあるため、防犯カメラや出入管理装置を設置することも有効なセキュリティ対策です。

まとめ

経営には様々なリスクが付きものです。会社の未来を守るためには、経営上のあらゆるリスクを想定し対策を講じていく必要があります。
経営する中で、資金管理・法律・情報漏洩などの考えられるリスクやトラブルを把握することが大切です。
リスクヘッジは従業員一人ひとりの意識付けも重要となるため、育成環境の構築も検討してみましょう。

創業手帳(冊子版)では、起業前や経営で役立つ最新の情報をお届けしています。起業や経営の成功率を高めたい方は、ぜひご覧ください。

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(編集:創業手帳編集部)

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