マップボックス・ジャパン 高田徹|目指すは地図づくりと地図に関わるビジネスの革新!「Mapbox」でロケーションテック業界を牽引

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年02月に行われた取材時点のものです。

地図領域における野心的な挑戦!ジョイントベンチャー誕生の背景と、デジタル地図の現在と未来の可能性に迫る


デジタルデバイスと通信回線の進化に伴い、世界中でモバイル化が加速したことで地図・位置情報サービスの重要性が増しています。

こうした時代背景に合わせた先進サービスを提供している企業として期待を寄せられているのが、地図テクノロジーのイノベーターである米国Mapbox Inc.と、世界でビジネスイノベーションを牽引するソフトバンク株式会社のジョイントベンチャー、マップボックス・ジャパン合同会社です。

社内外のさまざまなデータを自由に組み合わせ、ユースケースに最適な地図を構築し企業のロケーションデータ活用の促進を目指し、地図開発プラットフォーム事業や地図広告プラットフォーム事業を展開しています。

今回はCEOを務める高田さんの最高経営責任者に就任するまでの経緯や、デジタル地図の現在と未来の可能性について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

高田 徹(たかた とおる)
マップボックス・ジャパン合同会社 最高経営責任者CEO
2007年4月、ヤフー株式会社に入社 。2013年より広告事業の製品開発、事業開発の責任者として従事する。2019年、Zコーポレーション株式会社の代表取締役社長に就任。2020年5月、マップボックス・ジャパン合同会社CSO、同11月より最高経営責任者CEOに就任。2020年4月からはソフトバンク株式会社の技術投資戦略本部 本部長も務める。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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ヤフー・ソフトバンクでキャリア構築!多くのジョイントベンチャーで成功


大久保:まずはご経歴についてお聞かせ願えますか。

高田:大学を卒業後、外資系ソフトウェア会社に入社し、技術職として実績を積みました。

4年ほど勤務した2007年、ヤフーにジョイン。およそ10年間、広告事業の製品開発および事業開発の責任者を務めました。

同社はソフトバンクグループの代表取締役を務める孫が陣頭指揮を取り、世界中の企業への投資も行っていたんですね。当時の投資先は約400社です。2017年にはソフトバンク・ビジョン・ファンドを設立し、さらに積極的に投資するようになりました。

この過程で私もジョイントベンチャー立ち上げに関わる業務が増えたため、ソフトバンクに転籍してキャリアを歩むことになったんです。

大久保:高田さんはこれまで孫さんが投資された企業とパートナーシップを組み、日本でビジネス展開する際の責任者としてもご活躍されてきたそうですね。

高田:はい。たとえばメディア事業ですと、BuzzFeed Japanの初代代表を務めています。同社はアメリカのBuzzFeedと日本のヤフーのジョイントベンチャーとして設立されました。

それから2019年には、当時のヤフー(現Zホールディングス)が100%子会社として誕生させた事業投資会社のZコーポレーションの代表取締役社長に就任しています。

大久保:その後、マップボックス・ジャパンのCEOに就任された経緯についてお教えください。

高田マップボックス・ジャパンは、アメリカのMapbox Inc.との合同会社として2020年3月10日に設立しました。

実はもともと代表を務める予定はなかったのですが、設立直後にコロナ禍に突入してしまい、アメリカ本国の人間が誰も来日できない状況に陥ってしまったんですね(苦笑)。

「どうしたらいいだろう……」と全員で悩んでいたのですが、最終的に「マップボックスのすべてを熟知している高田はどうか」と白羽の矢が立ちました。

私はこれまでの経歴上、純粋なエンジニアというよりプリセールスエンジニアセールスエンジニアとして実績を積んできたんですね。

技術に精通し、製品開発が行えて、社内調整はもちろん海外との交渉やディスカッションまでできる。これが私の強みのひとつです。

この強みを認めてもらい、自然と「高田にお願いしよう」という結論に至りました。

こうした経緯で、2020年11月16日にCEOに就任しました。

米Mapbox Inc.のビジネスに共鳴!マップボックス・ジャパン誕生

大久保:会社の成り立ちに関する話として、Mapbox Inc.とのジョイントベンチャー設立を決めた理由についてお教えください。

高田:投資の最高責任者を務める孫が、地図は現在、そして未来においても重要な役割を果たす媒体であり、先々を見据えたビジネスにおいてさらなる活用が見込めると判断したからだと私は解釈しています。

Mapboxの歴史は長く、2010年にアメリカで創業し、当初はNPO法人として運営していました。地図に描かれていないエリアの調査を行う人間たちが、地図製作を目的としてデジタルインフラを構築したのが発足の経緯です。

地図という媒体は、非常に社会性が強いんですね。社会正義のような側面もあります。

たとえば選挙を行うにしても地図がないとできませんし、洪水が起きた際には避難経路確保のためにも地図が必要ですからね。

大久保:本国の理念や活動方針、事業内容に孫さんが共鳴されたんですね。

高田:はい。スマホの地図アプリで外出を楽しむ生活が当たり前となり、この先に到来する自動運転の世界では高精度3次元地図データなどが搭載され、多くの命を守る責務を果たします。

これが地図の立ち位置であり、強みなんですね。どのサービスにおいても、実は地図がど真ん中に存在しています。

そしてこの観点は、孫が繰り返しデジタル地図の重要性とともに説いてきたことです。その結果として投資を決め、本国とともに未来をより良くする事業を運営していこうマップボックス・ジャパンが設立されました。

日本から世界へ発信!「Mapbox」と「Mapbox 広告」を軸にさまざまな事業展開


大久保:御社の事業内容についてお教えください。

高田:弊社は「地図づくりと地図に関わるビジネスの革新を、日本から世界へ。」を理念に掲げ、情報技術の可能性を活かした地図サービスの開発や地図に関わるビジネスの革新を創造し、日本から世界への発信を目指しています。

あらゆる情報を集約し自由自在な地図描画を行うことでロケーションデータ活用を推進する地図開発プラットフォーム「Mapbox」と、地図上に最適な広告を配信するプラットフォーム「Mapbox 広告」を軸に、さまざまな事業を展開しています。

大久保:御社はデジタルデータとリアルデータの接点にポジション取りをしたという印象がありますが、そのあたりの見解についてお聞かせください。

高田:地図はデジタル・リアルを問わず、あらゆるデータと組み合わせやすいフォーマットです。そのためおっしゃる通りで、弊社もデジタルデータ・リアルデータ双方と密接に関わりながらビジネスを行っています。

たとえばIoTデバイスを活用して理解しやすいデータを提示する際、地図は効率が良いんですね。情報を伝えたり、判断を促すのに最適なフォーマットなんです。

こうした地図の特性や優位性を踏まえ、「どんな情報でもMapboxと組み合わせて使いやすくすること」を弊社の使命としています。

だからこそMapboxの価値は、弊社のインフラを活用してサービス提供を行っている方々が生み出してくださっていると捉えているんです。弊社はそのお手伝いをさせていただいてるというスタンスで事業運営しています。

大久保:確かにインフラが優秀だと事業推進力が高まりますよね。

高田:はい。現在のスタートアップがイノベーションに注力できるのは、AmazonやGoogleが潤沢なインフラを提供しているからです。そのおかげでサービス構築に集中できるんですね。

弊社はAmazon・Googleの方向性と似ていますので、「地図版AWS」と認識いただけるとうれしいです。デジタル地図やロケーションデータを使ったサービスを作る際の選択肢として、ぜひ積極的にご活用いただきたいですね。

デジタル地図のオンリーワン!「地図版AWS」が実現した優れた機能とバックアップ体制

大久保:先ほど「地図版AWS」というユニークなブランディングをお話しいただきましたが、AWSの最大の魅力は付随機能だと思うんですね。AIや分析などの付随機能がAWSを利用する理由にもなっています。御社も付随機能を含めて優れているのではないでしょうか?

高田:はい。一般的なエンジニアでもオリジナルの地図アプリケーションを作ることができるというのが、弊社の売りのひとつです。

たとえばAWSと同じように、弊社でもインターフェースを用意しています。アドビのPhotoshopやIllustratorに似た操作性のため、直感的に作業を進めることができるんです。

このほかにもあらゆる機能を提供することで、多くのエンジニアがオリジナル地図を作成できるようになりました。

なぜこれらが売りなのか?というと、一般的に地図の編集は非常に難しいからです。

地図は歴史が長く、その編集を行うためには辞書と同じように難度の高い専門知識を必要とされるんですね。地図業界でもアカデミズムのような組織がその役割を担ってきました。

この概念を打ち破ったのが弊社です。こうした背景があるからこそ、弊社のサービスは画期的との高い評価をいただいています。

大久保:言われてみると、これまで御社に匹敵するサービスはありませんでしたよね。

高田:そうなんですよ。しかもどのサービスでもカスタマイズしていくとアプリケーションが重くなりすぎて、動きが鈍い代物ができあがってしまうんですね。

弊社ではこれらのデメリットをすべてクリアし、ストレスのない動作を実現しました。集めた膨大なデータがきちんと動くようにレンダリングしたり、配信の際にもすべてサポートしています。

エンジニアはバリアント情報の付与やデザイン変更、自社運用アプリケーションへの搭載など、本来のタスクに集中した製作が可能です。この環境を実現するための技術やマンパワーをすべて用意してサービス提供を行っています。

「地図版AWS」を自負する理由は、高品質のサービスと万全のバックアップ体制にあるんですね。

時代とともに進化!デジタル地図の強みは「情報伝達スピードが最も早いフォーマット」


大久保:あえてシンプルな質問をさせていただきたいのですが、デジタル地図とはなんでしょうか?地図に関わるビジネスの革新を創造されている高田さんならではの定義をお聞かせください。

高田「地域や移動に関する情報の伝達スピードが最も早いフォーマット」ではないでしょうか。かつ「一番ストレスがない」というのもポイントです。

これまでインターネット上の情報伝達手段は、通信速度の向上に伴ってテキストから写真、写真から動画というように進化してきました。

現在では動画がトレンドですが、その理由は1秒あたりの情報密度が高いからです。加えて、脳の負担が少ないというのも大きな要素となっています。動画だと自動的に入ってきますからね。

この動画と同じくらい速度が早い情報フォーマットがデジタル地図です。地図という媒体の強みでもありますね。

大久保:デジタルテクノロジーの発展と呼応するように、地図も格段に変わってきましたよね。利用可能なデバイスが多岐にわたることで、活用できる領域もどんどん広がってきました。

高田:おっしゃる通りです。

地図の作り方自体は昔からそれほど変わっていなくて、地形図の上に道路地図を置き、その上に地名や建物を重ね、最終的に1枚の紙に印刷するという従来の方法をデジタル化しただけなんですね。

弊社のデジタル地図も、アナログ地図の版に相当する情報レイヤーをおよそ70枚ほど重ね合わせ、1枚の地図として完成させています。

ただ、パソコンやスマートフォンのスペックが上がり、通信回線が向上したことで、建物を1つのオブジェクトとして扱えるようになったり、自由に縮尺を変更できるようになりました。

つまり利用可能な領域が広がると同時に、テクノロジーによって製作過程にも進化をもたらしたんですね。

大久保:この先、どんな活用法を想定されてらっしゃいますか?

高田スマートグラスでも地図を利用できるようになるのではないかと考えています。

パソコン・スマートフォン・スマートグラスでは画面の大きさが異なりますので、それぞれに合わせた縮尺に調整するなどの工夫は必要ですが、すべてのデバイスで同じ情報を参照しているんですね。

こんなふうにデジタル化の恩恵により、地図の世界はどんどん広がっていくのではないかなと。いずれにしても、どの時代の、どんな場所でも、地図は生き残り活用され続けるフォーマットだと自信を持っています。

多くの企業と共闘!幅広い領域へ展開しながらロケーションテック業界を牽引

大久保:最後に、今後の展望についてお教えいただけますか。

高田:ここ数年、デジタル地図を活用したサービス構築に本腰を入れてくださる企業が飛躍的に増えたと実感しています。

地図はわかりやすいですし、小学生の頃からフォーマットや情報として勉強する媒体です。誰もが慣れ親しんできているため、今後さらなるニーズが生まれると想定しています。

弊社にもゲームへの導入や、車内での活用など、幅広い領域から多くの引き合いをいただいているんですね。

こうしたご期待に応えながら、ロケーションテック業界を牽引する存在として研鑽を積み発展していきたいです。

大久保の感想

大久保写真
地図は普遍的なツールでありかつ先端である

地図とは人間がものの全体像を見渡す時に使うツールである。3000年以上前の古代バビロニアで粘土板の世界地図が既にあったそうだ。それほど人が欲する普遍的なツールということだ。

ここ最近で地図は劇的な変化を遂げた。スマホの普及(携帯性が劇的に向上)、そこからネットの地図の特性だが縮尺が自由自在になったこと、目的に応じてレイヤーを変えることができること、双方向性などの新しい価値がでてきた。

こうした昔からあるツールをインターネット技術は、その基本構造を踏襲しながら、圧倒的な付加価値をつけて変えてしまう。マップボックスが展開しているのはまさにその部分で、昔からある地図にデジタル技術を使った最先端の変化の部分を提供している。

地図のデータのような裏方では見えにくいが、デジタルが価値を革命的に変えている領域も起業家のチャンスが大きい部分と言えるので、そういうチャンスが他にないか探してみると良いだろう。

データのお掃除がなぜ大事なのか

もう一つの視点は、データの価値だ。

インタビューに出てきたデータと一口にいうが、使える形で整理されているかが大事である。目的に対して使えるようにデータが揃っていて、かつノイズが除去されたクリーニングと整理、つまりお掃除が大事だ。そうでないとデータが有っても使えない。

社内の顧客名簿などを管理したことがある人なら分かるだろうが、適当な情報が混ざっているとそれだけで信頼性が下がり、活用がしにくくなる。例えば優良顧客リストに、少しでもクレーム顧客のリストが混ざってしまったら、メルマガやDMのリストとしては価値が激減するだろう。

データは「現代の石油」(日本ではコメと表現する人もいるが、石油という表現の方がしっくりくる)とも言われ、富を生み出し、会社の存続を左右するほどの要素だ。

例えばアマゾンはなぜ強く、日本の出版や書店はなぜ衰退しているかだが、アマゾンはどういう人がどういう関心を持って商品を買っているかなど詳細な顧客データを握っているから強いのである。一方で日本の出版や書店は顧客データをほぼ握っていない。せいぜいエリアの売上データ程度で、アマゾンなどの持っているデータに比べれば、情報の精度や量は100分の1にもならないほどの圧倒的な差がある。

アマゾンは高精度なレーダーや暗視スコープを装備した軍隊のようなもので、そこに日本の出版や書店は、手ぬぐいで目隠しして戦っているようなものだ。その圧倒的なデータ量の差の結果が、アマゾンの急激な成長、日本の出版・書店産業の衰退である。

もちろん日本でもデータを駆使した情報産業の会社もあり、そうした会社はアマゾンとは規模は違えど成長している。つまりデータを持っているかどうかで巨大な会社や産業も衰退するし、小さな会社やスタートアップにもチャンスが有るということだ。

その重要なデータの整理とクリーニングだが、その際にアナログ的な手法とデジタル的な手法の併用が効く。こうしたデータの世界だけでは割り切れないアナログ部分を補完したデータは実は価値が高くお金になりやすい。

そうしたデジタルとアナログのハイブリッドのデータ整備のノウハウをマップボックスは持っているそうだ。

今後も、デジタルで割り切れない部分をアナログで補完して、雑多な情報を価値のある情報に変えるという発想は、企業、スタートアップにとって不可欠なものとなっていくだろう。

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(取材協力: マップボックス・ジャパン合同会社 最高経営責任者CEO 高田 徹
(編集: 創業手帳編集部)



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