ケンズカフェ東京 氏家 健治|大人気なガトーショコラ店を創りあげるまでの挫折と運命の出会いとは

創業手帳

創業当初はイタリアンレストラン。徹底的な顧客志向で、図らずもガトーショコラ専門店へ変貌した過程

「ガトーショコラの専門店」と聞くと、「フランス・パリで修行をしている」といったイメージや、「スイーツ一本でやってきた玄人」などといったイメージを想起するのではないでしょうか。しかしながら、ガトーショコラ専門店を創り上げた氏家健治氏は、パリで修行を積んできたわけでも、最初からガトーショコラ一本に絞ってやってきたわけでもなかったのです。

イタリアンレストランとして起業した当初は泣かず飛ばずで、一時期は倒産の危機にも陥りつつも、真摯に顧客の声に向き合ってきたことで図らずもガトーショコラ専門店に業態転換した氏家氏。現在では、同氏が経営するケンズカフェ東京は『食べログ』のチョコレート部門にて第一位を獲得するなど、数々の受賞歴を誇る屈指の名店に成長しました。

創業時の挫折や数々のピボット、現在まで何を意識して経営してきたかなど、「中小企業経営者のリアル」ともいうべき部分を、創業手帳の大久保が聞きました。

氏家 健治(うじいえ けんじ)ケンズカフェ東京 オーナーシェフ
1998年イタリアンレストラン「ケンズカフェ」を開店。開店当初は経営が軌道に乗らず、倒産の危機も経験する。35歳から経営やマーケティングを本格的に学び、実業家としての基礎を築く。お客様から好評だったガトーショコラの専門店へ業態を変えると、経営のV字回復に成功。ガトーショコラ販売の他にも多くのブランドとのコラボや監修、ライセンス契約も積極的に行う。また、経営者・起業家向けのビジネス講習会を日本全国で実施している。著書に『余計なことはやめなさい!ガトーショコラだけで年商3億円を実現するシェフのスゴイやり方』など。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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どん底で「料理人」が「経営者」に成った

大久保:ガトーショコラ専門店の「ケンズカフェ東京」氏家さんにお越しいただきました。私もガトーショコラをいただきましたが、やっぱり美味しいですね。

氏家:ありがとうございます。よろしくお願いします。

大久保:最初はレストランなどで修行されてからお店を出されたそうですが、最初のお店はガトーショコラ専門店ではなかったんですよね。

氏家:そうです。最初はイタリアンレストランとして創業しました。

飲食店オーナーあるあるですが、「美味しい料理を作ったら売れる」と思っていました。レストランやホテルで修行もしてきたから、料理の味には自信もありましたしね。だからマーケティングなどの経営に必要な知識を学ばずにやっていました。それで結局、4〜5年は泣かず飛ばずで苦労しました。

当時のお店のひと月の売り上げは200万円程度です。そこからどんどん落ち込んでいって、一番ひどかった時期では140万円程度まで落ち込みました。家賃も払えないから私の給与ももちろん削りました。諸々の支払いのためにカメラも売りましたし、レジのお金からも引っ張ってきたりして。

どん底って、悪いことが不思議と重なるんですね。ちょうどそのタイミングでピッキング被害にあって金庫にあったなけなしのお金が盗まれたりもしました。ピッキング被害にあうと、鍵が壊れちゃうんですけど、鍵を修理するお金もなかった。だからしばらく、鍵なしの生活を続けました(笑)

それがちょうど30代前半の頃です。友人は企業で出世していたり、家庭を築いていたりしたのですが、私は独身で経営も上手くいかなくて。情けなかったですね。まさにどん底でした。

周りは上手くいっているのに、「俺は何をやっているんだ」という感じで。そこでようやく謙虚になれたんですね。「味が美味しいだけじゃダメだ」と気づいた。というよりも、どん底だったのでなんとしてでも経営を立て直さないといけなかった。必要に迫られて、経営やマーケティングを学び始めました。

大久保:たしかに、飲食店オーナーの方は料理に自信があるだけに、経営の勉強はおそろかになりがちな方もいるでしょうね。

氏家:そうですね。私はその典型的なパターンだったかもしれません。当時はまだ飲食店のライバルも少なかった時代ですから、甘えていた部分もありました。でもどん底で完全に目が覚めましたね。

「提供する商品を磨く」というのは当然の前提として、「経営やマーケティングも学ばないとダメだ」とようやく気づいたのが、35歳頃でした。

ネット集客を開始して売り上げが上向く

大久保:最初に経営が改善したきっかけは何だったんですか。

氏家:ネット集客を開始したことですね。今から18年ほど前くらいから飲食店でもネット集客する時代がきて、ちょうど『ぐるなび』に個人経営のお店も掲載をし始めたんです。

そこで私も『ぐるなび』にページを作って集客を始めたところ、アクセス数もわかるから広告施策も改善できるし、SEO対策もできる。日々データを見ながら写真を見栄えのいいものにしたり、コピーライティングを変更したりと、コツコツと改善を重ねることで、アクセス数をメキメキと伸ばしていきました。アクセス数が伸びると、それに比例して売り上げも伸びて、本当に面白かったですね。

大久保:経営の面白さに気づいた、といった感じでしょうかね。

氏家:そうですね。当時はネット集客というとまだ怪しいイメージがありましたが、どん底を経験していたので「ネットなんか…」「広告なんか…」とは思わずに何でもやってみたら、結果が出て楽しくなりました。

Webサイトの作り方やSEOの勉強をするのも純粋に楽しめましたね。夜中に勉強していましたが、全然眠くなりませんでした。

儲かる宴会需要に特化した

大久保:ネット集客を始めたこと以外にも転機はありましたか。

氏家:最初はカフェ、ランチ、ディナーと3つやっていたのですが、夜はディナーの提供をやめて、20名以上の宴会のみを受け付けることにしました。集客は『ぐるなび』経由です。

宴会需要を取り込むのは広告で集客しないと難しいですが、当時は『ぐるなび』が伸びていましたし、私のような個人経営のお店で数十万円という金額を広告費に注ぎ込んでいる競合がいなかったこともあり、見事に売り上げが伸びていきました。先行者利益ですね。

大久保:『ぐるなび』でデータをみて集客していたからこそ、宴会需要に特化できた、という面もありますか。

氏家:それもありますね。その後もデータを見ながら、カフェとランチはやめる決断をして、一時期は夜の宴会だけに特化していました。

ガトーショコラのテイクアウトを始めた偶然

大久保:ガトーショコラはいつから提供し始めたんですか。

氏家:最初からお店では提供していました。たまたまガトーショコラだけ、最初からものすごく評判がよかったんです。「いい材料を使っているので当然だろう」と思っていたのですが、本当に評判がすごくよくて。「美味しい」とみなさん、口をそろえておっしゃっていたんですね。

「テイクアウトで販売してほしい」というお客様の声をよくいただいていたんですが、「うちはケーキ屋じゃないんだし…」という思いや、「あくまで焼き立てを提供したい」ということもあって、テイクアウトの販売はしばらく渋っていたんです。

でもとうとう根負けして、ガトーショコラのテイクアウト販売を始めたんです。それがここまで成長するとは当時はまったく思わなかったですね。ガトーショコラ専門店になったのは、ある意味では偶然なんです。でも、お客様の声を重視するとか、データを重視するといった私の経営姿勢から導かれた道なので、必然とも言えるかもしれませんね。

通販でさらに売り上げを伸ばすがやめた経緯

大久保:ネット通販も始めたんですよね。

氏家:そうですね。それもお客様のご要望で仕方なく始めました(笑)。「長野の実家のお母さんに送りたい」というお客様がいたので、仕方なく。配送するとガトーショコラの鮮度が落ちるのでなるべくやりたくはなかったんです。でもお中元やお歳暮、帰省の際のお土産としての需要があることにそこで気づきました。

少しずつ売り上げも上がっていって、テレビや雑誌でもよく取り上げていただきました。最終的には全体の売り上げの7割程度を占めるまでに成長しましたね。

大久保:最終的には通販もやめてしまいましたよね。

氏家:そうなんです。売り上げも大きいですし、全国に配送できるメリットはありながらも、やめた理由は手間・暇・コストがかかるからです。売り上げが小さい頃はいいんですが、大きくなると受発注管理やクレーム管理が大変になって。

2011年3月11日、東日本大震災のときに、物流網が止まって全国にガトーショコラが送れなくなったことがありました。このときに、とあるお客様から延々とクレームをいただいたんですね。「届いていないけど、どうしてくれるの」と。お客様も事情はわかってはいたのでしょうけど、ずっと引き下がってくれなくて。それで「うちの商品は通販とは合わない」と感じたんです。それがネット通販をやめた直接的なきっかけになりました。

当時、1日に作る量が400個程度でした。「全体として3、4割程度売り上げが落ちるかもしれないけど、やっていけるだろう」と思い、思い切ってネット通販をやめました。逆に店舗でしか買えないからこそ、買いに来てくれるお客様も増えるだろう、という思いもありました。もちろん、スタッフには猛反対されましたね。

一時期は3割程度売り上げが落ち込みましたが、狙い通り売り上げは拡大し続けてネット通販をやっていた頃を追い抜きました。やっぱり、店舗でしか買えないプレミアム感がよかったのかもしれませんね。物流の手間がかからない分、利益率も上がりました。それに比例して『食べログ』の評価も上がっていったのはうれしい誤算でした。結果としては、8年連続でチョコレートカテゴリで第一位を獲得し続ける結果を残すことにもなりました。

大久保:宴会はやめてしまったんですよね。

氏家:そうですね。どっちつかずになるとよくないというのもありましたが、宴会をやめたきっかけも東日本大震災でした。当時、宴会の売り上げが急に落ち込んだこともあり、ガトーショコラへ軸足を移していこうと思えたんです。これも偶然ですね。

何でもやって事例になりたい

大久保:ファミリーマートとのコラボ商品を作られていますよね。

氏家:はい。監修を始めて7年目になります。個人経営店で7年もやっているお店はほかにないですね。おかげさまで、弊社の信用にもつながっています。

大久保:ロイヤリティもありますよね。

氏家:はい。少なくない額のロイヤリティをいただいています。我々のような小規模事業者にはありがたいですね。そのいただいたロイヤリティでまた広告を打てますし。

コロナ禍で、監修やコラボの仕事もさらに増えてきました。ウエルシア薬局や富澤商店とのお話をいただいたり。最近では映画『東京リベンジャーズ』ともコラボ商品を作りましたね。

大久保:フランチャイズ化も始めたと聞きました。

氏家:そうですね。コロナ禍で売り上げが落ちて、「通販を再開せざるを得ないか」と思っていたところに、フランチャイズ化のお話をいただいて。能力的に自分一人では無理かなと以前から思っていたのですが、タイミングよくお話があったので、フランチャイズ化に踏み切りました。

「氏家さんがフランチャイズをやるなんて思ってもみなかった」とか言われることもあるんですが、ちょうど私自身、ほかのビジネス展開を探っていたところだったので、割とあっさりOKしました。このまま1店舗で盤石なビジネスを続けていってもよかったんでしょうけど、それではビジネス的につまらないですしね。チャレンジしたかったんです。

フランチャイズ化によるブランド価値毀損の恐れもありますが、創業23年という信用があって、データの蓄積も顧客リストもある。真面目に地道にやってきたので、お客様が離れない自信があります。

大久保:色々とチャレンジされていますが、そのエネルギーの源泉はどんなところにあるのでしょうか。

氏家:私が事例になりたいんです。To C向けサービスで小さな店を経営するオーナーとしての事例に。

「ネット集客を始めてみた」とか、「フランチャイズをやってみた」とか、成功・失敗含めての事例になりたいんですね。YouTuberみたいな感覚です。それで私の事例を参考にしてほしい。それが私のモチベーションなんです。著書を出しているのも、そういった経緯です。創業手帳さんには敵いませんが、人の役に立ちたくてやっています。

PRの威力

大久保:広報はプロの方にお願いしているのでしょうか。

氏家:そうですね。半年契約にして色々な方に交代でやってもらっています。プレッシャーを感じながら仕事をしてもらえるように。

大久保:PRの効果はどんなところで感じましたか。

氏家やっぱり色々な人を紹介してもらえることですね。著書の出版も、ファミリーマートとのコラボ商品販売も、人をつないでもらったおかげでできたことです。

最近はSNSで無料で集客できるから広告費をかけない方も多くなってきていますが、やはりきちんと広告費をかけてブーストすべきところはしていくことが重要ですね。

大久保:著書の出版とかは、出版社から持ち込まれた話ですか。

氏家:出版社につないでもらったのですが、私が広報さんに相談した結果です。

モチベーションの変遷

大久保:仕事をしていくなかで、モチベーションはどう変わっていきましたか。

氏家最初は「食べるだけで精一杯」というところから始まって、「データを見て経営するのが楽しい」と思うようになり、偶然にガトーショコラ専門店にたどり着いて。当時はガトーショコラ専門店なんてなかったので、天命・運命だと思いますね。

今では私利私欲ではなく、もっと世のため人のためになることをやっていきたいとも思っています。

データを見て決断してきたからこそ

大久保:運命とおっしゃいましたが、でもデータを見て決断してきた結果ですよね。

氏家:おっしゃる通りです。自分では意識せず、データを見て判断してきた結果なので、だからこそ運命のように感じています。

経営者が従業員に相談しても「絶対やめたほうがいい」と反対されるばかりです。でも反対されたことでも決断していなかったら、今、ケンズカフェ東京は成功していません。だから経営者自身がしっかりとデータと向き合った上で、冷静に判断し続けることが経営においては重要だと思います。変化を恐れずチャレンジをしないと、 事業も大きくなっていきませんから。

大久保:本日は貴重なお話、ありがとうございました。

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(取材協力: ケンズカフェ東京 オーナーシェフ 氏家 健治
(編集: 創業手帳編集部)

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