完売画家 中島健太|仕事に対する哲学が話題!「絵描きは食えない」を変えたい

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年04月に行われた取材時点のものです。

物を売るなら売る場所やブランディングを考えるのは必須


これまでに発表した作品およそ1000点のすべてが完売。「完売画家」の異名を持つ画家、それが中島健太さんです。

初めての個展ですべての作品が完売するも、ギャラリーの経営が傾き売上げを受け取ることができないという波瀾万丈なキャリアのスタートを経て、今や「徹子の部屋」「バラいろダンディ」など多数のテレビ番組にも出演する売れっ子画家に。

初の著書『完売画家』では「絵描きは食えない」という常識を変えたいと、芸術の世界での生き方と仕事の哲学についてつづり、カズレーザーさんにお気に入りの本として紹介されました。

創業手帳代表の大久保が、今までの画家としてのキャリアやその独自の哲学についてお聞きしました。

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中島健太(なかじまけんた)
画家
武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業
大学3年でプロデビューし、現在までの制作作品は1000点を超え、その全てが完売。繊細で洗練された高い技術と人間味溢れる温かな作風は、唯一無二と評価されている。『完売画家』としてテレビなどでも取り上げられ、「瀬戸内寂聴」「ベッキー」「佐々木希」「新川優愛」などの作品も話題に。また、「#画家として生きるために」というハッシュタグでのツイッター投稿が反響を呼び、人気漫画家との対談記事は7000リツイートを記録。テレビ東京「ひねくれ3」、TBS「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」「NEWS23」テレビ朝日「徹子の部屋」「白の美術館」J-Wave「STEP ONE」NHKラジオ「高橋源一郎の飛ぶ教室」などに出演。TBS朝の情報番組「グッとラック!」では木曜日コメンテーターとして出演。フジテレビ「元彼の遺言状」絵画担当。2021年8月に著書『完売画家』を出版し、好評発売中。2022年10月より、TOKYO MX「バラいろダンディ」隔週火曜コメンテーターで出演中。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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プロの画家としてデビューしたのは大学3年生

大久保:ご著書の『完売画家』を読みました。アーティストに向けて書かれている本なわけですけれども、起業家にも通じる内容だと思い感銘を受けました。画家はなかなか収入に結びつかない職業というイメージがありますが、特に初期、どうやってそこをクリアされたのですか。

中島:ありがとうございます。画家としてプロになり、収入を得るという目標のため、まずは公募展や賞金の出るコンペティションに応募することから始めました。

大学時代は自分の作品を知ってもらうため、始めはグループ展という形で複数人でギャラリーを借りて作品を展示したりもしました。最初から個展といって個人で作品展をするということは通常考えられないので、キャリアのスタートとしては必ずグループ展を通ることになります。

そのうちに作品が認められると、力のあるギャラリーから「うちで個展を開催しませんか?」という声がかかり、個展を開くことが可能になります。

ギャラリーから声をかけてもらって展覧会を開き、そこで絵が売れたら、もうそれはプロの画家であるという認識があったので、大学3年生のときにそれが実現したときに初めて自分はプロであると思うことができました。

また、公募展は誰でも応募できる美術展覧会のことです。「日本美術展覧会」、通称「日展」が日本ではもっとも有名で影響力のある公募展で、僕は24才のときに初出品では最年少で特選(グランプリ)を受賞させていただきました。

その他若手の登竜門として知られている公募展も日本にはいくつか存在します。

大久保:初めて絵が売れたときはどんな気持ちでしたか。

中島:今までは自分のアトリエに無造作に置いていたものが、ある日突然数万円の対価をもたらしてくれた衝撃は大きかったですね。

誰かが自分の絵にお金を払ってくれることに対しての責任感、プロとしてしっかりしなければという意識が芽生えました。

美大にいた時はとにかく「いい絵を描け」と教授に言われました。でも「いい絵」とはどんな絵なのでしょうか。

美大教育というのは、芸術の基礎研究なのだからお金とは無縁であるべきという思想が強い反面、実は教育指針や基準が曖昧な事が多く、教授が言うところの「いい絵」の根拠が結局のところは各教授の主観によるところが大きいと僕には感じられました。

プロになってからの自分にとって「いい絵」とはイコール「売れる絵」で、「売れる絵」イコール「誰かを感動させた絵」。その物差しの方が自分の中で明確にビジョンを描けたので、大学で闇雲に絵を描いていた頃よりずっと楽になれました。

大久保:自分も起業する前にMBAを取りましたが、やはりビジネスの歴史の話を聞いている時間が多いと感じました。

中島:教授というのはプロとしての作家活動を経験していない方が多いので、美大の教育は作品を売って生活していくということに直結しないんですよね。

僕が大学3年でプロデビューした段階で嫌味を言ってくる教授もいました。誰しも承認欲求はありますから、教授は自分のような絵を描いてくれる生徒を好み、お気に入りの生徒がまた教授になるエコサイクルをまわすことで、自分の欲求を満たしているように僕には感じられました。

大学時代に「パン画を描くな」と言われたことがあります。パン画とは自分が生活するため、お金のために描く絵のことを指しますが、そんなに簡単に絵は売れません。食えなくて困っている同業者や後輩がたくさんいるので、もしそのような描き方があるのなら、むしろ教えてあげたいとすら思います。その発言一つからも教育側のマーケットへの無理解を感じました。

アーティストとして生きるために物を売る場所を考える

大久保:作品を売る場所についてはいかがですか。

中島:若手作家はセルフプロデュースに注力し、SNSのフォロワーを増やそうと頑張る傾向がありますが、フォロワーを増やすことと自分の作品を適正価格で売るということはイコールではありません。フォロワー数が非常に多くても、実はバイトしないと生活していけないというアーティストはたくさんいます。

ネットで売れる額には限度があるので、若いうちは相場がある場所にアクセスするということが重要ですね。そこを間違えてしまうと、いつまでたっても生活できないということになります。

後輩の作家を見ていても、適正価格で販売するためのマーケットプレイスやギャラリーを見つけることが一番難しく、誰もアテンドしてくれないので、運ゲーの世界になっている現状があります。僕は運良くそこを通り抜けましたが、この現状はもう少し改善されるべきだと思っています。

アーティストを釣り人に例えると「人は多いのに魚はいない」という場所で釣りをしているアーティストが多い気がするんですが、人は多くても魚がいなかったらそもそも釣れません。僕は「人はいないけど魚はそこそこいる」場所を常に探しています。

釣れるということが好きなので、釣って人にどうこう言われたいとは思っていません。

「完売画家」と紹介して頂く事もありますが、「行列のできる○○」というフレーズがつくとそのフレーズが行列を呼ぶように、そう呼ばれること自体がウィンザー効果(※)になっているかもしれません。
※当事者よりも第三者が発信した情報のほうが信頼されやすいという心理効果のこと

シンプルに言えばブランディング。物を売る以上は、広報という部分も丁寧に考えなくてはならない分野だと思います。

大久保:多くの人がやりたがる領域は儲からないのでしょうか。

中島:僕はもともと体育会系で、勝ち負けのシチュエーションに置かれたときの自分の精神状態を経験した際に自分は勝負強い方ではないと学びました。

ゆえに中高生のときから戦わなくても勝てる方法をまず考えるという癖がついています。

例えば成績表の内申点にしても、みんな数学や現代文、英語は力を入れて、美術や家庭科、体育は頑張らない人が多いです。でも内申点で5は5なので、同じ5だったらより戦わないところでとったほうが楽なんじゃないかと考えました。冷静な判断ができて、勝負しないで済む場所を選ぶという考え方は今の僕の活動にも大きく繋がっています。


大久保:アーティストにも販売するためのパートナーが必要なように、起業家にも税理士やエンジェル投資家などのパートナーが必要です。よいパートナーの見極め方とはどのようなものでしょうか。

中島:残念な話ですが、最初からホワイトなエンジェル投資家と出会うことはあまり期待できません。どんなに頭がよくても経験に勝る学びはないですし、最初は泥水をすする覚悟がないと生き残っていけません。その泥水が致死量かどうか、また致死量は人によっても異なるので、泥水を啜る経験は大きな価値があります。

僕も新人画家時代に300万円を持ち逃げされたことがありますが、幸いにして致死量ではなかったので生き延びることができました。20代の失敗は体力がカバーしてくれますが、今同じ失敗をしたらしんどいなと思いますよ。極端な話、若いうちは寝ていたら回復するじゃないですか。

体力と精神力があるうちにたくさん失敗して、そこから立ち直り、目標設定を明確にして継続するということが自分のプレゼンンテーションになり、信頼が高まり、その先にいいパートナーがいると僕は思っています。

大久保:日本と海外の美術界についてはどう思われますか。

中島海外のアーティストは中小企業の社長のようなもので、自分で手を動かさないアーティストも多い。ファクトリーがあり、指示を出す役割なので、人間でいえば脳のような立ち位置です。ジェフクーンズや村上隆さんなどがその代表格です。

一方、日本はどちらかと言えば職人に近く、1人の手仕事によって生まれるプロダクトに精神性が宿るという信仰が強いように感じます。マーケット自体の小ささが職人的手法でも生き残れる要因になっているので必ずしも悪いこととは思いませんが、反面世界基準のアーティストが国内から育ちにくい大きな要因だとも思いますね。

人間が持つ特殊な能力「想像力」を大切に


大久保:数々のテレビ番組にもご出演されていますが、印象的だった番組は。

中島:2021年に出させていただいた「徹子の部屋」ですね。徹子さんの肖像画を描かせていただいたのですが、徹子さんはきちんと事前に自分の情報を把握してくれていて、この人にだったら話したいという気持ちにさせる空気や番組作りのクオリティに感銘を受けました。

今時じっくりひとりの話を聞く番組は最早「徹子の部屋」だけと言っても過言ではありません。

根本のクオリティの高さが半世紀という継続に繋がる。フリーランスのお手本であり、本質を体現しているからこそのブランド力とパワーなのだと感じました。

大久保:半世紀前からやっているのに、古さを感じないですよね。
 
中島:そうですね。出演している人が常に刷新されているのもありますし、誰とでもコラボレーションできるという点が強みだと思います。ルイヴィトンと草間彌生さんのように、シナジー効果が生まれるコラボレーションはアート界でも色褪せない人気があります。

大久保:アートははるか昔からあり、人間にとって大事なものである一方で、なくても飢え死にしないものでもあります。アートで生きていることについてはどう思われますか。

中島:十分お金を得たという理由で仕事を辞める人はいますが、生活できないという理由で画家をやめる人はあまり聞きません。それぐらい人間に与えられた特殊な能力である「想像力」を形にすることは人間にとって代えがたい喜びなのだと思っています。

絵ではなくてもいいんです。どんな形でもいいので、それを世間に伝えると生活は豊かになると思います。仕事にできる人はしたらいいですし、SNSなどで発表するのもひとつの方法でしょう。

AIがなにかと話題ですが、どんどんデジタル化、自動化されていく世の中で、想像力を人生の何パーセントでもいいので残しておくことが幸せに生きることのささやかなコツだと思っています。

大久保:最後に読者にメッセージをお願いします。

中島:僕は起業家とはアーティストだと思っています。日本では受け身で生きている人が多いので、自分の適性を見極めて起業という一歩を踏み出せる能力のある人たちを、素直に尊敬しますし、今の日本にとっては貴重な人材だと思います。

日本のアーティストから「日本にはいいコレクターがいない」という愚痴を聞くことがありますが、海外のアート界では例えば300万円ほどで買った作品が10年後3億円で売れるということが実際にあり得るのが国内との大きな違いで、有力なコレクターが日本に注目しないのは現状は仕方ないと思います。

スケールを目指すならば起業家もアーティストも世界基準での成功を志すべきですが、中ぐらいの成功は現在の僕がそうであるように国内でも可能だと思っています。どちらが正しいでもなく、どう生きたいかの基準を持つことが自分に合った成功サイズの物差しなので、それは僕自身常に忘れないようにしたいと考えています。

20年近いキャリアを僕が生き残れているのは100%ピュアアーティストではなく、「凡人が業界でどうしたらサバイブ出来るのか?」と常に考えた結果なので、天才でない方々への見本としてはちょうどいいのではないでしょうか。

一方で40代の課題はどれだけピュアになれるかだとも考えています。
ピカソが子どもの絵に憧れたのは有名な話です。

ピュアである事はそれ自体が引力ですが、歳を重ねると意識的に修練しない限りはピュアでいる事は出来ません。
画家なのにメディアに出ていることなどで批判もされますが、批判は認知度のバロメーターでもあるので、増えていくことに特にストレスは感じません。

ただ、アーティストにも起業家にも、柔軟性、適性を見極めてくれるコーチの存在は大切だと感じます。迷ったら信頼できる存在に話を聞いてもらえると心強いですね。

冊子版創業手帳では、新しい分野を開拓する起業家のインタビューを多数掲載しています。無料で届きますので、web版と合わせてご覧ください。

大久保の視点

大久保写真

中島さんの著作「完売画家」を読んだときにスタートアップや起業家の考え方とあまりにも似通っている事に衝撃を受けた。
これは起業家に伝えるべき本だと思い中島さんに取材させてもらった。
想いを描いて形にするという意味ではアーティストと起業家は似ているのかもしれない。
中島さんは「画家はこうあるべきだ」という古い世界に敢えて挑戦している感じが言葉の端々からうかがえた。
取材の帰りに事務所にあった版画を一枚買って抱えて帰った。
背景の青が鮮やかな美人画で、確かにこれは欲しくなる。
ファンがつく絵だと妙に納得した。
アーティストもスタートアップが提供するサービスも全く同じ構造だ。
メディアに出て積極的に発信しているだけでなく、一般の人に手の届きやすい「版画」で美術愛好家の裾野を広げている部分もある。
アートは人生を豊かにしてくれる。
中島さんが活躍することで「プロ」のアーティストとそれを支えるアートを買う層の裾野が広がっていくことを期待したい。

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(取材協力: 画家 中島健太
(編集: 創業手帳編集部)



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