サロンモデル✕インフルエンサー事業でM&Aを達成 エンジニア起業家・竹村恵美が作る「次世代のエンタメカンパニー」

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2019年09月に行われた取材時点のものです。

株式会社Coupeの竹村恵美代表に創業エピソードを聞きました

(2019/09/17更新)

インフルエンサー事務所と美容師・サロンモデルのWebマッチングサービス「Coupe」を展開している株式会社Coupe。2019年2月にサイバーエージェントのグループ会社になり、話題を呼びました。
代表の竹村恵美氏は、学生時代に自身でプログラミングを学び、「Coupe」を作り上げて事業を始めました。しかし、起業後は事業の収益化を始めとする困難の連続。竹村氏はどのように荒波を乗り越えて、事業を拡大することができたのでしょうか。「次世代のエンタメカンパニー」を目指す、若き起業家の創業エピソードを聞きました。

竹村 恵美(たけむら めぐみ)株式会社Coupe 代表取締役
1991年生まれ。高校生活をスイスで過ごした後、立教大学文学部へ入学。インターンシップをきっかけにプログラミングに出会い、自ら開発しサロンモデルと美容師をマッチングする「Coupe(クープ)」をローンチ。2014年12月、大学4年生で株式会社Coupeを設立。「個人を輝かせる」というビジョンのもと、新たにライバーなどのインフルエンサーマネジメント事業を開始。2019年2月にサイバーエージェントグループへジョイン。

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美容師の恩人を助けるため、自力でサービスを作った

ー事業の概要を教えて下さい

竹村:「次世代のエンタメカンパニー」を目指して、インフルエンサーマーケティング、ライバー(ライブ配信サービスの配信者)のマネジメントのほか、起業のきっかけになった、ウェブサービスで美容師さんとサロンモデルをマッチングするサービスを展開しています。

ーこれまでのご経歴と、起業のきっかけとなった体験について教えてください

竹村:きっかけは、学生時代の海外生活にさかのぼります。中学3年生のときに父親の仕事の関係でドイツに引っ越しました。高校もドイツの学校に通うつもりでしたが、ドイツ語しか話さない高校は難しいと考え、日本人留学生の数が多いスイスのインターナショナルスクールに通うことになりました。

海外の寮での一人暮らしが始まりましたが、学校に全く馴染めませんでした。仲が良い友人もおらず、高校生活は、とても辛かったです。でも、両親が頑張って学費を出して通わせてくれたということもあり、弱音を吐けなくて。そんな時、日本にいた親友が、Skypeでずっと悩み聞いてくれて、励ましてくれました。親友がいたからこそ、高校生活を3年耐えて卒業することができました。恩人です。

卒業後に帰国すると、親友はとても行きたがっていた美容室に採用され、美容師になっていました。しかし、彼女の最初の業務は、「1日外で、朝から晩までサロンモデルを探す」というものでした。モデル探しはとても大変で。苦労して良いモデルを見つけても、カットするのは彼女ではなくベテランです。そんな彼女の様子をみて、私は彼女のために友人をモデルとして紹介する仲介みたいなことを個人でやりながらサポートしていました。

そんな中、数人でアプリを作っている会社でインターンに参加する機会がありました。プログラマーの皆さんがどんどんアプリを作っていく様子がとてもかっこよくて、私もチャレンジしたい!とスイッチが入りました。早速、夏休みにプログラミングの集中講座に通いました。

講座の中で実際にツールを作るということをやったのですが、「身の回りの問題を解決することがウェブサービスの醍醐味だ」ということで、モデル探しに困っている友人と、モデルをやりたい人とを結ぶウェブサービス「Coupe」を作ることにしました。荒削りでしたが、これが最初のプロダクトでした。

ーそこから、どのような流れで起業に至ったのでしょうか

Coupeは2015年2月に正式リリースされた

竹村:当時大学3年生だったので、起業ではなく普通に就職を考えていました。実はもともとアナウンサー志望だったのですが、プログラミングの楽しさに目覚めた結果、IT企業に入りたいと思うようになりました。そして一番行きたかった会社が、サイバーエージェントでした。最初から自分で作ったプロダクトがあるということもあってか、インターンに参加し、その後の選考もトントン拍子で内定をいただきました。

そこから、サイバーエージェントに骨を埋めようと思って引っ越しもして、内定者インターンをはじめました。一方で、「Coupe」について取材を受けた記事がネットで話題になり、ユーザーが一気に増え、それをきっかけに美容業界の人が話題にしてくれるようになりました。自分が頑張って1ヶ月ぐらいで作ったものが、人の生活を変えている、という実感とともにやりがいが大きくなっていきました。同時に、就職を期に自分の作ってきたサービスをやめてしまうのがどんどん勿体無く思ってしまって。

とはいえ、「Coupe」自体はユーザーをマッチングさせるだけで、収益を生んだり事業化できる見通しは何もありませんでした。就職するか、起業するかで悩んでいた際に、いろんな社会人の先輩やインターン時代の先輩に相談した結果

一度起業した方が、仮に大失敗したとしても、そのあとに受け入れてくれる会社はあるだろうし、今だけが就職のタイミングじゃないよ

という声をいただいて、見切り発射で起業を決めました。サイバーエージェントの内定を辞退し、その日に会社を登記、株式会社を立ち上げました。大学4年の12月のことです。

収益化につなげる糸口を探り続けた4年間

ー事業として収益化につなげることができた転機はどこにありましたか

竹村:最初は、サイバーエージェントグループのVCであるサイバーエージェント・キャピタルから1000万円を出資いただきました。そこから1000万で事業をどうマネタイズしていくか、というのが課題で、とても苦しみましたね。

ユーザー層のメインが、駆け出しの美容師さんたちであるということもあり、「Coupe」単体で収益を上げるビジネスモデルを作るのが難しかったのです。

一方、「インスタグラムのフォロワーが多いモデルに宣伝を頼みたい。紹介をしてもらえないか」といった企業からの依頼があったり、サロンモデルを求めているメーカーに営業に行ってモデルを斡旋したりということなどを通じて、最初の収益を生み出していました。

「Coupe」のサービス単体でマネタイズをすることは難しかったですが、サロンモデルの応募自体は毎月300件ほどありました。その方々を審査する中で、「このヒトはしっかりプロデュースしたら絶対に売れる」という人材がなんとなく分かるようになってきました。実際に、「Coupe」のサービスを通じてサロンモデルになった人が、いつの間にか有名ファッション誌の表紙に起用されていたり、モデルとしてデビューしたりするケースが沢山ありました。

個性光るサロンモデルたちが集う

試しに、私がピンときたモデル数人に対して、どんなマーケティングを行えばSNSのフォロワーが増やせるか、といったサポートを数ヶ月行ってみると、最初は100人くらいしかフォロワーがいなかった子が、数ヶ月で数万のフォロワーを抱えるまでに成長しました。大手企業などからCMや仕事のオファーがたくさん来るようになり、どんどん輝いていったのです。

「これなら私にしかできないし、やりがいがある!」

と確信し、発信力ある個人を育成する新時代のインフルエンサー事務所を立ち上げようと決めました。事業を始めて4年目のことです。

「ユーザーに一番近い経営者」であることが一番の強み

ー事業の強みを教えて下さい

竹村:サービスの強みは3点あって、1つは「原石の多さ」です。私達は、もともとサロンモデルとして気軽に応募してくれる人がたくさんいる分、「芸能界を目指しているわけではないけれど、ポテンシャルがある」人にリーチしやすいのが強みです。

2つ目は、「インフルエンサーの能力を特定のプラットホームに特化せず、幅広く活躍できるようマネジメントしている」点です。例えば、インスタグラムで数十万人のフォロワーがいますという人はたくさんいますが、活躍の場をYouTubeやTikTok、テレビと広げている人はそこまで多くありません。特定のプラットフォームを狙ってインフルエンサーを磨くケースが多いからです。

私達は、インフルエンサーが原石の状態から、インスタグラム、TikTok、ライブ配信という3つの柱を中心に、マルチに活躍できるようにプロデュースしています。これからの時代、複数のメディアでの仕事を求められることが増えてくると感じているので、写真や動画など、メディア特性が変わってもしっかり仕事ができる人材を育てています。

3つ目は、「男性インフルエンサーに強い」ことです。プロデュース契約して、原石から育てた男性のインフルエンサーがとても伸びています。投稿回数やライブ配信回数など、何も言わなくても進んで取り組んでいく人が多く、ファンがファンを呼ぶ形でどんどん話題を呼んでいます。力のある男性インフルエンサーを多く抱えていることを一つの強みとしてPRしていきたいです。

ー起業して一番苦労した点と、どうやって突破したか教えて下さい

竹村:やはり一番苦労したのは資金が尽きた時ですね。事業を収益化する道を探していた時期は、1年間自分にお給料を払えなくて、240万を会社から自分に貸し付けるという形を取っていました。

ただ、もともとスイスでの辛い経験があったので、住む家があって、近くに家族や友達もいて、お金は別にないけど、それだけで十分幸せだなと思っていました。なので、実は精神的にはあまり辛くはなかったというのが正直なところです。

事業として大変だった時期を乗り越えることができたのは、VCのパートナーが、資金調達を手伝ってくれたり、事業をどうプラスにしていくかといったことを一緒に考えてくれたのが大きかったですね。事業計画の書き方や書類の提出など、一人では絶対に全てカバーできなかった部分を助けてもらえたからこそ、今の事業があります。力になってくれるビジネスパートナーがいることはとても大事です。

ー起業家としてのモットーを教えて下さい

竹村:自分はもとから経営者になりたいと思って始めたわけではなく、美容師の親友がサロンモデルを探せればそれで良い、というところからのスタートでした。経営者としてのスキルはまだまだ自信がないのですが、唯一プラスだと思っているのは、「ユーザーと近い経営者であること」です。所属しているモデルやインフルエンサーたちと歳が近いということもあってか、彼らに一番寄り添える近い存在でありたいと考えています。むしろ、この気持がなくなったら経営者として終わりだというくらい大切にしています。

「個人をメディアにする」インフルエンサー事務所を目指して

ーM&Aという形を選んだ理由を教えて下さい

竹村:事務所の事業を本格的に始めてからは、半年ぐらいで黒字化できて、業績も右肩上がりだったので追加の資金調達を考えました。サイバーエージェント・キャピタルの方と一緒に二人三脚でいろんな投資家に当たりつつ、その方の紹介でサイバーエージェントの藤田晋社長と起業家との懇親会に参加させてもらう機会がありました。

ちょうど所属しているインフルエンサーが、AbemaTVの恋愛リアリティショーに出演したことをきっかけに大きな反響を呼んでいました。サイバーエージェントの事業と私達がやっていることにシナジーを感じていて、藤田社長に「(事業を)買ってください!」と猛プッシュしました。

藤田社長はインターン時代の私のことを覚えてくださって、同時にVCの方が、その時私達が追加で資金調達を考えていたという話もしてくれていたらしく、「数社からの出資ではなくて、サイバーエージェントで事業を買収して、グループに入ってもらうという形のほうが良いのではないか」、という話をいただきました。私としても願ってもないお話だったので、お受けしました。

今所属しているタレントやモデルの子たちが有名になることが事業の一番の目標なので、例えば自社だけで事業を成長させることよりも、大企業で蓄積されたノウハウといった恩恵を受けながら事業を続けることができるM&Aという形がとても合っていると感じています。

ー今後の事業の展望を教えて下さい

竹村:今後、個人で活躍するインフルエンサーが増えれば、事務所の役割も変わっていくと考えています。ざっくりとした目標ですが、例えば影響力を持つ個人が、服屋さんを開きたい、NPO活動したい、といった活動をしてみたいと思った時に、一番に力を貸せるような組織を作りたいと思います。

個人の「輝きたい道」というのはそれぞれなので、冒頭でも話をしましたが、特定のメディアやプラットフォームに依存するのではなく、「個人をメディアにする」とことを目標に、どこでも活躍できるようにサポートしていきたいです。

ー起業家に向けてメッセージをお願いします

竹村:起業家には、課題や文化を変えたくて起業する人と、ビジネスとして伸びているところを狙って起業する人と大きく分けて2種類いると考えています。どちらが良いとかではありませんが、前者の場合は「市場の狭さ」を指摘されることが多いです。

私自身、最初に事業を立ち上げたときは「美容師とモデルのマッチングなんて、市場が狭すぎるから、やっても意味ないし、投資する意味もないから事業を変えなさい」とVCの方や投資家から言われましたし、「事業に力を入れる意義」を問われ続けて、心が折れてしまう起業家もたくさん見てきました。

それでも根本を変えずに事業を続けてみて、今の形に落ち着くことができて、とても幸せです。もちろん、自分の希望と事業として存続させるためのバランスはあると思いますが、最初に自分がやりたいって思ったことは、絶対に忘れないでほしいです。困難を超えて問題を解決し、サポートしてくれた人たちに恩返しできた時は、辛かったことが全部帳消しになるくらい達成感があります。だから、自分を信じて頑張ってほしいです。私も一緒にがんばります!

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