シンカ 江尻 高宏|コミュニケーションプラットフォーム「カイクラ」で顧客との会話をもっとおもしろくする

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年08月に行われた取材時点のものです。

コミュニケーションの課題を解決し、顧客との会話を財産に変える「カイクラ」の魅力とは?

顧客とのコミュニケーションの中には、自社サービスや顧客対応などの改善点、顧客のニーズや困りごとなど、様々な発見があります。

しかし、実際の現場では、コミュニケーションに関するトラブルや課題を抱えている企業が多く、顧客との会話を価値に変えられていない現状があります。これを改善するために、コミュニケーションプラットフォーム「カイクラ」のサービスを提供しているのがシンカの江尻さんです。

そこで今回は、江尻さんが起業を志すまでの原体験やカイクラを開発した背景について、創業手帳の大久保が聞きました。

江尻 高宏(えじり たかひろ)
株式会社シンカ 代表取締役社長

関西大学大学院工学研究科修了
2000年4月、株式会社日本総合研究所(日本総研)に入社。約8年間、金融系の情報システム開発に従事。メインフレームからC/Sシステム、Webシステムまで、広範囲の開発プロジェクトに参画。チームリーダやプロジェクトマネジャーを経験。

2007年9月、株式会社船井総合研究所(船井総研)に入社。営業戦略やマーケティング戦略、商品戦略を中心に、中小IT企業向けのコンサルティングに注力。その中でも特に、クラウドビジネスの新規参入や、クラウド商品の販売強化に強みを持ち、年間20本ほど講演を行っていた。
2013年12月に退社後、2014年1月にIT企業である株式会社シンカを設立。「ITで 世界をもっと おもしろく」を経営理念に、クラウドサービスを中心にITを世界に広めることに注力している。

執筆実績:IaaSシステム構築/管理ガイド ニフティクラウド 第2版
参画団体:社団法人クラウド利用促進機構(CUPA)運営委員

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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起業を志すに至った原体験

大久保:江尻さんの生い立ちを教えてください。

江尻:日本三景の一つ「天橋立」で有名な京都の宮津市出身です。

小学校1年生の時に滋賀県大津市に引っ越しをして、高校を卒業するまでは大津市にいました。

大学から大阪にある関西大学に行き、そこから17年間大阪に住みました。

そして約11年前に東京に来て、今に至ります。

大久保:大学ではどういったことを学んでいたのでしょうか?

江尻:工学部に行き、管理工学という分野を専攻していました。大学院に進学してからは、人間の脳波を研究していました。

人間がものを考えたり、計算したり、本を読んでいる時は、脳のどこが活性化しているのか、短期記憶と長期記憶ではどこが活性化しているのかについて計測して、シミュレーションするシステムを開発するために、プログラミングを勉強していました。

大久保:その時の経験は役立っていますか?

江尻:研究内容というよりもプログラミングの知識が大いに役立っています。
そもそもこの学科に入った理由も、コンピュータをよく使うところだったからです。

大久保:幼い頃からパソコンが好きでしたか?

江尻:小学生の頃に、当時任天堂が「ファミリーベーシック」という商品を発売しました。

これは「ベーシック」というプログラミング言語を使って、自分でゲームを作るもので、そこでプログラミングに初めて触れましたが、とても面白かったことを覚えています。

大久保:大学院を卒業されて、システム開発の企業に就職されたということですが、そこでのお仕事はいかがでしたか?

江尻:当時、大きなプロジェクトにも関わっていたことから、ピークの時は休まず働いていたため、良い意味で働くことの基礎体力が身につきました。

その後、中小企業向けの経営コンサルティングの会社に転職しました。

そこではホームページ制作、チラシ制作、営業研修、商品開発など、お客さまの業績が上がることであればなんでもやるというスタンスで仕事していたため、一気に視野が広がりました。

システム開発会社から経営コンサルティングへ転職した理由

大久保:なぜシステム会社から、経営コンサルティングの会社に転職されたのでしょうか?

江尻:大学時代から、将来的に起業することを決めていましたが、 起業を考えたきっかけは、Windows95の発売でした。

ウィンドウで出てくる画面をマルチタスクで操作しながら、インターネットに繋がることに衝撃を受けました。

この経験から、インターネットとソフトウェアがかけ合わさると、日本が変わる!と思い、起業を決意しました。とはいえ、学生からそのまま起業するという選択肢がなかったため、しっかりと社会人として経験を積んで、30代前半で起業しようと考えました。

1社目に入社したシステム開発会社では、大企業が主要取引先でしたが、2社目の経営コンサルティング会社では、対極にいる中小零細企業が主要取引先でした。

経営コンサルタントとして中小企業と深く関わることで、会社を作ることはきれいごとだけでなく、泥水をすするような苦労もあるということがよくわかりました。

企業にとって「会話は財産」だ

大久保:これまでの経験における点と点が繋がるように、事業を立ち上げたということですね。

江尻:おっしゃる通りです。

1社目のシステム開発会社で仕事をしている時に、コールセンターの電話受付のシステムを作り、お客様からは大変喜ばれましたが、システム導入の費用が高く、実際に導入していただいた企業は限られていました。

しかし、2社目の経営コンサルティング会社で、お客様とお話ししている時に、やはり電話での「言った言わない」トラブルが絶えないとおっしゃっていました。

さらに、通話履歴を毎回調べないといけないなどの無駄が多く、電話周りの困りごとがなくなるだけでも、中小企業の生産性は大きく上がると考えました。

2009年、日本でクラウドが流行りだし、システムが安く作れるようになったことを知り、起業を決意しました。

大久保:企業の電話周りの困りごとを解決するとは、具体的にどのような解決策ですか?

江尻:我々がずっと言っているのは「会話は財産」だということです。

固定電話だけでなく、携帯電話、メール、ショートメッセージまで全てデータとして統合して整理すべきです。会話をデータとして残せておけば、最新情報として財産となります。

これを可能にするのが弊社のサービスです。

財産である会話データが整理されずにバラバラになっている状態はリスクでしかありません。

とにかくデータとしてクラウドに一元管理して貯めておけば、将来、驚くような解析技術が出た時に、今以上に活用できる可能性もあります。

通話内容を記録・分析することで企業の業績アップにも繋がる

大久保:確かに10年経てば何かできそうですね。

さらに、各担当者とクライアントとのやり取りが見えてくることにより、メリットも得られそうですね。

江尻一番のメリットはチームでの対応ができるという点です。

属人的な対応ではなく、担当者がいなくても対応できるようになります。

中小企業によくある話ですが、会社に電話がかかってきて「担当者に連絡したのに全然折り返しがない」と言われます。

そういった時にクラウド上でやり取り状況を確認でき、緊急なことであれば、別の社員が対応できます。こういった誰かに依存した属人的な顧客対応ではなく、チームとして対応できるようになることが大きなメリットです。

大久保:電話を記録することで営業成績にも影響は出ますか?

江尻営業成績にも大きく影響します。

ある不動産会社の成績の良い営業マンとそうでない営業マンで、1日の会話時間を比較したところ、ほぼ同じでした。

何が違うかというと、成績がよくない営業マンは、良い営業マンと比べ、コール数が少なく、1回の会話時間が長かったのです。

つまり特定の人との会話が多かったことがわかります。

仲が良いお客さんとダラダラ喋っているのか、もしくはクレームで特定のお客さまに捕まって、受注の機会を逃しているという可能性もあります。

さらに、クレーム対応が上手か下手かの違いも明確に出ます。

対応が上手な方は、しっかり話を聞いて共感してあげています。一方下手な方は、所々で主張することで、クレーム電話が長引いてしまっています。

シンカの売上が好転した2つの転換点

大久保:起業してから軌道に乗ったきっかけがあれば教えていただけますか?

江尻:起業してからしばらく停滞していたのですが、売上が伸びた、2つの転換点がありました。

1つ目の転換点は、起業から4年目の時にターゲットを変えた時です。

元々は、常連客がつく飲食店や美容室など店舗系を狙っていましたが、良いサービスだと言ってくれるものの、「高い」ということでなかなか買ってくれませんでした。

理由としては、ITに投資するお金が少なかったからです。

このまま行っても無理だと思い、当時サービスを利用していただいている顧客リストを見ると、不動産・自動車のディーラーが多いことに気がつきました。どのように活用しているのか、なぜ利用しているのかなど、すぐインタビューにいきました。

すると「こんな良いサービスは他にはない」「安すぎる」と大変喜んでいただいていることが分かりました。

高単価商品で購買頻度が低く、BtoCの業態の会社では顧客とのコミュニケーションを大事にしていることが分かりました。

さらに、お客様とは一生涯のお付き合いをするスタンスのため、車や住宅の購入後もオイル交換やリフォームなどで継続したコミュニケーションが発生しています。そのため、数ヶ月後、数年後に突然連絡が来てこれまでの経緯が分からない、担当が変わると対応に手間取るなど、コミュニケーションミスが起きていることが多かったのです。

コミュニケーションに関する痛みを抱え、コミュニケーションを大切にするというこの2つの業界に当社のサービスがすごく刺さっていたため、ターゲットを変更しこの2業界に絞っていくこととしました。

大久保:2つ目の転換点についても教えてください。

江尻2つ目は、OEM販売をしたことです。

飲食店や美容室には、当社サービスの価格帯が合いませんでしたが、ニーズには合致しているため、諦めるには勿体無い規模の市場です。

そのため、その業界向けに予約システムを売っている企業と提携し、その企業のブランドとして販売してもらいました。機能は制限しつつですが、価格を低くして売りました。

大久保:最初のターゲットを変えたところが、すごく良いですね。お金の問題もありますし、リテラシーの問題も多いにありそうです。

江尻:ニーズがあるけどお金やリテラシーがない、といったターゲット調査はしっかりやっておかないと、間違ってしまうので要注意です。

大久保:直販とOEMの両方を持つことは良いですよね。

直販がないと、サービスもよくしていけないと思っています。

江尻:おっしゃる通りだと思います。

現場のニーズや解決したいことなど、時代と共に変化していきます。常に現場に行き、最新の情報をインプットできる直販がある方が強いです。

幅広いメッセージ媒体へ参入して「コミュニケーションのハブ」になる

大久保:今後の展望をお聞かせください。

江尻コミュニケーションのハブになりたいと思っていますが、まだまだ手付かずの領域があります。

チャットボットや、LINE、Facebookのメッセンジャー、企業で使われるチャットツールなど、あらゆるコミュニケーションチャネルと統合して、全ての会話をデータとして貯めようとしています。

リアルな会話も全て音声記録してテキスト化することもやりたいと思っています。

そうすることで、企業経営に関する健康診断のようなことを会話データの分析によって実現できると思っています。

会話ができていない会社がわかれば、そろそろ電話してコミュニケーションを取ろうというアクションにも移すことができますし、担当者レベルでしかわからなかった良好な関係を築けているかもわかります。

大久保:テクノロジービジネスはアメリカが強いイメージがありますが、日本企業だからこそできる差別化戦略はありますか?

江尻:日本人は会話が得意だと思います。

雑談を楽しみながら、そこから良いアイディアを生み出すことも、日本人ならではで、そこを我々がITで支援したいと考えています。

例えば、旅館の女将さんが、お客さんが帰られる時に、姿が見えなくなるまでお辞儀をしていると思いますが、海外の方からすると、それは無駄な行為で、別のお客さんのところにいき、サービスを提供した方が良いと思うかもしれません。

ただそれは日本の美徳で大切にしていくべきなので、それを誰でもできるようにITで手助けしたいです。

あえて非効率な部分を支援してあげるというのが、日本らしくて良いかなと思っています。

大久保:短期的なコンバージョンに結びつかなくても、3年以内のリピートに役立つことも多そうですよね。

シンカ社内でのコミュニケーション推進の取り組み

大久保:その他、チャレンジしていることなどがあれば教えてください。

江尻:社内の取り組みとして、近年、テレワーク化が進み、家でも仕事ができることがわかってきました。

そのため、逆にわざわざオフィスに来る理由を考えた時に、オフィスは「会話する場所」だということで、会話を促進させるための仕組みを実行しています。

例えば2ヶ月に1回、ランダムランチというイベントを行っています。メンバーをランダムに設置して、ランチ代を会社が出すことで、社内コミュニケーションを推進することが狙いです。

また、お弁当代の補助金制度です。各自綱で注文したお弁当を会社に届けてもらい、そのお弁当代を補助することで、会社のフリースペースに人が集まり、会話が生まれる仕組みです。

さらに月に1回、全体会議を行っていますが、チーム力向上のために陶芸やゲームをみんなでやる機会を設けています。

社内にバーカウンターがあり、たまにゲストを呼んで一緒に話ながら飲むことも企画しています。

大久保:読者の起業家へのメッセージをお願いします。

江尻:会話を楽しめれば、もっと人間関係も深くなります。人間関係が良好であれば、もっと人生が幸せになります。会話をもっと楽しんでほしいですね!

大久保写真大久保の感想

起業家は「諦める」「諦めない」どっちが正解?

創業手帳の大久保です。以前からの知り合いの江尻さんから起業家に役立つお話が伺えました。

江尻さんはSI→コンサル→起業と戦略的に起業までのキャリアを作ってきました。その延長でビジネスを作り上げたので、最初から競争力のあるサービスを展開できました。しかし対象ユーザーが微妙にズレており最初の3年は苦戦したそうです。

ここで問題になるのは永遠の課題である「諦めるべきか、諦めないべきか」ですが、江尻さんは対象を少しだけ変えて成功しました。

ここでポイントなのは、ユーザー層は変えたが「やっていることは変えなかった」ということです。

江尻さんの場合、大企業しか使えなかったコールセンターの技術を街の中小企業でも使えるようにした「テクノロジーを民主化」「会話の見える化」というミッションに変わりはなかった。

起業は最初、予想外の塊のような事が起こりますし、当初思っていたのとユーザー層が違うということもよくあることです。しかし、大きな方向や強みはそこまで変えずに対象を少しだけ変える「隣の穴も同じ道具で掘ってみる」と鉱脈を掘り当てられることもあります。

諦めるか諦めないかは起業家の永遠のテーマだが、もしかしたらわずかに隣の市場にチャンスがあるかもしれないということを江尻さんは教えてくれました。

もう一つ、江尻さんが面白いのが数年後にデータ解析技術が進むことを予想して「とりあえず会話データを取ってクラウドに放り込んでおく」という考え方です。世界のどこかで技術は確実にその方向に進みオープンなAPIなどで公開されるようになる可能性が高い。今の現状の技術ではなく、少し先の技術の変化「少し先のボールが飛んでくる位置で待ち構える」という発想もヒントになりますね

意見などあればtwitter(X)などSNSでもご意見ください。

#諦める諦めない
#進化を予測する

で投稿して頂ければチェックして面白い意見は記事でも取り上げたいと思います。

創業手帳ではこういった起業家の経験を元に役立つノウハウを集約してお届けしています。よければ取り寄せて読んでみてくださいね。

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(取材協力: 株式会社シンカ 代表取締役社長 江尻 高宏
(編集: 創業手帳編集部)



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