エンジェル税制の立役者、北城恪太郎が見る「起業家を見極める5つのポイント」

創業手帳

ベンチャー企業だからこそ、社外からの視点が必要

(2018/11/26更新)

ベンチャー企業が資金調達をする際に選択肢の一つとして挙がるのが、投資家からの出資を受けることです。
ベンチャー企業に投資することを「エンジェル投資」と言いますが、このエンジェル投資を推進してベンチャー企業の経営をより良くするために尽力している人物がいます。
元日本IBMの社長であり、現在は国際基督教大学の理事長を務める、北城 恪太郎氏です。

投資家としても活動している北城氏に、今回は起業家が出資を受けるためにチェックしておくべきポイントと、初めて投資をする人が気をつけるべきポイントについて、自身もエンジェル投資を受けた創業手帳の創業者大久保が伺いました。

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北城恪太郎(きたしろ かくたろう)
1944年生まれ。
慶應義塾大学工学部、カリフォルニア大学大学院(バークレー校)修士課程修了。
日本アイ・ビー・エム株式会社代表取締役会長、経済同友会代表幹事などのほか、文部科学省中央教育審議会委員など公職も多く歴任。エンジェル税制や学校教育法の改正など、ベンチャー支援のために多方面に関わる。国際基督教大学理事長

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社の母子手帳、創業手帳を考案。2014年にビズシード社(現:創業手帳)創業。ユニークなビジネスモデルを成功させ、累計100万部を超える。内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学、官公庁などでの講義も600回以上行っている。

ベンチャー支援のために関わった2つの法制度

大久保:最初に北城さんの簡単なご経歴と、現在やっていらっしゃることを伺えますか?

北城:私は今まで2つの法改正に関わってきました。

1つはエンジェル税制。
日本IBMの経営者をしていましたが、それが終わったところで若い人を育てる教育と若い会社を支援するベンチャー支援をやろうと思いました。ベンチャー支援をするためには、創業時点で資金がないとリスクが大きいということで、資金集めを支援する税制を拡充すべきではないかと考えて経済産業省と取り組んできました。

実際にベンチャー企業がどのようなことで困っているかを理解するためにも、現在もベンチャー企業3社の社外取締役を務めています。1社はすでにマザーズに上場し、あとの2社も上場を目指して努力しているところです。

もう1つは学校教育法。
ベンチャー企業というのは正解のある問題を解くのではなく、自分で発想して取り組む力が必要になります。一方で、日本の教育は正解がある問題を早く解ける能力を入学試験で求めます。これでは変化していく社会に対応できませんから、大学を改革する必要があります。

しかし日本の大学は、学校教育法の影響で学長が自分でものを決めるのが難しい組織でした。これを変えようということで、様々な活動を通して改正に携わりました。現在は国際基督教大学の理事長として引き続き大学運営に携わっています。

大久保:なるほど。今でもベンチャー企業3社と関わっているんですね。北城さんは社外取締役としてどのように企業と関わっているのでしょうか?

北城資金調達の際などに、私の知っているベンチャーキャピタルの社長に電話して「私が社外取締役をしている会社なので、よかったら投資してください」とお話しすることがあります。

もちろん、私が社外取締役を務めているからといって投資してくれるとは限りませんが、ベンチャーキャピタルは投資を検討するときに「その会社はどういう人が取締役をやっているのか」という点も見ます。私も多少社会的な信用があるので、「不正はないのではないか」という信用につながるのではと思います。

また、販売先を探すときにベンチャー企業が大企業に行っても、担当者止まりで部長以上に会えないということがあります。私は、あらかじめ知っている社長や会長などに電話をして、「こういう会社の社外取締役をやっていて、こういうサービスをやっているので担当の執行役員を紹介してほしい」とお願いします。執行役員に電話をしてからそのベンチャー企業の経営者が行くと、先方も部長や役員やちゃんと話を聞いて検討してくれるということがあります。

大久保:時にはご自身が話をして、ベンチャー企業にとってチャンスになり得る状況を作り出しているんですね。

北城:そうですね。エンジェル投資家やベンチャーキャピタルなど、ベンチャー企業を支援してくれるところはありますが、起業家がそういう人たちにうまく出会えるかというと、なかなか難しい時があります。また、投資家からしても、経営の実態が見えないことには投資するかどうかの判断が非常に難しいです。

なので、一般の方がベンチャーを起こすときにいちばん頼りになるのは知人・友人・親戚ではないかと思うのです。そういう人たちがお金を出しやすくする制度が必要だということで、経済産業省をお手伝いして「エンジェル税制」を拡充したわけです。2008年のことでした。

これは、個人が創業時点でベンチャー企業に投資をすると投資したお金が寄附金になる。寄附金控除の仕組みで、所得の高い人にとっては最高で投資額の約40%が所得税から控除されるというものです。そうすればお金を出しやすくなるのではないか、ということでできた制度でした。

ちなみに、私もそれほど多くはないのですが、現在まで7社くらいに投資をしてきました。

投資する際にみる5つのポイント

大久保:では、投資をする際にはどのような点を見ていらっしゃるのでしょうか?

北城:私が見ている点は5つあります。

一つ目は、社長です。信頼できる人なのかどうか。どんな困難があっても目的を達成するために情熱をもってやり遂げる人なのか。途中であきらめてしまう人はなかなかうまくいかないのです。ましてや信用できない人には投資はできません。

二つ目は、作る製品やサービスを買ってくれる人がいるのかどうか。ニーズがないところに起業してもなかなか成功しないので、その点を見ます。

三つ目は、その製品やサービスのプロトタイプがあるかどうか。ただ紙の上の話よりは、「こんな形のものを考えています」といったプロトタイプができているといいですね。

四つ目は、競争相手がいるかどうか。自分の考えだけではなく、市場を見て競争相手となり得る企業が存在するか、競合と比較したときの強み・弱みは何なのかということを評価します。

五つ目は、その事業計画の実現性。夢みたいなことだけでは会社は経営できないので、どういうふうに売上を上げて収入を出すつもりか、を見ます。創業当初は思うように売り上げが立たないかもしれませんが、その中でどうやって支出を抑えながら売上が立つような形を作れるのか。売上が立たないとすれば、途中でどうやって資金調達をしようとしているのか。というように、キャッシュフローを見てちゃんと実現性があるのかということを見ます。

できれば、チームがあるともっといいなと思います。
社長だけでは全てのことはできないので、たとえばモノを作る能力・開発能力のある人がいるのかどうか、マーケティングやセールスができる人がいるのかどうか、内部統制、経理や財務を見られる人がいるのかどうか。できれば2、3人のチームで、信頼できるチームがいたほうが成功しやすいなと思います。

ちなみに、投資によってプラスになった分の1/3は大学(ICU)に寄付、1/3は次のベンチャーへの投資、1/3は家族で使うことにしています。家内が嫌な顔をするので(笑)

大久保:家族への配当ですね(笑) 。投資家として、投資してよかったなと思う瞬間はありましたか?

北城:以前、とある企業の社外取締役に就任した時の話です。
「この技術はうまく利用できれば社会に受け入れられるんじゃないか」と思い、応援してあげるという話をしたら結果的に社外取締役をやることになりました。

そういう意味では、作っている製品やサービスが成功すれば社会の役に立つだろうということを感じて投資をし、社外取締役として日々の経営までわかる立場にいられたのはよかったなと思います。

5つのポイントをもとに
投資家へのアピール方法を探そう

ベンチャー企業こそ、社外取締役の存在は必要

大久保:社外取締役がいると、外部からの冷静な監督機能が働くのが良いですね。

北城大企業でももちろん社外取締役の登用は重要ですが、私はベンチャー企業こそ社外取締役がいたほうがいいのではないかと思います。

社内では社長が会社の中心なので、社員が「なにかおかしい」と思っても社長に反対するのが難しいのですが、社外取締役というのは、そこの会社の給料だけに生活のための収入を依存している人は少ないので、社長のやっていることがおかしいと思ったらおかしいと言えるのです。そういう人が中にいたほうがいいし、その上に信用補完にもなり、販売先や人材を探してくれます。さらに元経営者の人であれば、自分の経験に基づいてアドバイスしてくれます。

そういう意味で、私はベンチャー企業こそ社外取締役がいたほうがいいと思います。

大久保:会社というのは人数や規模が変わるときに体制も変わることがあると思うのですが、そういうものも元経営者の方なら理解してくれそうですね。

北城:組織が100人、あるいは1000人になる段階で経営スタイルを変えなければいけないということです。経営者が自分で経営スタイルを変えてうまく経営できる人はそれでいいし、できなければそういうことができる人に経営を委ねてみるのもいいかもしれません。

元経営者のいいところは、いろいろな経験をしてきて修羅場をたくさんくぐり抜けてきていることです。経営の判断は、修羅場をどれだけ経験しているかで直感が働くのです。6、7割の情報で経営者は決断しなければいけないわけですから。

たくさんそういう決断をしていると、「こういうときには大丈夫で、こういうときには無理そうか」という直感が働く。さらに、元経営者は生活の基盤があるから、給料はたくさんでなくても応援してくれる可能性がある。そういう人はまた社会に貢献したいという気持ちを持っているものです。

大久保:北城さんも社長の頃から直感を使ってきましたか?

北城:私を含めて、経営者はほとんど直感でいろいろな判断をしていると思います。もちろん、情報をたくさん集めて判断しますが。

判断するときは役員の話だけを聞くのではなくて、その案件をいちばんよく知っている担当者を呼んできたり、あるいはその背景になるデータを集めたりすることもあります。

例えば、IBMの社長をやっていた頃、コンビニにATMを入れるという事業を初めてやりました。
「これは事業として成り立ちます」と役員が言ってきたので、現場の担当者に「銀行の外に置かれているATMってどれくらい使われているのか」「コンビニの経営者は何て言っているのか」「コンビニのお客様にATMのニーズはあるのか」などを聞きました。
すると、コンビニのお客様はコンビニにATMがあれば便利だと思っていることがわかりました。ニーズがありそうだったので、「1日あたりどれくらい使われたら採算が合うのか?」など、いろいろなことを調べて最終的に決断しました。

このように、決断をするときにはいろいろな情報を集めます。でもやってみなければうまくいくかどうかはわからないのですが、社会のニーズがあるところにはチャンスもあるし、投資するかどうかというのは経営者・リーダーの直感の判断だと思います。

社外取締役の存在が
「何かおかしい」という違和感を正してくれる

応援してくれる人かどうかは話していてわかる

大久保:では、起業家が投資を受ける際には、投資家のどこを見て判断すれば良いのでしょうか?

北城その投資家が、会社を応援する気持ちがあって投資してくれようとしているのか、単に会社を買収して利益をあげようとしているのかというのは話を聞いていればわかるので、前者のような人から投資を受けたり、社外取締役になってもらったりした方がいいと思います。

ただ、日本の経営者はしばしば「社長・会長が誰を取締役にするか決めて、それを株主総会にかける」と考えています。本来は、「投資家がいて、普段経営に参加できない投資家が信用できる取締役を選んで、取締役が社長・会長を選ぶ」のです。その意識はベンチャー企業の経営者も持っておくべきだと思います。実は、痛い点を突いてくれる社外取締役がいい社外取締役なのだ、ということを忘れないでほしいですね。

自分の琴線に触れる企業に投資をしよう

大久保:最後に、これからエンジェル投資をしようと思っている人に向けて、「これだけは気をつけたほうがいい」というポイントはありますか?

北城どんな状況でもやり遂げる熱い思いを持っているかという点は必要ですね。

「お金を稼ぎたい」だけではうまくいかなかったときに挫折してしまう。長続きしません。壁を乗り越えるには「社会の役に立ちたい」という思いが必要です。

一方で、ダメなときの決断を早くするためには、借金でベンチャー企業を起こさないほうがいいのです。特に、家や土地を担保にしてしまうと見切りができない。そのためにも資本金を集めたほうがいいのです。

また、もし近くに会社を起こそうとしている人がいない場合は、コンテストや発表会に顔を出してみて、いろいろな話を聞いてみるといいと思います。その中で自分の琴線に触れるような、「これだったら応援してあげたい」という人がいたらそこに投資したらいいと思います。

でも一回にたくさんは投資しないほうがいいと思います。50万円や100万円の単位くらいです。投資した資金がなくなったら自分の人生が狂ってしまうというほど、たくさんは出さないように注意してください。

何回か投資する機会があれば、どういうものが成功するか、成功しないかというのがわかってくると思います。経験を積んで感覚をつかむためにも、やはり一度にたくさん投資しないほうがいいのです。

ベンチャーってうまくいかないことがしばしばあるので、「5社投資して1社でも成功したら良い」という気持ちでいた方がいいと思います。エンジェル税制を使っていれば痛みは少なくなるので、それを使って応援をしてあげると良いですね。

熱い想いを持っている人に投資するべきだが、
「成功すればラッキー」くらいの気持ちで投資しよう

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エンジェル投資家はこう口説け!説得調達のキホン「エンジェル税制」の仕掛け人、元日本IBM社長・北城氏インタビュー(前編)

(取材協力:学校法人 国際基督教大学 理事長 北城 格太郎)
(編集:創業手帳編集部)

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