ビジネスは「椅子創りゲーム」まだ椅子取りゲームで消耗しているの?平野 秀典インタビュー(後編)

創業手帳
※このインタビュー内容は2017年12月に行われた取材時点のものです。

自分が感動できるからこそ、人に魅力を伝えることができる

(2017/12/25更新)

「演劇」と「経営」という、一見関係のないことのようにみえる世界観を結び付けた、感動プロデューサーの平野 秀典氏。演劇は感動を与えるものではありますが、「一見さんをただ感動させるだけ」ではだめだといいます。経営で感動を与えるにはどんな考え方が求められるのでしょうか。後編ではその点について、お話を伺いました。

前編はこちら→ヒット商品連発の秘密は「感動」ドラマ×商品の発想 平野 秀典インタビュー(前編)

「椅子取りゲーム」ではなく「椅子つくりゲーム」

ー企業やビジネスだと、競争が先に来てしまい、あまり変化がない商品が出てきている気がします。平野さんがいう「感動」のレベルになると、競争とは次元が違う、ハイレベルなことのように感じます。

平野:もちろん競争は必要です。競争がないと、だらけてしまいますから。ですが現代は、限られた数の椅子が置いてあって、音楽が止まったら椅子を奪い合う「椅子取りゲーム」のようなビジネスをやっているところが多いと思います。

私は「それは違う」と思っています。「椅子の取り合い」ではなく「新しい椅子を創る」ことが必要だと思います。

例えば、演劇やエンターテインメントの世界では、新しい椅子を創らないと成り立ちません。ヒットした演劇があって、それに負けないようなものを作ろうと思うと、違うものができあがる世界です。

ビジネスでも同じで、ヒットしたものにプラスしても、競合が沢山いるレッドオーシャンに飛び込んでしまいます。全く別のもの、新しいものを創り出す必要があります。

私がサラリーマンの時に、インスパイアしあう世界を会社に持ち込んだら、業績はV字回復しました。「椅子つくりゲーム」は、まさに私がやったイノベーションだったんです。

私は演劇出身ですから、人が感動するときのメカニズムを知っていました。これを、営業、事務、総務、経理などのビジネスでも応用できるコンテンツにして、「新しい椅子」として世に送り出したんですね。

ーもしかしたら、そのような経緯で新しく創った椅子でも、時間が経つと皆が真似していって、気づいたらレッドオーシャンになっていることもあるかもしれませんね。

平野:確かにそうですね。参入障壁は高かったはずですが、一度私が出すと真似されていきます。その結果、新しく創ったはずの椅子だったはずなのに、気付いたら椅子取りゲームになってしまいます。

ーそれに対抗していくためには、どのようなことを意識すれば良いでしょうか?

平野100%のものに、1%をプラスしていくことを意識すれば良いと思います。100%は完成品という意味ではありません。今まで培ってきたものが100%だという意味です。それに1%のアップデートをしていく必要がある、ということです。

では、101%にする作業を他社が追い付かれないレベルでやっていくにはどうしたら良いか?と言いますと、毎日アップデートすればいいんです。1%というものは、なかなか気付きにくいものですが、本人が意識していると必ず成長していきます。ノウハウだけでなく、人柄でも同じです。

興奮型の感動はすぐ忘れる

ーサプライズではなく、毎日の積み重ねが重要になってくるということですね。

平野:そうですね。サプライズが好きな人というのは、たまにイベントとしてやる人が多いですよね。それは別に否定していません。ですが、感動=サプライズという考え方になると厳しいと思います。常にサプライズを考えていないといけなくなるからです。

ー確かに、サプライズを常に期待されると大変ですね。

平野:サプライズは、お互いにだんだんつらくなってきます。する側だけでなく、される側も「また何か頑張ってやってくれるのかな」という方向に向かっていきます。そうではなくて、ほんのちょっとした心遣いのほうが十分効果があるんです。行くたびにちょっと商品説明がうまくなっている、他社より少しだけ上手な提案をしてくれる、といったものです。

小さい変化を受け入れるのは、人間の脳のメカニズムと聞きました。大きな変化は、安全を守る本能が働き、脳が拒絶するそうです。

興奮型の感動って、大きな感動を生み出すことができますが、すぐに忘れるんですね。それよりも、相手の心の中に少しずつ温かい感動体験を続けていくほうが、アドバンテージになっていきます。

いま、信用と信頼がビジネスで一番大事と言われていますが、サプライズよりも、小さな感動のドラマのほうがそれに繋がると思います。

まずは自分が感動できる部分を探そう


平野:起業家だけでなく、会社員の方にも同じことが言えますが、お客様に感動を伝えるためには、自分が感動できる部分を探すことから始めましょう。

自分自身が感動したところを語り出すと、伝わる力が全然違います。「感動を感じないものだけど、儲かりそうだから初めてみよう」では、きっとどこかで歪みが生じてしまいます。

ー同じ感動でも、伝わる表現と伝わらない表現があるのでしょうか?

平野:感動したものを伝えるためには、見えないところでやっていることと、実際に発信していることにズレがあってはいけません。

今の時代はSNSが発達して、情報があっという間に拡散されますし、フェイクはフェイクだと早めに分かってしまいます。その理由は、裏でやっていることが分かりやすくなり、透明性が高まっているからだと思うんです。

相手を操作するテクニックのビジネス書はすごく多いのですが、それもあっという間に拡散されるので、発覚したときに最悪の場面を迎えます。

ー伝える方法は、インターネットや文章、言葉だけなのでしょうか。

平野:自身の体に関することにも、伝える方法は隠れています。

例えば、髪形や服装は気を付けていても、表情に気を付けている人はどれだけいるでしょうか?「自分の表情、何種類あるか知っていますか?」と質問して、答えられるのは恐らく2、3種類くらいだと思います。ですが、役者の人たちは、何十種類と知っていないと、行動と表情が一致しなくなり、演技になりません。

喜びや楽しい感情を表現する場合は、自分でも少し大げさなくらい、表情を作ったほうが良いです。そうやって伝わるものもあります。自信がなさそうにしている起業家よりも、背筋が伸びて姿勢が良い人の方が、信頼感も全然違います。

プレゼンテーションもそうです。「なぜこの仕事をやっているのか」という裏話の方が、お客様は聞きたがります。調べれば分かる情報を言ってくる人よりも、「その人がどういう経験を経て生み出した商品なのか?」という想いを聞いたほうが、「使ってみようかな」となります。この違いは大きいと思いますよ。

能力はマイナスな状況の時こそ求められる

ー最後に、平野さんの今後の目標やビジョンについて教えていただけますか?

平野:もう既にやりたいことをやっているので、これを続けていきたいと思っています。100万回のハッピーエンドを生み出したいですね。

今の日本では、10年存続している企業は1割あるかどうかだそうです。起業してから様々なドラマやピンチがあると思いますが、そこでパフォーマンスを落としてしまう人は深みにはまってしまいます。

マイナスの出来事が起こってもパフォーマンスを維持し、1%でも良いから少しずつ上げていけば、ハッピーエンドを迎えることができるんです。

「ハッピーエンドが来る」と信じていると、パフォーマンスは落ちません。自己啓発的になってしまいますが、ピンチの状態になったときに気持ちもマイナスになって行動力が減ったら、さらに大きなピンチを招きます。

暗くなったときに「困った」と頭を抱えている人が多いですが、そんなときこそ、窓を開けてカーテンを開けないといけません。

ー名だたる起業家も、同じような考えの方が多いですね。

平野:恐らく、すごい起業家は心の力が使える人だと思います。

今の時代は、頭脳の力は人工知能に任せても良いですよね。マイナスをゼロにするのは人工知能でもできますが、ゼロをプラスに持っていき、感動という価値を創造するのは人間にしかできません。その能力を高めることができると良いですよね。

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(取材協力:有限会社ドラマティックステージ/平野秀典
(編集:創業手帳編集部)

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