ZenGroup スロヴェイ・ヴィヤチェスラヴ|透明でシンプルな越境ECで日本の商品を世界に届ける

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年08月に行われた取材時点のものです。

19言語に対応、30か国のメンバーが働く環境が世界中から日本の品物を購入可能に

インターネットで物を買うということがごく普通になり、今までは現地に行かないと買うことができなかった海外のものも、インターネットを通して買うということが可能になりつつあります。

ただ、まだまだ複雑なルールや法律の壁があり、個人が気軽に購入できるという環境ではありません。そんな中、海外から日本の商品を買う手助けをすることで事業をぐんぐん伸ばしている企業があります。

聞けば代表はウクライナから留学を期に日本に移住した方。創業手帳代表の大久保が、日本で起業するに至った経緯や越境ECを取り巻く環境などについてお聞きしました。

スロヴェイ・ヴィヤチェスラヴ
ZenGroup代表取締役
Kyiv National T. Shevchenko Universityにて日本語を専攻し、2003 年から1年間富山大学へ留学。帰国し、Kyiv National T. Shevchenko Universityにて修士号を取得。その後日本へ渡り、東京大学に研究生として入学、修士号・博士号を取得。
2014年、ゼンマーケット合同会社(のちZenGroup株式会社) を創業し、代表に就任。 日本の商品をシンプルに海外ユーザーへ届ける仕組みを作り、 世界の越境 EC における日本の販売額シェア20%を目指す。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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日本の商品を購入したいという海外のニーズに気づき、アパートの一室で起業

大久保:日本で起業されて今に至るわけですが、どのようにして日本に来ることになったのでしょうか。

ヴィヤチェスラヴ:出身はウクライナの西の方の小さな街です。首都の学校に行き、日本語を専攻したことで、現在会社の代表を一緒に務めている仲間たちと知り合いました。

高校時代はITについて学ぶ機会も多く、プログラミングの地方大会にも出場しました。

2003年に富山大学に語学留学、ウクライナに帰国して大学院を卒業し、再び日本に渡って東大で修士号と博士号を獲得しました。

富山大学を選んだのは、自分が小さな街出身なので、都会ではなくのんびりした環境が自分に合っているかなと思ったからです。

大学では経済やビジネスではなく、文学や翻訳の勉強をしていました。越境文学について学んだりしていましたね。

大学と大学院であまりにも長い時間を過ごし、数字でははかれないような分野を研究していたので、卒業したらもう少し違うことをやろうと思いました。社会人経験もないまま卒業後すぐに起業しました。

大久保:研究分野とは違う分野で起業されたのですね。最初から今の業態なのでしょうか。

ヴィヤチェスラヴ:学生の頃に仲間とウクライナ語とロシア語のオンライン辞書やオンラインペット霊園などのプロジェクトを立ち上げました。ただマネタイズには苦戦しましたね。

代表のひとりであるナウモヴが最初に起業し、その会社でペット霊園のビジネスを始めましたが、思うように伸びず2年後に事業転換の決断をしました。

日本からウクライナに帰ったときにお土産を渡すと、その後「またあれを買ってきて」「これも買ってきて」と言われることが多く、日本の商品は海外での需要が高いことに気づきました。友人が購入代行の会社にいたことや、競合他社がうまくいっていない点や改善できる点が見えたことで、2014年に海外向け購入代行サービス「ZenMarket」の運営を開始。今でも購入代行が事業の大半を占めています。

大久保:日本人が起業するのもそれなりに大変だと思いますが、起業する際に難しかったことはありますか。

ヴィヤチェスラヴ:さまざまなハードルがありましたね。日本語は母国語ではないですし、社会人経験はゼロ、お金もゼロ。銀行の口座を作ったり、ローンを組むのも難しかったです。ただ、唯一日本語がかなり話せたのは救いでした。法務局で相談したりしてなんとか起業することができました。

お金がなかったのでアパートの1室でスタートし、システム構築も自分たちで行いました。90年代のウクライナは経済的に苦しかったので、パソコンは自分たちでパーツを買って組み立てることを経験していたことが結果的によかったですね。

外部の会社に委託していたら多くの費用がかかっていたと思います。資金調達せずに事業を継続できた理由のひとつだと思っています。

当初はウクライナ語とロシア語だけのサイト制作を考えていたんですが、2014年当時ウクライナでクリミア併合などいろいろなことが起きて、今後はロシア経済ばかりに頼れないと気づきました。当初の予定を変更して、英語とフランス語も入れたサイト制作にすることを決めました。

大久保:その後、時間が経つにつれて事業はどのように伸びていきましたか。

ヴィヤチェスラヴ:事業が少しずつ波に乗るにつれてアパートが手狭になり、事務所を借りて会社らしくしようと、大きな事務所や倉庫を借りるようになっていきました。

最初は大きなものの取り扱いや1円オークションによる損失などが不安で、ヤフオクなどの中古品は扱わずに楽天とAmazonの商品のみを購入代行していました。

ただ、売上げが思うように伸びなかったため、覚悟を決めて中古品も扱うように。約半年が過ぎた頃にやっと黒字になり、ほっとしました。

クレジットカードの決済サービスについても、最初は詐欺率が高く対応に苦慮しました。ある一定の基準値を設けるポイント制度を半年以上かけて構築し、現在も仕組みとして生きています。

最初に雇ったアルバイトは日本人の主婦だったんですが、面接したタイミングが新しい倉庫に引っ越した直後で、荷物はほとんどない状態。「それでは明日来てくださいね」と言ったけれど、怪しいと思われて来ないかもしれないと不安でした。それでもちゃんと来てくれて嬉しかったですね。

その後も契約社員の募集だとなかなかいい人材が来ないということに気づき、正社員として募集しようと方針を転換。会社の制度や採用についてもどんどん見直していきました。

事業は急には広がらないですね。それぞれのステージの課題があり、それに対しての行動を日々少しずつ積み重ねていくことが成功へのたったひとつの道だと思っています。

コロナ禍で海外に商品が届けられず、3000点近くの小包が倉庫に戻ってきてしまったときは、置く場所がなくてどうしようかと思いましたが、業務委託のメンバーと夜中の1時近くまでかかって倉庫の物を一度すべて外に出し、入れ直しました。

事業が伸びていくにつれて、海外向けサブスクリプションパック(定期購入サービス)「ZenPop」、越境ECモール「ZenPlus」、海外プロモーション代行サービス「ZenPromo」の3つのサービスを開始しました。

ありがたいことに、今では年商が100億円を超えました。コロナ禍で海外旅行へのハードルが高くなり、購入代行の需要が増えたことに加え、円安の追い風もありますね。

物流面では大変でしたが、コロナが猛威をふるっていた2021年は1年間で75%も事業が伸びました。

日本語がわからない外国人にも活躍の場を


大久保:多様な人材が働いていることにも驚きました。何か国の言語に対応しているんですか。

ヴィヤチェスラヴ:19か国の言語に対応しています。それぞれの言語に対応するマーケティングスタッフやカスタマーサポートが必要なので、現在は30か国のメンバーが事務所で働いています。 

また業務委託としてカナダやフィリピンなどさまざまな国から働いているメンバーもいます。

英語や中国語に対応している競合他社は多いですが、それ以外の言語に対応しているところとなるとなかなかありません。多言語に対応したことが我々が成功した要因のひとつだと思っています。

関西では、日本語が話せない外国人が活躍できる場はまだまだ限られていて、英語しかできない人が何をやっているかというと、決まって英語の先生なんです。

日本語がわからないとしても、母国でマーケティングをやっていた人などが先生しかできないという現状はもったいないと感じ、社内の公用語を日本語と英語にして、そのような方々が活躍できる環境を作るように心がけてきました。

海外に物を売る際、どのようなデザインが好まれるのか、どういったアプローチが成功するのかといった戦略に関しても外国人ならではの感覚が活きてきます。

大久保:具体的に海外のお客さんが興味がある商品とはどんなものですか。

ヴィヤチェスラヴ:人気の商品はアニメ関連のグッズや電化製品ですね。ただシステム的には何でも買えますから、例えば日本の古い砥石やトレーディングカード、中古のコレクター商品など、こちらが思いつかないような商品や売れるチャンスが少ない商品もあります。

発展途上国だと中古のいい電化商品やフィッシングリール、現地で手に入らないような商品、例えばポケモンカードなどが人気がありますね。

大久保:消費は都会に集中しますが、ネットショッピングは都会に限らず日本中の商品を購入することができるので地方の小さな会社にとってはありがたいですよね。自分たちで販路を開拓するのはなかなか難しいので、さらに御社のような海外への販路を開いてくれる存在は貴重だと思います。購入代行でもありますが、そのような会社にとっては販売代行でもありますよね。

ヴィヤチェスラヴ:おっしゃる通りだと思います。最近対応を始めたのは韓国語やトルコ語、ポーランド語やアラビア語なんですが、反応はいいですね。スペイン語に対応した後は南米のペルーやメキシコなどが伸びました。アラビア語も使われている範囲が広いですし、GTPも高いので面白いなと思っています。

海外の景気がいい国に日本の商品をたくさん買ってもらえると、日本の成長にもつながります。

大久保:越境ECを取り巻く環境はどのように変化していますか。

ヴィヤチェスラヴ:スマートフォンの普及やインターネット人口の増加などにより、市場は拡大し続けています。

しかし10年前と比べると物流規制が厳しくなり、新しいルールがどんどん出てきて難易度は上がっています。ヨーロッパに商品を売る際には事前に税金徴収のプロセスがありますし、通関の書類なども複雑になっています。中小企業にとって、個々で対応するのはハードルが高いので、プラットフォームを利用するほうが簡単だと思いますね。

「困難を一緒に乗り越えられるメンバー」が起業には必要


大久保:ウクライナで起きている戦争について、事業への影響はありますか。

ヴィヤチェスラヴ:全面戦争が始まってから、独自の経済制裁ということでロシア語バージョンはストップしていて、一切ロシアには商品を売っていません。会社の中にはロシア人の方もいますし、私の妻もロシア人です。しかし、全面的にウクライナ側の立場に立つということを理解してもらっています。

ウクライナから働いている従業員もいますし、IT関連はウクライナにあるので、全面戦争が始まった当時は安否確認やリロケーションなど、いろいろな対応に追われました。

停電や断水も続いていたので、発電機を買ったりといった対策も必要でした。

大久保:ウクライナに平和が訪れることを心から願っています。そんなウクライナから日本に来て起業したことに、日本人として感謝したいですね。

日本の経済を元気にするためにも、より多くの外国人が日本に来て働いてもらえたらと思いますが、外国人が日本で働くことについてはどう思われますか。

ヴィヤチェスラヴ:そうですね、やはり日本語ができないと起業に関してのハードルは高いと思います。融資を受けるのも大変ですし、事務所を借りるにも保証人が必要で、メンバーの中に日本人がいないと不利になるという経験もしました。

我々はお金がなかったので人事も経理も勉強して自分たちでやりましたが、お金があれば人を雇うという選択肢もあります。

ただ日本はとても住みやすい国で、海外からいろいろな人たちが来ています。「なんとなく気になるから来て、働いてみたい」という人をたくさん面接してきました。

大久保:今後の展望についてはどう思われますか。

ヴィヤチェスラヴ:「日本の商品は優れている」と回答している外国人は82%もいますが、実際に日本から商品を買っている人は5%にすぎません(出典:電通「ジャパンブランド調査2019」)。

まだまだビジネスチャンス的に伸び代はあると確信しています。今まではひたすら海外に商品を売る段階でしたが、今後は日本国内で展開している他社のフォワーディング(転送)事業も進めたいと考えています。

約10年間でつちかった知識やノウハウ、またコロナ禍で物流が止まったときに自社で作った物流ルートなどをシェアし、日本における越境EC販売額の拡大につなげたいですね。

第二段階では海外に向けた発展をしながら国内にもマネタイズして越境EC関連のサービスを展開したいと考えています。目標は、世界の越境ECにおける日本の販売額シェア20%です。

起業するにあたって、ウクライナでの大学時代から友人だったナウモヴ、オレクサンドル、そして大学で意気投合したソンも加わって創業しました。得意なことが全く違い、考え方も似ていません。プロジェクトの完成・失敗を繰り返してきましたが、お互い補いあうことができていると感じています。

やはり、誰とゴールに向かって歩むかは大切だと思っていますし、このメンバーだからこそ目標に向かって邁進していくことができると日々感じています。

冊子版創業手帳では、新しい分野を開拓する起業家のインタビューを多数掲載しています。無料で届きますので、web版と合わせてご覧ください。

大久保写真大久保の感想

創業手帳ではウクライナ大使などウクライナ関連の取材をいくつかしています。共通して言えるのがウクライナ人のIT能力の高さです。

これからの時代はこうしたアイデアとともにITを使いこなす能力が車の両輪になってきます。

ヴィヤチェスラヴさんですが東大に留学してその後ECの購買代行で年商100億円超えと大成功を収めています。日本の中小企業にとっては、海外市場に自分で売るのはECが発達してきたとはいえ、ハードルが高いですが、課題になるのが通関など輸出入の部分であったり、細々したものをまとめて発送できるような効率性です。そういった部分をヴィヤチェスラヴさんの会社は担っています。

今後、この事業が発展していくと日本のものが海外の様々な国に売れていくことになるので日本、特に地方や中小企業への貢献は計り知れないと思います。ヴィヤチェスラヴさんのように留学から起業する外国の方が増えていくと日本も活性化していくと思います。

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(取材協力: ZenGroup株式会社 代表取締役 スロヴェイ・ヴィヤチェスラヴ
(編集: 創業手帳編集部)



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