「伝説の女性レーサー」からペットサロン経営者へ。犬と見つけた“本当に走りたい道”
ボヌール・デ・シアン 代表 大村 亜津子インタビュー
(2019/01/18更新)
東京メトロ月島駅から徒歩5分のところにあるペットサロン「ボヌール・デ・シアン」。
ペットホテル・トリミングサロン・トレーニングといったサービスを展開しており、2015年に開店して以来、地元の方たちを中心に人気のサロンとなっています。
そんな本サロンの代表である大村 亜津子さんの前職は、なんとレーシングドライバー。
「一匹の犬との出会いがきっかけだった」と語る大村さんですが、レーシングドライバーからペットサロンの経営者になった経緯は、一体どのようなものだったのでしょうか?
その経緯と今後の展望について、大村さんにお話を伺いました。
18歳から単身レース界に。フォーミュラーレーシングドライバーとして国内外のレースシーンで活躍。伝説の女性レーサーとして名をはせる。レーサーを引退後、ドッグトレーナーの資格を取り2013年に起業。2015年3月にペットサロン「ボヌール・デ・シアン」をオープンさせる。現在、トリミングサロン、ペットホテル、トレーニングといったサービスを提供している。
一匹の犬との出会いから見えてきた「ペット業界の裏側」
大村:月島で、ペットサロン・ペットホテル・しつけ・シッターの総合サロンを運営しています。「犬の幼稚園」といった感じですね。
一般的に、このような施設は「犬に人間社会のルールを教えるための施設」という認識だと思いますが、私たちが目指しているのは、「犬を笑顔にすること」です。犬が生き生きと育ち、飼い主様とコミュニケーションが出来るようにお手伝いしています。
仔犬のころはいつも笑顔だったのに、飼い主様の知識不足でいつしか笑顔が消えていく犬をたくさん見てきました。最悪の場合は飼育放棄につながることもあります。
そこで、人間社会のルールを教えるだけでなく、「犬の心と体を育む」という新しいコンセプトメソッドを開発しました。脳と身体、メンタルに対する課題に楽しく取り組むことで、ここに通う犬たちはみんな笑顔です。
もちろん、家でもいつでも笑顔でいてほしいので、家族も一緒に勉強してもらう時間を設けています。優しいトリミングを提供したことで、愛犬が自らお店に行きたがるようになった、と言ってくれる飼い主さんもいました。
さらに、ペットホテルに関しては、従来のペットホテルの概念を変えました。一般的にはゲージで管理し、夜は無人というサービスが多いですが、私たちは犬と一緒の布団で添い寝をするスタイルで24時間対応しています。
万が一、体調に異変があった時は、深夜であっても病院に行くなど自分の家族同様の対応をしています。実際、家族ですら気付かなかった異変を見つけて一命をとりとめることができ、感謝されたこともあります。
大村:私は18歳の頃から、フォーミュラーレーシングドライバーとして国内外のレースに数多く参戦してきました。しかし、男性社会の中で成績を残し脚光を浴びる機会が増えるにつれ、人間関係が複雑になり、孤独を感じていました。楽しくて仕方がなかった世界が、いつしか苦痛でしかなくなっていたのです。
自分の居場所を見失いかけたある時、一匹の犬と暮らすことになりました。その犬との生活がきっかけでペット業界の裏側を知り、その凄惨な現状に愕然としたのです。
「罪もない動物たちが人間の犠牲になっている現状を変えなくては。」そう感じました。
そこからドッグトレーナーの猛勉強をし、動物看護士としての経験も積み重ねました。ですが、多くの団体は「しつけは、犬を人間の思い通りに操る手段」と考えていました。
その考え方に違和感を覚え、それならば自分が理想としている犬との関わり方を「犬の幼稚園」という形で実現しようと思ったのです。
大切なのは「トライし続けること」
大村:私の人生は恥ずかしながら、ミスの連続でして。それでも「必ず何か策はあるはず」と諦めるということをしませんでした。諦めるから失敗になる!と、思っていましたから。
でも全くの畑違い、最初は不安でした。でも私にはこれしかない!という思いもあり、レース界に文字通り飛び込んだように今回も思い切って飛び込む事に。今までもなんとかしてきたから、またなんとかしよう!と、腹をくくりました。
レース界でも腹を括った瞬間、レーサーとして活躍出来るようになった事を思い出したからです。
ただし、思いつきではありません。しっかりと準備期間も、勉強期間も、リサーチもしたうえでの行動だったことは自信を持って言えます。そして運よくチャンスが訪れ、そのタイミングで迷いなく起業したのです。
大村:将来的には総合的なペット関連事業として展開したいですね。
ペットは大切な家族の一員です。そうなると、メモリアル事業(死後のケア)も必要になると思いますし、ペットと一緒に宿泊できるドッグパークも開園したいです。同時にペットファーストの考えを理解できるスタッフを増やす必要もありますね。
私の最終目標は動物保護の事業化です。それも非営利団体ではなく、しっかりと社会貢献をしながら事業として利益を上げていく。そのためには今あるコミュニティやネットワークをさらに広げていかなければと思っています。
大村:レーサー時代は、無理に頑張ろうとしすぎて余計にストレスや疲労がたまるということがよくありました。そんな自分が、今はまったく疲れや辛さを感じなくなりました。本当に自分がやりたいことをやっているからかも知れません。
もちろん、判断を間違えることや後悔することもあります。でも、それはきっと「失敗」ではなく「それではダメ」ということが分かったということ。何が問題なのかが分かったらまたトライするだけです。
大切なのはトライし続けること。私はレーサー時代からトライ&エラーを繰り返して生きてきました。今後もそのやり方は変わりません。
(取材協力:ボヌール・デ・シアン 代表 大村 亜津子)
(取材協力:三幸エステート株式会社)
(編集:創業手帳編集部)